東方日々綴   作:春日霧

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その十二

 月 日 ( )

 

 どうやら三途の川は妖怪の山の向こうにあるらしい。森近君が言ってた。

 その辺は死者とかいろいろ蔓延ってるから危険らしい。まぁ、そういうのは言われなくとも理解できるが、忠告くらい有り難く貰っておこう。

 そういえば稗田邸の阿求嬢もそんなことを言っていた気がする。その手前の妖怪の山や中有の道も危険区域だから、三途の川にはまず行けもしないだろうと覚えていなかったが。

 

 他には、太陽の畑や無名の丘なんかも危険区域である。と、記憶している。

 

 太陽の畑というところには向日葵が咲き誇っているらしく、満開の時なんかは非常に綺麗らしいのだが、そこにいる花妖怪とやらがとても危険らしい。もうとんでもなく。心強い味方がいる時にお邪魔したい限りである。

 もしくはその花妖怪とやらの好物をお茶菓子として持って行って仲良くなりたい。

 

 危険な場所ではないが、まだ足を運んだことのない場所としては、いつも蛮奇さんらと宴会をする霧の湖の近くに建っている廃洋館なんかが挙げられる。噂によればこの廃洋館にはポルターガイストの姉妹が住んでいるらしい。

 廃洋館にポルターガイストだなんて、肝試しにもってこいだと思うのだが、どうだろうか。せっかくの夏だし今度蛮奇さんや影狼さんとかと行ってみようか。

 

 いや待て。冷静に考えたらろくろ首と人狼と共にポルターガイストが出る洋館に肝試しとか意味分からん。何がしたいんだ俺は。ろくろ首と人狼が共にいる時点で軽く肝試してる。

 そもそもこの幻想郷で今更怖いポルターガイストが出るとも思えない。

 

 三途の川の渡し守、すなわち俗に言う死神すらも美少女……少女?まぁ、綺麗な女性だったんだ。どうせそのポルターガイストの姉妹とやらも美少女なんだろう?もう驚かんぞ。

 

 ん?三途の川が妖怪の山の向こう?小野塚さんってその三途の川で渡し守をしていたはずだけど、確かに先日人里でお昼を食べていたような気が……。

 ふむ。妖怪の山と人里もそれなりに遠かった気がするんだけど、三途の川の渡し守ってお昼休みがそんなに長いのかな。気になってきたな。(就職先として)

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 休日だが蛮奇さんは仕事でいなかったので、上白沢さんの所へ遊びに行っていた。

 ついでに寺子屋の子供たちとも戯れてきた。

 

 子供はかわいいと思えばかわいいし、自分も昔はあんなんだったんだよなぁと思えばうるさいのも我慢できるが、そう思わないと我慢できない時点で俺はどうも子供が苦手らしい。

 また一つ上白沢さんを尊敬する理由ができてしまった。

 

 ついでに昼もご一緒した。

 近頃博麗神社で頻繁に行われている宴会、ご存知ですかね?と聞くと、まぁ当然ながら知っていたし不審がってもいた。いくらなんでも続きすぎやしないかと。

 いや、俺もそう思うんですけど、参加者みんな、普通に食べて飲んで騒いでるだけでしたからねぇ。どこをどう疑えばいいのかさっぱりですし。と言ってみれば、まぁ昔と違ってどの妖怪も人の命貰いに来てるわけじゃあないですからね。と。

 どうやら昔は世紀末だったらしい。

 

 そのお昼ご飯の折にふと思い出して聞いてみたら、あの宴会にいた凄そうな妖怪八雲さんは、幻想郷を幻想郷たらしめる二つの結界の内の一つを担っているという幻想郷トップクラスどころかほぼトップの妖怪だった。

 ちなみに、もう一つの結界を担ってるのは博麗の巫女である霊夢ちゃんらしい。

 あの宴会、思った以上に凄いぞ。実は首脳会議レベルなんじゃないの?

 

 そうして上白沢さんとの食事を終えた後、鈴奈庵に本を返しに行って、返してからまた新しい本を借り、ついでに小鈴ちゃんと外来本の話をして帰った。

 いやぁ、俺も自己紹介では「趣味は読書です」と臆面なく言える程度には本を読んでいたと思ってたけど、小鈴ちゃんほど愛読家じゃあないね。どうやらまだまだのようだ。

 幻想郷って一芸に秀でている人が多いなぁ。 

 

 あ、いままでのパターンから行くと明日が宴会かもしれない。

 明日の午前中に酒を買っておこう。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 今日は昨日の覚書の通り、午前中に酒を買い、やっぱり行われた宴会に参加してきた。

 三日置きに宴会なんていくらなんでもおかしいと思わないのだろうか。もしかしたら思っているかもしれないが、見た感じ誰も不審がらず楽しんでいた。とんでもない連中である。

 

 いや、そういえば今回は妖夢ちゃんが宴会の最初っから疲れた様子だった。

 聞きとれやしなかったが、途中で主人である西行寺さんの元へ何かを尋ねに行っていたようだが、様子を見る限りのらりくらりと避けられ欲しい答えを得られなかったようだ。

 聞いた内容はこの宴会の首謀者か何かだろうか。

 

 でも、仮にこの宴会が前の赤い霧とか長い冬と同じ類の物だとして、何が目的だと言うのだろうか。赤い霧も長い冬も目的は今一つ分からないが、多い宴会も目的は分からない。

 酒好きの妖怪とかだろうか。思いつく限りだと八岐大蛇とか酒吞童子とかだが。

 もしくは騒ぐのが好きな妖怪……化け狸とかポルターガイストとか。

 

 うん。さっぱりわからん。

 

 きっと今回も事件なら事件で霊夢ちゃんか魔理沙ちゃんか咲夜ちゃんがなんとかしてくれるだろう。うん。皆女の子で年下であるということを考えるととても情けなく思えるが、あれだ。いつも言ってるが、餅は餅屋だ。専門家に任せておけば間違いはあるまい。

 そんな考えもあっていつもより積極的に料理を手伝った。というより料理をした。

 男料理は珍しいのか、それなりに好評だったようだ。

 

 今更だが、幻想郷での宴会のいいところは、上司のパワハラにも近い宴会芸などが存在しない事だろうか。俺にはそんな経験はないが、昔宴会での悩み話をテレビで見てから、そういった職場での上下関係などにはかなり嫌悪感を抱いていた。

 が、この幻想郷にはそんな堅っ苦しいものは無い。実にいいところだといつにも増して思う。

 

 とまぁ、結局今日も普通に宴会を楽しんで帰ってきた。

 未だに男性が俺一人というのが肩身の狭い話なのだが、俺以外それを気にしているような人がいないというのも肩身の狭い話。唯一の一般人が唯一の男性ってこれもうオンリーワン。

 

 意味分からん。

 

 

 

 

 

 月 日 ( ) 雨

 

 今日も一人静かに本を読みつつ店番をしていると、なぜかこの雨の中無縁塚に向かっていた森近君が帰ってきて、戸口で番傘を折りたたみながら「日暮の探していた『空気入れ』という道具を拾ってきたよ」とクールに言うので嬉々として見に行ったら、空気入れは空気入れでも浮き輪とかに使う、黄色い蛇腹と青いホースが特徴の空気入れだった。いや、まぁ頑張ればこれで何とかなるかも……しれないことはない。

 無理だ。

 

 もっとこうがっしりした感じの空気入れがあったらお願いします。と頼んでおいた。

 

 その他今回拾って来たもので、パッと見面白そうだったものは、珍しい六角形(が尖ったような形)のねじ用のトルクスドライバーくらいだが、果たして森近君は使い道が分かるのだろうか。分かったとして使う事はあるのか。

 現代人であった俺でさえトルクスドライバーなんて使う場面無かったのに。

 

 まぁ聞かれもしてないし、聞かれてもこればっかりは六角形のねじが無い限り教えようもないので、トルクスドライバーは見なかったことにして、森近君が持ってきてくれた空気入れに関する説明をした。

 浮き輪の説明から入り、そのままプールや海水浴など水泳という娯楽に関しても軽く話したが、意外にも、というか薄々気付いてはいたのだが、この幻想郷には海が無いために森近君は海を知りつつも見た事は無かった。

 

 そして、海が無くあるのは妖怪の山から人里へ流れる川と、畔に吸血鬼の住まう館が居を構える湖のみ。つまり幻想郷には水泳という文化もなかった。

 考えてみりゃそうだね。呉服屋はあれど洋服屋がなくて、水着もない。

 美人な妖怪が多いからちょっと期待したけど可能性は皆無だった。

 

 蛮奇さんの水着とか見たかったなぁ。……いや、危ない。首が。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 あ、道具屋の兄ちゃんだ!わーいわーい今日はどんなもん売ってるのー?なー兄ちゃん今度人里の外連れてってくれよー!道具屋のお兄さんのねくたい格好いいよー!

 

 ……ってな具合に子供たちに絡まれたのが今日のダイジェスト。

 この間寺子屋に遊びに行ったせいかいつも以上に絡まれてあたふたしてしまったが、子供の声を聞きつけた上白沢さんが寺子屋の奥から颯爽と登場して助けてくれた。

 元気いっぱいな子供たちを頑張って抑えようとする上白沢さんを見る俺と、とうとうまともな商品だけでなくイロモノと言える品をも扱い始めた台車を見る上白沢さんの表情が、揃って苦笑いに変わり、お互い大変そうですねと言いあった。

 

 そう。まともな品の仕入れが追い付かなくなったのだ。当然だけど。

 そもそも仕入れと言っても、森近君がふと思い立って無縁塚に拾いに行くだけだから、定期的と言っても大雑把に定期的なだけで結局不定期だし、拾ってくる品も森近君のチョイスだからイロモノばかりで売り物は少ない。

 結果として、初めて人里へ売りに行こうとした時に魔理沙ちゃんが選んだり森近君が趣味で載せようとしたような、奇妙奇天烈な品を小出しにしていくこととなったのだ。

 

 今回のイロモノ枠は、「電源もCDも無いからどうしようもないけどとりあえず接続してみたCDラジカセとそれなりなスピーカー」と「(おそらく)メリーゴーランドの木馬」である。

 台車が物凄く重かった。

 

 しかも想像通り売れなかった。置物としての価値も低かったようだ。

 

 家電とか電化製品は、そういうものの扱いに馴れているという河童とやらに売り渡したほうがまだいいんじゃないかと思う。収入にもなるし道具も使われてこそではなかろうか。

 いや、俺は売りに行かないけどね。妖怪の山怖いし。

 

 あぁ、妖怪の山と言えば、射命丸さんもあの博麗神社で三日置きに行われている宴会について嗅ぎつけているんじゃないだろうか。新聞記者だしスクープには目が無いし。

 今度会う機会があれば聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 今日は魔理沙ちゃんが豪快に戸を開いてやってきた。

 カウンターで本を読んでいた俺が驚いて変な声をあげてしまうくらいに豪快に戸を開いた。

 

 店内の珍妙な品を眺め、品定めするかの如く手に取ってみたりしながらカウンターの前までやってきた魔理沙ちゃんを、店の奥で道具をいじるのに忙しい森近君に代わって俺が対応した。

 対応と言っても、客でないのははっきりしているので要は話相手である。

 

 聞けば、上機嫌の理由はここのところ行われている例の宴会であり、数が多い上にタダ酒が飲めるので幸せなんだそうだ。なんだか霊夢ちゃんも似たようなことを言っていたような気がする。

 魔理沙ちゃんも何であんなにも頻繁に宴会が行われているのかさっぱりだそうで、ちょっとずつ調べてはいるが何をどう調べればいいのかも曖昧なので全く捗っていないようだ。

 

 そりゃ大変だなぁと他人事のように相槌を入れていると、初めて参加した宴会の時に魔理沙ちゃんから紹介されたアリスさんの話になった。

 そういえば彼女も、この香霖堂の裏手にも広がっている魔法の森に居を構えているらしいが、今のところこの香霖堂に来た事はない。少なくとも俺が店番をしている時は。

 

 彼女は宴会の時も左右にふわふわ浮いていた人形を遣うことに長けた魔法使いであるらしく、彼女の弾幕ごっことやらにおける弾幕は、複数の人形を用いたトリッキーな物であったが、同時にとても規則的であったらしい。

 いつになく真剣な表情で述べる魔理沙ちゃんによれば、弾幕にはその人の性格なり特徴が出るものらしく、その説で行くとアリスさんは几帳面ということになるらしい。

 

 まぁ、んなもん見りゃわかってたけど。

 宴会の時にも姿勢よく食べてたし食器もその場で重ねたりしてたし。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 やっぱり綺麗に三日置いて宴会である。

 さすがにもう花見とは銘打っていないだろうが、そろそろ人里の酒屋の店主も喜色満面から顔面蒼白へと変わりそうである。もしや幻想郷中の酒を飲み干すのが目的なのだろうか。

 もしかしたら、こっそり自室で作り始めた果汁酒も危ないかもしれない。

 

 そう考えて冷や汗を流しつつ、片手に酒瓶を持って博麗神社に赴くと、皆居場所や組み合わせは違っても顔ぶれは同じであった。人のこと言えないが、随分と暇な奴らだ。

 そして、流石にもう皆の訝しげな雰囲気も理解できる。

 

 つまり皆が皆、この宴会の真相を探っているのだろう。

 雰囲気からして一番怪しいのはあの大物妖怪の八雲さんと言ったところか。次点で西行寺さん。まぁそれぞれ味方が少ないとか得体が知れないという理由もあるのだろう。

 

 ちなみに今回は三魔女(俺命名)の一人、パチュリーさんがダウナーな雰囲気を醸し出していた。見かねたレミリア嬢が宴会会場に似つかわしくないワイングラスを片手に慰めに……というか絡みに行っていた。あの二人は仲が良いようだ。

 

 毎回暗い人が一人はいるのが気になるところと言えば気になるところ。

 でも全員女性なので、もしかしたら聞いてはいけない類のアレかもしれないという最悪の場合の想定をしてしまうので聞くに聞けない。

 

 そんなこんなで俺は今回も宴会場をふらふらと彷徨い料理して裏方に徹したり、適当に顔見知りと話をしたりと満喫して帰った。

 参加者はほとんどが妖怪なので、実は俺はいつもこれからが本番という前に撤退しているのだ。夜中の妖怪ほど恐ろしいものは無いと肝に銘じていっつも逃げるように帰っている。

 一応、参加者からも唯一の一般人ということでその辺は理解されている。……と思う。

 

 たまーに、レミリア嬢とか西行寺さんとかに絡まれるんだけど、彼女ら、俺のこと霊夢ちゃんや魔理沙ちゃんみたいな逸脱した人間だと思ってるんじゃないだろうな。

 おお怖い怖い。







 2016/4/11 解けた靴紐を結び直す程度の修正をしました。

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