魔法少女あまた☆マギカ   作:星屑アマタ

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三十二話眼 誰が殺した駒鳥を

「ほむらちゃん、おはよう!!」/「おはよう、ほむら」

 

「おはよう、まどか、さやか」

 

 何気ない通学路の挨拶。それは、私が望んでいた事以上の日常。

 ワルプルギスの夜との戦いが終わって1カ月が経過した。

 ワルプルギスの夜の末路は、さやか曰くアマタがワルプルギスの夜を受け入れた事による自然崩壊らしい。仏教の概念で言うと、所謂成仏に値するのかと思う。

 そして、あの戦いが終わると、杏子やキレイは自分達のしたい事をする為に元居た町に戻った。アマタに至っては、私が眼を覚ました時には既に町を出て行ったらしい。

 「可愛いおんにゃの子の御尻を追いかけないとね♪」と謎の伝言をさやかに残して町を出たらしいが、アマタは戦闘中に眼球を一つ失い、その顔を私達に見て欲しくないから顔を見せずに出て行ったのかもしれないと私は内心では思っていた。

 何もかも失って手に入れた眼球の一つを、私の願いの所為で失わせた事に酷く心が痛むし、そんな事で私達が嫌う事も無いのに私達を信じてくれてなかったと云う事に凄く腹立たしかった。

 

「しっかし、今日も平和だねぇ~」

 

「もぉ、さやかちゃん。なんだか年寄り臭いよぉ」

 

 あの日以来、キュウべぇは何を考えているのか姿を一切見せていない。

 

「そうかなぁ? あっ、そうだ。帰りに仁美も誘って新しく出来た喫茶店に行かない?」」

 

「ラ・ミーア・アマタって店だっけ? イタリア語で『私の最愛の人』かぁ……そういえば、アマタちゃんや皆は元気にしてるかなぁ」

 

「アマタの事だから、魔法を使ってまどかの事を一晩中監視してるかもよぉ~♪」

 

「ひぅっ!?」

 

 アマタの名前が出ると被害者(まどか)にとっては冗談には聞こえないので、キョロキョロ周りを見てアマタの魂之眼球が有るか無いかを探す。

 過去に何度も下着を覗かれているだけに、スカートを強く抑えたりしている。

 

「まどか、大丈夫よ。アマタの魂之眼球もインキュベーターも居ないわ」

 

「そう云えば、キュウべぇの奴もあの日以来めっきり顔を見せなくなったわね。でも、まだまどかを狙ってるかもしれないから気は抜けないわ」

 

 そう言って、エアスィングを始めるさやか。持ち方からして獲物はサーベルではなくバットだと思う。

 過去にはバット片手に魔女の使い魔と戦闘を開始すると云う無鉄砲な事を仕出かした時もあるが、さやかの魔法少女の武器が何故バットでないのかは少し不思議だったりする。

 まぁ、バットを武器にした所で殺傷能力は低いからさやかの脳内で無意識的にサーベルになったと思われるのだけど……現に影の魔女の時には扱い方は鈍器その物だったし……

 

「さやかちゃん、良いよぉ~!! もう、私は大丈夫だから」

 

「いえ、まどかは優しすぎる……だから、大丈夫では無いと思うわ。私かさやかの監視は必要だと思うわ」

 

「じゃあ、トイレも御風呂も一緒に行かないとね♪」

 

「もう、アマタちゃんみたいな事を言わないでよぉ」

 

 さやかのからかいに頬を餌を貯めたリスの様に膨らませる。

 

「ごめんごめん。でも、まどかは絶対に魔法少女にはしないからね。アマタとも約束してるし」

 

 さやかの最後の言葉には力強さと使命感を感じさせられるが、何処か哀愁を帯びており顔には少し陰りが見えたのが凄く気になり、私の心に暗い靄を作った……

 私はこの理由を後になって知る事になるのだった……

 

 

 

『おいっ、どう言う事だよ。さやか!!』

 

 時刻は昼休み。突然の念話が杏子より入る。

 あの戦いが有った日に砂時計の砂が全て落ち切った為、現在は時間停止能力の使用が出来なくなり、今の私は結界展開、亜空間物質収納と初歩的な魔法しか使えなくなっているが、普通に魔法少女として過ごす分には問題無く、直ぐ様返信を返す。

 

『どうしたの? そんなに声を荒らげて?』

 

 杏子の声は異様に高揚……否、激昂しており、久し振りに話し掛けられて、この言われ方は私もさやかも正直身に覚えが無い。

 だけど、彼女が自分のテリトリーから飛び出して来てこの様子は、理由を聞く前から嫌な予感しかしなかった。

 

『アマタの奴がワルプルギスの夜と自爆したってどういう事だよ!! ワルプルギスの夜は自滅したんじゃなかったのかよ!?』

 

 アマタが……自爆……

 

『杏子、誰からそれを聞いたの?』

 

『キュウべぇの奴だよ。詳しくはさやかに聞けって言ってたから、こうして聞きに来たんだ』

 

「さやか、どう云う事!?」

 

 気付いたら私は念話では無く、大声で近くの席でまどかと仁美一緒に居たさやかに向かって怒鳴っていた。

 昼休みであっちこっちで仲良く談話しているクラスメイトは一斉に私の方を向く。

 

「ごめん……」

 

 さやかは短く謝り、下を向く。

 まどかと仁美に至っては、私が怒鳴った理由が分からず、あたふたとし「落ち着いて」と言ってくるが、私は御構いなしに会話を続ける。

 

「どうして、嘘を吐いてたの?」

 

「アマタに1カ月は絶対に皆に話すなって言われて……」

 

「1カ月……そう、そう云う事ね……」

 

 さやかは勘弁したのか嘘を吐いた理由を話す。確かに考えてみれば魔女が成仏なんて馬鹿げた話は無い。ましてや、あの超弩級の魔女である怨念の集合体が易々と成仏する訳が無い。

 アマタが自爆して同士討ちになったと言われた方が、まだ納得が行く解答である。

 

 更に私はさやかの口から出てきた1カ月という期間を聞いて、私はアマタに自分の能力を全て話した事に後悔をした……

 アマタがさやかに1カ月の間と云う条件を付けての口止め、それは私の時間逆行能力を逆手に取ったアマタの策だった。

 私の能力で戻れるのは1カ月と云う期間のみである。つまり、絶対に私が死んだアマタを助けれない状況下に私を置いたのだ……

 私が死んだアマタを助ける為に再びワルプルギスの夜と対峙しないようにと……

 

「ほむらちゃん、さやかちゃんどうしたの!? ねぇ、喧嘩は良くないよぉ」

 

「違うのよまどか……ちょっと、気が動転しただけよ……今日は気分が悪いみたい……先生に伝えておいて……」

 

 心配するまどかにそう言って、私が原因で昼休みにも関わらず静かになった教室から出て行く。

 

『さやか、私と杏子に分かるように今回の件で、私達が気絶した後の全貌を、話してくれないかしら?』

 

『うん、分かった……実は―――』

 

 さやかの話を全て纏めると、ワルプルギスの夜が消滅したのは本当の話らしい。

 ただ、アマタが巴マミ達の魔法少女達の怨念を全て受け入れての自爆がそこに付随するが……

 

『あの馬鹿野郎……アマタはマミと一緒に居れて良いかもしれないけど、残された者達の身にもなれよ……アタシの背中を守ってくれるんじゃねぇのかよ……』

 

 ぽつりと漏らす杏子の本音。

 既に念話開始時の荒々しさは無く、ただ一言悲しそうに漏らす。

 

『ごめん……嘘吐いてて……』

 

『さやかは悪くは無いわ。アマタとの約束を守ったのだから』

 

 寧ろ、さやかがアマタとの約束を破って全て話していたら、それはそれで私は怒っていたかもしれない。

 私の中では交わした『約束』と云うのは決して破ってはいけない事だからだ。

 私とまどかの『まどかを絶対に魔法少女にしない』。これを守る為に、私は何度も何度も抜けられない闇の中を試行錯誤して走って来た。

 血反吐を吐いてでも守ろうとした私からすると、さやかが簡単にアマタとの約束を破った日には、きっとさやかの事を軽蔑していたであろう。

 それほど、私の中では約束と云う言葉は大きな意味を持つ。

 

『なぁ、ほむら。ほむらは未来から来たんだろ? なら、過去に戻ってアマタを助けてやる事は出来ないのか?』

 

『無理な相談よ……最後の最後でアマタに一杯喰わされたのよ……』

 

『どう云う事だよ?』

 

『私の能力の制約についてアマタに話したの。私が時間を逆行できるのは1カ月キッチリと云う事もね』

 

『それって、まさか……』

 

『だから、アタシに1カ月黙っていてくれって言ったのね……』

 

『そう云う事よ……もう、どうしようも無いのよ……』

 

 どんなに砂時計を反転させても戻れるのはワルプルギスの夜の戦闘の終了した後。

 もう、アマタを救う為に打つ手はないのだ……

 

 アマタを救う方法が無いと分かると、会話は御通夜の様に寂しく静かに幕を遂げる。

 杏子はせめてもとアマタが残したと云うか……略奪したままの見滝原市の制服を、杏子の父親の廃れた協会の墓地に遺体は無いが埋めて供養してやると言ってその後姿を消した。

 

「あの子を助けたいとか言ってたけど、結局助けられたのは私の方だったわね……」

 

「そうみたいだね。暁美ほむら」

 

 さやかと杏子との会話が終わった後、特に何もする気が起きず自宅に戻りベッドに横になってぽつりと呟く。

 すると、本来なら返って来ない返事が返って来る。

 ワルプルギスの夜以降に姿一つ見せなかったインキュベーターである。

 

「今更になって、杏子にどうして真実を話したの?」

 

「まぁ、敢えて言うなら僕の予想を覆したアマタの意を汲んでかな? まさか、ワルプルギスの夜を自爆と云う形とはいえ倒してしまうとは夢にも僕は思わなかったよ。君達人間と云う生き物は時には思いもよらない事をするんだね」

 

「えぇ、アマタは特に感情に作用されてしまうから……あの子は優しくて脆い……だから、今回の様に自分を犠牲にすると云う形をとってしまったのよ……」

 

「まぁ、感情の無い僕達には分からない事だけど、君達の感情と云うエネルギーは本当に絶対的な不可能も可能とする魔法以上のエネルギーと云う事は今回の一件で良く分かったよ」

 

「それで、今日は何を話しに来たの? アマタが死んだ事を茶化しに来たのなら、タダじゃおかないわよ?」

 

「彼女は最後の最後で本当のイレギュラーになったんだ。寧ろ、彼女の成した事を評価したいくらいだ。だからこそ、僕はアマタの意を汲んで1カ月は君達に一切の干渉をしなかった」

 

 つまり今迄姿一つ見せなかったのは、困難を粉砕したアマタへのキュウべぇなりのご褒美と言いたいのだろう。

 

「だから、これからは何時も通りに、僕はまどかに魔法少女になるように御願いするよ。それに、ワルプルギスの夜が消滅したからと云って、まどかが契約する機会が減った訳ではない。寧ろ、今回のアマタが死んだ事こそがまどかの契約につながると僕は思っている」

 

 そう言ってキュウべぇは姿を消した。

 ここまで話されるとキュウべぇの次に取る行動は誰だって想像がつく。未だアマタが生きてると思っているまどかにアマタの死を話すと云う事だ。

 今飛び出した所で、キュウべぇを殺した所で絶対にまどかは知ってしまう現実。

 無駄だと分かっているのに、私は部屋から飛び出してまどかが今居ると思う、まどかの家に向かう。

 

 もう時間停止能力は使えないから、ただひたすら急いで走る。

 陽も落ちかけて暗くなりつつある町を走る。

 

 そして、まどかの家に着くや否や二階の屋根へと跳躍して、まどかの部屋の窓のカギを魔法で開けて部屋の中に入る。

 部屋の中には予想通り何かを決意した顔のまどかとキュウべぇが居た……

 

「ほむらちゃん。私、魔法少女になる」

 

 彼女の第一声は不法侵入した私に驚く事でも無く、一番聞きたくなかった言葉。

 

「どうして……どうして、まどかはまだ魔法少女になろうと思うの……アマタだって、貴方を絶対に魔法少女にしたくなかったから今迄ずっと私と一緒に動いてくれて……最後にはまどかや私を守る為に死んだのよ……」

 

「分かってる。でもね……だからこそ、皆が笑っている世界じゃないと駄目だと思うの。アマタちゃんもマミさんも……誰一人も欠けたら意味がないの……」

 

「巴マミはともかくアマタは蘇ったところで絶対に喜ばないと思う……」

 

「それも勿論分かってる。だからね、ほむらちゃんにもう一度御願いがしたいの。皆が笑って仲良く出来る未来を作って欲しいの。アマタちゃんも、マミさんも、杏子ちゃんも、さやかちゃんも、キレイちゃんも……勿論、私とほむらちゃんも」

 

 まどかの言いたい事は、遠回しに過去に戻ってもう一度やり直してくれないかと云う要望。

 私もそれが出来る事ならもう一度やり直したい……まどかを魔法少女にしない事だけを全てとしていた私に、手を貸してくれて犠牲になったアマタを助けたい……

 こんな私を友達と言ってくれたアマタを……助けたい……

 

「無理よ……私の能力では戻れるのは1カ月と云う期間だけ……だから、もう助けたくてもアマタを助ける事は出来ないわ……」

 

 でも、友達(かのじょ)は決して戻って来ない。

 どんなに頑張っても会う事は出来ない……

 

「無理じゃないよ。だから、私は魔法少女になるの。ほむらちゃんには酷い御願いかもしれない。私の事をどんなに罵っても構わない。だから、私の御願いを聞いてくれる?」

 

 まどかのその言葉で私はやっとまどかの意図する契約内容が理解できた。

 確かに私がアマタを救い、魔法少女達が笑って過ごせる未来を作る手はまだ有る。

 その為に、また長い迷路に迷い込む事になるけど……アマタが見滝原に来て、まどかに、さやかに、杏子やキレイ。ワルプルギスの夜が来る迄の数日間だけだが皆で過ごした楽しい日々を、もう一度手に入れる為なら……やるしかない。本当のハッピーエンドを目指す為にも。

 

「分かったわ、まどか。でも、その前に少し外野と話しがしたいわ」

 

「外野?」

 

 何の事か分からず尋ね返してくるまどかを余所に、私が入って来た窓を再び開けると、そこには部屋の中を盗み聞きしているさやか、杏子、キレイの姿が有った。

 

「あちゃぁ~、バレてたかぁ?」

 

「そりゃあ、こんなに居たら気配でもろ分かりだろ?」

 

「杏子の食べてるラーメンの臭いだと思うよ?」

 

「どうしたのさやかちゃん達っ!?」

 

 屋根の上で部屋の中を盗み見盗み聞きしていた三人には、私の時とは違って驚きを見せる。

 バレたとなると隠れる意味も無く、ぞろぞろと三人は窓から部屋の中に入って来て、適当に床に座り始める。

 

「いやぁ~。ほむらが鬼の形相で町を走ってるのを見つけたから、何か有るのかなぁと思って皆に連絡しちゃって。あっ、御邪魔します」

 

「それで、さやかちゃんの連絡を受けたから、まどかちゃんを襲うのかなぁと思って飛んで来たの。御邪魔します♪」

 

「アマタじゃあるまいし、襲わないわよ」

 

「まぁ、尤もだね。ほむら、アタシ達からも頼んでも良いか? やっぱり、背中を守ってくれる奴が居なくなっちまうってのは寂しいもんだな……」

 

「私はアマタが居ないと面白い絵も描けそうにないよ。あっ、でも私もちゃんと助けてよ!! 魔女のまんま放置されたら杏子かさやかに殺されちゃうかも」

 

「殺さねぇよ!!」/「殺さないって……」

 

 そう云えば、キレイは元々魔女だったわね……自然と雰囲気に馴染んでたから元から私の周りに居たかのように錯覚してたわ……

 またキレイを助けるとなると、あの不毛な隠れん坊をもう一度しないといけないのね。

 

「でも、私の使い魔をさやかは必死になって倒そうとしたでしょ?」

 

「うっ……で、でも、その時はキレイの事について全然知らないし、先ずあの使い魔が落書きの魔女の使い魔なんて分かる訳無いでしょ」

 

「あはは、冗談だって♪ それに私は索敵タイプのアマタ以外に見つける事は不可能だから……って、そのアマタが真っ先に拳銃撃って来そうで怖い……」

 

 「グリーフシード待て待てぇ~♪」と笑顔でマスケット銃を持ったアマタがキレイの脳裏に浮かんだのか、彼女は身震いをする。

 現にアマタは私たちの中で唯一キレイの正確な位置を把握することが出来る。しかも、見滝原市に来る前にソウルジェムが汚染され魔女化した魔法少女を目の前で見たことがある存在である。確実に見つけ次第倒しに行くのは目に見えている。

 

「それは、大丈夫よ。私に任せて」

 

「そうだよね♪ じゃあ、私の事も御願いするね♪」

 

 あの激戦を一緒に戦った魔法少女達と簡単に話し終え、最後の決心をして私は……

 

「もう、願いを言って良いわよ、まどか」

 

 まどかに契約を御願いする。

 

「うん、分かった」

 

 まどかを契約させない為に何度も何度も繰り返していたのに……

 

「インキュベーター、私の願いは」

 

 結局最後は、まどかの契約に頼らないと駄目だなんて、皮肉な話よね。

 

「ほむらちゃんの契約の再契約。ほむらちゃんの守るべき対象に『アマタちゃん、さやかちゃん、杏子ちゃん、キレイちゃん……そして、マミさん』を追加して!!」

 

 まどかの契約内容は私の契約そのものを改変する契約。

 私の守るべき対象を増やす事によって、私の背負う因果率を更に増やす事によって魔法少女としての能力を更に底上げ。

 勿論、再契約なので私が守る対象であるまどかは『現時点の鹿目まどか』と『最初の約束をした鹿目まどか』と云う二人のまどかを対象としてるため、現時点の私のまどかに対する因果率も格段に底上げされる。まどかに私が背負わせてしまった因果率を私が背負い直すからである。

 

「鹿目まどか……君はまさか、時間……いや時空そのものを捻じ曲げるつもりなのかい……いや、君にはそれが出来るだけの素質が有るんだったね……」

 

 まどかの契約が成立すると同時に、私のソウルジェムが再び再構築され始める。

 私を象徴する色は紫色では無く、優しい優しい蘭色(orchid)となる。魔法少女のソウルジェムの色はその少女の心の色に反映される。

 つまり、再契約をした今の私の心の色が前よりも優しくなっていると云う事だ。他人なんて信じられないと思って自分だけで生きてたから前よりも濃い紫が出るかと思ったけど、本当にあの子は仕方ないわね……私の心の色までも白く染めちゃって……

 

「ほむらちゃん」/「「「ほむら」」」

 

 新しいソウルジェムをギュッと強く握った私に皆は微笑みかけてくれる。

 

「「「頼んだよ」」」/「頼んだぞ」

 

「えぇ、行って来るわ」

 

 その笑顔は見収めでは無い、これから私が再び作り上げるべき物だ。

 ここに足りない色を補う為に。

 

 

 

 

誰が殺した 駒鳥の雌を

それは私よ 黒い少女がそう言った

私の願いの所為で 私の未来の所為で

私が殺した 駒鳥の雌を

 

誰が見届けた 死んだのを見届けた

それはアタシよ 青い少女がそう言った

アタシの眼で 小さな眼で

アタシが見届けた その死様見届けた

 

誰が取ったか その命を取ったか

それは私よ 黄色い少女がそう言った

私の皿に 小さな皿に

私が取ったの その命を取ったの

 

誰が作るか 生きてた証を作るか

それは私よ 虹色の少女がそう言った

私の筆で 私のカンバスで

私が描こう 彼女が存在してた証を描こう

 

誰が掘るか お墓の穴を

それはアタシだ 赤い少女がそう言った

アタシの廃教会で 小さな廃教会で

アタシが掘ってやる 彼女の墓を掘ってやる

 

誰がなるか 司祭になるか

それもアタシがやろう 赤い少女はそう言った

アタシの聖書で 小さな聖書で

アタシがなってやる 司祭になってやる

それで、ずっと一緒に居てやる

 

誰が歌うか 賛美歌を歌うか

それは私よ 桃色の少女がそう言った

藪の木々の 上にとまって

私が歌おう 賛美歌を歌おう

 

溜息吐いたり すすり泣いたり

みんなが聞いた 鳴り出す時計塔の鐘を

かわいそうな駒鳥の 御葬式の鐘を 

 

時計塔の針は進む チクタクと

絶対に針は巻き戻る事は無い

 

誰が戻せるか 時計の針を戻せるか

私なら巻き戻せる 黒い少女は言った

私の力で 再び迷路に戻る事で

駒鳥を助けれる 死んだ駒鳥を救済できる

 

私の為に命を落とした 真っ白な駒鳥を救う事が出来る

それだけでなく 赤色も青色も黄色も桃色も虹色も 色んな駒鳥も救う事が出来る

勿論自分も

 

決して止まらない時計の長針に 私は指を宛がえ

思いっきり 逆時計周りに回した

 

~マザーグースのWho killed Cock Robin(駒鳥の葬式)より一部改竄~


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