クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女   作:気まぐれキャンサー

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まつろわぬ魂のラストです。あのイベントもあります。ではどうぞ


第8話 まつろわぬ魂 Ⅳ

 夕食を終えたフィオナは部屋へと戻ってきた。そこにアンジュの姿はなかった。おそらく書いた嘆願書を携えて、司令部に行ったのだろう。ジルとエマの呆れる顔が目に浮かぶようだ。

 

 「まあ、1人で考えるにはちょうどいいかもね」

 

 フィオナはそう言うと自分のベッドに座り、思案を行う。

 

 (3人を死なせない為にはアンジュに敵前逃亡させないのが1番だけど、まあムリだろうね。あの様子じゃ間違いなくやるだろうな・・・)

 

 外に出たがっている者ほど目の前にその手段があれば、その誘惑には勝てないものである。

 

 (なら、アンジュを出撃させない様にする?いや、それじゃ何の解決にもならない。今回の出撃で出なかったとしても、次の出撃で逃亡を図れば結局は同じ事だよね。なら方法は1つ)

 

 「私が何とかするしかない、か」

 

 やはり、自分でどうにかするしかないだろう。内容が内容だから、誰かに相談なんて出来る訳もない。フィオナは、ゾーラ、ココ、ミランダを救う作戦を練り始める。

 

 「出てくるドラゴンは確かガレオン級が1匹、スクーナー級が22匹だったよね。だから、私がやる事は・・・」

 

 フィオナは考えた作戦を頭の中に纏める。作戦の手順はこうだ。

 

 

 1.アンジュが逃亡しても自分は追わない。追跡はサリアに任せる。

 

 2.ココがアンジュについて行ったらすぐに追いかけ、彼女の機体の隣につける。

 

 3.シンギュラーが開く前にココを自分の機体に乗せ、すぐに離れる。

 

 4.ミランダの機体にココを乗り移し、アルゼナルへ戻る様に指示する。

 

 5.2人が戦闘区域を出るまでスクーナー級と交戦する。

 

 6.その後、ゾーラ達がガレオン級を撃墜するまでアンジュの動きを牽制する。

 

 

 「これで行くしかない、か。はあ、色々とやる事が多くて大変だな」

 

 だがやるしかない。でなければ待っているのは悲惨な結末だけである。だが、1つ問題がある。

 

 「私はどの機体で出撃する事になるんだろう?」

 

 作戦を実行するにしても乗るパラメイルによって左右される。できれば乗り慣れたアルテミスが望ましいがそれが無理ならば新兵用のグレイブでやるしかない。

 

 「何にしてもやるしかないんだけどね。さて、方針は大体決まったね。後は、出撃までの時間をどうやって過ごそうかな?」

 

 フィオナが時間潰しに何をやろうか考えていると、

 

 コン、コン

 

 「うん、誰だろう?アンジュ?いや、でもアンジュなら自分の部屋にノックなんかするわけないし・・・」

 

 疑問に感じながらもフィオナがドアを開けると、

 

 「おー、ここにいたかフィオナ」

 

 そこには赤いバスローブを着たゾーラがいた。よく見ると彼女の隣にはアンジュもいる。

 

 「ゾーラ隊長?どうしてアンジュと一緒に・・・」

 

 「くっ!離しなさい!」

 

 「暴れるな。いやな、お前に用があってな。今から私につきあえ」

 

 何につきあうのかと思ったフィオナだったが、ここへ来た初日にゾーラにされそうになった事を思い出し顔が青くなる。

 

 「い、いや。私、ちょっとこれから用事がありますので・・・」

 

 「残念だがお前に拒否権はない。サリアから聞かなかったか?此処では上官の命令は絶対だと。それは例えプライベートでも同じだ。わかったか?」

 

 「・・・イエス、マム」

 

 断ろうとしたフィオナだったがゾーラの命令と威圧に従う他なかった。そのまま、アンジュと共にゾーラに連れて行かれるのだった。やがて、“休憩室”と書かれた部屋の前に着き、中に入れられる。そこは薄暗く、大きめのベッドが1つだけある部屋だった。すると2人はゾーラによって、そのベッドに押し倒されると彼女は2人に覆いかぶさる様に乗ってきた。

 

 「状況認識が甘いと戦場では生き残れんぞ、アンジュ。フィオナも腕が立つからといって増長するとすぐに命を落とすぞ」

 

 「私は絶対に国へ帰ります!」

 

 「あ、あの。別に私、増長なんて・・・」

 

 「言っても分からないなら身体で教え込んでやろう」

 

 ゾーラはそう言うとまずアンジュの唇を奪う。程なくして、今度はフィオナの唇も奪うのだった。2人の身体が強張るが間もなく新たな刺激が襲い掛かる。ゾーラが2人の制服の中に手を入れて、胸を揉み始めたのだ。アンジュとフィオナの顔は羞恥で赤く染まる。

 

 「私の命令には素直に従え。そうすれば、お前達の知らない快楽を教えてやる」

 

 そう言いながらゾーラは2人の身体を愛撫する。今まで感じた事のない刺激にフィオナの身体は熱くなり、意識が虚ろになりかける。と、アンジュが目を見開きゾーラに平手打ちをする。するとゾーラの右目が飛び出す。いや、正確にはそれは義眼だった。

 

 「ひっ!?」

 

 「ゾ、ゾーラ隊長・・・」

 

 義眼を見たアンジュは嗚咽を漏らし、フィオナは唖然としていた。叩かれたゾーラは怒る所か嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 「うっふっふっふ。いいね、いいねぇ。ノーマはやはりこうでなくちゃねえ」

 

 「わ、私はノーマなんかではありません」

 

 「あの、大丈夫ですか?ゾーラ隊長」

 

 アンジュはノーマである事を否定し、フィオナはゾーラを気遣う。

 

 「なに、心配するな。義眼が外れただけさ。目玉や片腕が吹っ飛ぼうが、戦う本能に血が滾る。それが私達、ノーマなのだからな」

 

 ゾーラは義眼を拾い上げると自分の右目に填める。それから再び2人の元へ行く。アンジュは抵抗しようとするが軽くあしらわれる。ゾーラは2人の愛撫を再開する。

 

 「昂ぶってんじゃねえか2人共。フィオナ、私の触り方がそんなに刺激的だったか?アンジュ、私を吹っ飛ばして高揚したか?」

 

 「ち、違います・・・」

 

 「いえ、こういうのは初めてですから・・・」

 

 2人が否定する中、ゾーラは2人の間に入り込みそれぞれの首筋を舐める。

 

 「ふふふ。思い出すねぇ。お前達も不満だったのだろう?“偽善に塗れたあのクソッタレな世界”がさ」

 

 (! この人、もしかして!?)

 

 ゾーラの言葉を耳にしたフィオナは目を見開き、ある事を悟る。すると、

 

 ビー、ビー、ビー!!

 

 部屋にあったサイレンが鳴り響く。このサイレンはアルゼナルの全ての部屋に設置されている物だ。

 

 「ちっ!いい所だってのに。本番だ、アンジュ、フィオナ」

 

 ゾーラは舌打ちし、2人に命令すると部屋から出て行った。

 

 「本番って、何なのですか一体・・・」

 

 「きっと、ドラゴンが現れたんだよ。急ごう、アンジュ」

 

 2人は唇を拭き、乱れた制服を整えるとライダースーツに着替える為にロッカールームへ向かうのだった。

 

 

 ロッカールームに着いたフィオナは自分のロッカーを開けて、中からライダースーツを取り出す。と、下の方に光る物が落ちている事に気付く。

 

 「あれ、これって!」

 

 それはジルに没収された筈の自分のペンダントだった。なぜ此処に、と思ったフィオナだったが今はそれ所ではなかったのでライダースーツと一緒に身に着けるのだった。

 

 「各機、エンジン始動。武装と弾薬の装填を急げ!!」

 

 ドックではメイの声が響く。それぞれのパラメイルが発着場に置かれていく。

 

 「アンジュは後列1番左の機体。フィオナは後列1番右の機体に乗って」

 

 サリアは2人に命令する。と、フィオナのペンダントがアンジュの目に入る。

 

 「!? あなた、そのペンダントは!」

 

 訊ねようとしたアンジュだったがフィオナは自分が乗る機体の元へ行ってしまう。アンジュは追いかけようとしたが、

 

 「アンジュ、何をしているの!あなたの機体はこっちよ。急いで!」

 

 サリアに叱られて、仕方なく自分が乗る機体へ向かうのだった。

 

 

 自分が乗るパラメイルが置いてある場所へ向かったフィオナはその機体を見て目を見開く。

 

 「これは、アルテミス!?」

 

 果たしてそれは没収された筈の自分のパラメイル、アルテミスだった。

 

 「あ、フィオナ。アルテミスはちゃんと整備しておいたからね」

 

 メイがフィオナに近寄ってきて、そう告げる。

 

 「メイ。でも、これは没収された筈じゃ・・・」

 

 「司令が出撃できる様にしておけってさ。フィオナはこれに乗って戦って!」

 

 メイはそう言うと自分の持ち場へと戻っていった。

 

 (それじゃ、このペンダントを私のロッカーに置いたのも司令だったんだ)

 

 何にせよ、初めて乗るグレイブではなく乗りなれた自分のアルテミスで出撃できるのは幸運といってもいいだろう。フィオナはアルテミスに乗ると発進準備に入る。ちなみにフィオナは今、最初に被っていたヘルメットではなく、目を覆うだけのバイザーを装着している。髪が長いあなたはヘルメットよりもバイザーの方がいいだろう、というサリアからの勧めだ。

 

 (私はゾーラ隊長達を助けたい!だから、力を貸してアルテミス!)

 

 フィオナはペンダントを握り締めながら強く願うのだった。

 

 『生娘共、初陣だ!といっても、1人は実質2度目だがな。お前達は最後列から援護。隊列を乱さずに落ち着いて状況に対処しろ。訓練通りにやれば死ぬ事はない』

 

 『イ、イエス、マム!』

 

 ゾーラの通信越しの指示にココとミランダが緊張気味に応える。すると、

 

 『そういう事だ。特にルーキー!前みたいに割り込んで来てあたし等の獲物を横取りしたりするんじゃないよ』

 

 ヒルダが通信を入れてきて、フィオナに釘を刺す。

 

 「イエス、マム」

 

 反論する訳でもなく、ただ静かに応えるフィオナだった。彼女にとっては、手柄争いなんてどうでもよかった。自分にはそれよりも、もっと重要で大切な任務があるのだから。

 

 『全機、発進準備完了!進路クリア、発進どうぞ!』

 

 「ゾーラ隊、出撃!」

 

 ゾーラの機体が発進し、大空へと飛び立っていく。彼女に続くように他の機体もどんどん発進してゆく。

 

 (始まる、私の戦いが。失敗は許されない。ゾーラ隊長には聞きたい事もあるし絶対に成功させるんだ!)

 

 「ゾーラ隊、フィオナ機。発進します!」

 

 決意と共にフィオナはアルテミスを発進させ、大空へと飛び立っていくのだった。

 

 

 運命を変える最初の戦いが今、始まる!!

 




あのイベントを文章化するのは大変でしたがフィオナは女性主人公なのでカットする訳にはいきませんでした。次はいよいよ運命の初出撃です。フィオナは3人の死を回避できるのか。楽しみにしていてください。それでは

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