クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女   作:気まぐれキャンサー

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また前回から間が開いてしまい申し訳ありません。できるだけ、ペースを上げて行きたいと思っています。ではどうぞ


第14話 反逆者と苦労人 Ⅱ

 ロザリーはロッカールームでアンジュに切られたライダースーツを修繕していたが、

 

 「痛っ!」

 

 縫い針を指に刺してしまい、血が出る。裁縫はあまり得意ではない様だ。新しい物を買えればいいのだが、アンジュやフィオナと違って稼ぎの少ない彼女にそんな余裕は無かった。

 

 「クソッ!何もかも、あのアマ共の所為だ。今に見てろよ、絶対にギャフンと言わせてやるからな!」

 

 ロザリーはアンジュとフィオナに一泡吹かしてやろうと言わんばかりに熱くなる。すると、

 

 「ねえ、ロザリー。アンジュはともかく、フィオナも標的にするの?」

 

 ロザリーにそう尋ねるクリスはあまり乗り気ではなさそうだ。

 

 「どうしたんだよ、クリス?なんか問題でもあるのか?」

 

 ロザリーが聞くとクリスは静かに答える。

 

 「アンジュを痛い目に遭わせるのは賛成だよ。でも、フィオナまで狙う必要があるの?確かにアンジュと同じ部屋だし、アンジュの肩を持つし、私達よりも多く報酬を稼ぐけどさ。あの子のお蔭でゾーラお姉様は助かったんだよ。それに、私も助けてもらったし・・・」

 

 クリスは陰気で根に持つ性格ではあるが、恩がある者に仇で返す様な真似をする事には流石に抵抗があった。

 

 「何を言ってんだよクリス!確かにお姉様を助けてもらったけど、それとこれは別だろ!大体、アイツがジャスミン・モールであたしにした事、忘れたのか!?」

 

 ロザリーはジャスミン・モールでの一件を切り出す。ロザリーはジャスミン・モールでフィオナをからかったのだが、逆に返り討ちに遭い、恥を掻かされた事があった。※第7話参照

 

 「あれの所為で他の隊の新兵まであたしの事を馬鹿にする様になったんだ。だから、あいつも痛姫と一緒に目に物を見せてやらねえと気がすまないんだ!」

 

 すっかり熱くなっているロザリーにクリスは何も言えなかった。

 

 

 その日の夜、シャワールームの物陰でロザリーとクリスが息を潜めていた。ちなみにロザリーの顔には青アザがあるが、これは昼に食堂でアンジュに料理の入った食器をぶつけようとしたが簡単に避けられた上に前にいた別の気の強そうなノーマに当たってしまい、怒った彼女に殴られたのだ。

 

 「いいか、どっちかが来てサウナに入ったらやるぞ。閉じ込めて、脱水症状にしてやるかんな」

 

 「ロザリー、それは流石に命に関わるんじゃ・・・」

 

 「なぁに、20~30分位したら出してやるさ。暑さでヘロヘロ顔になってたら笑い飛ばしてやろうぜ」

 

 2人が密談していると誰かがシャワールームに入ってきた。2人が慌ててその人物を見てみると後姿だけだったが白色のロングヘアーの女性だった。

 

 「あの白い髪、間違いねえ。フィオナだ!お、あいつサウナに入ったぞ。行くぞ、クリス!」

 

 「う、うん」

 

 2人はモップを持つとサウナルームのドアにつっかえ棒の様に掛ける。やがて、サウナに入っていた女性が出ようとしたがモップが掛けられていて開けられない。異常に気付いた女性がドアを叩く。

 

 「あーはっはっは。ざまぁねえな、ルーキー!暑いか?暑いだろ!汗を沢山流してシワシワになりやがれ!!」

 

 ロザリーはサウナルームの前で勝ち誇っていた。すると誰かがシャワールームに入ってきた。クリスがその人物を見ると驚いた顔になり、

 

 「ね、ねえ、ロザリー・・・」

 

 「何だよ、クリス。今、いい所なんだからよ。どうしても出してほしけりゃ、『開けてください、ロザリー様』って・・・」

 

 「ロザリー!!」

 

 「だからクリス、何だよ・・・って、え?」

 

 クリスにせっつかれてロザリーが視線を逸らすと、

 

 「ねえ、2人とも何やっているの?」

 

 果たしてそこにいたのはフィオナだった。

 

 「は?フィ、フィオナ?じゃあ、この中に入っているのは・・・」

 

 ロザリーが恐る恐るサウナを見てみると、

 

 ドォーーーン!!

 

 サウナルームのドアが吹き飛ぶ。そしてそこにいたのは、

 

 「何をしやがんだ、てめぇ・・・」

 

 「ひっ、あ、アンタは・・・」

 

 ロザリーが彼女の顔を見ると怯える。それはロザリーが昼に食器をぶつけたノーマ、第二中隊のサマンサだった。

 

 「てめえか!オレをサウナに閉じ込めたのは!昼間は食器をぶつけて、今度はサウナに監禁ってか?てめえ、そんなにオレの事が嫌いなのか、そうか、そうか」

 

 サマンサはロザリーの髪を掴んで恫喝する。すると、

 

 「あの、サマンサ。どうして、私と同じ髪色に?」

 

 フィオナがサマンサに尋ねてみる。

 

 「ああ、これか。実は今日、仲間内でポーカーをやったんだけどよ。オレ、大負けして最下位になっちまったんだよ。んで1週間、お前と同じ髪色で過ごせって罰ゲームを出されてさ。オレの髪を染髪料で白く染めやがったんだよ。おかげで夕食の時も他の連中にジロジロと見られて、落ち着かなかったぜ」

 

 「あはは、それは大変だったね」

 

 「まあな。けど、それよりも今は」

 

 サマンサは掴んでいたロザリーの方に顔を向けると、

 

 「ロザリー、ちと面を貸せや。これからCQC(近接戦闘)に付き合ってくれよ。今、サウナでいっぱい汗を流したけど、ちょっと運動でも汗を流したくなったんだ」

 

 「いや、あの、それは・・・」

 

 「つべこべ言ってねえで、一緒に来いやぁ!!」

 

 サマンサはロザリーをロッカールームの方へと引っ張って行く。

 

 その後、ロザリーは顔が原型を留めないほどにボコボコにされて帰ってきたとクリスは後に語った。

 

 

 数日後、アンジュとフィオナはシミュレータールームで訓練を行っていた。やがて、フィオナが訓練を終える。相変わらずのハイスコアだ。シミュレーターを出て、置いてあるタオルで汗を拭いてからペットボトルの水を飲もうとした。その時だった。

 

 バァッ!

 

 物音がした方に顔を向けるとそこにはロザリーにキスをしているアンジュがいた。アンジュはそれだけすると何も言わずに去って行った。キスされたロザリーは何かを飲み込む様な仕種をすると、

 

 「て、てめぇ何しやが・・・」

 

 アンジュに文句を言おうとしたが突然、顔色を変えてお腹を押さえると一目散にトイレへと向かって行った。それを見ていたフィオナはまさかと思い、ペットボトルの水に舌の先を付けてみる。

 

 「っ!」

 

 思った通り水から変な味がした為、フィオナはすぐに口を腕で拭った。恐らく、自分とアンジュのペットボトルをロザリーとクリスが下剤入りのとすり替えたのだろう。それに気付いたアンジュがロザリーにその水を口移しで飲ませたのだ。フィオナはペットボトルを持って残っていたクリスの方へと向かう。

 

 「ねえ、クリス?」

 

 「ひっ!?」

 

 フィオナに声を掛けられたクリスはあからさまに怯えた顔になる。それを見たフィオナは呆れながらも言葉を続ける。

 

 「さっき、ロザリーがトイレに駆け込んでいたけど何かあったの?それにさ、私の水から変な味がしたんだけど、どういう事かな?」

 

 フィオナは黒い笑みを浮かべながらペットボトルをクリスに見せる。

 

 「そ、それは・・・」

 

 クリスの顔から冷や汗が流れる。フィオナはクリスのお尻に手を伸ばすと、

 

 「めっ!」

 

 と言って思いっきり抓った。

 

 「い、痛ああああ!!!」

 

 シミュレータールームにクリスの悲鳴が響き渡るのだった。

 

 

 その夜、ロザリーとクリスはロッカールームで着替えをしようとしていた。

 

 「くそっ!あの腐れアマ公ども!絶対に目に物を見せてやるかんな!」

 

 「ねえ、ロザリー。もう止めない?これ以上やってもまた返り討ちに遭うだけだよ・・・」

 

 ロザリーはやる気満々だったがクリスの方は諦めムードだった。フィオナに抓られたお尻がまだ痛むのだろう、手で擦っていた。

 

 「何言ってやがんだ!あたしは諦めねえぞ!あの2人をギャフンと言わせるまではな!!」

 

 あれだけ酷い目に遭ったにも関わらず、まだ懲りないのだからある意味で逞しい。尤も、その情熱を別の事へ向けられれば良いのだが。

 

 「そうは言ってもさ、何か他に手はあるの?」

 

 「うっ。それなんだよな、どうしたもんか・・・」

 

 そう言いながらロザリーがふと近くにあった洗濯籠の中を見てみると、

 

 「うわっ。なんだよ、この下着。めちゃくちゃ派手じゃねえか」

 

 そこには明らかに勝負下着といえる様な布地が少ない紐パンが置かれていた。

 

 「うん、凄く派手だね。誰のなんだろう?」

 

 クリスもまた下着を見て目を丸くしていた。すると、

 

 「そうだ!なあ、クリス。これ位派手な下着を買ってさ、あの2人が履いてる物だ、つって廊下に張り出してみないか?」

 

 悪巧みを思いついたロザリーがクリスに提案する。

 

 「・・・私達に下着を調達するお金があるの?」

 

 「うっ!ねえよな・・・クソッ!」

 

 折角のアイデアも自分達の経済力が原因ですぐに頓挫した。それから、ロザリーは下着を取ってまじまじと見つめる。

 

 「しっかし、本当に派手だよな。露出度高すぎだろコレ。誰のかは知んないけど、こんなモン履く奴の気が知れねえぜ」

 

 「それはいえてる。正に“ブス雌豚の色ボケビッチパンツ”、だね」

 

 「お、クリス上手い事を言うじゃねえか!こんなのを履いてる位なんだ。頭の中がピンクなんだぜ、絶対そうだ」

 

 今まで失敗したストレスが溜まっていたのか、下着を取って好き放題言う2人。すると、

 

 「それはどういう意味かしら」

 

 若干、低い声が後ろから聞こえてきたので振り返ってみると、

 

 「はぁ~い。髪も頭の中もピンクなブス雌豚の色ボケビッチ、で~す♪」

 

 そこには手をポキポキ鳴らしながら、殺す笑みを浮かべていたエルシャが仁王立ちしていた。どうやら下着は彼女の物だった様だ。ロザリーとクリスは慌てて逃げようとしたがあっさりエルシャに捕まり、奥へと連れて行かれる。そして、

 

 「エルシャ・卍固め!」

 

 「ぎゃあ!」

 

 「エルシャ・ドライバー!」

 

 「いたあ!」

 

 「エルシャ・ブレンバスター!!」

 

 『ご、ごめんなさいいい!!!』

 

 次々とプロレス技を掛けられる。余談だがエルシャは母性的な印象とは裏腹に、アルゼナルのプロレス大会で優勝した経験のある猛者だった。

 

 「・・・ご愁傷様」

 

 シャワールームから出てきたフィオナは地獄絵図が展開されているであろう一角を見て合掌した。シャワールームから一部始終を見ていたフィオナは2人がエルシャに奥に連れてかれるのを見たのを確認すると同時に出たのだ。すると、

 

 「フィオナ、なんか騒がしいけど何かあったの?」

 

 同じくシャワールームにいたアンジュが中から出てきて、フィオナに訊ねる。

 

 「強いて言うなら、哀れな子羊達が女神の逆鱗に触れてしまった・・・、って感じかな?」

 

 「あっそう」

 

 それだけ聞くとアンジュは興味無さそうに自分のロッカーへと向かい、制服を取り出し着替える。が、流石に限界だったのか胸の部分が破れてしまう。

 

 「アンジュ、新しいの買った方がいいんじゃないかな?」

 

 「くしゅん・・・そうするわ」

 

 アンジュはくしゃみをしてからそう答えるのだった。

 




独自設定を幾つか加えましたが楽しんでもらえたなら幸いです。それでは

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