アレクサンドラの私兵   作:朝人

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アニメやってたし、息抜きがてらに考えてしまったもの。


一話

「参ったな……」

 木枯らしが舞い、寒気が体を刺す。

 冬の到来を知らせる雪はまだ降らないものの、それでも十二分にその足音は迫っていた。

 そうなると必然人は外に出なくなる……訳はなく、寧ろこれからの寒波に向け備蓄を蓄えるのに忙しい。

 だというのに先程からすれ違うどころか人影一つ見当たらない。目的の地に向かっているにしては流石に妙だ。

「ふむ、間違えたか?」

 地図を見て来たはずだが、如何せん初めて訪れた地だ。おまけに地図上では通れる道が塞がられており迂回することが間々あったせいか、予定していた進路から外れてしまったらしい。

 同行者がいれば何か知恵を貸して貰えるかもしれない、だが生憎そのものは此処に至る道中で怪我を負ってしまい、止む得ず近くの村に置いて来たのだ。彼曰く、真っ直ぐ行けば着くとのこと。しかし現実はそう甘くはなかったらしい、土地勘のない者が迂回して何となくで進んだ結果がこの様だ。これでは予定していた時間までに辿り着く事は不可能だろう。

 折角信頼してこの仕事を任せてくれた彼女に申し訳が立たない。

「はぁ……」

 冷気を思いっきり吸い込み白い煙として吐き出す。文字通り先が見えない状況に深いため息が漏れてしまう。

 さて、どうする。そう思い思考の海に浸る前に不穏な物音を耳が拾う。

 何事かと思い、警戒しながらその方を見ると林から男達がぞろぞろと姿を現し始めた。

 数にして二十といった所か、万全とは言い難い装備を身に纏った彼らは逃げられぬように囲む。

 山賊と一目で分かるその出で立ちに、しかし心は冷静だ。寧ろこれで道の心配をしなくて済むと思うと笑みすら浮かんでしまう。

「あー、失礼。少し道を訊ねたいのだがよろしいかな? ライトメリッツへはどう行ったらいいのだろうか?」

 状況を理解していないとも思われるその発言に山賊は一瞬呆けるが、すぐに下卑た笑いを上げることのなる。

 武器をチラつかせ今どんな状態なのか分からせようと、一人が脅すように近付いてくる。

 大方、数が多い故に相手を見下していたのだろう。仮にも相手も武器を所持しているのなら警戒をするのが当然だ、そこを怠る辺りやはり軍の兵とは異なるようだ。

 そう判断すると、仕方が無いと自らが背負う巨大な得物に手を掛けた――。

 

 

「え? いないのですか?」

 『銀閃の風姫(シルヴフラウ)』、『剣の舞姫(メルティス)』なる二つ名を持つ戦姫――エレオノーラ=ヴィルターリア。彼女が治める公国、ライトメリッツにある公宮前。そこで門番と向かい合うようにして話を聞いていた青年は件の相手が留守であることに困惑の色を強めた。

 180はある身の丈に、白い髪。それとは対照に筋肉質で褐色の肌を持つ、明らかに目を惹く青年。その上背中には自らの背丈と同じ程の大きさを持つ大剣が背負わされていた。

「失礼ですが、どちらへ行かれ、いつお戻りになられるのか分かりますか?」

 一見すると怖く、野蛮のように思える容姿からは想像も付かない丁寧な言葉使いで門番に問いかける。

 本来であればこのようなこと応えられるわけはないのだが、相手が相手故に門番は渋りながらも応えた。

 それによると、現在エレオノーラは紆余曲折を経てブリューヌで反逆者とされた元伯爵、ティグルヴルムド=ヴォルンと共にいる。その所為で今ブリューヌが誇る最精鋭とされるナヴァール騎士団と事を構える前だというのだ。

 下手をしたら今日明日にも開戦する虞がある。結果として何時帰還するかは分からないという。

 その話を聞き、さてどうすると顎に手を当てる。

 念のため居場所を聞くとオーランジュ平原付近にいるらしい。地図を見る限り少し離れてはいるが行けない距離ではない、日が暮れ始めている為翌朝出立するのが妥当だろう。それでも一日もあれば着ける。

 問題はその様な状況下にある中『この件』を伝えてもいいのか? という点だ。いや、彼女の一私兵である自分が口出しするつもりはないが、幾らなんでもタイミングが悪すぎる。

 彼女とエレオノーラには盟約があるらしいがそれでも来てくれるかどうか……。

 しかし相手のことばかり考慮して二の足を踏んでいては逆に彼女に申し訳が立たない。根無し草のような自分を拾ってくれた恩は大きく、探し物の捜索にも手を貸してくれている。その為頭が上がらない思いだ。

 ならやはり、ここは多少無理を通してでも向かうべきだろう。

 そう結論付けた青年は門番に礼を言うと公宮をあとにした。

 

「ふぅ……」

 人混みの中に消えた青年はライトメリッツの宿で一息着いていた。

 レグニーツァからの使者ということもあり、最初は公宮に入ることを勧められたのだが、自らの領地の戦姫がこれから戦をするかもしれないという状態だ。流石に公宮内は空気が張り詰めているだろうし、使者を労われる余裕があるとは思えない。

 そうでなくても伝える内容が内容だ。彼女も言っていたが、出来る限り本人に報せたい。更に言えば、嘘は得意ではない為うっかり口を滑らせてしまいそうな自分が信用出来ないのだ。

 故に、僅かでも可能性がある以上公宮にいるのは得策ではない。

「向こうは……ま、大丈夫だろう」

 身の丈程もある大剣を置き、横になる。

 彼女からはそれなりの信頼を得ている。同様に、自分も彼女の事を信用している。楽観は出来ないが、だからといって悲観するつもりもない。

 確かに急いでいる、早く報せた方がいい。しかし、だからといって焦ってはいけない。

 既に外は夜の帳が()り、暗闇が支配する世界に変わっている。仮にここで土地勘のない自分が闇雲に進んで果たしてオーランジュ平原に辿り着けるだろうか?

 答えは否。例え着いても通常の倍の時間を食わされる可能性が高く、それ以上に何かの拍子に死んでしまったら目も当てられない。

 だからこそ今は十分な休息を取りつつ時を待つ。日が顔を出し始める朝一番に向かえばどんなに遅くても日暮れ前には着く。いや、自分ならそれ以上に早く行ける。

 故に、焦ってはいけない。

 そう自分に言い聞かせ、青年は静かに瞼を閉じた。

 

 翌朝。予定していた通り青年はライトメリッツを発った。

 案内人を同行してもらい、慣れぬ道を駆けて行く。見るからに重そうな物を背負っているとは思えない程の足の速さに同行人が目を見開いていたがそれに気付く余裕はなく、最低限の休みを取って駆け回った結果、午後には目的の地に辿り着くことが出来た。

 後はそう……例の件をエレオノーラに伝え、彼女がそれをよしとしてくれることを祈るばかりだ。




プロローグ的なもの。導入部どうしようかと考えた結果こうなった。
とりあえずサーシャ生存を目指そうと思う。

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