東方日々綴   作:春日霧

17 / 25
その十七

 月 日 ( )

 

 久しぶりに霊夢ちゃんに会った。in香霖堂。

 ではさっそくと、この間あったという月が沈まなかった夜の話を聞かせて頂いた。

 ……頂いたのだがよく覚えてない。やけに多くの人が絡んでたらしく話が複雑で途中めんどくなって話半分に聞いてしまった。どうやら霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんだけじゃなく咲夜ちゃんや妖夢ちゃんも関わってたそうで、あとはその主人のレミリア嬢に西行寺さん。霊夢ちゃんは八雲さんと組んで、魔理沙ちゃんはアリスさんと組んで竹林に突っ込んだらしい。

 揃いも揃ってタッグだから息合ってるよなぁ。

 

 まぁ他にも蛍に会っただの雀に会っただの何となく予想のつく輩ともやりあったそうだが、俺が聞きたいのは竹林の奥にいるブレザーちゃん達の話である。

 話を聞く限り竹林の奥にいたのは月の兎とか兎とか、あと赤と青の奇抜な格好をした人とそのお姫様とか。よく分からない。赤と青の奇抜な人が薬師ってことは分かったけど。

 

 ブレザーちゃんの名前がうどんげで、薬師の名前がえいりんらしい。不思議な響きばかり。

 どこか異国の人だろうか。

 

 その話の後、霊夢ちゃんは飲んだくれの居候の愚痴を始めたので完全に聞き流した。もう萃香嬢の愚痴は聞き飽きたのだ。飲んだくれの鬼を居候させる巫女が悪い、とか思っても口に出してはならないのだ。出すともれなく痛い目に遭う。言いたいことを言えないとはなんたる苦行か。

 

 この間の宴会でついに堪忍袋の緒が切れて萃香嬢をぶっとばしてやったと語る霊夢を横目に、とりあえずこんな怖い巫女とやりあったリグルとミスティアを見舞いに行こうかなと考えた一日だった。スペルカードルールとやらじゃなけりゃ友人を亡くしていたところだったぜ。

 

 帰り際になってそういえばまともに給料もらえるのも最後になりそうだなと思って、ついでになんとなく霊夢ちゃんに「簡単な内職とか知らない?」と聞いたら「知らない」と即答されたのでした、まる。

 まあ焦らずぼちぼち探すか。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 つい先日風邪をひいたばかりなので冬服のコートやらマフラーやらの防寒具をひっぱりだして天日干しすることにした。正直この辺の家事の知識は曖昧というか適当なので天日干しが正しいのかどうか知らないが、何となく太陽光なら綺麗にしてくれる気がする。

 引っ張り出した防寒具をそのまま着たら臭いだろうし。

 

 で、休日だしどこ行こうかなーと思いつつ蛮奇さんの部屋を訪ねたがいなかった。また仕事に行ってるのだろうか。……というところまで考えて影狼さんのことを思い出し、次いで竹林の事を思い出した。

 なので今日は竹林に行ってみた。大丈夫、運は十分にあった。

 

 数ヶ月前に霊夢ちゃんに新しいのと取り換えてもらった、博麗印のお守り札があるので何とかなるだろう。とも考えて軽ーい気持で竹林に乗り込んだ。

 でもどう考えても軽い気持ちで入る竹林ではないなと思い知った。

 

 いや、竹林自体そんな馴染みのある物でもないけど、あの竹林はマジで凄い。自然の作り出した驚異って奴だよ。バラエティ番組なんかで取り上げられそうなレベルで。

 自然の勾配とか特徴のない生い茂った竹のせいで平衡感覚が狂うし、高く伸びた竹の葉で太陽が遮られて昼間なのに物凄く怖かったし。蛮奇さんいる時にすればよかったなと。

 

 結果貯めてた運を使う羽目になった。風邪が治ってからコツコツ貯めてたのに。

 

 あえてここで誰かに出会う方向で運を使えば影狼さんか、新参の人たちに会えるかもしれなかったけど、とりあえず出たかったのでそんな感じに運を使って出た。つまり運良く竹林から生還することができた。あの竹林はヤバいね。

 

 でも人里に戻ってからお邪魔した上白沢さんの所で、上白沢さんから「あそこの筍は美味しいらしいですよ。まあ、旬はまだまだなので今は関係ないですが」とか何とか言われた。

 秋に思い立ったことが何となく悔しくなった。

 

 明日は……そうだな。覚えてるうちにリグルとミスティアに会いに行くか。

 霧の湖にいなかったらお手上げだけど。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 起きて顔洗ってさて朝飯どうしようかと考えてたら蛮奇さんが帰ってきてた。

 お勤めご苦労さんでーす、とたぶん通じないボケをかましつつ挨拶したら「あ、そういや日暮昨日いつもの場所来なかったね。さすが幸運」とか何とか言われた。いや、挨拶もされたけど。

 なんかあったの?と聞けば、満月で狼が強くなった影狼さんの毛を剃ってたらしい。嫌に生々しいことやってたのね。行ったらいくら友人でもぶっ飛ばされてたな。

 

 いつもの満月ならそこまでしないんだけど、この間の満月はちょっといつもと違ったから蛮奇ちゃんと姫さんでそりそりしてたらしい。

 

 まあそんな友人のリアクションに困る話は置いといて、つまり蛮奇さん達は霧の湖にいたということなので、そこにリグルやミスティアはいたかどうか聞いてみたが、どうやらいなかったらしい。残念。あそこにいないなら俺は彼女らの活動場所を知らない。

 

 なので予定を変更して蛮奇さんと二人で竹林にリベンジすることにした。

 昨日の敗因は単純に怖かったことなので、昨日と違い同行者がいる今なら勝ち目はあるはず。俺って情けないな!

 

 蛮奇さんは影狼さんからあそこの連中の話を聞いているらしく、なんだかヤバい連中らしいし行きたくないとごねていたが、結局果汁酒が完成したらきちんと飲ませることを約束させられて付き合ってくれた。ちょっとは遠慮してくれないかなと思ったけど、でもこれくらいの方が妖怪らしくて納得できなくもないかなと思った。

 こんな所で妖怪らしさを感じられているとは思っていないだろうけど。

 

 んで竹林に突入したんだけど、結論から述べると永遠亭とやらにはたどり着かなかった。その代わりに、一見あどけない笑みのように見える裏のありそうな笑みを浮かべた兎に出会った。人参のペンダント?だかネックレスをしてるし背も低いし可愛いなぁと見てたら妙に年食った喋り方をするもんだから、やっぱり妖怪なんだなと思った。

 その兎は因幡てゐと名乗った。

 

 おや、お兄さん方は迷子?駄目だねーこんな所に入りこんじゃ。今なら、私にほんのちょっと気持ち程度のお金を渡すだけで出口まで案内するよー?とかなんとか。我ながらよく覚えていた。

 まあ自分は幸運さえありゃなんとかなるし、今日は今日で幸運もないこともないのでお断りさせてもらった。というか笑い方が怪しすぎた。

 

 蛮奇さんは「ね?ヤバい連中でしょ?」とか言ってたから頷いておいた。

 そもそも結構頑張ったのに永遠亭とやらに辿り着かなかったのも悔しい。さすが迷いのと言うだけのことはある。今日だけでどっと疲れたのでもう竹林にはあんま近寄らんとこ。

 

 あとから聞いた話だけどあの兎には人間を幸運にする能力があるらしい。

 もしかして俺の能力と相性いいんじゃなかろうか。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 そういえば魔理沙ちゃんのなんかビーム出す奴、八卦炉とか言うあれは森近君がかなり手を加えてとんでもない火力が出るって噂だけど、森近君そっち方面を前面に押し出せば客増えるんじゃないかな。

 道具いじるの好きなんだからそういうのやって稼げばいいのに。

 

 バイト中、新しい稼ぎ先を考えつつそういう考えもしていた。

 いや、こちとら真面目に働いてるのになんでこうも利益が出ないんだと思いたくもなるじゃないか。客が来ないからってだけなんだけど。でも客が来ないということに関してはもうどうしようもないという答えが出ている。どうしようもない。

 

 うむむ、どうしたものかと眉間にしわを寄せる俺に、森近君が「また何か変なことでも考えているのかい?」と言った。お見通しのようだった。しかしまたとはどういうことだろうかと問えば「以前演説だの本をかけだの言ってたからね」と。

 ネットもテレビもラジオも無い以上、売名として演説だの書籍発行を考えるのはさほど変でもないと思うが。もしや森近君は自分が商売をしていることを忘れているのではあるまいか。

 そんな危惧をしたが、商売っ気がないのは元からだった。

 

 いっそのこと新聞にでも広告を載せてもらえばいいんじゃないだろうか、ということぐらいしか思いつかなかった。射命丸さんがただの好意だけでそんなことをやってくれるとは思えないし、何より新聞もそこまで広い範囲で読まれているというわけではない。そもそも知名度だけなら俺が売り歩いたから十分にあるはずなのだ。

 

 結局碌な事は思いつかなかった。

 客も来なかった。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 今日は魔理沙ちゃんがやってきたので金稼ぎの方法を聞こうと思ったけど、何となく情けないというか、目の前で元気溌剌にしている女の子に手軽な金稼ぎの方法を聞くって言うのが何となく卑猥……というのは考え過ぎだし冗談だけれども、レミリア嬢の館から本を盗ってきたり香霖堂から商品を盗って行ったりと悪名高い魔理沙ちゃんはお金に困ってないんだろうなと。

 

 そんなわけで魔理沙ちゃんにも竹林の話をしてもらいつつぼーっと過ごした。

 前々から思っていたけど魔理沙ちゃんは水鳥みたいなタイプって言うとどうも伝わりにくいけど、人知れぬところで死ぬほど努力する格好つけるタイプだよね。他意はないし貶めるつもりもないけど。

 言動は結構ふざけてるけど、その反面見る所は見てるし考えることは考えてるよね。

 

 適度に相槌を打ちそれっぽい返答をしつつ、霊夢ちゃんの話の時も思った複雑さを感じつつも、今度は二度目なのでそれとなく覚えることができた。

 どうやらうどんげちゃんえいりんさん、あと姫さんは月の住人なんだと。へーマジかー……とかしか言えんかった。どうなってんだ幻想郷。今回ばかりは意味分からないぞ。なんだみんなして月の住人て。SFじゃないか。

 

 ちょっと竹林にまた行きたくなった。

 アポロ計画の人たちにも会ってたりするのかな。

 

 あとなんかうどんげちゃんはれいせんちゃんとも言うらしい。冷戦?渾名だろうか。いや、うどんげもうどんげでこれといって字が思いつかないけども。

 さっぱり理解できないしきっと月の人のセンスなんだろうな。おそらくえいりんさんとやらの赤と青の服も散髪のサインポールみたいなぶっとんだセンスの服に違いない。もしくは抽象画のような複雑怪奇なデザイン。きっとそうだ。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 気が緩んでたのかなんなのか知らないけど通勤中に妖精にいたずらされた。いたずらと言っても単純に後ろから突き飛ばされただけなのだが、姿も物音もしなかったので多分妖精。

 おかげで服が汚れてしまったが、まあこんな日もあるのかななんて思ったり。

 

 なんだか調子に乗ってる間にすっかり幸運な男みたいに思われてるけど、全面的に常時幸運なわけじゃないし、そもそも禍福は糾える縄のごとしってことわざもあるわけだし、俺は単に幸運が大きくて故意に起こせるようになっただけなのだ。

 しかし近頃調子に乗っていたのは事実なので、これを機に反省しようと思った。

 思ったは思ったけど別段何か行動が変わるというわけでもない。

 

 今日も開くことのない扉を眺めて一日を過ごした。

 もはや目を瞑っていても扉の絵が描けそうな程である。高校では美術を選択しなかったので中学の美術以来絵を描いたことはないし、そもそも絵心なんてなかった。

 俺が働きに来る前は森近君どうやって生きてたんだろうか。霞でも食ってたんだろうか。そんなんだからそんなに痩せ細ったクールガイになっちまうんだ!もっと食え!肥えろ!

 

 人里歩いてるとたまにカップル見かけてイラってくるよね。

 でもクリスマスもバレンタインもないカップルって盛り上がりに欠けそうだな。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 なんかリグルにあった。

 経緯を説明すると、休みなんだけど蛮奇さん仕事行っちゃったみたいだし、鈴奈庵にもいま丁度本借りてるから行く必要ないし、ってんでやることなくなっちゃったから秋だしスズムシとかコオロギでも探しに行こうかなーって人里からふらーっと出て行ったんだけど、虫の親玉のリグルに会った。

 

 久々にあった気がするけど、やっぱりリグルってどことなくボーイッシュな子だよね。言ったらヤバい虫とかけしかけられそうだから言わないけどね。

 マントしてるしキュロットパンツ?だっけ?なんかそんなの履いてるからチルノ達の集団の中では一見王子様ポジションみたいなんだけど、半弄られキャラみたいな立ち位置なんだろうな。可哀そうに。人里にいたらきっと女の子に告白されてどぎまぎしつつも後で落ち込むとかそんな光景が見られただろうな。

 ヤバいな。自分の想像力が怖い。

 

 まあ俺がそんな馬鹿みたいな空想をしているとは露知らず、リグルは何だか虫の知らせがどうのこうの言ってた。話を聞きながら別の事を考えてしまうと俺は大体3割ぐらいしか話を聞いてないので、何言ってたのか全然わかってないけど適当に相槌を打っていた。

 そしたらなんか満足げな顔をして帰って行ったので多分いい感じに話はまとまったんだと思う。何の話かは知らないけど。

 

 帰り際に八百屋にあった小ぶりな梨を二三個買って帰って、仕事帰りの蛮奇さんと食べた。

 二人して林檎の方が好みかなって話をした。







 2016/4/12 爪を切った程度の修正をしました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。