クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女   作:気まぐれキャンサー

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第21話 フィオナと何でも屋

 部屋を出たフィオナは廊下を歩きながら思案に耽っていた。

 

 (モモカが来たという事は、あの兄妹が動いたという訳か。アンジュを亡き者にする為に!)

 

 フィオナの顔が険しくなる。彼女は知っていた、この再会は邪悪な陰謀の始まりであることを。

 

 フィオナの脳裏にある映像がフラッシュバックする。ジュリオ、シルヴィアの2人がモモカを利用し、アンジュを陥れる為に仕掛けた残酷な罠。そしてミスルギ皇国の、平和という虚飾で彩られたマナ社会の闇。これらはアンジュの心を深く抉り、彼女とモモカを大きく傷つけた。

 

 (映像通りなら、マーメイドフェスタの前ぐらいにシルヴィアから嘘のSOSが来る筈。シルヴィアに対して負い目があるアンジュは脱走してミスルギ皇国へ向かう。そうなればアンジュとモモカは間違いなく殺される!絶対に阻止しないと!)

 

 フィオナは心の中で固く決意する。だが、そこに1つの問題が出てくる。

 

 (でも、どうやってアンジュに伝える?私とシルヴィアは全く接点がないから普通に「シルヴィアはジュリオと組んであなたを殺そうとしている!」って、言ったって信じないよね、絶対……)

 

 迂闊に伝えようものなら、信じてもらえないばかりか自分が疑われる危険性が出てくる。

 

 (ミスルギ皇国が滅んでいなくて、ジュリオとシルヴィアが今も皇室に健在である事を証明できれば話は別なんだけど……)

 

 初陣後のジルの話からアンジュはミスルギ皇国は滅んだものと思っている。それが彼女を脱走に駆り立てる一因となっている。このアルゼナルで外の世界の情報を知っているのはジルかジャスミン、それとエマぐらいだろう。だが、彼女達に尋ねた所で教えてはもらえないだろう。何が起こるか分かっていても、それを証明し伝える方法がない。もどかしさにフィオナは頭をくしゃくしゃする。

 

 「はぁ……一体どうしたらいいのかな?」

 

 考えが行き詰まり、フィオナはため息を吐いた。その時である。

 

 「スキあり!」

 

 むにゅ

 

 「えっ!?きゃあ!!な、なになに!?」

 

 突然、背後から声がしたかと思うと自分の胸が誰かに触られていた。フィオナが驚き、振り向くとそこにはオレンジ色のポニーテールの少女がいた。

 

 「お~、結構大きいねぇ。その上、この柔らかさ。今まで触ってきたどのおっぱいよりも一級品だよ。君さ、なかなか良いものもってるじゃないか~」

 

 「ひゃん!や、やめてよぉ……あん!」

 

 フィオナは喘ぎ声を出しながらもなんとか少女を振り払う。

 

 「はあ、はあ。な、なんなの、いきなり!?」

 

 フィオナは顔を真っ赤にして、胸を腕で覆いながら少女を睨む。

 

 「あはは~、ゴメン、ゴメン。なんか君、辛気臭そうな顔をしてたもんだからさ。ちょっと和ませようと、ね」

 

 「和まないよ!いきなり触られて、びっくりしたよ。まったくもう!」

 

 悪びれる様子のない少女に憤慨しつつも、フィオナは気を取り直して訊ねる。

 

 「それで。あなたは一体、誰なの?事と次第によっては司令部に突き出すけど?」

 

 「怒らない、怒らない。怪しいものじゃないよ。ボクはジョゼ。このアルゼナルで何でも屋をやってるんだ。よろしくネ」

 

 ジョゼと名乗った少女は陽気に答える。それを見たフィオナはすっかり怒る気が失せるのだった。

 

 「じゃあ、そのジョゼさんが私に何の用なんですか?」

 

 「堅苦しいなぁ、ジョゼでいいよ。あとタメ口でノープロブレムさ。いやさ、君が今日、ここに侵入してきたモモカって人間に部屋のベッドを譲ったから、寝る所に困ってるんじゃないかと思って声をかけてみたんだ」

 

 「え!?ど、どうしてそれを?」

 

 フィオナが驚くのは無理もなかった。自分がモモカに部屋のベッドを譲ったのはついさっきの事だからだ。なのにジョゼはその事を完全に把握しているからだ。

 

 「ふっふっふ。ボクを甘く見てもらっちゃあ、困るよ。言っただろ?ボクは何でも屋だって。文字通り何でもやってるのさ。ジャスミン・モールでも扱っていないアイテム等の販売や金貸し、それと情報屋もね。気になるアノ子の下着の色や誰と付き合っているか。とにかくこのアルゼナルで僕の知らない事は無いといってもいい位さ」

 

 ジョゼはエッヘンと胸を張っていた。だが彼女の胸はフィオナほど大きくはなかった。フィオナは少し考えるとジョゼに尋ねる。

 

 「じゃあさ、ジョゼ。私は今日、寝る部屋を探しているんだけどすぐに用意できる?」

 

 「モチのロンさ。というかできなかったら君に声を掛けたりはしないって。こっちだよ」

 

 ジョゼはそう言うと、フィオナを案内するのだった。やがて、ある部屋の前につくとジョゼは懐から鍵を取り出し、穴に挿してドアを開ける。ジョゼは電灯をつけて部屋を見せる。

 

 「ジャーン!この部屋はどう?なかなかの掘り出し物だよ」

 

 フィオナが部屋の中を見てみるとそこは、大きく広めの部屋だった。天蓋付きのクイーンサイズのベッドにソファー、大きめの棚に極め付きは風呂まで完備されていた。どう見ても、自分とアンジュが暮らす部屋よりも広くて豪華だった。

 

 「す、すごい部屋……良いの、この部屋を使っても?」

 

 「モーマンタイ。元々はある隊長さんの部屋だったんだけど、今は使われてないからね。好きにしてくれていいよ」

 

 フィオナは改めて部屋を見渡す。と、あるものに目が留まる。それは写真が貼られたコルクボードだ。写真には彼女の見知った者たちが写っていた。それを見たフィオナはハッとする。

 

 「……ねえジョゼ。今、ある隊長さんって言ったよね。まさかこの部屋」

 

 「お、察しがいいね。そうだよ、ここはかの女傑、ゾーラ隊長の部屋さ。ゾーラ隊長も君に使ってもらえるなら草葉の陰で、喜んでいる筈さ」

 

 「ゾーラ隊長は生きてるよ!いや、まだ医務室で眠ったままだけど。とにかく、勝手に殺さないで!というか、だったら無断で使ったらまずいでしょ!?」

 

 「大丈夫だって。元々、この部屋自体、ゾーラ隊長が意識不明になった時からジャスミン・モールで売り出されてたからね。それを僕が速攻で買い取ったというわけさ」

 

 「買ったって……そんな事していいの?もしゾーラ隊長が目覚めたら」

 

 「だからさ。君も知ってると思うけど、メイルライダーは休んだら罰金をとられる。1日に100万。だからジャスミンが差し押さえたというわけさ。尤も、もう数か月も寝たきりだから罰金額はもうこの部屋の値段だけでは足りないだろうけどね。目覚めた時の彼女の顔が見ものだね」

 

 そう語るジョゼを見たフィオナは呆れると共にアルゼナルのシビアさに戦くのだった。

 

 「それでこの部屋はいくらなの?」

 

 「全て込みで500万キャッシュでどうだい?」

 

 ジョゼが提示した値段にフィオナは目を丸くする。値段が思ったよりも安いのだ。前にジャスミン・モールで個室の相場を調べた事があるが、広さや設備によってピンキリだが最低ランクでも200~300万は掛かる。(設備は最低限)

 

 このゾーラ隊長の部屋ともなれば1000万キャッシュ以上はしてもおかしくないはずだ。

 

 「なんでそんなにも安いの?この部屋は500万キャッシュじゃ……」

 

 「まあ、実際500万じゃ赤字なんだけどね。君だから500万で売ることにしたんだよ」

 

 「どういう事?」

 

 「君はゾーラ隊長と新兵達を救っただろ。不明機が来た時も危険を顧みずに殿を担った。君にならこの部屋を500万で売るだけの価値があると思ったからさ」

 

 笑顔で言うジョゼにフィオナは呆気に取られる。フィオナからすれば当たり前の事をしたまでなのだが。

 

 「せっかくだけど、私にこの部屋は……」

 

 と、フィオナは断ろうとしたがふと、ある考えが浮かぶ。

 

 (いや、ちょっと待って。もし、アンジュがモモカの身柄を引き取る事になったら、必然的にアンジュの部屋に住む事になる。そうなると、今ここで部屋を買わなかったらあの部屋に3人で住む事になるよね)

 

 元居た部屋は2人で暮らすのがやっとな狭い間取りだ。もう1台ベッドを入れるスペースなんかないし、3人だと手狭になってしまう。かといって、アンジュと別の部屋で暮らすなんて、彼女を心酔するモモカは絶対に了承しないだろう。そうでなくとも、監察官ではない『人間』であるモモカが1人部屋で暮らそうものなら、人間を快く思わないノーマ達に何されるかわからない。

 

 (なら、少し贅沢だけどこの部屋を買った方が良策、か)

 

 フィオナはそう考えると首を縦に振る。

 

 「わかったよ。ならジョゼ、この部屋を買わせてもらうよ」

 

 フィオナはポーチから札束を取り出すとジョゼに渡す。

 

 「ひぃ~、ふぅ~、みぃ~。うん、500万丁度あるね。毎度あり~。じゃあ、これはこの部屋の鍵だよ。もうこの部屋は君の物さ」

 

 ジョゼは鍵を渡すと立ち去ろうとした。が、すぐにフィオナの方に振り向いた。

 

 「あ、そうだ。1つだけ忠告しておくよ。フィオナ、この部屋を買ったから以上はヒルダの奴には気を付けた方がいいよ」

 

 「ヒルダに?どうして?」

 

 「あいつもこの部屋を欲しがっててさ、何度もボクに売れ!って、うるさかったんだよね」

 

 「どうして彼女に売ってあげなかったの?」

 

 「だってボク、あいつの事嫌いだもん。横柄な上にロザクリコンビを引き連れてデカい顔してるんだよ。ボクだって商人さ。レア物や掘り出し物は気に入った相手に売りたいと思うのは当然じゃん。だからあいつが部屋を売れって言ってきた時も足元見たりして、のらりくらりとかわしてたわけさ」

 

 どうやらヒルダはアンジュ同様に他のノーマ達からも嫌われている様だ。尤も、あの性格と立ち振る舞いでは致し方ないのだが。

 

 「だからあいつがその部屋を君が買ったって知ったら、絶対に絡んでくると思うから気を付けてね」

 

 「気を付けろって、一体どうしろと……」

 

 「そこでだ。君にこれをあげるよ」

 

 ジョゼはそう言うとフィオナに1通の封筒を手渡す。

 

 「これは?」

 

 「まあ、簡単に言えばヒルダの泣き所ってやつさ。それを見せれば、あいつは絶対に黙る筈さ。ああ、お金はいらないよ。この部屋を買ってくれたからサービスしとくよ。じゃあ、新しい部屋での生活を満喫してね。ハバナイスデイ~」

 

 そう言うと今度こそジョゼは去って行った。フィオナは彼女からもらった封筒を開けてみた。中には1枚の写真が入っていた。フィオナはそれを取り出し、写真を見てみた。

 

 「これって!?……なるほどね。流石は何でも屋。私も弱みを握られない様に気を付けないといけないね」

 

 フィオナはそう言うと写真をしまい、部屋に入った。途端にドッと疲れが出てきて、ベッドに倒れこんだ。

 

 「わぁ~、大きい上にフカフカだ~。やっぱ、私には贅沢だったかな?まあ、今更言っても仕方ないんだけどね」

 

 フィオナはそう言いつつも今後の事を考える。

 

 (たぶん。明後日にはモモカは口封じに処分される。アンジュの身の安全の事を考えたら、モモカを見捨てるべき……いや、アンジュは絶対にそんな事はしないし、私だってそれは嫌だ。それにモモカを助けなかったとしても、ジュリオは必ず別の手を打ってくるだろうな。やっぱりここはアンジュに任せるしかないか。あっ、そういえば私の荷物、まだアンジュの部屋に残したままだ。まあ、明日にでも取りに行けばいいよね)

 

 そう思い、フィオナは眠ろうと目を閉じる。だが、しばらくしてフィオナは目を覚ます。

 

 「ね、眠れない……いや、眠れるわけないじゃん!このベッド、フカフカすぎるよ!」

 

 哀しいかな、人は住んでた環境が変わるとなかなかそれに馴染めないものである。ましてや、これまで大きく柔らかいベッドとは無縁だったフィオナなら猶更だった。

 

 「う~、眠れないよぉ~。そうだ、何か飲んで気分を落ち着かせたらいいかも」

 

 フィオナは何かないかと部屋を探す。と、棚の中に瓶とグラスを見つける。瓶のラベルには葡萄の絵が描かれていた。

 

 「これなんだろ?グレープジュースかな?」

 

 フィオナはそれらを手に掴むとベッドのミニテーブルに置く。それからコルクを抜き、グラスに注ぐ。

 

 「へぇ~、綺麗な色だね」

 

 そして、フィオナはグラスのジュースを飲んだ。と、フィオナはある違和感を覚える。

 

 「ん?変だな?このジュース、甘くない……」

 

 と、甘くないジュースに疑問を感じながらも一気に飲み干す。が、突然フィオナの視界が大きく歪む。

 

 (あれ?私、どうしたんだろ。なんか頭がクラクラしてきた)

 

 「ふにゃあ」

 

 フィオナはそのままベッドに倒れこんだ。賢明な方ならもうお気づきかもしれないが、彼女が飲んだのはグレープジュースではなくワインだった。

 

 そして、フィオナは下戸だった。

 

 

 アルゼナルの廊下。ジョゼは1人、笑みを浮かべながら歩いていた。

 

 (フィオナ、か。話してみたけど結構面白い子だね。なんか、これからが楽しみになってきたよ。彼女がこのアルゼナルに何をもたらすのか……)

 

 「いや、もしかしたらこの世界に……かもしれないね」

 

 ジョゼは楽しそうに無人の廊下を自分の部屋を目指して歩いていくのだった。

 




毎度、毎度お待たせして申し訳ありません。多忙やモチベーション等でなかなか執筆が進みませんでした。けど、朗報が1つあります。

新しいノートパソコンを購入しました。ようやくVitaでの執筆から解放されました。今後はできるだけペースを上げていこうと思いますのでこれからも当作品を宜しくお願いします。それでは

PS 遅くなりましたがクロスアンジュのスパロボ参戦おめでとうございます。来年の発売が待ち遠しいです。自分としてはやはり種運命との絡みが楽しみです。

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