魔法少女あまた☆マギカ   作:星屑アマタ

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二十二話眼 手を伸ばして

 空席が目立つ広大なコンサート会場……

 アタシ達の目の前に居るのは、魔女になってしまったさやかと、演奏をする使い魔達……

 さやかは、上半身はマントを羽織り赤いリボンをつけたブリキ人形で、両手にサーベルを持つ。下半身は、魚の様な尾を持っている。

 まるでその容姿は、狂気に満ちた人魚姫。

 無機質な顔に付いてる口からは、この世界を恨む言葉にならない呪詛を、アタシ達には理解出来ない魔女の言葉で吐露する。

 

「暁美ほむら!! この子を頼む!!」

 

 作戦は、アタシがフォワードでさやかを傷付けない様に攻撃を防ぎ立ち回りつつ、バックで呼び掛けるまどかが狙われるのを最低限に抑える。

 

「分かったわ。気を付けて……」

 

 そして、暁美ほむらはまどかが狙われた際に、アタシが防ぎきれなかった時の最終防衛線担当。

 

「おうっ!! アマタが来るまでは、くたばる心算(つもり)はねぇよ!!」

 

 アタシは槍を構えて一気にさやかの元へと走る。

 当然、さやかを傷付ける事は出来ないから、武器をさやかへと向けるつもりはない。

 さやかの使い魔を薙ぎ払ったり、アタシに対する攻撃を防ぐ為だけに構えているのだ。

 

「さやかちゃん!! 私だよ!! まどかだよ!! ねぇ、聞こえる? 私の声が分かる!?」

 

 アタシの後ろの方では、暁美ほむらが展開した紫色の防御壁の後ろで必死に呼び掛けを始める、さやかの友人の鹿目まどか。

 そして アタシの最後の役目は、アマタが来るまで、場を保たせる事だっ!!

 

 何度も大声で友人が呼び掛けるが、その呼びかけもさやかには届かず。さやかはサーベルを振り上げ、辺り一帯に大量の車輪を召喚する。

 車輪を如何様に使ってくるかは、ど素人の魔法少女でも大体想像は出来る。

 

「さやかちゃん!!止めて!!御願い……思い出して!!こんな事さやかちゃんだって嫌だったはずだよ!!さやかちゃん、正義の味方になるんでしょ?元のさやかちゃんに戻って」

 

「暁美ほむら!! 車輪を飛ばして来るぞ!!」

 

「そんな事は分かってるわ……杏子こそ、気を付けなさいよ……」

 

「初めてアタシの事をフルネームじゃなくて名前だけで呼んだな? ほむら?」

 

「そんな事を気にしてる場合じゃないと思うわよ?」

 

 ほむらは恥ずかしいのかそっぽを向き、まどかを守る様に前に出、両の手に銃を握り締める。

 そんなほむらの仕草が可笑しく、アタシは顔に笑顔を浮かべ、槍を召喚しアタシを狙い高速回転運動をし迫りくる車輪の迎撃態勢を取る。

 

「聞き分けが無いにも程が有るぜ!!」

 

 アタシ達の呼びかけにも何の返事を見せず、只管攻撃を仕掛けて来るさやかに、つい愚痴ってしまう。

 更に車輪を召喚し、攻撃を仕掛けて来た為、慌てて全ての車輪の迎撃を図るが、如何せん数も多く、アタシは車輪に翻弄されてしまう。

 右の車輪を槍で防げば、後ろから攻撃が来てアタシに着弾。左を防げば頭上から……360度ありとあらゆる方向より襲い掛かる攻撃に、体があっちにゆらゆらこっちにゆらゆら。

 

「杏子ちゃん!?」/「杏子!!」

 

「アタシに気にせず、アンタ達は自分の役目に専念しろ!!」

 

 そんなアタシを見かねて、叫び声を上げる二人に、アタシは自分達の役目に専念するようにと檄を飛ばす。

 

 はんっ? 何時ぞやの御返しかい? そういえばアタシ達、最初は殺し合う仲だったっけねぇ?

 生温いって、あの時アタシがもっとぶちのめしても、さやかは立ちあがって来たじゃんかよ?

 怒ってんだろ? 何もかも許せないんだろ?

 

 分かるよ……

 

 それで気がすんだら、目ぇ覚ましなよ……

 

「好い加減、目ぇ覚ましやがれ!! アンタは信じてるって言ったじゃないか!! この力で人を幸せに出来るって!!」

 

 だけど……

 

  さやかはアタシの叫びを聞き入れてくれる事も無く、地面にサーベルを突き刺し、結界の世界を改変する。

 

 より深く、より暗く、より寂しい場所に……

 

 これ以上進んだら、もう戻って来れなくなるような、そんな寂しい場所に……

 

 自分と使い魔だけを連れて……

 

 これ以上、さやかがこんな寂しい場所に居たら、本当に帰って来れなくなってしまう。

 

 頼むよ神様……こんな人生だったんだ、せめて一度くらい幸せな夢を見させてくれよ……

 もし、ただ一つだけ守りたい物を守りと通せるアタシの夢を叶えてくれるなら……

 アタシはさやかを助けたいだけなんだよ……

 あいつと友達になりたいだけなんだよ……あいつの笑顔を見たいだけなんだよ……

 

 髪留めのリボンを解き、リボンの中に大切に仕舞ってた父親の形見のロザリオを取り出し……

 

「だから……」

 

 ギュッとロザリオを握り締め……

 

「今、叶えてくれよ!!」

 

 叫ぶ!!

 

 すると、アタシの叫びに呼応して……

 

 胸のソウルジェムより光が溢れ、世界が真っ赤に包まれた……

 

『ぐすん……ぐすん……』

 

「さやか!?」/「さやかちゃん!?」/「美樹さやかの声?」

 

 世界が真っ赤に染まるや否や、アタシ達の脳裏にさやかが悲しそうにすすり泣く声が響く。

 何がどうしてこうなったのかは分からないが、アタシのソウルジェムより溢れた光がこうした事は確かである。

 もし、これがアタシの望みを神様が叶えてくれたのだったら……神様が一度だけ、アタシに幸せの夢を見せてくれるって言ってるのなら……

 

「さやかぁ!! 好い加減、目を覚ましやがれ!! アンタは皆を幸せにするんだろ!!」

 

 アタシ達はさやかに呼び掛けなければならない。

 

『こんな世界なんて……こんな世界なんて……皆を幸せにすれば、幸せにするだけアタシは不幸になる……こんな世界なんて守る価値は無いのよ……』

 

「さやかちゃん、何言ってるの!! 目を覚ましてよ!!」

 

『だってさ……仁美を助けたのに、恭介を助けたのに……アタシはこんなに不幸な目に有ってるんだよ? アタシだけ不幸な目に有ってるんだよ?』

 

 だけど、アタシの声もまどかの声も届かない。だけど、アタシ達は諦めてはならない。

 これは、神様が与えてくれたチャンス。

 だから、アタシ達は絶対にこれを物にしなければならない。

 

「違うよ!! さやかちゃん!!」

 

『何が違うって言うの? 前にも言ったよね? 同情なら誰にだって出来る……アタシと同じ立場に立ってから、もう一度その台詞を言ってみなさいよ!!』

 

 怒号を上げ、手に持つサーベルをまどか目掛けて振り降ろすさやか。咄嗟に拙いと判断したほむらは、妙な能力を使って、瞬間的にまどかの位置をその場からずらしサーベルを振り下ろすと思われる軌道上から避難させる。

 

「じゃあ、アタシが言ってやるよ!! まだ、アンタは完全に不幸になった訳じゃない!! さやかの幸せは取り戻せる!! アタシやアマタみたいに、大切な物を失った訳じゃない!!」

 

『無理よ!! 恭介に、人間じゃないアタシを抱いてって、キスしてって、好きだって言える訳がないじゃない!!』

 

 その言葉に、恋心すら持った事のないアタシには辛さも、返答も分からず言い淀むが……

 

「アンタって本当に面白い事を言うよね? 何故、無理って決めつけるのかな? かの有名な偉人はこう言いました『諦めたら、そこで試合(れんあい)終了ですよ』ってね♪」

 

 結界内に闖入して来た、1匹の巨大な烏の使い魔の上に居る少女が、アタシの代わりに、返答をし問い掛けをする。

 

「さやかぁ!!」

 

 そして……その少女の隣に居る少年はさやかに呼び掛けた。

 さやかが愛してやまない上条恭介が……

 

『恭介!? どうして……』

 

 さやかには明らかな動揺が見え、動きを止める。

 それは、周りの使い魔にも伝染し、踊り子の使い魔も指揮者の使い魔も、一斉に動きを止める。

 

「さやかに言いたい事が有って来た」

 

 上条恭介は、地面に着陸した烏の背中から飛び降り、異形な姿をしたさやかに恐れる事も無く、一歩一歩近付く。

 

『いや、来ないで!! こんな見難いアタシを見ないでぇ!!』

 

 だけど、アイツはそれを拒絶した。

 好きな人に、見難い今の姿を見られるのが怖くて、拒絶の言葉を浴びさせられるのではないかと……

 

「さやかは見難くなんかない!!」

 

 けど、そんな心配はアタシ達は誰もしない。

 何故なら、アマタが最善と思って上条恭介を連れて来たんだ……

 だから、アタシは見守る事にした。

 それは、他の二人にも当てはまる。まどかもほむらも、一歩一歩歩み寄る上条恭介を見つめる。

 

「それは、例え姿が代わっても、例え人間じゃなくてもだ!!」

 

 ちなみに、アマタの野郎はニヤニヤ笑いながら、烏の使い魔の上で白い大きな袋を漁っている。

 絶対に、上手く行った良い雰囲気を、最後の最後でぶち壊す気だ……

 

「さやか!! 僕は君が好きだ!!」

 

『恭介ぇ……』  

 

 魔女の顔から一粒の涙が地面に落ちて跳ねると、世界に亀裂が入り、崩れ始めた……

 

 

 

僕は君が好きだ

君は僕が好きだ

 

僕は君の為なら仕事が出来る

君は僕の為なら家事が出来る

 

僕は君の為なら剣を握れる

君は僕の為なら包丁を握れる

 

僕は君の笑顔が大好きだ

君は僕の声が大好きだ

 

優しい優しい君の為なら、命を厭わない

優しい優しい君は僕の為に、命を厭わなかった

 

僕達の子供も僕達みたいに、良い人に巡り会って欲しい

 

<mutual love~両想い~>

 

 

 

 世界は壊れる。いや、正確には創り変えられるって言った方が良いのかな?

 ハロォ~、皆の姫君(アイドル)アマタちゃんだよぉ~♪

 

 希望が絶望に変わる時には、大量のエネルギーを放出。

 そして、絶望が希望に変わる時は……大量のエネルギーを吸収するみたいね。

 辺りに居る大量の使い魔、魔力残滓等エネルギーになりそうな物が、次々と蒼い光となって美樹さやかの魔女に集まり始める。

 

 まるでそれは、闇夜に居る泣き虫な人魚姫に集まる夜光虫(ノクチルカ)……

 そして、そんな彼女を見ている少年は、人魚姫に出て来る王子様。

 だけど、この世界の物語りは人魚姫みたいに、悲しい終わり方じゃない。

 ちゃんと、人魚姫は王子様と結ばれたのだ……通りすがりの娘さんじゃなくて、人魚姫自身が……

 

 膨大なエネルギーを吸収すると、美樹さやかの魔女はボロボロと結界と共に崩れ落ち始める。

 

 ってあれぇ~? 何で崩れ落ちてんの?

 ここは、『人魚の魔女の仮面がポロッと落ちて、なんとその下には美樹さやかの顔がぁ~!!』的な展開を期待してたんだけど?

 っていうか、これ本当に大丈夫なの!? このまま、成仏して死ぬってオチは無いよね!!

 

「杏子、本当に大丈夫なの?」

 

「いやっ!? アタシがそれを聞きたいよ!!」

 

「貴方がアマタにする様に言ったのでしょ?」

 

「いやっ!? 違うんだ、ほむら!! あれは、口から出た出任せと云うか……何と云うか……」

 

 結界と魔女が崩壊し始めたので、私と同様に焦り始める杏子ちゃん達。

 しかし、あの二人何時の間に名前で呼ぶ仲になったんだろう?

 アタシの居ない内に、もしかして寝取られた!?

 って、寝取るもなにも、二人とも私の嫁って奴だから、仲良いのは何よりね♪

 

「おいっ、アマタからも説明してやってくれ!! 本当に大丈夫なのか!?」

 

「杏子ちゃん、御免!!」

 

 私の一言に、続きを聞く前から、一斉に上条恭介を含めて、全員が顔を青ざめる。

 

「美樹さやか復活御祝い用のクラッカーを100円均一に買いに行ったけど、人数分無かったの!! 美樹さやかが復活しても、大丈夫じゃないかも……」

 

 白い麻袋の中を皆に見せて、先の言葉を続けると、冷たい視線を飛ばされ、逆に私の顔が青ざめる羽目に……

 

「って、んな事誰がしろって言った!? それより、これはどう云う事だ!? さやかは本当に大丈夫なのか!?」

 

「さぁ? 何とかなるって♪ 杏子ちゃんの力を信じて♪」

 

「アタシの力ってどういう事だよ? もしかして、さっきの赤い空間に包まれた途端にさやかの声が聞こえた奴か?」

 

 むぅ~、杏子ちゃんには自分の能力がどんな物かは理解出来てないみたいね。

 自分の契約内容を思い浮かべれば、直ぐに辿り着けそうな気がするんだけどな?

 

「もしかして、杏子のさっきの魔法は『意思疎通』の魔法かしら?」

 

「うん、恐らくその線が強いと思うね。 他人に言ってる事を聞いて欲しい。 その契約内容故に杏子ちゃんが手にした能力だね♪」

 

 ほむらちゃんが私の想像と一致する回答をしたので、取り敢えず杏子ちゃんに簡単に説明。

 

「そっか……神様はアタシの言う事を聞いてくれたんだな」

 

 家族を失う羽目になった契約内容。

 だけど、それの御蔭で彼女は親友を亡くさずに……

 

 って、まだその台詞は早いか♪

 これで、美樹さやかの魔女崩壊後にグリーフシードが落ちてたりして、完全に美樹さやかが沈黙してたら拙いもんね♪

 その時は、「返事がない、只の美樹さやかの様だ!!」って嫌味を、死体の前で吐いてみよう♪

 

「さてと、そろそろ美樹さやかの魔女と結界が完全に崩壊するけど……皆、覚悟は大丈夫かな?」

 

「「うん」」/「えぇ」/「はいっ」

 

 さっきの慌ては何処に行ったやら。強い何かを感じる四人の肯定の声。

 きっと、美樹さやかは戻って来る……

 彼等はそう信じているのだろう。

 

 結界が崩壊し、私達の目に映る景色が、コンサートホールではなく、ビルの工事現場に移転する。

 烏の使い魔に乗って急いで飛んで来たから、結界の周りの景色を詳しく見てなかった所為で、今の今で、漸く結界がビルの工事現場の足組みの上にあった事に気付く。

 そして、その足組みの数歩先には……

 

 

 

 

 

  真

  っ

  黒

  な

  グ

  リ

  |

  フ

  シ

  |

  ド

  が

 

  そ

  し

  て

  ・

  ・

  ・

 

  落

  胆

  し

  皆

  の

  響

  く

  咽

  び

  泣

  く

  声

  ・

  ・

  ・

 

 

 

 

 

 

 な~んてね♪

 あははは? ねぇ、ビックリした?

 おっと、読者をちょっぴりドッキリさせる冗談はここまでにしておいてっと♪

 

 足組みの数歩先には、ちゃんと蒼い蒼い綺麗な美樹さやかのソウルジェムが有ったよ♪

 そして、それを見た私達は一斉に……作戦が成功した事に、歓喜の声をあげた!!

 私はゆっくりとソウルジェムに歩み寄り、それを大切に拾い上げる。

 

「歓喜するのは良いけど、早くこれを美樹さやかの元に持って行ってあげないとね♪ はい、上条恭介」

 

 そして、上条恭介に手渡す。

 

「僕に?」

 

「御姫様を目覚めさせる役目は王子様って相場が決まってるでしょ? だから、これは貴方に預ける」

 

「分かった」

 

 彼は大事そうにギュッと美樹さやかのソウルジェムを握り締める。

 

「そんじゃ、さやかの所に帰ろうぜ」

 

 そう、これで美樹さやか魔女化事件は幕を終える……

 

 筈だった……

 

 いや、今度はドッキリ冗談じゃないよ!!

 本当だよ!!

 

 事件が終わって無い事に気付いたのは、私達が美樹さやかの抜け殻を置いてるホテルに向かう道中だった……

 ファンファンとサイレンを鳴らして、私達の直ぐ傍をパトカーが何台も通り過ぎ、ホテルに向うではないか……

 

「おい……今のパトカーは何だ?」

 

「嫌な予感しかしないのは、私だけかしら……」

 

 大丈夫だよ、ほむらちゃん……私も嫌な予感しかしないから……

 

「ねぇ、ほむらちゃん。ソウルジェムの有効範囲って何メートルだっけ?」

 

「100メートル圏内よ。そう言えば、そろそろホテルまでの距離が100メートルに……皆止まって!!」

 

 珍しく大声を出して制止をかける。

 うんうん、恐らく次私に言って来る言葉、魂之眼球で探索してくれだろうから、言われる前に5個くらい飛ばしておくとするか。

 魂之眼球を召喚し、パトカーの後を追跡させる。

 ちなみに、ここで豆知識、私の魂之眼球の最高速度は毎時200キロメートルと超高速なのだよ!!

 パトカー程度なら、簡単に追い越せるよっ♪

 

「アマタ、ホテルの中を調査して貰える?」

 

「うん、多分言うと思って、既にパトカーを追尾させてるよ♪」

 

 「赤信号なんて、関係ないぜ、キリッ♪」とサイレンさえ鳴らせば怖い物無しの荒くれじゃじゃ馬を一気に抜き去り、ホテルの中に侵入させる。

 入口は開いてなかったので、魂之眼球の内の4個を排気口から侵入させる。

 1個だけは入口のガラスからフロントの景色を読み取る様に配置。スタッフが大慌てで何かしてるのが分かる。

 何か大変な事件が起きてしまったと云うのは間違いない……

 

「うん、ホテルの中は大騒ぎみたいだね……大体、予想できるけど……」

 

「はぁ……美樹さやかの死体の移動をすっかり忘れてたわ……ホテルに置いてたら、翌日の清掃の時にバレると決まってるのに……」

 

「えっ!? それって、もしかして……」

 

「さやかの体が、ホテルの従業員に見つかったって事ですか!?」

 

 いや~、大体騒ぎの原因は分かったけど……どうすっかなぁ……

 案の定、入口付近にたゆたう魂之眼球に、さっきの警察のパトカーが一斉に映り、中から次々と警察が降りて来て、急いでパトカーに駆け寄って来たホテルの管理人っぽい人からの話を聞きながら、中に入って行く……

 そして、ダクトを登り821号室の扉の前に着いた眼球に映ったのは……ホテルスタッフがきっちりと部屋をガードしてる光景。

 

 あっはっは、やっぱり、美樹さやかの死体がホテルスタッフにバレてらぁ~♪

 

「うん、美樹さやかの死体を置いてた部屋の前を、ホテルスタッフがきっちりガードしてるね♪ いやぁ~、参った参った♪」

 

「アマタちゃん笑い事じゃないよ!? ほむらちゃん、杏子ちゃんどうする!?」

 

 右往左往しながら大慌てするまどかちゃん。

 いやぁ~、こうなった以上、回収は難しいのが本音。

 普通に考えて、今殴り込んで回収すると、かなりややこしい事になるしねぇ♪

 

「んじゃ、アタシがさやかを助けだして来る」

 

 と、そのかなりややこしくなる選択肢を敢えて選択して実行しようとするチャレンジャー精神豊富な、杏子ちゃんが魔法少女の姿に変身し、槍を構えて走りだす。

 が……即座に時間停止能力を発動したほむらちゃんによって、取り押さえられる……

 

「何しやがる!?」

 

「美樹さやかの死体を回収した後どうする気なの? それこそ、美樹さやかが社会復帰が出来なくなるくらいの大騒ぎになるわよ」

 

 そうなんだよねぇ~……

 行き成り死体が誰も借りてないホテルの一室(しかも密室)に出現し、警察が来るや否や死体が消失。

 杏子ちゃんの事だから、入口の従業員を絶対に肉体的ダメージで眠らせそうだから、被害者が2人追加。

 更に、その死体の御方が翌日元気に中学校へと、恋人の上条君とイチャイチャしながら登校と……

 ミステリー作家も本当にビックリな事件になっちゃうよ……

 

「じゃあ、どうすんだよ!!」

 

「そうねぇ……こんな時は……復活のアイテムは、世界樹の葉ですか? フェニックスの尾ですか? はい、上条君!!」

 

 困ったときの神(カミじょうくん)頼み♪

 

「そのネタは良いですから!? えっと、でしたら、葬式とかの時に普通にソウルジェムを返したら良いのでは?」

 

 あぁ~、そういや葬式するから、結局は美樹さやかの死体が棺桶に入れられて速達で帰って来るね。

 すっかり、忘れてたわ♪ 

 

「成程。アンタ、頭良いなぁ」

 

「常識的に考えて、この発想になる筈よ……」

 

 上条恭介のアイディアに感心する杏子ちゃんに、ほむらちゃんがグサッと刺さる言葉の釘を一発。

 ふっ、私の心にもダイレクトアタックされたよ……

 そして、先程から右往左往して慌ててたまどかちゃんにも……

 

「じゃあ、今日はこれで解散って事で良いかな? 死体は警察が有る程度は調べるから、戻って来るまで2日か3日くらいは掛かるでしょ? 恐らく通夜か葬式の時は仲の良い上条恭介や、まどかちゃんの所に連絡が入ると思うから、ほむらちゃんに連絡してよ。それで、ほむらちゃんが私達に念話してくれたら、最後の救出作戦を実行するだけだから」

 

 こうして私達は、美樹さやかのソウルジェムを復活させる事に成功したのだった。

 条理があるなら、その条理を不条理にしてしまえば良い。諦めたらそこで試合は終了。

 

 諦めなかった皆への、神様からの御褒美が……

 

 きっと……

 

 上条恭介の手に大事に握られてるソウルジェムなのだろう……

 

 

 

町に少女が暮らしてたとさ

正義があるともっぱら評判

魔法の世界に飛び込んで

絶望しちゃったとさ

 

これは大変少女が居ないぞ

知恵を絞って考えると

魔女の結界に飛び込んで

少女を取り戻したとさ

 

~マザーグースの There was a man in our town より一部改竄~

 


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