クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女   作:気まぐれキャンサー

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第6話 まつろわぬ魂 Ⅱ

 フィオナ、アンジュ、サリアの3人はロッカールームにいる。サリアはロッカーを2つ開けると中から何かを取り出した。

 

 「ライダースーツ、着替えてちょうだい」

 

 フィオナはすぐに受け取ったが、アンジュはあからさまに嫌そうな顔をする。

 

 「サリア、これってサイズは合ってるの?」

 

 「問題ないわ。あなた達と体型が近い子の物だから」

 

 「こ、こんな破廉恥な服なんて着られません!」

 

 (まあ、確かにこれって着るの結構恥ずかしいんだよね。慣れれば大した事は無いんだけど)

 

 ライダースーツはデザインよりも利便性を重視しているので露出度が高い。目覚めた時から着ていたフィオナはともかく、縁のなかったアンジュが着るには恥ずかしい物である。

 

 「!? そ、それは?」

 

 アンジュがスーツを見て、目を丸くする。そこには血痕らしき染みと“ナオミ”と書かれたタグが付いていた。フィオナも受け取ったスーツを見てみる。そこには同じく血痕と“ジェシカ”と書かれたタグが付いていた。

 

 「ねえ、サリア。これってもしかして・・・」

 

 「察しがいいわね。そう、前の持ち主の名前よ。尤も、2人とも死んじゃったけどね」

 

 「あはは、やっぱり・・・」

 

 「し、死んだ者の服を着れと言うんですか!?」

 

 死者が着ていた物と聞いたアンジュはますます拒否反応を示す。

 

 「新品が欲しいなら自分で買いなさい。ただ、今はこれしかないから早く着てちょうだい」

 

 「嫌です!こんな物を着る位なら裸でいた方がマシです!」

 

 「アンジュ、落ち着いてってば」

 

 フィオナは宥めようとしたが、アンジュの返事を聞いたサリアは瞬く間にアンジュが着ていた服を脱がし、裸にすると廊下へ放り出す。ご丁寧に鍵を掛けた上で。

 

 『な、何するのですか!?開けなさい、早く!』

 

 「ねえ、サリア。アンジュだって本気で言ったわけじゃないし、本当に裸にして廊下に放り出さなくても・・・」

 

 「この手の相手には、こうした方が効くのよ。あなたも覚えておきなさい」

 

 「肝に銘じておきます」

 

 フィオナはそそくさとスーツに着替えた。3分後、漸くサリアは鍵を開けてアンジュを中に入れるのだった。

 

 「もう1度聞くわ。スーツを着る?それとも裸で過ごす?」

 

 サリアはスーツをアンジュに差し出しながら訊ねる。アンジュはしぶしぶながらもスーツを受け取るのだった。が、いつまで経ってもアンジュはスーツを着ようとしない。

 

 「どうしたのよ?」

 

 「アンジュ?」

 

 サリアとフィオナが首を傾げていると、

 

 「あの、手伝ってください・・・」

 

 恥ずかしそうに2人に頼んできた。

 

 「え、1人で服を着たことが無いの!?呆れた、子供以下ね」

 

 「まあまあ、サリア。アンジュはお姫様だったんだし、仕方ないよ。アンジュ、手伝うから」

 

 フィオナはアンジュにスーツを着せてあげるのだった。その間のアンジュの顔は羞恥で赤く染まっていた。

 

 

 その頃、医務室ではジルが右腕の治療を受けていた。傍らでは中年の女性がジルの義手のメンテナンスを行っている。

 

 彼女の名前はジャスミン。アルゼナルにおいて1番の古株で“ジャスミンモール”の店主でもある。

 

 「あらまあ、こんなにも真っ赤に腫れ上がっちゃってさ。ジュクジュクになってるわよ」

 

 マギーがジルの右腕を治療していた。すると、痛みが走ったのかジルの顔が歪む。

 

 「痛っ!」

 

 「あら、痛い?痛い?痛いわよねえ~」

 

 痛がるジルを見てマギーは嬉しそうな顔をしていた。腕は確かなのだが、やはり癖のある人物の様であり、フィオナに身体検査を行った時も嬉しそうな声を上げていたので彼女に気味悪がられていた。

 

 「酒臭いよ、マギー!」

 

 「あいたっ」

 

 しつこかったのでジルにヘッドチョップを喰らうマギーであった。

 

 「ジャスミン、義手の方はどう?」

 

 「外側のボルトが全部イカレちまってるねえ。ミスルギ皇国製の物に変えておくから少し値が張るよ」

 

 「司令部にツケといてくれ」

 

 「まいどど~も」

 

 それからジャスミンは修理した義手をマギーに渡す。受け取ったマギーはそれをジルの右腕に装着するのだった。

 

 「しかし、もうちょっとデリケートに扱えないのかねえ。ソイツはアンタほど頑丈には出来ちゃいないんだから」

 

 「悪いね、じゃじゃ馬が暴れてさ」

 

 義手を装着したジルはそれを使い、一服した。

 

 「例の皇女殿下か。いいのかねえ、第一中隊なんかに放り込んじゃってさ」

 

 「ダメなら死ぬ。それだけさ」

 

 相変わらずジルは不敵な笑みを浮かべているのだった。

 

 「ああ、そういえば。もう1人の記憶喪失の子も第一中隊に入ったんだってね。結局、その子の素性は分かったのかい?」

 

 ジャスミンが訊ねるとジルは首を横に振る。

 

 「いいや、あれから過去に戦死した奴やMIA(戦時中行方不明)になった奴のリストを上げてみたんだが結局、該当する奴はいなかった。今、エマ監察官に委員会へ照会をしてもらっている所だ」

 

 「そうかい。まあ、あんなに特徴のある子なら私が覚えてない筈がないしねぇ。しかもその子、あのタスクの紹介なんだってねえ」

 

 ジルは頷くとタスクの手紙をジャスミンに渡す。手紙を読んだジャスミンは嬉しそうな顔をする。

 

 「生きてたんだねえ、あの鼻タレ小僧。それで、ジル。この子に連絡は取るのかい?」

 

 「いや、今はやめておく。3枚目を読んでみな」

 

 ジルに言われて、ジャスミンが3枚目を読んでみるとそこには短くこう書かれていた。

 

 

 まだ、過去の事を清算しきれてないので貴女達に協力は出来ない

 

 

 「やれやれ、あの坊や。まだ、両親の事を・・・」

 

 「仕方ないさ、“あの戦い”で失ったのだからな・・・」

 

 先程とは違い、2人の顔はどこか寂しそうだった。それはマギーも一緒だった。

 

 

 シミュレータールームでは第一中隊の新兵教育が行われていた。ここでは、パラメイル操縦の疑似体験を行う事ができる。

 

 「これが、パラメイルのシミュレーターか。本当にパラメイルに乗ってるみたい」

 

 『シミュレーターといっても稼動している時の感覚は本物と一緒だから。あなたは慣れているだろうけど、適当にやってはダメよ。下手な事をすれば身体を痛める恐れもあるんだから』

 

 「うん、わかってる」

 

 サリアに注意されてから、フィオナはシミュレーションの準備をする。

 

 「えっと、プリナムチャンバーは良し。アレスティングギアも問題なし。うん、準備完了」

 

 『何をさせるつもりですか、この私に?』

 

 フィオナは準備を終えたが、アンジュは要領を得てなかった。

 

 『フィオナ機、アンジュ機、コンフォームド。ミッション07、スタート!』

 

 サリアはそう言うと2人のシミュレーターを稼動させる。

 

 「わっ!」

 

 『きゃああああ!』

 

 本物と変わらないGが襲いフィオナは驚き、アンジュと新兵達は悲鳴を上げていた。

 

 (すごい!シミュレーターなのに本物と殆ど変わらないなんて!)

 

 シミュレーターの精度の高さに驚くフィオナだったが既に本物を操縦し、戦闘も経験している彼女にとっては特にミスする事も無く、サリアの指示に問題なく応えていった。

 

 (馴染む様な感覚はないけど。うん、これならイケる!)

 

 フィオナはたちまち新兵には考えられないほどのハイスコアを叩き出すのだった。

 

 一方、アンジュも最初こそは機体に遊ばれてたものの、

 

 (この感覚・・・もしかして!) 

 

 何かを掴んだのか、動きはどんどん様になっていった。

 

 (やっぱり。これは・・・エアリア!)

 

 かつて、鳳凰院のエアリア部でキャプテンを務めていた彼女にとってパラメイルの操縦はエアリアのエアバイクの感覚に近いものだった。アンジュもまた、フィオナほどではないがハイスコアを叩き出した。

 

 「な、なんなの。この子達・・・」

 

 初めてのシミュレーターでハイスコアを記録したフィオナとアンジュを見たサリアは驚いて、唖然としていた。ちなみに他の新兵2人は失速したり、墜落したりで結果は散々なものだった。

 

 

 場所は変わってシャワールームでは第一中隊の面々がシャワーを浴びていた。

 

 「いや~、大したもんだな。フィオナはともかく、アンジュが初めてのシミュレーターで漏らさなかったなんて。なあ、ロザリー?」

 

 「え!?私の初めては、そのですね・・・」

 

 話を振られたロザリーは顔を赤らめる。漏らした経験があったのだろう。

 

 「気に入ったみたいね、あの子達の事」

 

 「ああ、悪くない」

 

 ゾーラは満足そうに頷く。それはヴィヴィアンも同じだった。

 

 「ねえねえ、サリア。アンジュとフィオナってなに?ちょー面白いんだけど!」

 

 サリアはシャワーを浴びている2人を見ると、

 

 「2人とも凄いとしか言い様がないわね・・・」

 

 そっと、そう呟くのであった。

 

 

 フィオナとアンジュはサリアに連れられて、寝泊りする部屋へと来た。

 

 「此処があなた達の部屋よ。2人で仲良く使いなさい」

 

 「待ってください!私、彼女と一緒に過ごさなければいけないのですか!?」

 

 (そこまで、はっきり拒絶されると流石に傷つくなぁ・・・)

 

 アンジュの反応を見たフィオナは苦笑していた。

 

 「我慢しなさい。私もルームメイトと一緒に暮らしてるのだから。個室が欲しいなら、自分で買う事ね。尤も、今のあなたでは高すぎて、手は出せないだろうけど」

 

 そう言うとサリアは暮らしに必要な物資を2人に渡す。それには、キャッシュ(アルゼナルの通貨)も一緒に付いてたのだがフィオナは首を傾げる。

 

 「ねえ、サリア。なんか私のキャッシュ、アンジュより多い気がするんだけど」

 

 そう、フィオナのキャッシュはアンジュのソレよりもずっと分厚いものだった。

 

 「ああ、それね。昨日の戦闘でスクーナー級を20匹撃墜したでしょ。あなたに支給されるキャッシュはその分も上乗せしたからって司令がね」

 

 「いいの?私、あの時はまだ入隊もしてなかったのに」

 

 「司令がいいって言ったんだから問題ないわ。ちなみにその時の戦闘に掛かった経費は差し引いてあるから。とにかく、足りない物はそれで揃えて。起床は明朝5時、いいわね」

 

 それだけ言うとサリアは去っていった。2人が中に入るとそこには殺風景な部屋があった。1つしかない窓を中心に棚とベッドとタンスが対になる様に並んでいた。決して広いとはいえず、2人で暮らすにはやっとな間取りだった。

 

 「・・・皇宮の私の部屋より狭いわ。ベッドも安物だし」

 

 「ははは。でも、私が昨日寝た牢屋よりはマシかも」

 

 それから2人は貰った物資をそれぞれのベッドに置いてから、そこに腰掛けるのだった。

 

 「私。これから先、ずっとここで暮らさなければならないのですか」

 

 「ノーマである以上、そうするしかないよ」

 

 「っ!なんであなたはそんなに平然としてられるのですか!?あなただって無理矢理此処へ連れてこられたんでしょう!」

 

 「私には他に行く所もないしね。アテのない旅を続けるよりはずっと良いと思ったんだ」

 

 「私はミスルギ皇国第1皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギです。ノーマだなんて何かの間違いに決まってます。必ず祖国から解放命令が来る筈です」

 

 アンジュは相変わらず現実を受け入れられない様である。それを見たフィオナは諭す様に言う。

 

 「アンジュ、いきなり此処へ連れて来られて戸惑うのは分かるよ。でもね、認めなくちゃ」

 

 「認める?何をですか?」

 

 「自分がノーマである事、そして此処で生きていく事をだよ。現実から目を背けていても、却って辛くなるだけだと思うな」

 

 「わ、私はノーマなんかじゃありません!それに此処での一生を受け入れろだなんて冗談じゃない。私は絶対にミスルギ皇国へ帰ります!!」

 

 「はぁ・・・やっぱりダメか」

 

 説得を試みたフィオナだったが、アンジュが聞き入れる様子はなかった。

 

 「まあいいや。とにかく、今日はもう寝よう。明日も早いしね。おやすみ、アンジュ」

 

 フィオナはそう言うとベッドで横になって毛布を被る。アンジュの方も毛布を被ると横になって眠りに付くのだった。暫くして、アンジュの寝息を確認すると思考を始める。

 

 (アルゼナルに来て2日目。まさかアンジュと同じ部屋になるとは思わなかったけど、まあいい。それよりもこれからの事を考えよう。今日1日で分かったけど、此処へ来てから起きた事は私が見た映像とほぼ同じ様に進んでいる。となると、アルテミスが見せた映像はこれから先、起こるであろう出来事を描写してたんだ)

 

 フィオナはアルテミスが見せた映像の内容を思い出す。その殆どは目を背けたくなる様な悲劇の連続だった。犠牲になった人達もたくさんいた。

 

 (もし、私がそれを変えられるなら、やっぱりそうしたい。難しいかもしれないけど、分かっているのに何もしないなんて嫌だもん。でも、そうなると此処での生活は気を付けないといけないな。最初の日にも言ったけど私がみんなの事やこれから起きるかもしれない事を知ってるのは絶対に知られてはいけない!)

 

 無論、そう考えるのには理由がある。もし、知られてその事が現実に起きてしまったら自分は必ず危険な目に遭うであろう事は目に見えている。それだけではない。その事が外の世界に知られればアルゼナルが窮地に陥る可能性だってあるのだ。

 

 (特に“あの男”が私の存在を知ったら、あらゆる手段を使ってでも私を抹殺しようとするだろう。未来がわかるだなんて知られたら彼が黙ってはいない筈だ)

 

 フィオナの脳裏に1人の男性の顔が浮かぶ。この世界を生み出し、理不尽なシステムを作り上げ、たくさんの人達を不幸にした元凶。神様と呼ばれる男の顔を。

 

 (その為にもここにいる仲間達にもこの秘密は隠し通さないといけない。となると、現時点で気を付けないといけないのは、当然ジル司令だよね。彼女に近しい人達もそうだ。あとは、サリアにヒルダ、それとエルシャも気を付けないと。あの人、おっとりしてそうに見えてその実、洞察力が半端無いからね。アンジュは・・・今は問題ないか。自分の事で精一杯だろうし。まあ、こんな所か)

 

 一通り、これからの事を頭の中で纏めるとフィオナは眠りに付くのであった。

 




リアルの事情で先週は更新できませんでした。今後の更新ですが最低でも週に1話は投稿したいとは思っていますが事情によっては止まる事もあるかもしれませんのでそれでも良ければこれからもよろしくお願いします。それでは

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