『本日未明、○○市で少年を狙った誘拐未遂事件が発生しました。犯人は偶然通りがかった中学生の少女に取り押さえられ、事件は無事未遂に終わりました。犯人は同市に住む老夫婦で――――』
早朝のテレビニュース。朝から流れる物騒なニュース。だが、未遂に終わった事に安堵する一組の家族。
「御父さん、御母さん、怖いね。さっきの犯人の人って近所の人でしょ?」
「そうだね。未遂に終わって本当に良かったな」
事件が起きた場所、犯人が近所の人間と云う事も有り、父親の言葉と物言いには本当の安堵が感じられる。
「そうよねぇ。あっ、そうだアマタ。学校の転入手続き終わったわよ。はい、これがアマタがずっと着たがってた制服よ」
暗い話はもう終わりと、母親が少女にまだビニールに包まれている新品の制服を手渡す。
「うわぁ!! これが制服なんだぁ……えへへへ、嬉しいなぁ~♪」
少女は制服を初めて見て貰った事に喜びを隠せず、ビニール越しに制服を頬擦りして、誕生日プレゼントを急いで開ける子供の様にビニールの包みを取り払い、制服を手にとってその場を嬉しそうにくるくると回る。
「でも、アマタ。本当に近所の中学で良いのか? どうせなら、隣の見滝原中学とかに行った方が、良かったんじゃないのか? その……眼の事も有るし……」
「ううん、良いの♪ 何時までも逃げてちゃ駄目だもん。この眼は私が自分の道を見て歩む為の眼だから。絶対に目の前の事から眼を反らしたくないの」
「アマタが言うのならそれでも良いのだが」
「あらあら、貴方ったら心配性ね。アマタは私達の子なのよ。弱い訳が無いじゃない」
「おっ、おぉ、そうだな」
娘とハイタッチをしている母親に、父親はあまりにも心配性すぎたかと可笑しそうに自分の事を笑い、再びテレビに視線を戻す。
会話内容は別として、何処にでも有りそうな幸せな家庭。
だが、所変われば品変わるならぬ、時間が変われば雰囲気変わる。
時間は変わり深夜になり、皆が寝静まった頃になると少女の部屋に一匹の獣が入り込んでくる。
その闖入者の気配を察知した少女は寝床から起き上がり、その獣に声を掛ける。すると獣は市内に魔女が現れた事を少女に伝える。
少女は聞き慣れない言葉にクエスチョンマークを浮かべ、獣から色々と話を聞く。
最初は、そんな事は聞いてないと怒るが、魔女を野放しにしていると身近な人間に被害が及ぶと聞かされると決心を決め、部屋の窓から夜の街へと飛びだす。
飛び出す彼女を物陰から見ている集団に気付く事も無く……
「場所はここで良いの?」
少女の服はパジャマ姿から純白のドレスの様な服に何時の間にか変わっており、獣に目の前に広がる渦の様な場所を指さして尋ねる。
それに対して獣は肯定を示し、少女と一緒にその渦の中に入り姿を消す。
そして……
「キュウべぇ、どうしたら良いのぉぉおおおおおおおお!!」
「僕に言われても……それより、朝言ってた目の前の道から眼を反らさないってのはどうなったんだい?」
「無理無理無理無理無理っ!! 流石に限度ってものが有るよ!!」
全力で化け物から逃げる少女の姿が有った……
「コルコルコルコルコルっ!!」
少女と大きさ一つ変わらない巨大な斧を振り回しながら全速力で少女を追いかける、真っ赤なサラファンを纏い仮面を付けた人型の影。
少女は分が悪いと判断したため、逃げる選択を選んだ。
「何度も言うけど、君達魔法少女には―――」
「困難に立ち向かう力が有るんだよね? でも、行き成りこれは荷が重すぎるよ!!」
「はぁ……じゃあ、先ずは武器を召喚して」
「武器!? どうやって召喚するの!?」
「念じればアマタの思いに呼応して出て来るよ。ほら、家族や町の皆を守るんだろ?」
その獣の言葉に少女は逃げる足を止め、化け物に向き合い……
「皆を守る力を頂戴!!」
すると少女の願いに呼応して、少女の手に着ている可愛らしい服とは不釣り合いな物騒な拳銃が現れる。
少女は銃口を化け物へと向けて、そのトリガーを引く。
火薬の破裂する音、刹那銃口より飛び出す弾丸。
直線軌道の先の魔女の額へと螺旋を描きつつ、球が向うが……
簡単に魔女の斧の一振りで粉微塵に弾丸が砕かれてしまう……
「やっぱり駄目だよっ!?」
「うん、アマタにはこの魔女は荷が重すぎたみたいだよ……一旦、ここは引いた方が良いかもしれない」
「だから、さっきから逃走しようとしてたじゃん!! 出口は何処にあるの!?」
「来た道を戻れば良いだけだよ」
攻撃が意図も容易く防がれた事に、少女も獣も完全に諦めモードに入り、この空間から逃げださんと再び背を向けて走り始める。
当然、化け物も巣に来た餌を逃がす訳も無く、空間から出る唯一の出口に、化け物そっくりの小さな人形を出現させ、少女達が空間から出るのを妨害しようとする。
「どいてぇ!!」
少女は拳銃のトリガーを引くが、通路を塞ぐ小さな人形にすらも易々と防がれる。
完全に逃げる場所を失い八方塞がりの現状に、少女は更に焦りを見せる。
「キュウべぇ、どうすればいいの!?」
「正直、御手上げとしか言いようが……」
その結果獣に助けを求めるが、肝心の獣は完全に諦め目の前の化け物にやられる決心を決めてる様で打開の策一つ手に入らず。
「短い人生だったなぁ……でも、最後に世界が見れたから良いかな。心残りと言ったら、最後に制服を着て学校に行って友達が欲しかったかな」
少女は眼に涙を浮かべて、化け物が巨大な斧を大きく振りかぶり、自分に振り下ろすのを諦めて見ていた。
そして、少女の眼前に斧が迫った将にその時であった……
「ティロ・フィナーレ!!」
轟音と共に一斉に通路を塞いでいた人形達を吹き飛ばした砲撃は、少女の眼前に迫っていた斧を空へと弾き飛ばす。
「ふふ、本当に世話の焼ける後輩ね。アマタちゃんは」
砲撃を放ったと思われる黄色の少女は、まるで目の前の少女を知ってるかのような口振り。
「そう言うなよ、マミ。アタシ等だって、並行世界ではアマタに世話になってたらしいんだから」
そんな少女を諌めるのは赤色の少女。彼女も同様に目の前の少女を知ってるかのような口振り。
「あっはっは、私は今回でも凄く御世話になってるんだけどねぇ~♪ 魔女から魔法少女に戻して貰った訳だし♪」
その中、虹色の少女は全く別の反応を示す。
「しっかし、この子がアマタかぁ。アタシと出会った当初は仲悪かったらしいけど、全然そんな険悪なムードになりそうな気はしないんだけどなぁ? ねぇ、まどか」
最初の三人とは違って至って普通の私服に身に纏う青色の少女は首を傾げつつ、隣の桃色の少女に不思議そうに返す。
「この子が、ほむらちゃんが助けたいって言ってた最後の一人だよね」
「えぇ、そうよ。そして、私達を最終的には救ってくれた恩人」
桃色の少女の問いに紫色の少女が淡々と言葉を返す。
「あの、貴方達は……」
少女を余所に話を進める少女達に少女は呆けつつも尋ねる。
その少女の疑問に、少女達の中でも一際目立つ美麗な紫色の少女がニコリと笑い、少女に手を差し出す。
手を差し出された事にどうしたら良いのか少女は驚き、結論として躊躇いつつ紫色の少女の手をギュッと握ると……
「私の名前は暁美ほむら。アマタを救いに来たの。そして、アマタの友達よ」
少女の手を強く強く握り返した……
きらめく、きらめく、小さな星よ あなたは一体何者なの?
世界の上空はるかかなた 空のダイアモンドのように
きらめく、きらめく、小さな星よ あなたは一体何者なの?
その問い掛けに小さな星は言いました
私の名前は星屑アマタ 私は小さな小さなお星さまと
~マザーグースのTwinkle, twinkle, little starより一部改竄~
~fin~
後書きらしきもの
これが、自分なりの終わらせ方です。
あははは、文才ないなぁ~(汗汗)
まぁ、無事に完結させる事が出来た事が何よりかな?
それと、何度も言いますが、本作品は乙一さんの暗黒童話の主人公をモデルにしてキャラを構成しました。
少女は眼球を傘で刺されて失う→こちらは生まれつきですが(汗)
移植手術で眼球を手に入れる→こちらは契約で手に入れる
不思議な世界をみる事になる→アマタの魔法の能力
さらに、小説内にはマザーグースの詩をところどころに入れると云う今迄の自分とは少し変わった手法に着手してみました。
それが、成功したか失敗したかは自分には分かりませんけどね(笑)
本当にこの1年間ありがとうございました><
読んで下さった方、感想を下さった皆様、イラストを描いて下さった皆様、本当にありがとうございます。
御蔭で、無事に長編の初完結作品が誕生しました。
では、また別の作品でお会いしましょう♪
後書きの後書き
後書きらしきものでは1年間とありますが、こちらのサイトでは1ヶ月程度のお付き合いでしたでしょうか?
最後の最後まで眼を通してくださった読者の皆様、誠にありがとうございます。
実はまだ番外編という名の後日談が存在しています。
ですが、前編しか執筆されておらず後編は執筆途中という事態に。まぁ、正確にはサイト閉鎖の日までに執筆が間に合わなかっただけですが(汗)
そのため、執筆が放棄されておりました。
とりあえずは前編だけは今度投稿させていただきます。後編は設定や内容すらすっぽ抜けてる今の私が書けるのかは分かりませんが、気が向けば書きます。
では、最後にもう一度。
最後までお付き合いしてくださってありがとうございます。