クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女   作:気まぐれキャンサー

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体調不良とモチベーション不足でなかなか更新できませんでした。ではどうぞ。


第11話 防人達の墓標

 フィオナ達はジルに連れられ、アルゼナルの共同墓地に来ていた。アルゼナルで戦死したノーマ達は此処に埋葬される。

 

 此処へ来る途中で聞いた事なのだが、アンジュが書いた嘆願書は全て受け取りを拒否されて戻ってきたとの事。更にミスルギ皇国は消滅したらしく、ジルは皇女であったアンジュがノーマである事が発覚した為、国民達が激怒し反乱を起こしたのではないかと推測していた。

 

 「なんなのですか、此処は?」

 

 共同墓地を見たアンジュはジルに訊ねる。

 

 「目の前にある墓石に刻まれている名前を見てみるがいい」

 

 アンジュが目の前にある墓石を見てみる。そこには、【ナオミ・アカツキ】と刻まれていた。フィオナも自分の前にある墓石を見てみる。墓石には【ジェシカ・バルザック】と刻まれていた。何処かで聞いた事のある名前だと思ったフィオナだったが、ふと思い出す。

 

 『察しがいいわね。そう、前の持ち主の名前よ。尤も、2人とも死んじゃったけどね』

 

 そう、自分達が着ているライダースーツの前の持ち主の名前だった。

 

 「おや、あんた達。来ていたのかい?」

 

 声がした方に顔を向けるとそこには、ジャスミンがバルカンと一緒にいた。彼女の手には掃除用具が入ったバケツがあった。

 

 「ジャスミンさん、こんにちわ。あの、何をしているんですか?」

 

 「墓石の掃除さね。何もしないと墓石も汚れてしまうからね。月に1度はこうして掃除しているのさ。パラメイルがノーマの棺桶なら、この墓地は死んだノーマ達の家だからね。ところで墓石に刻まれた名前を見たかい?いい名前だろ。アルゼナルの子達はね、死んだ時に初めて親がくれた本当の名前を取り戻せるのさ」

 

 ジャスミンはしみじみと語る。フィオナは再び墓石を見てみる。

 

 (親がくれた本当の名前か。でも、私は自分の本名なんて知らないから死んでもきっと、【フィオナ】と刻まれるんだろうな・・・)

 

 フィオナが自嘲気味に思っていると隣の墓石に目が入る。それには【アン・エルガー】と刻まれていた。と、ジャスミンがフィオナの隣へやってくる。

 

 「アン、か。その子はね、サリアとは親友であり、良きライバルでもあったんだ。訓練ではいつも2人で張り合って、一緒に畑で野菜を作ったりもしたんだ。勝気で男勝りなのが玉にキズだけど、友達想いのいい子だったよ。亡くなって、もう4年になるけどね」

 

 ジャスミンの話を聞いたフィオナは彼女達の墓石の前で十字を切ると、両手を組んで祈るのだった。

 

 (みんな、どうか天国で私達を見守っていてね)

 

 それを見たジャスミンは優しそうな笑みを浮かべる。

 

 「そういえば、フィオナ。アンタ、ゾーラや新兵達を助けたんだってね。ありがとうよ。アンタのお蔭で此処の墓石が増えずに済んだよ」

 

 「いえ、私はやろうと思った事をしただけですから」

 

ジャスミンに感謝されてフィオナは謙虚に答える。すると、

 

 「あ、あの。フィオナさん」

 

 声がした方に顔を向けるとそこにはココとミランダがいた。

 

 「ココちゃん、ミランダちゃん、どうかしたの?」

 

 「どうかしたのって、フィオナが私達をつれて来てって司令に頼んだんじゃない」

 

 「・・・そうだったね。ねえ、ココちゃん。私、戦闘の時に言ったよね。『戦いが終わったら話したい事がある』ってさ」

 

 「は、はい・・・」

 

 真剣な顔をしたフィオナにココは緊張する。するとフィオナはココに近づくと、

 

 パシン

 

 彼女の頬を平手で叩く。突然の事にココだけではなく、アンジュ達も唖然となる。

 

 「まず、これは命令を無視してアンジュについて行こうとした分。そしてこれはその為に私やみんなに迷惑を掛けた分」

 

 パシン

 

 フィオナはそう言うとココのもう片方の頬も叩く。両方の頬を叩かれたココの顔は赤く腫れる。

 

 「フィ、フィオナさん、なんで・・・」

 

 「ちょっと、フィオナ!ココに何するのよ!!」

 

 ココは泣きそうな顔になり、ミランダは激昂してココを庇う様にフィオナの前に立ち塞がる。

 

 「なんで?理由はさっき言ったと思うけど、聞いてなかったの?」

 

 「聞いてたよ!でも、どうしてココが叩かれなくちゃいけないの!?先に敵前逃亡しようとしたのはアンジュじゃない!!」

 

 ミランダは怒って、フィオナに喰って掛かる。

 

 「確かに隊列を離れて逃亡しようとしたのはアンジュだよ。でも、それについて行こうとしたココちゃんに責任が無いと思うの?」

 

 「そ、それは・・・けど、それは仕方ないじゃない。私もココも前の戦闘が初陣だったんだよ。それにココはまだ12歳なんだよ。上手くできないのは・・・」

 

 「だから何だって言うの?」

 

 静かだが有無を言わせないフィオナの声にミランダは押し黙り、ココは怯える。

 

 「初陣だから?12歳だから?だから仕方ない?甘えないで。初めてだろうが、12歳の子供だろうがあなた達はメイルライダーなんだよ。ドラゴンと命を掛けて戦う、ね。そんな中途半端な覚悟しかないならパラメイルから降りなさい。すぐに命を落とす事になるから」

 

 フィオナにピシャリと言われ、ミランダは何も言い返せなかった。それからフィオナは彼女の後ろにいたココの元へ行く。

 

 「ココちゃん、痛かったよね。でもあの時、もし私があなたを機体から離すのが少しでも遅れていたらどうなっていたと思う?」

 

 ココはハッとなり、記憶に蘇った光景に顔を青褪める。自分の機体がドラゴンの光線に貫かれるのを。もしあの時、自分が乗ったまま光線に貫かれていたら?

 

 「あっ、あっ、あっ・・・」

 

 漸く理解したココは、自分の体を抱きしめながら震える。フィオナはそんなココを抱きしめると、

 

 「やっと分かったみたいだね。そう、もしかしたらこの墓地にあなたの名前が刻まれた墓石が置かれていたかもしれないんだよ。だから忘れないで。今日、感じた痛みと恐怖を。もう2度と勝手な事はしないで」

 

 ココの背中を撫でながら言うのだった。

 

 「う、うわああああああああああん!!」

 

 ココはフィオナの胸に顔を埋めると声を上げ、泣いた。彼女の泣き声が墓地に響き渡るのだった。

 

 

 やがて泣き疲れたココはミランダに付き添われ、墓地から去って行った。ジルによるとココ、ミランダは命令違反で1日の自室謹慎の処分が下ったの事だ。やはりフィオナがそうさせたといっても、実際にやった2人も同罪といわざる負えなかった。

 

 「私は、これからどうなるんですか?一体、どうしたらいいのですか?」

 

 今までずっと黙っていたアンジュが重い口を開く。それにジルが答える。

 

 「此処に眠っている子達と同じ様に死ぬまでドラゴンと戦い、倒し続ける。以上だ」

 

 「あ、あんな化け物とこれから先もずっと戦っていかなければならないのですか?どうしてそんな・・・」

 

 戸惑うアンジュに今度はフィオナが答える。

 

 「それがノーマに許されたこの世界で唯一の生き方なの。私達は人間じゃない。マナの、人間の世界を守る為の防人なのよ」

 

 「さき、もり?」

 

 「災いから人々を守る者という意味さ。まあ、もっと分かりやすくいえば奴隷、生贄、人柱といった所かねえ。此処でノーマの子達がドラゴンを倒しているからこそ、マナの世界は平和を謳歌できているのさ」

 

 ジャスミンがフィオナの説明を補足する様に言う。

 

 「ノ、ノーマが私達の世界を!?」

 

 「そうだ。この世界の平和は誰にも知られず、感謝されずに死んでいったノーマ達が守っていたんだ。そして、今度はお前がそれをやるんだアンジュ」

 

 「なんでそんな・・・今はただ一時、マナが使えないだけではないですか。それだけでこんな地獄みたいな所に放り込まれるなんて、余りにも理不尽です!!」

 

 ジルの言葉を聞いたアンジュは激昂するがフィオナは静かに告げる。

 

 「そう、理不尽なの。余りにも無慈悲で残酷なほどにね。でも、それがこの世界のルールなんだよ。それはアンジュが1番よく分かっているんじゃないのかな?」

 

 そう言われたアンジュは思い出す。洗礼の儀の前日、セーラという名の赤子のノーマの母親に言った言葉を。

 

 『ノーマは本能のみで生きる、暴力的で反社会的な化け物。今すぐこの世界から隔離しなければならないのです!』

 

 「アンジュ、前に言ったよね。マナの世界は暴力も差別も格差も無い光に満ち溢れた世界だって。でも、それはあくまでもマナを使える人間にとっては、なの。私達ノーマにとってはこの世界は生き地獄そのものなんだよ。マナの世界では差別、迫害され、此処アルゼナルではドラゴンと戦わされる。これを理不尽といわずしてなんだって話だよね、ホントに。でもこれが現実である以上、私達はそれを受け入れなければいけないの。明日という日を迎える為にはね」

 

 アンジュに諭す様に言うフィオナだったが内心は彼女自身、強い怒りが迸っていた。マナというシステムを作り出し、それを行使できない者を迫害する社会土壌を築いた、この世界の創造主である男に対して。ドラゴンと戦わされるのも、結局はその男の意思によるものなのだから。

 

 「し、知りません、私はそんな事。だって、だって私は・・・」

 

 「ノーマではない、と?なら、お前はなんだ!?皇女でもなく、マナも無い。義務も果たさず敵前逃亡、仲間を危険に晒し、挙句にそれを他の仲間に尻拭いさせたお前は一体、なんなんだ!!」

 

 ジルはアンジュの胸倉を掴み上げ、吠える。しかし、アンジュには最早言い返す気力も残ってはいなかった。ただ、ただ、悲しみに暮れるだけだった。と、向こうから誰かがやってくる。

 

 「司令、取り逃したドラゴンが発見されたとの報告が来ました」

 

 果たしてそれは、サリアだった。どうやらドラゴンが見つかった様である。

 

 「そうか。アンジュ、フィオナ、出撃だ。行けるな?」

 

 「イエス、マム!」

 

 フィオナは応えたがアンジュは俯いたままだった。

 

 「アンジュ、いつまで呆けているつもりだ。この世界は不平等で理不尽だ。だから殺すか死ぬか、この2つしかない。死んでいった仲間達の分もドラゴンを殺せ!それが出来ないというなら死ね!!」

 

 「なら、殺してください。こんなの辛過ぎ「ダメだよ」・・・え?」

 

 アンジュの言葉が途中で遮られる。声の主はフィオナだった。フィオナはアンジュの肩を掴むと自分の方に顔を向けさせる。

 

 「それは言っちゃダメだよ。確かにこの世界は私達ノーマにとっては地獄だよ。でも生きるのを諦めちゃダメ。この墓で眠っている子達だって、本当はもっとずっと生きていたかった筈だよ。だからアンジュは生きなきゃダメ。この子達の為にも」

 

 フィオナは再びアンジュに諭すように言う。

 

 「そうだ。それでも死にたいというなら戦って死ね。それがお前の義務だ。お前には自殺する事さえも許されないんだ」

 

 ジルもフィオナに付随する様に言う。

 

 「あの、司令。フィオナはともかく、アンジュのパラメイルはありませんがどうするのですか?」

 

 サリアがそう訊ねるとジルは不敵な笑みを浮かべる。

 

 「あるだろう。あの機体が、さ」

 

 それを聞いたジャスミンも笑みを浮かべるがサリアは驚く。

 

 「まさか、あれをアンジュに!?」

 

 「そうだ、行くぞアンジュ。フィオナもついて来い」

 

 そう言うとジルはフィオナ達をある場所へと連れて行った。そこはパラメイルの格納庫だった。そして、そこには布で覆い被された1機のパラメイルがあった。

 

 「メイ、起動させる事は可能か?」

 

 「もちろん!20分もあれば余裕だよ」

 

 メイはそう言うと機体の方へ向かって行った。やがて機体がライトアップされる。

 

 「! これって!?」

 

 機体を見たフィオナは目を見開く。

 

 「驚いただろう?お前のアルテミスにそっくりだからな。かなり旧式の機体でな。エンジンが古い上に操作や制御がかなり難しいと来た。だが、今のアンジュにはおあつらえ向きの機体だろう。名は“ヴィルキス”。アンジュ、これに乗って戦うんだ」

 

 ジルはアンジュに告げると彼女はふらふらとした足取りでヴィルキスの元へ向かう。

 

 「これで死ねるのですね。この地獄から解放されるのですね・・・」

 

 うわ言の様に呟くアンジュをフィオナは心配そうに見ていた。と、

 

 「ジル、どうして?この機体は・・・」

 

 声がした方を向くとサリアがジルに問い詰めていた。

 

 「司令官の命令に従えないのなら処分を受けてもらうまでだ。アンジュ達、新兵みたいになりたいか?」

 

 「そ、それは・・・」

 

 「さあ、出撃だ。隊長としての初陣、期待しているぞ。死ぬなよ、サリア」

 

 「イエス、マム・・・」

 

 ジルはサリアに諭すように言うと去っていった。サリアは従ったものの、どこか不満そうだ。

 

 (サリア、やっぱりヴィルキスに乗れなくて悔しいんだ。でもね、サリア。あなたはいくらがんばってもヴィルキスには乗れないんだよ。あなたはアンジュと違って、この機体を乗りこなす為の“鍵”を1つも持っていないから・・・)

 

 そんなサリアをフィオナは悲しそうに見ていた。

 

 

 出撃時間になり、ゾーラ隊からサリア隊と名称を変えた第1中隊が出撃する。ちなみに今回はココとミランダは謹慎の為、8人で出撃となる。

 

 「サリア隊、発進します!!」

 

 サリアのアーキバスが発進したのを皮切りに第一中隊の機体が次々と発進していく。

 

 「サリア隊、フィオナ機、行きます!!」

 

 フィオナもアルテミスを発進させる。そして最後にアンジュが乗ったヴィルキスが発進するのだった。

 




次回はドラゴンとの決着。そしてあのイベントです。

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