クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女   作:気まぐれキャンサー

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第22話 モモカ、がんばります!

 「うう~、頭がガンガンする……」

 

 翌日、フィオナは食堂のテーブルで突っ伏していた。完全に二日酔いだ。

 

 「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 「水、持ってこようか?」

 

 ココとミランダが心配そうにフィオナに話しかける。

 

 「フィオナ、辛そうだね~」

 

 「フィオナちゃん、お酒が弱かったのね。意外だわ」

 

 「というか、グレープジュースとワインを間違えるって、どんな勘違いよ……」

 

 ヴィヴィアンとエルシャは興味深そうにしており、サリアは呆れていた。

 

 「けど意外ね。まさかジョゼがゾーラ隊長の部屋をフィオナに売るなんて。私はてっきり、ヒルダ達に売ると思ってたけど」

 

 「ふふっ。案外、ジョゼちゃんに気に入られたのかもね」

 

 そんな取り留めのない会話をしていると、

 

 「何たること、アンジュリーゼ様をお待たせするなんて!あなた達、今すぐ席を譲りなさい!!」

 

 怒鳴り声が聞こえてきたので見てみると、そこにはテーブルに座っているノーマ達に向かって叫ぶモモカの姿があった。傍らにはトレーを持ったアンジュがいた。

 

 (うわぁ……恐れを知らないなぁモモカ)

 

 フィオナは二日酔いに苦しみながらもその光景を眺めていた。それもその筈、モモカが席を譲れと言っている相手はあろう事かヒルダ達だったからだ。無論、ヒルダ達が譲る訳もなくアンジュも諫めるがモモカは止まらない。

 

 「アンジュリーゼ様になんと無礼な!如何にノーマが低俗で好戦的で反社会的とはいえですね、その態度は見過ごせませんよ!!」

 

 (ちょっと、ちょっと、モモカ!ここ(アルゼナル)でそういう発言はまずいってば!)

 

 フィオナは内心、慌てる。監察官ならまだしも、何の肩書も権限もない人間がアルゼナルでノーマを見下す言動をとれば只では済まない。人間嫌いのノーマ達に絡まれて、リンチされてもおかしくはないだろう。事実、他の席のノーマ達もモモカを不機嫌そうに睨んでいる。徐々に一触即発な空気になってきたのでフィオナは体を起こして、モモカ達を止めに行こうとした。その時である。

 

 「はぁ~い、そ~こま~でよぉ~」

 

 「え?きゃああ!?」

 

 突然、誰かがモモカの背後に回り込んで彼女の胸を揉み始めた。

 

 「お~成程。これが皇女様の侍女のおっぱいなのかぁ。これがどうして、なかなかいい張りと触り心地じゃないか~」

 

 「なっ、誰よあなた!?」

 

 いきなり現れたノーマにアンジュも驚く。

 

 「な、なんなのですか!?やめてくださ……ひゃあん!」

 

 「君さ、モモカって言ったっけ?ダメだよ~、このアルゼナルでノーマを貶める発言は命取りになりかねないからさ。主人想いなのはいいけど、もう少し胸の力を抜いて~」

 

 「そ、それを言うなら肩の力……って、あ、や、やめ……ああん!」

 

 「ちょっと、あなた何なの!?モモカから離れなさい!」

 

 アンジュがノーマをモモカから引き剝がす。よく見るとそれはジョゼだった。モモカは顔を真っ赤にして床に蹲る。

 

 「ちっ、てめぇかジョゼ。いきなり割り込んできて何なんだ」

 

 「やだなぁ。喧嘩になりそうだったから止めたんじゃないか~。喧嘩はいいけど周囲が引くようなハードなのはメッ、だよ」

 

 ジョゼはいつもの軽い調子で答える。ヒルダ達は興が削がれたのか舌打ちをすると椅子に座る。

 

 「あ、そうだアンジュ。席をお探しならボクの隣が開いてるから座ってもいいよ。おっと、自己紹介がまだだったね。ボクはジョゼ。アルゼナルで何でも屋をやってるんだ。よろしくね」

 

 ジョゼはアンジュに自己紹介を済ませると自分の席に戻る。すると、

 

 「なぁ!?お、おい!お前、何だよそのメニューは!?」

 

 突然、ロザリーがジョゼの座っている席のテーブルにあるメニューを指差しながら大声を上げる。そこにあったのはノーマに配給される給食ではなく、こんがり焼けたステーキに白パン、スープにデザートと他のとは比べ物にならない位、豪華な食事だった。

 

 「ん?何って、見てわかんないの?ボクの食事だけど」

 

 「いや、そうじゃなくて!何でてめぇのだけそんな豪華なご馳走なんだ!?」

 

 「美味しそう……」

 

 クリスも羨ましそうに見ていた。

 

 「ボクが外の世界のコネを使って、取り寄せたんだ。もちろん、食堂のおばさん達にもお金を払って作ってもらったのさ。う~ん、やっぱりステーキはシャトーブリアンのレアに限るねぇ」

 

 ジョゼはステーキを美味しそうに口に運ぶ。

 

 「ちくしょう、ライダーじゃねえのにあたし等より稼いで、美味いもん食いやがって……」

 

 ロザリーは悔しそうに、だが涎を垂らしながら見ていた。すると、

 

 「おい、ジョゼ。てめぇに用があんだけどいいか?」

 

 ヒルダがジョゼのテーブルにやって来て、彼女を問い詰め始めた。

 

 「なんだい、ヒルダ。ステーキが欲しいの?残念だけどあげないよ。まあ、金を出すなら一口くらいはあげても……」

 

 「いらねぇよ!そうじゃなくてゾーラの部屋の事だ。今朝、ゾーラの部屋からルーキーが出てくるのを見たんだけど、どういうことだ?まさか、あいつに部屋を売ったんじゃねえだろうな?」

 

 「うん、売ったよ。フィオナにね。それがどうかしたの?」

 

 ジョゼはステーキを食べながら答える。それを聞いていたロザリーとクリスも驚く。

 

 「え?お姉様の部屋、フィオナが買い取ったのか!?」

 

 「そんな、どうして……」

 

 「あの子が寝る部屋を探していたから売ってあげたのさ。500万でね。それがどうかした?」

 

 あっけらかんしたジョゼの返答にヒルダの顔に青筋が浮かぶ。

 

 「どうかした、だと?てめぇ、あたしには散々、値段を吹っかけたり色々理由を付けて売らなかった癖になんでルーキーには、んな安値で売りやがったんだ!」

 

 「そんなのボクの自由でしょ。ボクは彼女に売りたいと思ったからそうしただけさ。ああ、それとも自分以外に売られたら困る理由でもあったのかな?まあ、そりゃそうだよね。君はゾーラ隊長のお気に入りだったもんね。でも安心してよ。ベッドの布団やシーツは新しいのに取り替えてあるから、君とゾーラのHな匂いは……」

 

 「! このクソガキ!!」

 

 ヒルダは激昂して懐から拳銃を取り出す。が、

 

 ヒュッ、ガキン!

 

 「ぐあっ!?」

 

 ジョゼはナイフをヒルダが持っていた銃に向かって投げた。ナイフは銃に当たり、ヒルダは驚いて銃を落としてしまう。すると次の瞬間、ジョゼは立ち上がるとヒルダの後頭部を掴み、テーブルに押し付けるとフォークを彼女の首元に当てる。

 

 「て、てめぇ……」

 

 「ねえ、ヒルダ。ボクってさ、此処に来てまだ1年の新参者だし、こんな性格じゃん?だからいっつもナメられるんだよね~。だけどさ、ボクは外の世界でもアルゼナルでも商売人として色んな人間やノーマとやりあってるんだよ。ヘタレだったら務まらないっての。ボクを本気で怒らせると怖いよ?」

 

 そう言うジョゼの顔は先程までの陽気なものから、獲物を狙う猛禽類の様なソレに様変わりしていた。それを見たロザリーとクリスは恐怖で後ずさる。

 

 「あなた達、やめなさい!!」

 

 遠くで見ていたサリアがヒルダとジョゼの元へやってくる。

 

 「ヒルダ、食堂で銃を抜かないで!ジョゼ、喧嘩するなってさっき自分で言ったのに何をしているの!」

 

 「あっ、サリア。これは正当防衛だよ。先に銃を抜いたのはこいつなんだからさ」

 

 「とにかくヒルダを離しなさい!命令よ!」

 

 「命令って、ボクは第1中隊に所属してないんですけど。まあいいや。ボクも喧嘩は正直、勘弁だしね」

 

 ジョゼはそう言うとフォークを仕舞い、ヒルダを解放する。ヒルダは咳込みながらもジョゼを睨みつける。

 

 「てめぇ、いつか覚えてろよ……」

 

 「やめなさい。ジョゼ、ヒルダも悪いけどあなたも少しやり過ぎよ」

 

 「ヒルダみたいな奴にはこれ位が丁度いいと思うけど。サリアさ、君がそんなんだからアンジュやヒルダが―――『バタン』あれ、なに今の音?」

 

 サリアに文句を言おうとしたジョゼだったが物音がした為、言葉を止める。音がした方を見るとモモカが目を回しながら倒れていた。

 

 「あれ、侍女ちゃん。君、どうしたの……って、ああ。成程ね」

 

 モモカが倒れた事を不思議に思っていたジョゼだったが、すぐに得心がいったようだ。

 

 「アンジュ。どうやら侍女ちゃん、ガス欠みたいだよ」

 

 「ガス欠?」

 

 「お腹がペコペコだって事さ。お腹の虫が鳴いてるしね。アンジュ、ジャスミン・モールに連れてってあげたら?あそこにはファストフードの自販機もあるしさ」

 

 「なんで私が……」

 

 「じゃあ、私が連れてくよ」

 

 アンジュが不満そうにしているとフィオナが駆け寄ってきた。

 

 「フィオナ、どうしてあなたが」

 

 「私もジャスミン・モールに行こうと思ってたから。大丈夫、この子に美味しい物を食べさせてあげるからさ」

 

 フィオナはそう言うとモモカの腕を自分の肩にかけると彼女と一緒に食堂を出てったのだった。

 

 「よかったのかい?侍女ちゃんを連れてってあげなくて」

 

 「私はもう皇女じゃない。あの子とは赤の他人よ……」

 

 「ふーん。まあいいけどね。じゃあ、ボクの隣に座りなよ。食事、まだなんでしょ?ああ、金は取らないから安心していいよ」

 

 ジョゼは自分の席に戻り、食事を再開するのだった。アンジュは考えていたが結局、ジョゼの隣に座り食事をするのだった。

 

 

 「すみません。わざわざ食べ物を買っていただいて。私、アンジュリーゼ様にお会いする事で頭が一杯で3日も何も食べてなかったんです」

 

 「気にしないで。私も酔い止め薬を買おうと思ってたから」

 

 モモカはフィオナに買ってもらったハンバーガーを食べながら礼を言う。フィオナは買った酔い止め薬をミネラルウォーターで飲んでいた。と、フィオナがポーチからお金を取り出すとモモカに渡す。

 

 「アルゼナルではこれを使って、欲しい物を買うの。これは私からの餞別。大事に使ってね」

 

 モモカはフィオナからもらったお金を手に取り、興味深そうに眺める。

 

 「これがお金という物なのですか?ありがとうございます。貨幣経済なんて不完全なシステムだと思っていましたが、これはこれでなんだか楽しいですね」

 

 「そういえば、モモカさん。外の世界ではどうやって買い物をしていたの?」

 

 フィオナはずっと疑問に思ってた事をモモカに尋ねる。映像ではマナの事は説明されていたが、買い物やインフラなどの具体的な事柄までは記録されてなかったからだ。

 

 「外の世界では欲しい商品をマナの光でコピーして、生み出すんです。だから等価交換といったものは存在しないんです」

 

 「へぇ、それは何というか。すごく便利そうだね。まあ、ノーマはマナが使えないんだけどね」

 

 「あ、ご、ごめんなさい……」

 

 「ううん、別に責めてるわけじゃないから気にしないで」

 

 謝ってきたモモカをフィオナは宥める。しかし、

 

 (そう、その便利さ故に人間は堕落したんだ。救い様のないほどまでに……」

 

 心の中では軽蔑するのだった。すると、

 

 「あ、ああああああああああっ!!!」

 

 1人のノーマが苦痛に見舞われながら、マギー達医療班に担架で運ばれていた。

 

 「何なのでしょうか、あれ?」

 

 「モモカさん、見ない方がいいよ。気持ちのいいモノじゃないから」

 

 「え?それはどういう……」

 

 モモカが疑問に思っているとその答えはすぐに明らかになった。ノーマの子の片腕はなくなっており、その子の傍らに置かれていたのだ。血に塗れて。それを見たモモカは食べていたハンバーガーと見比べてしまい、吐きそうになる。

 

 「だから言ったでしょ。気持ちのいいモノじゃないって」

 

 「あ、あのフィオナさん。ここは一体、何をする所なのですか?」

 

 モモカが怯えながらフィオナに尋ねる。

 

 「あなた、ここがどういう所か知らずに来たの?」

 

 「はい。私はただ、ここにアンジュリーゼ様が居られるとシルヴィア様から―――あっ!」

 

 「え、なに?」

 

 「い、いえ、なんでもありません」

 

 慌てて誤魔化すモモカだったが、フィオナは聞き逃してはいなかった。

 

 (今、シルヴィアって言ったよね。やっぱりモモカがここに来たのは、あいつら(・・・・)の差し金だったんだ)

 

 フィオナは内心、憤慨しつつも平静を装う。

 

 「……モモカさんはノーマ管理法は知っているよね。ノーマは人間社会から隔離され、ここへ送られる。そして、異世界から侵攻してくるドラゴンという怪物と戦わされるのよ。人間社会の平和を守る為にね」

 

 「何ですかそれ……それじゃあ、まさかアンジュリーゼ様も」

 

 「そう。アンジュも私もドラゴンと命がけで戦っている。でもさ、皮肉なもんだよね。人間に嫌われているノーマが人間の平和をドラゴンから守ってるっていうんだから。そして、この戦いに終わりはない。私達が死ぬまで続いていくんだよ」

 

 フィオナは自嘲気味に答えるのだった。話を聞いたモモカは絶句していた。

 

 「そんな……なら、私は一体どうしたら。アンジュリーゼ様に何をしてあげれば」

 

 思い悩むモモカにフィオナは、

 

 「それは、自分で考えるべきだと思うよ」

 

 と彼女にアドバイスをする。

 

 「自分で、ですか?」

 

 「そう。自分で考えるの。そうしないと結局は何も変わらないと思うから。まあ、とりあえずは自分がアンジュに何してやりたいかを考えてみたらどうかな?」

 

 「そうですか。わかりました!それではアンジュリーゼ様に何をしたらいいか考えてみます。フィオナさん、ありがとうございました!」

 

 モモカはフィオナに礼を言うと走り去っていった。

 

 (う~ん、ああは言ったものの。モモカ、空回りしないといいんだけど……)

 

 フィオナはモモカの後姿を見ながら、苦笑するのだった

 

 

 シミュレータールームで訓練を終えたアンジュとフィオナはシャワーを浴びていた。

 

 「アンジュ、お疲れ様……うっぷ」

 

 フィオナの顔は真っ青で今にも吐きそうな様子だ。

 

 「ねえフィオナ、大丈夫なの?随分と顔が真っ青なんだけど」

 

 「大丈夫……なわけないよ。二日酔いでパラメイルのシミュレーターは苦行だよ。正直、死ねる。まあ、実戦じゃないだけマシだけどね」

 

 「だったら休めばいいのに」

 

 「そんな事したら罰金で100万取られちゃうでしょ。なら、体に鞭打ってでも出なくちゃ」

 

 それからフィオナは酔いを醒まそうと冷水のシャワーを思いっきり浴びるのだった。シャワーを終えたアンジュとフィオナはロッカールームへ向かうとそこで目を疑うような光景を目の当たりにする。

 

 「あ、あれ?ねえアンジュ。私、幻覚を見てるのかな?なんかやたらと大きいタンスが置かれている様な……」

 

 「幻覚じゃないわよ。私の目にも映ってるわ。やたら馬鹿でかいタンスが……」

 

 そこにはこの部屋にはとても場違いな大きなタンスが置かれていた。タンスの前には、モモカが立っていた。

 

 「あ、アンジュリーゼ様。これを見てください。アンジュリーゼ様といえばミスルギ皇国のファッションリーダー。あの頃のお気持ちを思い出して頂こうとアンジュリーゼ様が大好きだったアイテムを揃えてみました」

 

 モモカがタンスを開けるとそこには豪華そうな服がたくさん並べられていた。しかしアンジュは、

 

 「戻しなさい、今すぐに!」

 

 そう吐き捨てると、シャワールームへ戻っていってしまった。

 

 「あれ、アンジュリーゼ様?」

 

 モモカは意味が分からずキョトンとしていると、

 

 「えっと、モモカさん。とりあえず片付けようか。いつまでもここに置いてあっても邪魔になるだけだし、ね?」

 

 フィオナは苦笑しながらモモカを窘めるのだった。ちなみにタンスの場所を取る為に自分のロッカーが乱雑に倒されていたサリアは何とも言えない表情をしていた。

 

 

 着替えを終えたアンジュとフィオナは部屋へ戻る為に廊下を歩いていた。

 

 「全くモモカの奴、本当に何を考えてるのよ」

 

 「まあまあ。モモカさんはアンジュの力になりたいだけなんだよ。それはわかってあげたら?」

 

 憤慨するアンジュをフィオナが宥める。と、アンジュはある事をフィオナに尋ねる。

 

 「そういえばあなた、自分の部屋を買ったの?それもゾーラ隊長の部屋を……」

 

 「うん、買ったよ。それがどうかしたの?」

 

 「じゃあ、モモカが此処を出てったら私の部屋はどうなるのよ?」

 

 「どうなるって言われても……そりゃ、新しい子が入ってこない限りはアンジュ1人でしょ。あ、でもそうなったら実質はアンジュの個室って事にになるよね。よかったねアンジュ。狭い部屋でも少しは広々と使えるようになるよ」

 

 嬉しそうに言うフィオナとは対照的にアンジュの顔は見る見る内に不機嫌になっていき、

 

 「っ! そ、そうよね!ええ、そうでしょうとも!いいわよ、私が自由に使ってやるから!!」

 

 アンジュは拗ねた感じでズカズカとフィオナの前を歩いて行った。

 

 「? アンジュ、どうしたんだろ?私、何か気に障る様な事を言ったかな?」

 

 フィオナはキョトンと首をかしげていた。と、自分の部屋の前にいたアンジュが部屋に入らずに立ったままだったので不思議に思い部屋を覗いてみると、

 

 「わ~、なんという事でしょう……」

 

 抑揚のない声がフィオナの口から洩れる。中にはモモカがいたのだが問題は部屋の内装だった。

 

 「おかえりなさいませ、アンジュリーゼ様。部屋のインテリアをアンジュリーゼ様が大好きだった感じに変えてみました」

 

 殺風景だったアンジュの部屋は、お嬢様風な部屋へとビフォーアフターされていた。

 

 「これでアンジュリーゼ様の日々は快適に―――「元に戻しなさい、今すぐに!」え、アンジュリーゼ様?」

 

 モモカが言い終わる前にアンジュは怒鳴って、部屋のドアを閉めるのだった。

 

 「……フィオナ、今日はあなたの部屋に泊めて」

 

 「え、なんで?あんな風だけど自分の部屋なんだし―――「いいから、泊めて!」は、はい……」

 

 アンジュに気圧されてフィオナは買ったばかりの自分の部屋に彼女を泊めたのだった。

 

 

 翌日、朝食を食べようと食堂に行ってみるとガーデンテラスがレストラン風に改装されておりそこにはテーブルに並べられた料理と案の定、モモカがいた。

 

 「おはようございます、アンジュリーゼ様。今日はアンジュリーゼ様が大好きだったヤマウズラのグリル、夏野菜のソース添えになります。これでアンジュリーゼ様も元気百倍に……」

 

 「いい加減にして!!」

 

 度重なるモモカのお節介に業を煮やしたアンジュは料理をひっくり返そうとテーブルクロスを掴むが、

 

 「ストップ、アンジュ」

 

 フィオナがアンジュの手を掴み、彼女を止める。

 

 「な、何よフィオナ」

 

 「イラつくのはわかるけど、食べ物を粗末にするのはよくないよ。それに此処を汚したら後で掃除する子が大変でしょ。それとも、アンジュが自分で掃除する?」

 

 「そ、それは……じゃあ、どうすんのよ。言っておくけど私は食べないわよ。なんならあなたにあげてもいいけど」

 

 「う~ん、美味しそうだけど遠慮しておくよ。下手に舌が肥えちゃったら、ノーマ飯が喉を通らなくなっちゃうしね。欲しい子にあげたら?」

 

 「欲しい子って誰に―――「はいはーい、ボクが貰っていい?」って、ジョゼ、いつの間に!?」

 

 いつの間にかジョゼが挙手しながら、彼女達の近くに立っていた。

 

 「あ、ジョゼ。もしかして食べたいの?」

 

 「チッチッチ。違うんだなぁ~これが。今からオークションを始めるのさ。皇女様の侍女が作った料理、それもヤマウズラのグリルなんて此処じゃ食べられないからね。良い値が付くと思うよ」

 

 「ははは、相変わらずだね。モモカさん、いいよねそれで」

 

 「それは……まあ、アンジュリーゼ様が食べられないとおっしゃるなら」

 

 モモカは渋々ながらも了承する。

 

 「取引成立だね。じゃあ、改めまして。みんな~、此処にあるのは外の世界からやってきた皇女様の侍女が作ったヤマウズラのグリルだ!アルゼナルでは絶対に食べられないレアな料理、1000キャッシュから始めるよ!」

 

 オークションを始めたジョゼの前に料理目当てのノーマ達が集まり、値段を釣り上げていく。その中にはヴィヴィアンの姿もあった。

 

 「他人が作った料理を売るとは。本当にジョゼは商売上手だね」

 

 「全くだわ。浅ましいを通り越して、感心するわ。それよりも……」

 

 アンジュはモモカの方に顔を向けると、

 

 「私はアンジュリーゼじゃない、ノーマのアンジュなの!何度も言わせないで!もうこれ以上、私には関わるな!!」

 

 そう怒鳴ってアンジュは食堂を出てった。

 

 「アンジュリーゼ様……」

 

 アンジュに拒絶されたモモカは落ち込む。それを見たフィオナは、

 

 「ねえ、モモカさん。今日の夕方に私の部屋に来てくれないかな?」

 

 モモカを自分の部屋に誘う。

 

 「フィオナさんの部屋に、ですか?」

 

 「うん。アンジュについて、ちょっと話したいからさ」

 

 こうして、フィオナはモモカと約束を取り付けるのだった。

 

 ちなみにオークションにかけられたヤマウズラのグリルは10万キャッシュでヴィヴィアンが競り落とした。

 


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