ISSの設定も明かしますが、不審点があってもそういう技術なんだぁ…って思ってくれたらありがたいです。それから、1~8話のあとがき部分に人物設定を追加しました。そちらもぜひよろしくお願いします。それではどうぞ(#^.^#)。
□だって、彼女は友達だから
「織斑一夏様。わたくしセシリア・オルコットはあなた様に決闘を申し込みますわ」
朝。始業前の教室。
俺は茫然と立ち尽くしていた。理由は言わずもがな。
俺の目の前で両手を腰に当て、勇ましくそんなことをのたまった英国淑女が原因である。
「は…?」
思わず呆けてしまってい、そんな間抜けな声を出してしまった俺を誰が責められるだろうか?
まさか、教室に入った瞬間、いきなり決闘を申し込まれるなど誰も想像などできないだろう。
他のクラスメートにも目を向けてみれば、苦笑いをしている者半分。俺と同じように茫然としている者半分。俺を睨んでいる箒が一人。そういった割合だった。
と、いうか箒。いい加減、昨日のこと根に持つのやめようぜ…。
未だに俺を睨む箒に、心の中でそっとため息を吐きたい気分になりながら、俺は今、目の前にある問題を触れに行った。
「あの、セシリア?ごめん。俺、耳が悪くなったみたいだ。もう一度だけ言ってもらっても構わないか?」
「あら、そうでしたの。これはごめんなさい。わたくしも唐突すぎましたわ」
確認のための言葉に、セシリアは昨日と同じようにおおらかな笑みを浮かべる。
そして、淑女たる立ち振る舞いで、スカートの寮端を摘み、もう一度言葉を並べた。
「では改めて、織斑一夏様。わたくし、セシリア・オルコットはあなたに決闘を申し込みますわ」
ざわざわ。クラスがざわめく。
今度こそ否定しようのないはっきりとした口調だった。
急な事態に頭を掻く。どうしてこうなった…。俺はキア先輩の言葉を身に染みて感じていた。
「…オーケー。とりあえず話を整理しようか。まず、こうなった原因、理由、経緯、その他諸々の事情の説明をプリーズ」
「ふふ、はい。それでは説明させていただきますわ」
相変わらずの優しい顔に、俺は何とも言い難い気持ちになる。
俺、この優しそうな美人に決闘申し込まれてんだぜ?なんだか、悪者になった気分だった。
「そうですね。ではまず、原因から行きましょうか。何より一番の原因は、昨日の【徴兵】が原因ですわね」
「ま、だろうとは思ってたよ。原因としてはそれくらいしか考えられないからな」
それはあらかじめ予想していた通りの原因だった。
けど、問題はどうして昨日の【徴兵】がこのような結果になったかだ。
俺は改めてセシリアに問いかけた。
「それで?どうして昨日のあれからその…決闘になるわけ?教えてくれないか?」
「はい。それはもちろんですわ。では、理由の話ですね。理由といたしましては、主に三点ありますわ」
「あらかじめ言っておくけど、その三つの理由で俺を納得させられなかったら決闘はしないからな?」
「えぇ、もちろん。それで構いませんわ」
そう言って。セシリアはまたおおらかに笑みを浮かべた。
「では、一番目の理由ですわね。これは私ごとで大変恐縮なのですが、わたくしのISのテストに付き合っていただきたいのです」
「テスト?その耳のピアスか?」
「はい。そうですわ。これがわたくしのISブルーティアーズですわ。実はわたくし、代表候補生として恥ずかしい話なのですが、まだ日本に来て数えるほどしかISを機動していないのです」
「ま、代表候補生にどんなノルマがあるかは知らないけど、日本に来てまだそんなにたってないだろ?引っ越しとか何やらで忙しかったから仕方ないんじゃないか?」
「えぇ。ですが、代表候補生は国の代表です。ISコアまで頂いてるので、何もしないというのは…」
「真面目な奴だな…セシリアは」
ククッと俺は笑った。
国の代表というのは大変だ。その国のイメージを背負っているのだから。
特にそれが美少女ともなると広告塔の役目もある。苦労してきたんだな。
「つまり、真面目なセシリアは、これまで何もしてこなかったつけを一気に取り戻したいってわけだな」
「すみません一夏様。ご迷惑をおかけして。しかも、これまたお恥ずかしい話なのですが、わたくし実家ではメイドがおりましたので、慣れない作業で手間取ってしまいまして…」
「セレブすげー…。メイドなんて言葉、初めて聞いたぞ」
「そう言う訳で、ISの機動調整におつきあいいただきたいのです」
それが第一の理由か。確かに筋は通っている。
けど、それは結局自分のためでしかない。俺はまだ納得はできないな。
「次の理由は?」
「はい。二番目の理由なのですが、ここから昨日の話が絡んできますわ」
つまり、ここからが本番というわけか。
「二番目の理由。それは、これからの実戦に向けて、少しでも戦いの糧を積んでおきたいのです」
セシリアはそう言って、さっきの戦士の表情を浮かべた。
そうか。そうだな。俺はこのセシリアというクラスメートが、どこか他のクラスメートと違うような気がしていたが今、俺はすべてを理解した。
セシリアは、これから戦争が起こるということにためらいがないのだ。
戦争が起こるという事実を、何の躊躇もなく受け入れている。
けど、それはもしかしたら当然のことかもしれない。だって、昨日彼女と話した時、セシリアは言っていたではないか。この世界は、遅かれ早かれ崩壊すると。
それを考えたら、彼女が代表候補生にいることはきっと偶然ではないはず。
彼女は自ら進んで代表候補生。つまり戦争に来たのだ。
俺は理解した。彼女には覚悟が出来ているのだと。戦争で死ぬ覚悟が…。
「…質問。それは別に俺でなくてもいいのではないか?」
「一夏様。あなた様を選んだのにはちゃんと理由がありますわ。それは、先生方は忙しくて頼むことができないこと。同じクラス上、模擬戦が組みやすいということ。そして――――」
――――あなたが第二次モンドグロッソで、実際の戦場を経験しているからですわ。
「…そういうことか。確かに、それを考えたらこの学校で俺以上に適任者はいないな」
「はい。死ぬか生きるかの瀬戸際。それを経験した一夏様だからこそ、わたくしは頼むのです」
この理由には正直驚いた。
まさか、そこまで考えているだなんて。侮れないな、セシリア・オルコット。
「わかった。その理由は納得した。だけど、まだ足りないな…」
「ふふ、レディーからの頼みを素気無くし続けるだなんて、一夏様も罪な男ですわ。それで、一夏様?あとはいったい何が足りないのですか?」
「…そんなの言わなくても分かってるだろ?もちろん、俺の利益だよ」
そう言って、俺は意地悪く笑みを浮かべた。
ギブ&テイク。社会の常識だ。けど、ここまで考えているセシリアのこと、その辺りのことまできっちり考えているだろう。
俺の思っていることが分かったのか、セシリアもニコリと微笑み返してくれた。
「もちろん、承知しておりますわ。ですからご心配なく。第三の理由。それにすべて込められてますから」
「へぇ…なら、聞かせてもらおうか?第三の理由をさ」
俺の言葉に、セシリアはスッと顔を引き締めた。
「一夏様。では率直に申しますわ。わたくし――――」
――――自分よりも弱い相手に背中を預ける気など、さらさらありませんわ。
その瞬間、クラスの空気が死んだ。
突然の宣言に、皆驚いたのだろう。箒なんか、失礼すぎるこの言葉に今にも立ち上がりそうだ。
けど、俺は気にしなかった。なぜなら、セシリアの言いたいことが何となく理解できたからである。
「ストップストップ。おいおい落ち着けってお前ら。箒も、竹刀袋から木刀を抜こうとするな。お前、そんな調子じゃそのうち本当に人を殺しちまうぞ?」
「うっ…だが一夏!お前は悔しくないのか!こんな風にバカにされて!!」
「いや、ご指摘ごもっともだけどさ、もう少し柔軟な頭を持とうぜ?ほら、セシリアを見てみろよ」
「…オルコットを…?」
勢い任せで殴りかかって来そうだった箒をいさめつつ、俺は箒にそうアドバイスした。
いぶし気に目を細める箒。が、俺の言葉にオルコットの方を見るとすぐ目を丸くした。なぜなら――――
「あ、あああああの!一夏様!なぜ篠ノ之さんはあああああ、あんなにもお怒りなのでででで、しょしょしょうか!?」
「…はぇ?」
なぜなら、セシリアは突然木刀を取り出した箒に怯え、俺の背中に隠れていたからである。
この状況に、箒は変な声をだし、クラスの連中も皆呆けたいた。
だいたいの理由が分かっている俺は、この劇的なセシリアの変わりようにククッと悪戯っぽく笑った。
「はは、大丈夫だよセシリア。箒もみんなも勘違いしてるだけだからさ」
「勘違い…ですか?」
俺の腕の袖を掴み、涙目上目使いでセシリアは小首を傾げた。
昨日の箒のことを考えると、なんて女の子らしい仕草なんだ。不覚にもトキめいてしまった。
近くにいた女生徒もどこか顔を赤らめている。
敢えてもう一度、別の意味で言おうと思う。侮れないな、セシリア・オルコット。
俺はポンポンと、鈴にしていたように軽く頭を二回叩く。それに安心し、自分の現在の状況が理解できたのか、セシリアは周知で少し頬を染めながら、俺の腕を離した。
皆の誤解を解くためにも、俺はちょっと大きな声で話し始める。
「セシリア。日本語の表現は難しいところもあるからな、今の言い方ではかなりいい意味じゃない誤解を与えるんだ」
「は、はぁ…そうなのですか」
「だからさ、もう一度。今度はなるべく丁寧な口調で言ってくれないか?」
「はい。分かりましたわ一夏様」
セシリアは俺の言葉に頷くと、一回息を吐く。そして、今度は誤解がないように言葉を紡いでいった。
「では改めまして、わたくしは…その…お互いの実力も分からない相手とは一緒には戦えないのですわ。だから一夏様。あなたの実力を知るために、ぜひ戦ってほしいのです」
「ほらな。ちゃんと言えたじゃねーか」
そう言って、俺はもう一回ポンポンと出るように頭を叩いた。
恥ずかしそうにしながらも、決して嫌がらないセシリアに微笑んで、俺はクラスに向き直った。
「みんな、これで誤解も解けただろ?」
「む。…確かに、非はこちらにもあるようだ。すまなかったセシリア」
「いえ、こちらこそすみません。誤解を与えるようなことを言ってしまって…」
箒が謝り、セシリアも謝った。これで万事解決なはずだ。
さて、じゃあ話を戻そうかな。
「セシリア。じゃあ話してくれないか?言いたいことは大体わかったけど、セシリアの口から聞きたいんだ。ダメか?」
「いえ、構いませんわ。それではお話いたしますね」
コホンと一回咳払い。セシリアは俺の欲しかった説明を始めた。
「これまでのやり取りで、一夏様ならだいたいお分かりかもしれないのですが、わたくしは戦争というものにためらいはありません。徴兵のこともすんなり受け入れました」
「だな。俺もそう思ってたよ」
セシリアの言うことに素直に頷いた。
クラスの連中も今度は大人しく聞き入っている。そして、俺自身もセシリアの言うことに聞き入ってしまっていた。強い。正直に俺はそう思った。
セシリアは強かった。腕力の強さだけではない。意思の強さがとてつもなく強かった。
「はい。ですから、これから一緒に戦うことになる一夏様、それに篠ノ之さんの実力をちゃんと知っておきたかったのです。これは連携ということでも後々に必要なことだと思いますわ」
「それが、俺の利益ってわけだな」
「はい。わたくしの実力を知ってもらい。そして、わたくしがどんな戦い方をするのかを――――」
そう言ったセシリアの瞳は強い何かを持っていた。決して折れることのない屈強な意思を。
「それが、守ることに繋がると思うのです」
背筋がゾクゾクした。こんな感覚、久しぶりだ。
一か月前のドイツでの戦い以来だ。俺はこの感覚に胸躍る。強敵を前にしたこの感覚に、俺は全身が震えあがっていた。
「…なるほど、理解したよ。そこまで言われたら、断るわけにはいかないな…」
自分で言った言葉に、俺は心の中で失笑した。
何を白々しい。本当は、セシリアに決闘を追う仕込まれた段階で、断るつもりなどなかっただろうに。
あぁ、そうだ。結局俺は昔から変わらないのだ。
千冬姉然り、箒然り、鈴然り…。ホントに、強い女にはどうしても勝てないんだから…。
「情けない。けど、これが俺なんだよな…」
「一夏様…?」
つい零れてしまった言葉に、セシリアが不思議そうに首を傾げていた。
その仕草すら、今の俺には毒だった。認めるよ、セシリア。お前は本当に愚か者だ。
なぜなら、この俺に喜びを与えたのだから。俺に、喧嘩を売ってしまったのだから。俺と仲良くなろうとしたのだから。俺のことを受け入れてくれたのだから。
――――そして、俺に気に入られてしまったのだから…な。
「いいぜ。やってやるよ。今日の放課後、第三アリーナ。そこで待ってるぜ、セシリア」
「…ありがとうございますわ一夏様。えぇ、ではよろしくお願いしますわ」
「あぁ、よろしくセシリア。身体の奥まで全部、満足させてやるよ…」
セシリアは守ると言った。けど、何をとは言及してない。
仲間。友達。家族。恋人。家柄。誇り。国。世界…。守るべきものなんて世の中にはこんなにゴロゴロと溢れている。
けど、俺は何となく理解していた。彼女の守ると言ったのはそんなのではないと。
そんなものより、セシリアの守るという言葉は明らかに、重かった。
だけどそれがいい。重い思いはそれだけで人を強くする。だから、彼女は強かった。強く…なったのだ。
「…と、いうわけで千冬姉。第三アリーナの予約、よろしく」
「気づいていたのか織斑。だけどな、織斑先生だ馬鹿者」
不意に俺が千冬姉を呼ぶと、千冬姉も当たり障りなく応えてくれた。
が、これが他のクラスメートには以外だったらしく、皆驚きの表情で千冬姉がいる方を向いた。
またやっちまった…。やっぱり、慣れないな…千冬姉を千冬姉以外の呼び方で呼ぶなんて。少しだけ自嘲気味に俺は笑みを浮かべた。
「失礼しました、織斑先生。それはそれですが、話を立ち聞きしていたなら流れは分かりましたよね?お願いしてもよろしいでしょうか?」
「はぁ…お前というやつは…まぁ、いい。許可しよう。手続きは私が取っておく。それより…一夏」
名前で呼ばれた。それだけで、分かる。千冬姉が何を言いたいのかが。
「【あれ】は極力使うなよ?」
教師としてではなく姉としてのその言葉がありがたかった。けど、
「…ごめん、千冬姉。約束はできないかも…」
俺はその言葉に色よい返答はできなかった。【あれ】を使わないで俺はセシリアに勝てるのか、正直自信はない。わざと負けることも視野にいれた方がいいかもしれない。
いや、それがきっと正しい判断なんだと思う。それでも、俺は勝ちたいのだ。彼女に。
「セシリア・オルコット。俺は俺の持てるすべての力を使って…お前を倒す」
だって、彼女は俺の友達なのだから。