シーマ様とイチャイチャするSS   作:norishio

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 宇宙世紀、通称ユニバーサルセンチュリー(U.C.)・・・・・・それは、人類の宇宙移民という大事業の開始に伴って用いられることになった新たな紀年法である。
「ユニバーサル」という「普遍」の意を示す言葉を含んだこの名称には、時の政治指導者の「人類は一つになれる」という新しい世紀への希望が込められていた。
 
 この宇宙世紀が始まって約80年・・・・・・新たな世紀の命名者が願った希望は未だ達成されていなかった。
人類が宇宙に「コロニー」と呼ばれる人工の大地を建造し、そこに移り住むことで政治、宗教、文化、人種といった旧世紀の対立問題は確かに薄れていった。
しかし、宇宙移民は人類に「地球に住む者(アースノイド)」と「宇宙に住む者(スペースノイド)」という新たな対立図式を生み出すことになる。

 地球に住みながら宇宙移民者を支配し、コロニー国家を植民地化する地球連邦。

 地球から最も離れた月の裏側、地球連邦からの完全独立を声高に叫ぶサイド3コロニー郡国家、ジオン公国。

 宇宙世紀0078年、この二国間の対立は、ジオン公国における政治軍事両面での独裁的指導者、ギレン・ザビが地球連邦からの独立を宣言することで、いつ開戦してもおかしくない緊張状態に達していた。



出会い

宇宙世紀 0078年 1月某日 サイド3 L2宙域 ジオン公国領海 パプア級補給艦

 

 

 「人生・・・・・・ままならないなぁ・・・・・・」

 

 ジオン公国 サイド3コロニー郡からさほど離れていない宇宙の片隅。

デブリのひしめく暗黒の宙域をゆっくりと進むジオン公国軍所属の輸送船があった。

その輸送船の中、窓の外でしだいに大きくなっていく軍事衛星を視界に納めながら、少年は今日何度目になるか分からない愚痴を呟す。

 

「ジオン公国軍 准士官短期養成学校 第三期生 機動兵装機械科 アスミ・アスカ、か・・・・・・」

 

 黒髪に加えて黒目で小柄、さらには華奢、顔つきは幼く彫りは浅い、優和そうな日系人らしい特徴を備えた少年、アスミ・アスカは窓の外の宇宙から膝上に置かれた軍学校の入学書類に視線を移し、その氏名欄に記載された自らの名前を改めて確認した。

 

 明日から自分は軍学校に入学する。

 

 その如何ともしがたい現実を認めるとアスカは背を曲げて俯き、溢れ出る愚痴と同じく今日何度目になるか分からない溜息を洩らす。

 

「ついてない・・・・・・」

 

 彼は世界で自分が一番不幸だ、などと決して考えていないが自分がこれまで歩んできた人生、そして現在陥っている「軍学校に入学しなければならない」という境遇については客観的に見ても不幸でありいくつかの致命的な不運が重なった結果であると考えていた。

 

 加えて今この時、軍学校が設置されてるらしい衛星に向かう途上の輸送船内。

その座席配置についてもちょっとした不運に見舞われている。

 

「まったく、さっきから隣でグチグチとやかましい・・・・・・鬱陶しくて寝りゃぁしない。いくら不満を吐いたって現実は何も変わりゃしないよ」

 

 ふいにアスカが意識を向けたちょっとした不運の元凶、隣席の人物から不機嫌そうな声があがった。

 

 

 隣席の人物は20代半ばは確実に過ぎていると思われる女性士官。

かなりの大柄で身長160センチのアスカよりも頭1つ分以上は背が高い。

並の男よりもよほど鍛えられているが女性らしさも兼ね備えた無駄のない体躯とストレートの長い黒緑色の髪は、見る者に「凛々しい」という言葉を連想させ、同時に幾らかの威圧感も振り撒いていた。

彼女はこれからアスカが入学する軍学校で教官に就任する予定の女性軍人である。

 

 アスカは輸送船に乗り込み座席につく際に、彼女と互いに名前を交換し、彼女がこれから入学する軍学校の教官という立場になることを聞いた。

しかし、彼女は輸送船に搭乗した時から終始眉間に皺を寄せて不機嫌そうなオーラを発していていた。

そして、自らの座席につくなり手すりに肘を置いて頬杖をつき長い足を組み、アスカのことを意識から排除したように目を閉じていたのである。

その不遜な格好のまま沈黙を貫く彼女の姿は、隣席のアスカに過剰な緊張を強い、アスカは彼女に対して「怖そうな人」というネガティブな第一印象を抱いた。

 

 

 座席についてからしばらくの間、アスカは隣席の女性が発する刺々しい空気に当てられながら、この座席配置の不運を呪った。

しかし、しばらくしても隣席の彼女がいっこうに動かないことからアスカは彼女が寝ているものと判断し、気を抜いていたのである。

実際には気を抜いたアスカの愚痴と溜息、ついでに全身から醸し出される負のオーラは、彼女の睡眠に対して有意な妨害効果を発揮していたのだが・・・・・・

 

 

 その「怖そうな人」から突然に不機嫌そうな声をかけられたことで、アスカは驚いてうなだれていた背を伸ばす。

そして隣席の女性の更なる不興を買わぬよう、先日覚えた付け焼刃の軍隊式敬礼を反射的にしながらも慌てて謝罪する。

 

「はいっ、はっ、見苦しい姿をお見せして、申し訳ありません。シーマ・ガラハウ少佐・・・・・・っいえ、ガラハウ教官」

 

 

◆◆

 

 

 ジオン公国軍の女性士官、シーマ・ガラハウはとある軍事衛星に向かう輸送船の中で自らが不機嫌であることを自覚していた。

その原因は軍学校の教官というこれからの任務に対する不満である。

 

 軍学校の教官、それはシーマがこれまで所属していた「とある新兵器」の教導大隊と比較して、出世の本流から外れた閑職である。

若くして少佐に至った彼女と周囲との歩調を合わせる意味での人事であることは理解していた。

また、「新兵器」に搭乗する士官パイロットの育成は、これからの自国の命運を分け得る重要な役割であることも理解していた。

しかし、出自や家柄が良くもない彼女が早足で出世することを上層部が疎んでの人事であることも思い返すと、功績と栄達を望む彼女は湧き上がる不満を抑えられなかった。

 

 

 シーマはその不満に由来する不機嫌な空気が、輸送船内で隣席になった幼い外見の少年を萎縮させていることに気付くと、あえて余計な会話をしてさらに彼を萎縮させるよりも睡眠によって気を紛らわせるほうが互いにとって幸せであると考えた。

そのため、座席につき隣席の少年、アスカと軽く自己紹介を交わした後はすぐに目を閉じて睡眠体勢に入ったのである。

 

 

 その計画は隣席のアスカの鬱々とした睡眠妨害により早々に崩れ去り、シーマは目を閉じたまま延々と彼の愚痴と溜息を聞くことになる。

しかし、最初の内こそ彼の存在を鬱陶しく感じたシーマであったが、アスカの愚痴をしばらく聞いてみると、そのどれもが人生の不条理さを嘆くものであり、今のシーマの内心を代弁するかのようなものであった。

まだ年若い少年がいい年をした自分と同じようなことを思い嘆いている様はどこか可笑しく、シーマの荒れた心境を徐々に穏やかにしていった。

 

 そうして心に余裕が生まれると、シーマは輸送船に乗ってからこれまでの、周囲に、特に隣席のアスカ少年に当り散らすかのような自らの態度は非常に大人気なかったか、と思い至る。

 

 しかしながら、アスカもまたシーマに対して睡眠妨害をしかけてきたことは事実である。

 

 その腹いせに、と、また明日以降教官と生徒の間柄になるであろうアスカとのコミュニケーションの一環として少し彼のことを虐めてやろうとシーマは考えた。

 

 

「まったく、さっきから隣でグチグチとやかましい・・・・・・鬱陶しくて寝りゃぁしない。いくら不満を吐いたって現実は何も変わりゃしないよ」

 

 シーマは軍学校への入学に不満のあるらしいアスカが俯いたタイミングを見計らい、あえて非難がましい文句をかけた。

不機嫌そうな声色を意識することも忘れない。

 

「はいっ、はっ、見苦しい姿をお見せして、申し訳ありません。シーマ・ガラハウ少佐・・・・・・っいえ、ガラハウ教官」

 

 悪戯の見つかったネコのように驚いて背を伸ばすアスカのリアクションは、シーマの思い描いた通りであり、彼女の嗜虐心をおおいに満たしてくれた。

加えて、どこで覚えてきたのか全くサマになっていない敬礼である。

 

 

 二人は現在、狭い輸送船内で隣り合って座っており非常に近い距離にあった。

そして、二人の間には頭一つ分以上の身長差があり、座高だけで比べてもシーマの目線のほうがアスカよりもずっと高い。

そのため、アスカは敬礼をした後にシーマの目線を探して徐々に首を反らしていくことになる。

その姿は傍から見ると笑いを誘う「可笑しい」動作であった。

 

 

 シーマは、様子を窺うように自分を見上げる幼い風貌の少年を見下ろして「可笑しい」という他に、らしくもなく「可愛らしい」という感想を抱かされた。

 

「まぁ、別にそれほど責めてるわけじゃぁない。でもねぇ、あんまりこれみよがしに人前で憂鬱そうな空気を出すもんじゃないよ。おまえは・・・・・・アスカだったかねぇ?」

 

 予想以上の戦果によってもたらされた自身のらしくない感情を誤魔化すように、シーマは先ほどまでの自身の態度を棚に上げた忠告を告げ、記憶から抜けてはいない少年の名前をあえてもう一度確認した。

これ以上虐めるのも可哀想なので、不機嫌そうな声色は自重する。

 

「はいっ。アスカです。ファミリーネームはアスミになります」

 

 固い口調のアスカの声はその外見と同様に「声変わりを迎えていないのではないか?」と思うほど幼く聞こえ、ともすれば女にしては声の低い自分よりも高い声が出せるのではないかとシーマに感じさせた。

シーマは、アスカの発するボーイソプラノをもう少し聞いてみたいと思った。

 

◆◆

 

「そうかい。ではアスカ。今のお前さんはまだ正式な軍属じゃぁないんだ。あたしに敬礼も階級呼称も必要ない。相手が明日からの教官だからってそんなに固くなることもない」

 

 アスカの謝罪を受けてからのシーマの雰囲気と声色からは、先ほどまで彼を萎縮させていた不機嫌さが綺麗に抜けており、きつく怒られるのではないかと身構えていたアスカをおおいに安渡させる。

加えて、少し古臭いけれど気さくな語調とちょっとしたアドバイスを自分に与えてくれるシーマを見て、アスカが彼女に対して抱いていた「怖そうな人」という第一印象はしだいに薄まっていった。

 

 

 アスカは彼女に指摘されたよう、先ほどの敬礼から掲げたままであった右腕を下ろそうとした。

そこで、突然に隣の座席から身を乗り出したシーマに両腕を掴まれた。

 

「それとだ」

 

 驚いて身を固くするアスカであったが、シーマは構わず続ける。

 

「公国軍の敬礼は海軍式だ。脇はもっと占めて、手のひらは相手に見せるな。覚えときな」

 

 アスカはシーマによって両腕を胴側に押しつけられることで強制的に脇を閉じさせされ、次に掲げられた右の手のひらも包まれ内向きに矯正された。

 

 一拍おいて、アスカは間近に迫ったシーマの気配と鼻腔をくすぐる長い髪の匂い、年上の女性にされるがままに手を取られるという人生で初めての状況にひどく羞恥心を刺激された。

アスカは自身の耳や頬が熱を孕んでいくのを自覚すると、それを隠すために俯いてしまいたくなる。

しかし、せっかく自分のことを思って注意をしてくれたであろうシーマから顔をそらすこともできず、動揺して調子の外れた声で「はいっ。ありがとうございます」と返事を返すのみであった。

 

 その後は、少しでも自身の熱をごまかすためシーマに教えられた敬礼の形を、何度も確認するように繰り返すアスカであったが、その都度にシーマから腕を取られ更なる矯正が入ることで、さらに自身の頬を熱くするという悪循環を繰り返した。

 

 そしてアスカの敬礼が一応のサマになる形を見せる頃には、彼のシーマへの印象は「怖そうな人」から「面倒見の良い気さくな女性」へと完全に遷移していたのであった。

 

 

◆◆

 

 

 アスカが先ほどシーマに見せたのは、地球連邦軍の陸軍や空軍で慣習化している肘の開いた敬礼であった。

それに対して、ジオン公国軍は肘を閉じた型の敬礼――地球連邦では海軍、宇宙軍で行われる――を全軍で採用していた。

この型の違いは兵員の待機スペースが限られた海や宇宙空間の潜水艦や軍艦内、宇宙艦内において余計なスペースとって邪魔にならないための配慮である。

 

 従って、これからアスカが入学するジオン公国軍の士官学校でなにかの拍子に仮想敵国である連邦軍式の敬礼を披露すれば、指導教官によっては鉄拳制裁が飛ぶかもしれない。

 

 シーマは自らの睡眠妨害こそされたが、同時にささやかな気分転換をもたらしてくれたアスカ少年がそうなるのは少々不憫だと思った。

そして、輸送船の中で教官予定の不機嫌な人物の隣席という心休まらない座席に配されて、さらにその人物から弄られる不運な少年に、らしくもないお節介を焼きたくなった。

 

 

「公国軍の敬礼は海軍式だ。脇はもっと占めて、手のひらは相手に見せるな。覚えときな」

 

 この小さなお節介に対するアスカの反応はシーマにとって予想外なものであった。

首から頬、耳まで赤くなった顔を背けることも出来ず、なんとも嬉しそうな声で「はいっ。ありがとうございます」のリアクションだ。

まるで思春期に入りたての少年のようなあまりに異性慣れしていないアスカの反応は、それを見せられるシーマのほうが年甲斐もなく恥ずかしくなるほどであった。

 

 シーマは、長い軍人生活の中では久しく感じなかった自分を女性として意識する異性の反応に、それは相手が幼い故であると分かっていても高揚せずにはいられなかった。

 

 さらに、アスカがシーマに指摘された敬礼を心に刻むように繰り返そうとする姿はなんとも意地らしく、シーマは彼の敬礼が一応の形になるまで彼の腕をとって熱心に教え込みながら、自身のうちから湧き出る嗜虐的な何かを満たしていくのであった。

 

 

◆◆

 

 

 輸送船の中で隣接する座席に座ったアスカとシーマは敬礼に関する一連のやりとりの後、自然と会話を重ねるようになる。

その中で、シーマは先ほどから気になっていた疑問をアスカに尋ねた。 

 

「それで、アスカ。さっきお前さんの様子を見ていて気になったんだが、軍学校に入るのはそんなに嫌かい? 今さらとやかく言っても本国に戻れやしないが、今回の徴兵は強制ではなかったし軍令部に申請すれば手間はかかるが拒否は出来ただろう?」

 

 シーマが気になっていたのはアスカの軍学校への入学に対する非常に後ろ向きな態度だ。

アスカがこれから入学し、シーマが教官を務める学校の名をジオン公国軍 准士官短期養成学校という。

現在、彼らが所属しているジオン公国は、おそらく近い将来に表明するであろう地球連邦政府に対する独立宣言と自治権要求に向けて急ピッチで軍拡を進めていた。

その中で、特に不足している士官相当の人材の促成育成を目的として設置されたのがこの学校である。

その生徒は一般には公募されておらず、軍や政界、財界に身をおく要人の推薦者や作業用の機械、重機、スペースグライダー等の軍務に関して有用な資格免許を取得している満17歳以上の青年層を対象に、軍令部から作為的に召集令状が届くことで徴募されていた。

しかし、この召集令は強制的なものではなく、軍令部に届け出て審査を受けさえすれば辞退することも可能である。

つまり、この召集に応じた者は、その動機はともかくとして軍学校への入学に対して肯定的な意思を持っている者がほとんどであった。

 

「ええと、ガラハウ教官・・・・・・じゃなくてガラハウさん。それはですね・・・・・・えぇ~と・・・・・・」

 

 これまでのやりとりで、シーマに対しての幾分か緊張の解れていたアスカであったが、この問いに対しては考え込むように言葉を濁す。

 

「ガラハウってのは呼びにくいだろ? シーマで構わないさ。もちろん明日からはシーマ教官だがね。・・・・・・それで、どうしてだい?」

 

 シーマはアスカが自分に対してまだ壁を持っているのか話すことを逡巡しているのを感じたが、別の話題を交えつつもあえて踏み込んだ。

こう先を促されてはアスカは逃げることができず、一応のそれらしい理由を答えた。

 

「じゃあ、シーマ・・・・・・さん・・・・・・僕はたぶん作業用の大型重機の免許を持ってるから軍の召集がかかったと思うんです。でもですね。そっちの資格を取ってからは年をごまかしてアルバイトばかりしていてジュニアハイの勉強もほとんどしていなかったんです。それで、軍学校の内容についていけるかどうか今さら不安になってしまって・・・・・・」

 

 シーマがアスカから聞き出したかったのは、「徴兵召集を辞退しなかった理由」である。

それに対してアスカが答えたのは「軍学校に入ることを躊躇する理由」であった。

論点のずらされたアスカの回答には「嘘」か「語っていない部分」が多くあると容易に読み取れたシーマであったが、それ以上追求しようとは思わなかった。

これまでの遣り取りで感じられた純朴そうな少年が口にしない理由というのは、本人の心根よりも周囲の状況に由来するものであろうことに察しがついたからだ。

 

「そりゃ、仕方がないねえ。でも、ジュニアハイくらいの知識なら本人が必死になりゃすぐに取り戻せるもんさ。これでもあたしゃ正規の士官学校出でね、これからあんたが叩き込まれることは大体分かるよ。明日からは機動兵器の教官もせにゃならんが、空いてる時間ならいくらか面倒もみてやれるさ」

 

 そう言って会話の流れから模範的な教官然とした言葉を返すシーマであったが、内心では面倒なことを引き受けてしまったか、という後悔の気持ちもあった。

シーマは明日から就くことになる軍学校の教官という任務にただでさえ乗り気ではなかったのだから。

 

「本当ですかっ? ありがとうございます。それにシーマさんって、正規の士官学校出身でパイロット教官って・・・・・・すごいエリートじゃないですか。 頼りになります」

 

 しかし、正式に教官任務に就く前の自分をやけに尊敬の混じった視線で見上げてくるアスカを目にすると、シーマは教官職も悪くはないのかもしれないと思えてきた。

 

「それに僕の配属って、この機動兵装機械科っていうところなんですけど。これって機動兵器を扱うとこですよね? じゃあ、シーマさんがこれから僕の担当教官になるんですよね?」

 

 そして、シーマが自身の担当教官になることをやけに嬉しそうに語るアスカを見ると、彼女は明日から彼をどう虐めてやるかに思いを馳せ、これからの仕事に少しだけ前向きな気持ちを抱くことができたのであった。

 

◆◆

 

「ところで、シーマさんって士官学校の出身っていうことは自分から軍人になろうって思って軍人になったんですよね?」

 

 しばらくはアスカの配属科とシーマがその担当教官になったら・・・・・・という未来の話題が盛り上がった彼らであったが、今度は先ほどとは逆にアスカからシーマに問う形での質問があがった。

 

「そうさね」

 

 シーマの肯定を受けてアスカは続ける。

 

「軍人って、誰かと戦って・・・・・・殺したり・・・・・・殺されたりすることもあるかもしれないのに・・・・・・どうして、その・・・・・・シーマさんは軍人になったんですか?」

 

 これから軍学校に入学しようという人間が発するにはいささか問題があり、正規の軍人にとっては失礼にあたるかもしれない問いだという自覚がアスカにはあった。

それでも彼は誰かに聞きかずにはいられなかった疑問をシーマに打ち明けた。

 

 シーマはこの問いを受けてアスカが軍学校への入学に後ろ向きな態度の理由には、戦うことへの禁忌感か恐怖心が多くを占めていることが容易に察せられた。

そして、おそらく彼個人としては軍人にはなりたくなかったが、何かしらの事情や周囲の状況によって召集令を拒否することが出来なかったのであろうことも確信を抱いた。

 

「さてねぇ、あたしが軍人になった理由・・・・・・」

 

 すでに軍人として10年ほどの時間を過ごしてきたシーマにとって、アスカの問いは非常に青臭く同時になつかしく感じられた。

しかし、これから不本意にして軍人にならざるを得ないであろう少年にとっては、重要な問題であることも理解できた。

だから、シーマは少しだけ昔のことを思い出しながら、自身の軍人生活で得た経験を踏まえ、アスカの問いに対する真剣な答えを探した。

 

◆◆

 

「さっきあたしはあんたに『自分の意思で軍人になったか?』って聞かれて肯定したが、ありゃぁ少し違った。あたしが士官学校に入ったのは自分の意思だけど、軍人になったのはそのついでみたいなもんさ」

 

 今日出会ったばかりのシーマがこのような踏み込んだ質問には答えてくれるのか、という不安がアスカにはあったが、以外にもシーマはその質問に答えようとしてくれた。

 

「同じではないんですか?」

 

アスカは「士官学校への入学を望む事」と「軍人になるのを望む事」は同一であると考えていた。

しかしシーマにとっては違ったようだ。

 

「まあ、士官学校出は任官義務があるのを承知で入学したんだから同じといやぁ同じかもしれんがね」

 

 アスカの疑問を軽く流してシーマは続ける。

 

「あたしの故郷のコロニーは、あんまり豊かじゃなくて生まれた家も貧乏だった。だけどね、そこでうだつのあがらない一生ってのが癪だったのさ。だから、そのろくでもない場所から抜け出すために必死に勉強して上の学校で箔をつけたいって考えた。その中で一番金のかからない選択肢が士官学校だっただけっていうのがあたしの軍人になった理由さ。任官義務を果たしてソコソコ稼いだら軍人なんかすぐに辞めて構わないって思ってね」

 

 アスカはそこまで聞いてシーマが「軍人になった理由」には納得した。

彼女の「自身のおかれた状況から、軍人になるという選択が最善であると判断し、士官学校に入って軍人になった」という境遇は「軍学校に入学して軍人にならざるを得ない」という状況に置かれた現在のアスカにとって非常に共感を覚えるものであった。

しかし、学歴を欲したゆえに仕方がなく軍人になったならば、今もシーマが少佐として軍人を続けていることとつながらない。

アスカにはシーマの正確な年齢が分からなかったが、彼女が任官義務を終えていない年齢とは思えなかった。

従って、今もシーマが「軍人である理由」がなければならなかった。

アスカはその理由を聞きたくて先を促した。

 

「でもシーマさんは今も軍人をやっています」 

 

「いいから聞きな、それで、本当ならあとは稼いだ金を元手に一人で好き勝手に生きていこうと考えてた。でもね、任官して何年かした頃、両親が死んだってんで故郷に戻ることがあったのさ」

 

 両親の死という一般的には悲劇的な出来事を軽く語ったシーマを見て、アスカは彼女と亡き両親との仲はどうであったのか、という趣味の悪い疑問も抱いたがすぐに打ち消す。

 

「久しぶりに戻った故郷は相変わらずろくでもない場所でね。一度外に出たあたしだから余計にそう感じたのかもしれないが・・・・・・故郷がどれだけ酷い場所かってのを改めて思い知らされたわけだ」

 

 シーマは何かを思い出すかのように一瞬目を閉じたあと、急に真剣な顔になって続けた。

 

「あたしはそのとき怒りを感じたんだ。あそこがああなった理由は、あそこが貧しい原因はあそこに住んでいるやつら自身にもあるかもしれないってのは分かってるがね。それでも、あそこを踏み台にして、ほったらかしにしてのうのうと生きているやつらが許せないって、あんなところを生み出す原因になった連中をどうにかしてやりたいって思ったのさ」

 

 世情にはあまり詳しくないアスカであったが、おそらくシーマの言っている「踏み台にしているやつら」とは、地球連邦政府を指しているのだということは理解出来た。

 

「そこで今をときめくうちの国の御大将、ギレン・ザビだ。アレのやり方は強引かもしれんが、サイド3や他の宇宙移民国家が独立を勝ち獲ることができれば、コロニー居住者の生活水準も上がる。あたしの故郷も少しはマシになるかもしれない。そう思ったら軍人として、誰かを殺し殺されることになっても戦う価値はあるって思った――」

 

 シーマの生い立ちとそこから導き出された軍人である理由、それらを聞いてアスカは感嘆した。

 

「宇宙移民国家の独立」、「故郷の復興」どちらも一個人のレベルではどうしようもない大きな目標であり、誰かのためにという利他的な思考に基づいたものである。

それらの目標を叶えるための先陣として、軍人であり命を賭して戦う覚悟があるというシーマがアスカにはとてもまぶしく見え、彼女に対してさらなる尊敬の念を抱いた。

そして、アスカも「国家や宇宙移民者全体のため」という大きな目標まではいかないが、これまでの過ごして来たコロニーで世話になった人達の暮らしを良くするためならば、軍人として戦うのも悪くないのではないか、と思えてきたのである。

 

◆◆

 

「――っていうのが、まぁ、あたしが軍人である理由・・・・・・の建前さ」

 

 直前までの台詞を台無しにする〆でシーマの独白は終わった。

アスカは一瞬シーマが何を言ったのか分からず、彼女の真意を確認するように慌てて声を上げる。

 

「えっ? ちょっ・・・・・・ちょっと待ってください。・・・・・・今、シーマさんすごく良い話してましたよね? 僕、すごく感動してたんですけど。シーマさんが軍人をやってる理由が、サイド3の独立と宇宙移民者みんなのためだって、亡き両親の思い出が眠る故郷の復興のためだって・・・・・・アレッ?・・・・・・違うんですか?」

 

「だーかーらー・・・・・・今のは建前だ。表向きの理由。分かるかい?」

 

 やけに間延びした調子でそう応え、アスカを見下ろすシーマは、目尻を細め口角を吊り上げながらニヤニヤとしており、まるで悪巧みが成功した時代劇の悪代官のようななんともいやらしい笑みを浮かべていた。いつか日系人向けの文化番組で見た覚えのある人をあざ笑うようなその笑みを見せられ、アスカは自分が謀られたことにようやく気がついた。

 

「っ――酷いですよ。僕は、シーマさんのこと、すごい人だと思って真剣に聞いてたのに」

 

 これまでの話の中でシーマに抱いた尊敬の念が一気に薄れ、アスカはジトっとした非難の目をシーマに向ける。

しかし、それを見たシーマは彼女のハスキーは声が裏返りそうなほどの高笑いを上げた。

 

「アハハハハハハッ、お前があんまり真剣に聞いてるもんだから、フフッ、途中でやめれなくなっちまってね」

 

 人を小馬鹿にしたようないやらしい笑みと高笑いが、やたらと彼女に似合っていたこともアスカの神経を逆撫でした。

アスカはこれ以上の反応を示してシーマをさらに調子付かせるのが癪だったので、彼女から顔をそらして憮然とした表情を作る。

 

「クククッ」

 

 このリアクションすらもシーマの笑いの琴線に触れたようで、彼女はまた笑い声を上げようとする。

 

「・・・・・・っと、まぁ、いままでのはちょっとした冗談だ。すまなかったよ」

 

 それに対しアスカが再びジト目を向けるとようやくシーマはニヤニヤした表情をおさめ、軽薄な謝罪の言葉を口にした。

 

「ほら、そんなにむくれなさんな。こっちを向きな」

 

 そして、シーマは顔を背けたアスカの頬を両手で挟みこみ、強引の元の方向に戻そうとする。

アスカも一応の抵抗を試みるが、二人の精神的、肉体的な力の差は歴然であり、すぐにその抵抗の無意味さを悟ると諦めてシーマにほうに向き直した。

 

「・・・・・・さっきの話・・・・・・どこまでマジメだったんですか?」

 

 さんざん笑われたことで、シーマに対して若干の不信を抱いたアスカであったが、先ほどの彼女の話の全てが嘘ではないような気はしていた。

 

「さっきの話? ああ、あたしの生い立ちも士官学校を目指した理由も本当さ。故郷がろくな所じゃなかったっていうのもね。それに『軍人である理由』ってのもまんざら嘘じゃぁないよ。サイド3の独立も故郷のコロニーのことも『あたしが軍人をやることで結果的にそうなれば良いな』くらいには考えてる」

 

 このシーマの言い草から、先ほど彼女の語った祖国の独立や故郷の復興などは、軍人として命をかけて戦ってまでも彼女が望むものではないということがアスカにも理解できた。 

彼女がさきほどの話を建前として締めくくったのもそれが所以だろう。

 

 ではシーマが命のやりとりを覚悟してまで軍人であり、望むものは何なのか?

 

「だけどね、あたしが今も命を張ってでもこうして軍人をやっている一番の理由は、あたし自身が幸せになるためさ」

 

 アスカは首を傾げた。

「命をかけて軍人をやること」と「人生の幸福」、両者をどうしてもイコール関係で結ぶことができなかったからだ。

もしや彼女は命を賭した戦いの中でしか生の幸福を見い出せない、という生粋の戦争屋なのだろうか?――と見当外れのことをアスカは考える。

すると突然に、シーマは両手で挟み込んだままのアスカの顔を引き寄せ、今度こそ真剣な表情で彼と目線を合わせた。

 

「いいかい? アスカ。大切な話だ、よく聞きな。軍っていうのは国家の中核を担う巨大な組織だ。特半分は軍事政権みたいなジオン公国ではな――軍は国内の隅から隅までいろんなとこに根をはってる。だから軍で出世をすれば社会的な信用が得られる。人脈を作れば後々いろんな所に顔が利くようになる。そうすれば軍を抜けて商売を始めたっていい。政治家になるにも箔がつくし、天下りをすれば悠々自適な隠居生活もおくれる。これから先、どんな人生を歩む人間でも自国の軍で手柄をあげて偉かったって経歴はたいてい有利に働くんだ。それで自国が戦勝国だったら万々歳さ」

 

 そう言ってアスカの顔を覗き込むシーマの瞳には軍人であることよりも、さらにその先に目を向けた野望の炎がぎらついていた。

同時にアスカはそのように語るシーマの声に狂気的なモノが混じっているように感じられた。

 

「確かに軍人は戦争になりゃあ駆り出されるし、そこで命のやりとりをするってリスクもある。でもね、逆に言えばそれは手柄を立てて出世するチャンスだろ? あたしはあたしの幸せのためなら誰とでも戦うし、必要とあれば誰だって殺すのさ」

 

 シーマが軍人である理由――誰かを殺し殺される可能性があろうとも軍人として出世し、その地位を利用して幸福な人生を送りたい――つまり、自分の幸せのためなら誰かを殺すことも厭わない。

 

 それはあまりにも利己的で傲慢で自己中心的は考えではないか?

アスカはシーマの俗物的なその主張に対して、青い道徳観から生じた嫌悪感と一度は尊敬の念を抱いた彼女から裏切りを受けたような大きな失望感を覚えた。

 

 

 

 しかし・・・・・・同時に気がついた。

――どちらも結局は同じではないかと。

 

 

 シーマが建前として前述した「サイド3の独立」や「故郷の復興」という「利他敵な理想」を持って軍人になった人間は、戦争になれば誰かの、何かのために命をかけて敵と戦う。

自らの理想の前に立ちはだかる敵は倒さねばならないのだから。

 

 そして、後述した「軍で出世して幸せになりたい」という「利己的な理由」で軍人になった人間でも、戦争になれば自分の幸福のために命をかけて敵と戦う。

彼らは自らのためなら誰かを害することも辞さない人間なのだから。

 

 どのような理想や理由が伴おうと、軍人であるということは自らの意思で敵と戦い、場合によっては殺す覚悟すら持たねばならないということだ。

結局やることは変わらないのである。

軍人が軍人である限り。

 

◆◆

 

「・・・・・・さっき気がついたんですけど、実はシーマさんってかなり性格悪いですね」

 

 アスカは本当に今日何度目かになるか分からない溜息を吐いた後、目の前にあるシーマの瞳をジト目で睨んだ。

ついさきほどまでそこにあったアスカが幻視した野望の炎は嘘のように消え去り、澄んだ灰色の瞳が彼の反応を面白がるような色を湛えて存在するのみであった。

それを見て、アスカは先ほどまでのやりとりの全てが、シーマの仕組んだシナリオ通りであったことを改めて確信し、同時に、自分は彼女の手のひらの上で踊らされ一喜一憂していたことを理解した。

ここに至って、ようやくアスカはシーマの性格があまりよろしくないことを認め、せめて一矢報いてやろうとその事実を口に出さずにはいられなかった。

 

 そのアスカの様子を見て、彼女は再び目尻を細め口角を吊り上げた悪代官然としたいやらしい笑みを浮かべた。

 

「ハハハッ、自力で今の芝居の意味に気がつけたんならたいしたもんじゃないか。おまえが気付かなかったらあたしゃとんだピエロだよ。――でも、あたしの性格が悪いってのは聞き捨てならないねぇ」

 

 そう言いながら、シーマは未だ目前で手のひらに挟み込んだままのアスカの頬を、失言の罰だとでもいうかのようにぐりぐりとこね回した。

しかしながらシーマの内心は、アスカの「性格が悪い」発言に腹を立てたというよりも、彼女が回りくどい小芝居で言わんとした事を彼自身で気付いてもらえた、という満足感が多くを占め、そのご褒美に彼を撫で回しているような感覚であったが・・・・・・。

 

 シーマのその行動はある意味彼女の思惑通りの効果を発揮し、シーマの顔が目前にあり、自分の頬が彼女の手で弄くり回されているという現状を認識したアスカは、また頬が染まるほどの羞恥心を抱いたが、同時に心のどこかにはもう少しそうしていて欲しいという被虐的な気持ちも芽生えていた。

 

 しかし、始めはアスカの頬を軽くこね回すだけであったシーマだが、その手の圧力は徐々に増していき、途中からは彼の頬を指でつまみ左右に強く引っ張り始める。

 

「あんたの頬、もち肌ってのかい? これは・・・・・・男の癖に・・・・・・スベスベで・・・・・・癪だねぇ」

 

 直後に妙なことを口走るシーマの眉間に徐々に皺が寄っていく様を眼前で見せ付けられ、彼の淡い被虐心は霧散し、単なる苦痛へと遷移していった。

 

「痛いです。止ーめーてーください」

 

 いいかげんに引っ張られる頬が痛かったので、アスカはなるべくぞんざいに聞こえるような声色を意識しながら抗議の声を発した。

そして、彼の頬を摘むシーマの指をなんとか引き剥がし、ついに彼女の拘束を振り払う。

 

 アスカはそろそろ御巫山戯はやめて、シーマがアスカに伝えたかったであろう真意を改めて言葉にして確認することにする。

 

「それでつまり、シーマさんは『軍人である理由なんてなんでも良いけど、軍人であるならば敵と戦わなければならない』って、言いたかった訳ですよね?」

 

 さきほどの小芝居を含めた二人のやりとりを要約すると、アスカがシーマに尋ねた問は「戦う覚悟をしてまで軍人である理由はなんですか?」だ。

ソレに対するシーマの答えが「理由はともかく、軍人であるならば戦う覚悟をせざるを得ない」という見も蓋もないものだ。

 

 なんとも噛み合っていない問答である。

しかも、アスカが求めた「シーマ自身が軍人である理由は?」という疑問は、さきほどの彼女の小芝居が、どこまで彼女の真意であったのか分からないアスカにとって、結局はぐらかされた形である。

しかし、これから本人が望まずとも軍人にならざるをえない状況に陥っているアスカにとって、彼女の見も蓋もない答えはこれ以上ないほど的確な忠告であった。

 

「そうさね。軍人である理由なんて人それぞれだ。自分のために、ってやつもいるし誰かのため、って考えるやつもいる。でも、そんなもんは結局言葉遊びだよ。ギリギリの殺し合いをしている時に理由だのなんだのを考えられるほど器用な人間なんてそうはいない。みな自分が生き残ることだけで必死になっちまうんだ」

 

 いつのまにか眉間の皺を消し真面目そうな顔をしたシーマが、アスカの得た回答に彼女なりの補足を加えた。

 

「だからね、おまえがこれから軍人になることが不本意な現実で、軍人である理由、軍人として戦う理由がないってんで悩んでるなら、今は『自分が生きるため』ってことでも理由にしときな」

 

 アスカはシーマによって、自らが明かさなかった自分の現状を正確に把握されていることに加え、内心の不安を言い当てられて驚いた。

しかし、いまさらだと思うと同時にシーマが自分の状況を理解して助言をくれたことに思い至り、彼女の存在を嬉しく思った。

そして、また心に湧いた新たな疑問を口にする。

 

「それってさっきシーマさんが言ってた『自身が幸せになるため』っていうのと違うんですか?」

 

 アスカはさきほどの小芝居の中でシーマが見せた、利己的な思考に基づく野望の炎のギラついた瞳を思い出し苦い顔をした。

 

「本質的には同じだよ。さっきのアレは生きるためって理由を大げさに拡大して憎まれ役になるように言ったからね。嫌な言い方に聞こえたかもしれないが、軍で手柄をたてて出世すれば楽に生きられるってのはまぎれもない事実だ。でもね、それ以前に戦場で敵を倒すことを躊躇えば自分が死ぬことになるんだ。出世やら功績云々なんて考えなくたって軍人が『自分が生きるため』に戦うってのは当り前のことで誰に憚る必要もない立派な理由さ」

 

 シーマの説明はまた、なんとも見も蓋もない当り前の現実に帰結した。

アスカはシーマの説明に素直に納得すると共に、小芝居なんかせずに最初からこうやってに説明してくれれば良かったのではないかと彼女に対して非難がましい思いを抱いた。

しかし、実際に小芝居で彼女が演じた軍人としてのあり方について、共感や反発を抱きながら考えなければ「軍人であるならば戦う覚悟を持たねばならない」という見も蓋もない現実が、これほど素直に受け入れられなかったであろうことも自覚していた。

それを思うとアスカはシーマに対してこれまで以上に尊敬の念を抱くと共に、彼女に対する「面倒見がよい」という評価を新たにした。

 

 同時に、今度はシーマのいう「軍人」にアスカ自身が本当になれるのかという疑問も覚え、思わず彼女に問うてしまう。

 

「僕が・・・・・・本当に軍人になれるんでしょうか?」

 

 新たな不安の種を見つけあまりに情けない声を上げるアスカの声を聞いたシーマは、ひとつ溜息を吐いた後、あえてキリッとした表情を作りアスカを見下ろす。

 

「ったく、おまえは次から次へとウジウジと鬱陶しいねぇ・・・・・・できるかどうかじゃなくてやらなけりゃならないんだろ? それにだ・・・・・・幸いにも、明日からのあんたの教官はこのシーマ・ガラハウだよ? 戦い方と生き残り方は嫌というほど叩きこんでやる。覚悟しときな、アスカ訓練生」

 

 そのあまりにも自信に満ちたシーマの宣言を受けて、これまで自分が軍人になることに対しては不安と不満しか抱けなかったアスカであったが、シーマの元であれば軍学校に入って軍人になってもなんとかやっていけるのではないか、という淡い希望を抱けた。

 

「はいッ、よろしくお願いします。シーマ教官」

 

 だからだろう。

アスカは思わず先ほど教え込まれたばかりの敬礼を行いながら、あえてシーマの役職名つけて彼女の激励に応じるのであった。




 始めまして。
そして拙い文章をここまで読んでいただいてありがとうございます。
このSSの作者のnorishioと申します。
今回、初めて物語(?)というか会話劇といった形で文章を書き、少しだけ誰かに見て欲しいという欲求が芽生えたため、本サイトに投稿しました。

誤字脱字, 文法, 表現手法, 視点, 全体の構成, さらには原作キャラの行動, 言動, 思考, 口調への違和感など忌諱のないアドバイスが頂けたら幸いです。

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