クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女   作:気まぐれキャンサー

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4ヶ月以上も更新がなく、本当に申し訳ありませんでした。連載は続けますのでこれからもよろしくお願いします。ではどうぞ


第18話 穏やかな島暮らし

 夕暮れ時、アンジュとフィオナの捜索に出ていた輸送機は燃料補給の為にアルゼナルへ戻ってきていた。シンギュラーポイントの発現地点を中心に捜索したが結局、見つかったのはアルテミスの僅かな残骸とカラドヴォルグだけだった。早く捜索を再開させる為に補給を急がせるメイ。エルシャはデッキで待っているとヒルダがやってくる。

 

 「やれやれ、精が出るねぇ。けど、なんだって痛姫とルーキーを助けようとしてんだか。エルシャ、アンタが好きなお節介かしら?」

 

 「仲間だもの、心配するのは当然でしょ。ヒルダちゃん達がアンジュちゃんを憎むのは分かるわ。

・・・機体を落としたくなるのもね」

 

 そう言うエルシャの顔は普段と違い、とても険しいものだった。

 

 「気付いてたのかい?ホント、普段はおっとりしている癖にこういう時は妙に鋭いよな。まるであのルーキーみたいで」

 

 「分からないわね。アンジュちゃんはともかく、どうしてフィオナちゃんまで憎むのかしら?あの子のお蔭でゾーラ隊長さんは助かったのに」

 

 「逆に聞くけど、何でアイツの事を信用できるんだよ?素性も知れないのに。記憶喪失って話もどこまで本当なんだか。とにかく、あたしはアイツも痛姫も認めない。絶対に!ゾーラを助けたかどうかなんて関係ない」

 

 ヒルダはそう吐き捨てる。

 

 「そう。ヒルダちゃんの言いたい事は分かったわ。でもやっぱり誰かが受け入れてあげなきゃ、2人共ひとりぼっちだと思うのよ。そんなの寂しいじゃない、同じノーマ同士なのに」

 

 「2人共?なに言ってんのさアンタ。痛姫はともかく、ルーキーの方は上手く隊に溶け込んでただろうが。ココなんか、すっかりアイツに懐いてやがるし」

 

 「そうね。でも、フィオナちゃんは心の底から私達と打ち解けているとは思えないのよね」

 

 「どういう意味だよ、それ?」

 

 「あの子は自分の事は全て、1人でどうにかしようとする節があるのよ。私にはまるで、あの子が本心を知られるのを恐れている様な気がするのよ」

 

 「はん。そりゃ、誰にも言えない後ろめたい事があるからじゃないのかい?」

 

 「そうかもしれない。けど、それでも私はあの子の本心を知りたいのよ。それを知った時こそ、あの子と本当の意味で仲間になれると思うのよ」

 

 エルシャは空を見ながらキリッと強い表情を浮かべていた。

 

 「それにね、アンジュちゃんを見ていると昔のヒルダちゃんにそっくりなのよね。だから、放っておけないのよ」

 

 「あたしがあの痛姫と?あんまナメた事を抜かすと殺すよ」

 

 ヒルダはキッと睨むとデッキから去っていくのだった。やがて補給も終わり、捜索が再開されるのだった。

 

 

 島に漂流した次の日。

 

 「うぅ~ん。おはよう、アンジュ」

 

 「おはよう、ふわぁぁ・・・」

 

 気持ちよく目が覚めたフィオナとは対照的にアンジュの方は寝不足気味だ。

 

 「どうしたのアンジュ?あんまり、寝れなかったの?」

 

 「・・・別になんでもないわよ」

 

 アンジュはそっぽを向くが内心では、

 

 (あなたの顔が近くて眠れなかったのよ!!)

 

 とフィオナに文句を言っていた。

 

 昨晩、1つしかないベッドにアンジュとフィオナは寄り添う様に寝ていたが、フィオナの寝顔を見たアンジュは赤面と緊張でなかなか眠れなかったのだ。アルゼナルでは同室の2人もベッドは別々だったので問題なかったが、1つのベッドを使うとなると当然、フィオナの顔を間近で見るわけでアンジュは落ち着かなかった。一方、フィオナは特に気にする事もなく普通に寝ていた。

 

 (なんでこの子は普通に眠れるのよ。私、そんなに魅力がない?って、何考えてんのよ!本当に私いったいどうしちゃったの?なんでフィオナにドキドキしなきゃいけないのよ)

 

 アンジュは首を振って考えを払う。と、フィオナの唇を見たアンジュは昨日の人工呼吸を思い出して再び顔を赤くする。

 

 「? アンジュ、顔が赤いけど大丈夫?」

 

 「!! へ、平気よ!私は元気だから」

 

 アンジュは逃げる様に外へ出て行った。フィオナは訳が分からず、キョトンと首を傾げていた。

 

 

 2人が砂浜に行くとタスクがヴィルキスの点検をしていた。

 

 「あ、2人共おはよう。フィオナはもう動いて平気なのか?」

 

 「うん、まだ少し痛むけど無茶な事をしなければ大丈夫だよ」

 

 「あなた、何しているの?まさか修理できるの?」

 

 「ああ、この島にはたまにバラバラになったパラメイルが流れ着くんだ。それを調べている内に何となくね。あ、フィオナ。そこのXレンチ取ってくれるかな」

 

 フィオナは道具箱にあったレンチをタスクに手渡す。それを見ていたアンジュは首を傾げる。

 

 「ねえ、タスク。どうしてマナを使わないの?マナを使えば簡単じゃない。それにどうしてパラメイルの事を知ってるの?あなたは一体、何者なの?」

 

 アンジュが訊ねるとタスクの手が止まる。タスクの表情はどこか暗そうだ。それを見たフィオナは助け舟を出す事にした。

 

 「まあまあ、アンジュ。気になるのは分かるけど、タスク君はタスク君だよ。今はそれでいいんじゃないかな」

 

 「そういう事じゃ・・・まあ、フィオナがそう言うなら」

 

 フィオナに宥められて、アンジュは気になりながらも納得するのだった。やがて、修理は一段落つく。

 

 「ざっと見てみたけど、出力系の回路が故障していた。これを直せば無線が回復して、仲間に救援を呼ぶ事ができるよ」

 

 「そっか。一先ずは安心だね、アンジュ」

 

 タスクの言葉を聞いたフィオナは喜んでいたが、アンジュは浮かなそうだ。

 

 「どうかしらね。フィオナはともかく、私なんて誰も探してなんかないわよ。むしろ、私がいなくなって清々しているんじゃないのかしら」

 

 そう言い自嘲する。フィオナは首を横に振るとアンジュにある物を見せる。

 

 「ねえ、アンジュ。これ、覚えている?」

 

 それはペロリーナのマスコットだった。一昨日、ヴィヴィアンが2人にあげた物だ。

 

 「それがどうしたのよ?」

 

 「これってさ、ヴィヴィアンがお揃いだって、くれた物だよね。ヒルダ達はともかく、少なくともヴィヴィアンはアンジュの事を仲間だと思っているんじゃないかな」

 

 「そんなの、あの子が能天気なお人好しなだけかもしれないじゃない」

 

 「まあ確かに。でも、自分が嫌いな人にお揃いのプレゼントなんていくらヴィヴィアンでもしないと思うよ」

 

 そう言われたアンジュは返す言葉もなかった。

 

 「あ、そうだフィオナ。森にある君のアルテミスも見たんだけどさ。あれはもう全体がボロボロで本格的な修理でなければ直せないと思う。少なくとも此処では無理だ」

 

 「そう・・・うん、ありがとね。タスク君」

 

 フィオナは少々落胆しつつもタスクにお礼を言うのだった。

 

 

 翌日、フィオナは焚き木に使う為の木の枝を集めていた。ちなみにアンジュとタスクは魚釣りをしているところだ。

 

 「よし、大体こんだけ集まればいいかな・・・って、ん?何だろう、あれ?」

 

 フィオナが木の枝を集めていると崖になっている場所に出た。そして、そこにはライフル銃が地面に刺さっており、更にはヘルメットが掛けられていた。

 

 「なんだろう、まるで墓標みたい・・・」

 

 フィオナはずっと眺めていた。ふと、辺りを見渡してみると木の扉があった。気になったフィオナは扉を開けてみる。すると中には布が掛かった機体らしき物があった。捲ってみるとそれは、

 

 「これ、まるでパラメイルみたい・・・」

 

 果たしてそれはパラメイルに似た乗り物だった。フィオナは思わず目を丸くする。と、コックピットを見てみるとそこには1枚の写真があった。

 

 「親子の写真?中央に写ってるこの子って、タスク君・・・だよね」

 

 フィオナは写真を手に取り眺める。そして、フィオナは思い出す。

 

 (そうだ!この2人はタスク君の両親だ。名前は確か、イシュトヴァーンさんとバネッサさんだっけ)

 

 イシュトヴァーン、そしてバネッサ。2人はタスクの両親であり、戦士だった。命をかけて戦い、そして死んでいった。

 

 (そう、2人は戦ったんだ。この世界を、マナを生み出した男、エンブリヲと!)

 

 エンブリヲ。フィオナはこの男の事を映像で知ったが今でも思い出す度、彼女の心には怒りが迸る。自らを調律者と名乗り、世界を造り、マナを与え、ノーマを地獄へ叩き落した全ての元凶。この男の為にノーマも、そしてドラゴンも決して望まぬ戦いを強いられているのだ。

 

 (もっと強くならなくちゃ。この男からみんなを守るためにも!)

 

 フィオナの顔が思わず強張る。すると、

 

 「そこで何をしている!?」

 

 後ろから声が聞こえたので振り返るとそこにいたのはタスクだった。ハッとしたフィオナは慌てて、写真を元の場所に戻す。

 

 「タ、タスク君!?どうしたの、こんな所で?」

 

 「それはこっちのセリフだよ。君の方こそ此処で一体何を?」

 

 「ごめんなさい、扉があったから何があるのか気になって」

 

 「そうか、それならいいんだ」

 

 タスクは布を機体に掛け直すとフィオナと一緒に外に出るのだった。

 

 

 フィオナとタスクは住処への帰路についていた。

 

 「フィオナ。あの中にあった機体、見たか?」

 

 「うん、なんかパラメイルみたいだった」

 

 タスクはどこかぎこちなさそうだったが、やがて意を決したかの様に口を出す。

 

 「なあ、フィオナ。もしもの話だけどさ。使命や義務を全て放り出して逃げる事は罪だと思うか?」

 

 「どうしたの、突然?」

 

 「ああ、いや。深い意味はないんだ。君はどう思うか聞きたかっただけなんだ」

 

 それを聞いたフィオナは悟る。

 

 (そうか。タスク君はまだ迷ってるんだ。エンブリヲと戦い続けるかどうかを)

 

 しばらく黙考してからフィオナは答える。

 

 「その使命や義務がどれだけ大事なものかは私には分からない。でも1番大事なのは後悔しない事、なんじゃないかな」

 

 「後悔をしない?」

 

 「うん。後悔はいつまでも自分を苦しめるだけだから。反省はしても後悔はしちゃいけないと思う。だからさ、そうならない為にも一生懸命悩んで、考えてみるべきなんじゃないかな。使命や義務を果たす道を選んでも、それを放棄して逃げる道を選んでも、深く考えて後悔しないと決めた事なら私はどっちも認めるよ」

 

 フィオナの言葉にタスクは大きく目を見開く。

 

 「あっ!ご、ごめんね。なんか私、偉そうな事言ったみたいで・・・」

 

 「いや、そんな事ないよ。とっても心に響いたよ。後悔はしないか。フィオナ、君って本当に強いんだな」

 

 「ううん、私は強くなんかないよ。今だって、思った事を言っただけだから」

 

 フィオナの表情が曇る。

 

 (そうだ。もし私が強かったらゾーラ隊長だってあんな事にはならなかったんだ)

 

 フィオナは心の中で悔しさを噛み締めるのだった。

 

 「あ。そういえばアンジュは今、何をしているの」

 

 話題を変えようとフィオナはタスクに訊ねる。

 

 「ああ、アンジュなら「料理をする」と言って洞窟に行ったけど」

 

 「そっか、料理をねぇ・・・って、え?料理?」

 

 それを聞いたフィオナの顔はどんどん青褪めていく。

 

 「フィオナ?顔が真っ青だけどどうかしたのか?」

 

 タスクが不思議そうに聞くとフィオナは慌てる。

 

 「戻ろう、タスク君!アンジュに料理をさせちゃいけないよ!!」

 

 「お、おい。どうしたんだよ、急に!?」

 

 「とにかく急いで!!」

 

 2人は洞窟へと急ぐ。洞窟に着くとそこには鍋をかき回して料理を作っているアンジュがいた。

 

 「フィオナにタスク。もう戻ってきたんだ」

 

 「ねえ、アンジュ・・・何してるの?」

 

 フィオナは恐る恐るアンジュに訊ねる

 

 「何って、見て分からない?獲った魚や海蛇を使ってスープを作ってるのよ。待ってて、もうすぐ出来上がるから」

 

 アンジュは鍋のスープをかき回す。ところが急にスープがブクブクと大きな泡を立ち始める。嫌な予感がしたタスクはアンジュを鍋の前から遠ざける。途端、スープは爆発を起こして辺りに飛び散る。幸い、フィオナ達にはかからなかったが鍋と釜戸は悲惨な有様だった。

 

 「あ~、遅かった。だからアンジュに料理をさせちゃいけないって・・・」

 

 「あいたた・・・ちょっと、フィオナ。私の料理の腕を信用してないの?」

 

 「信用してないって、アンジュ。前にアルゼナルの食堂で料理を作った時の事を忘れたの?」

 

 実はアンジュは以前、フィオナに料理を振舞った事があったのだがその結果は散々な物だった。フィオナと偶々やってきたヴィヴィアンがその料理を口にした途端、余りの不味さに2人とも気絶してしまい数日間、マギーのお世話になる羽目になってしまったのだ。

 

 「あの時は本当に大変だったんだよ。暫く食欲が全く出なかったし、あの元気印のヴィヴィアンがぐったりするし、マギー先生に栄養剤とか言ってすごく苦い薬を飲まされるし、散々だったよ」

 

 「ちょ、ちょっと失敗しただけじゃない!あなたもヴィヴィアンも大げさなのよ!」

 

 「大げさだと思うならちゃんと味見してよ、もう」

 

 尤も、アンジュに料理をさせた自分にも責任はあったとフィオナは思っていた。そもそも皇女だったアンジュが料理はおろか、家事なんてやった事などある筈がない。

 

 そんな子に料理なんてさせたらどうなるか?その考えに至らなかった自分を呪ったものだ。天は二物を与えずとはよくいったものだが正にその通りだった。

 

 「そんな事より2人とも大丈夫・・・って、わっ!」

 

 「ア、アンジュ・・・そろそろどいてくれないかな?」

 

 「え?って、なぁ!?」

 

 タスクはまたしてもアンジュの股間に顔を突っ込む様に倒れていた。アンジュの顔は羞恥で赤くなり、フィオナも思わず赤面するのだった。

 

 「な、なんでアンタはいつもいつも~~~!!!」

 

 「わわっ!アンジュ、銃は流石にやばいって!タスク君も悪気はなかったんだし、落ち着いて!」

 

 タスクを撃とうとするアンジュをフィオナが必死に止める。何とかアンジュを宥めたフィオナは、

 

 「タスクくん、大丈夫?・・・きゃっ!」

 

 タスクを起こそうと彼に近付いた途端、零れていたスープに足が滑り倒れる。するとタスクの顔がフィオナの胸に押し潰される形になるのだった。

 

 「アンタ達・・・何やってんの?」

 

 それを見たアンジュの顔は青筋を浮かべて口端がヒクヒクと痙攣していた。フィオナの顔は真っ赤になりそして、

 

 「キャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 パシーン

 

 またしても彼女の悲鳴と共に小気味良い音が辺りに響くのだった。

 

 「あれ、なんか前にもこんな事なかったっけ?」

 

 

 騒がしいながらも戦いのない穏やかな日々を送るアンジュとフィオナ。だが運命は彼女達の束の間の平穏すら許さない。戦いの足音は彼女達に静かに忍び寄るのだった。

 


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