こんばんわ。投稿させていただきます。
文法がおかしなことになっているかもしれません。なぜなら今、枠者もおかしくなっているからです。駄文このうえないですかどうぞよろしくお願いします。
↑この投稿より数カ月後の作者。
今気づいたんですが、作者が枠者になってる…ほんとこのとき頭おかしくなってたんですね…。
□目と鼻の先の恐怖
午前二時二十分。
遥かなる上空を滑空する二機の機影。
それは無論。人間の技術で作られた鉄の翼であった。
だが、それは決して航空センサーには映らない。言うなれば、実態を持つ影。
篠ノ之束の技術。いや、これはもともと世界で開発が推し進められてきた「ステルス機能」を持ってして成される出来事であった。
二機の機影。ISS(インフィニット・ストラトス・セカンド)。
その内の一期はISにはあるまじき姿をしていた。その姿は、まるでかつての大空の主役であった「戦闘機」のよう。
ISS二番機。【鳳凰(Blave phoenix)】
ISSの中でも、スピードに重点を置かれて開発された彼の機体は、他のISS。いや、地上にある何れの乗り物を凌駕するスピードを誇っている。
それ故に、彼の機体とは別。もう一機のISSである白い機体は、鳳凰のスピードに着いて行くために、尖った手で翼に捕まっていた。
ISS一番機。【白夜零式】
IS時と同じような白い機体。だが、それとは異なり、こちらの機体には後ろ腰にクロスにして構えられた大きな剣が二本。【雪月】【六花】と名付けられた二振りの大太刀は、かつて織斑千冬が駆けた【暮桜】が所持していた剣【雪片】に酷似している。
だが、それもそのはずだ。なぜならば、この二本の剣は稀代の天才。篠ノ之束が暮桜の【雪片】を基にして作り上げた品なのである。似ていることは当たり前だ。
そして、似ているのはそれだけではない。その使い手もまた、織斑千冬に酷似している。
彼の名は、織斑一夏。
織斑千冬の実弟にして、織斑千冬の剣術に憧れた少年。
そして、姉の飛ぶ大空に憧れた少年である。
その少年と、もう一人の少女。鳳凰の操縦者である凰鈴音との間に、会話はない。
それは嵐の前の静けさとでも言うのか、ただ無言に彼らは自身の機体であるISSで大空を駆けた。
「いいか、蘭。最終確認だ。
今回、俺達はある国の紛争に介入することになる。どこか分かるな?」
「はい一夏さん!韓国と北朝鮮ですね!」
「ん。正解だ」
一夏の問いかけに、赤い球体の中の彼女は元気よく答える。
その姿は、仲の良い先輩・後輩というよりも、まるで仲の良い親子のように見えてしまい。近くで二人の会話を聞いている鈴音は、思わず苦笑いをこぼしてしまった。
高度2000メートル。ISS一番機である【白夜零式】。
そこは今、世界一高い教室となっていた。
「うん。よろしい。じゃあ、なんで今回俺達がこの任務を行うのか。その原因はどうだ?」
「えっ…と。確か、一週間前の鈴さんの任務が関係しているんですよね?」
「ん。そうだな、正解だ」
でも、どうやら生徒である蘭は優秀らしく、先生である一夏には出番がないようにも思える。
だけども、蘭の次の言葉に、どうやらそれは自分の思い違いだったと、鈴音は思い直した。
「でも…。すみません、一夏さん。どうして一週間前の鈴さんの任務でこんな結果になったのか、その理由がまだよく分からないんです…」
シュンッと落ち込む蘭の姿に、一夏は一つため息をこぼす。
けれども、その顔はどこか穏やかな物であった。
彼女にそれを分かれと言うのも仕方のない話だ。彼女は、14歳という年齢でありながら、いろんな経験をしてきた。家を焼かれ、全身に火傷を負い、最終的にこんな球体の中に押しこめられてしまっている。
だが、それでも彼女はただの14歳の少女なのだ。
自分や鈴音とは違う。彼女はつい先日まで、普通の少女。
普通に暮らし。普通に学校に通い。普通に友達も居。普通に愛を失った。そんな女の子だったのだから―――。
「ま、そのへんは仕方ないでしょ。政治なんてあたし達の年齢じゃ普通は考えないんだしね」
その蘭のフォローに回ったのは、いままで黙っていた鈴音であった。
穏やかに、諭すように、彼女は蘭の間違いを肯定する。
「…そうだな。こればかりはこっちに非があるな。すまん、蘭」
「あ、いえいえ。二人ともそ、そんなに謝らないでくださいよ!これは私の方にも非があるんですから!ね?」
「…。まぁ蘭がそういうなら」
そして、一夏もまた。蘭への謝罪を口にしつつ、瞳を閉じた。
ふと、真っ暗闇な目に映るのはあの奇想天外なアリス擬きの姿だった。稀代の天才にして世界最大の天災。篠ノ之束。その彼女が笑っている姿を、一夏は見る。
その笑みの下にどれだけの策を企てているのか。一夏達はしかし、その全貌を知らない。
けれども、それでも一夏は彼女を信頼している。
篠ノ之束が、世界を変える存在なのだと信じているのだ。
「じゃあ蘭。アプローチの方法を変えてみるか。一週間前の鈴の任務のこと、蘭はどう考えている?」
「えっ…と。一週間前は確か、鈴さんが単機で武力介入をしたんですよね?まぁ、一夏さんはその日、千冬さんと一緒にいましたし、バカ兄(にぃ)はどっかの施設で隔離されてるし、シャルさんは―――…まだ、あの【機体】を使うことを束さんに許可されてないですから仕方ないことだったんですけれど…。……」
「…。どうした、蘭。その先は…?」
途中までは小気味よく応えていた蘭。だが、話の途中で、彼女は言いよどんでしまった。
彼女は少し不安げな表情を見せる。その瞳の先には、白夜零式に搭載されたモニターの一つ。そこに写っているのは件(くだん)の彼女の姿。
その視線に気が付いたのか、彼女―――凰鈴音は、少し笑って見せる。
どうやら彼女には、なぜ、蘭が言葉を濁してしまったのか。その理由が理解できたようであった。
「はぁ、まったく。こら一夏。あんまり蘭にいじわるしちゃダメよ?じゃないと、このこと弾に言いつけてやるんだからね?」
「…。お前は何を言っているんだ?」
蘭の事情を察した鈴は、そう言ってもう一度笑みを浮かべた。
その笑みの意味を、一夏は理解できない。だが、それは鈴の、彼女のずっとそばにいた彼だからこそ気づかないことであった。
本当は一夏も知っているのだ。彼女が―――鈴が抱える心の大きな闇のことを。
そして、その闇をもたらした、あの国のことを―――。
「バカ一夏。あんたって、ホントなんにもわかってない。だからいつも千冬さんに怒られるんでしょ?いい加減、姉離れしなさい。子供じゃないんだからさ。
それと、もう少しあんたはデリカシーってものを学びなさい。バーカ」
「ぐっ…」
痛い所を突かれた一夏はぐうの音も出せなかった。
その様子に、鈴はニッと少し嫌らしい笑みを浮かべる。一夏に一矢報いた鈴は、次に蘭に微笑む。その笑みに、鈴の意図を察した蘭もまた笑みを浮かべる。
それは、普段から彼の鈍さに振り回されている彼女達の、小さな仕返しであった。
「くそぅ。今に見てろよ、じゃじゃ馬ども…」
「はいはい。ま、期待しないで待っててあげるわ。それより蘭。ほら、さっきの続き続き」
「はい!そうですね…えっと、どこまで話しましたっけ?」
「なんであたし一人で任務をしなきゃいけなかったのか、ってところね」
「あ、そうでしたそうでした。えーっと、じゃあ―――」
「次はあたしがやった任務の詳細についてね」
「もう、鈴さん!分かってたんですから言わないでくださいよ~!」
「あはは!ごめんごめん」
きゃっきゃうふふ。っと、女同士で勝手に話を進める二人を、一夏は不思議そうに眺める。
まぁ、話している内容は物騒だが、一夏はたった一節の間に、会話からはじき出されてしまったことに、些か寂しさを感じた。
自分は果たしてどこで間違ってしまったのか。一夏にはまだ分かっていない。
もしかしたら、この男の鈍さは一度死なないと直らないのかもしれない。鈴と蘭はそう思い、一夏に気づかないところで静かにため息を吐くのだった。
「こほん。それではさっきの続きですね。
今回、鈴さんが行った任務は“中国山東省の青島”にある【青島IS実験場】の破壊工作でしたね。そして、作戦の結果、実験場は再起不能になるまで大破。それに加え、中国が持つISコアの半分以上になる11個のISコアを破壊することに成功しました。私達としてみれば、これ以上にない結果に終わりましたよね?」
「そうね。ついでに言えば、コア破壊と一緒に最低11人は殺してるってことになるわね。それに実験場の建物も一棟残らず木端微塵にしたんだから、少なからず被害は出てるわ。だからあたしは、今回の任務で少なく見積もっても30~50は人を殺したってことになるのかな」
「…。今は、その話はいいだろ。話の邪魔だ。余計なことは口立ちするな」
「…。ごめん、少しバカだった」
鈴の言葉に、少しだけ場の空気が悪くなる。
だが一夏には、鈴は敢えてこの空気を造ったような気がした。
これから蘭には、こういう事(・・・・)をやらせるのだと分からせるため。そして、彼女自身が彼女にこういうこと(・・・・)の片簿を担がせてしまうことを認識するために。
一夏は、そんな自分で自分を追い込む彼女の姿を見てられなくなり、思わず叱咤してしまった。
「…。んっ。話折っちゃったわね。ま、そういうわけで世界中に散らばったISコアのうち11個を、あたしは一種巻前に一晩で壊したってわけ。中国のISコア所持数は大体20前後だから、あの国はもう…風前の灯でしょうね。なんと言っても数と土地だけは広い国だから―――」
「…。そうだな、外的要因はともかくとして、内的要因はもう抑えきれないだろうな。
あの国は、IS開発のそれまでの民族内戦を、ISのだけ(・・)で終結させたからな。ISの脅威が薄まった今、またあの国は戦火に包まれる。それを諌めるだけの力が、今のあの国の政府にあるとは思えない。
いずれ、あの国は内部から崩壊するだろうな」
それはあまりに淡々とした会話だった。
一つの国が、今崩壊の危機にあるにもかかわらず。その国の崩壊の理由たる二人は、ただただドライに、その事実を確かめるだけだった。
「鈴さんはよかったんですか?だって、あの国って鈴さんの―――」
「…。別に。あなたの気にすることじゃないわよ、蘭。それに、あたしはあの国に何も期待なんてしてない。あんな何度もあたしを裏切ってきた国の事なんてね。寧ろ、無くなって清々するくらいよ」
「そう…ですか…。でも、それって…」
―――すごく、悲しい事ですね…。
そこまで言って、蘭は言葉を飲み込んだ。
その言葉は、彼女の―――凰鈴音の前では決して口にしてはいけない言葉。
だから、今はない、故郷の地のことを。鈴の家であったあの古びた中華店の事を思いながら、蘭は悲しむことのない彼女の代わりに、心の中で悲しんだ。
「さて、じゃあここからが本題だ」
そう言って、一夏は何もない虚空の空を見つめた。
その方角には、これから彼らが向かう国がある。かつては、一つの国だったかの国は、一つの大きな戦争を境に二つに分かれ、半世紀たった現在でも冷戦状態にある。
その国の戦争を、これから彼らは終わらせようとしていた。
おそらく、考えうる限り最悪の手段をもって―――。
「確かに、一週間前の鈴の任務には、彼の大国家の崩壊を誘発させる、という目的もあった。
だけど、それだけじゃない。この任務には、もう1つ。重大な意味があったんだ」
「重大な…意味?」
一夏の言葉そのままに、蘭が疑問符を浮かべ復唱する。
その蘭の言葉に頷きつつ、一夏は蘭に見えるように地図を出す。
山東省。そして、それに対岸する半島。それは日本人なら誰もが見たことある隣の国。そう、そこは―――。
「いいか、蘭。鈴が攻撃した青島IS実験場。そこはな―――。朝鮮半島の目と鼻の先なんだよ」
*
「何度言わせれば気が済むの!?彼女達は今、疲れているのよ!!」
「っ…。しかしっ」
「言い訳は結構。と、いうよりあなたはそう言うことが出来る立場だと思っているの?意見具申するのなら、それなりの成果を出してからにしなさい。この豚が!」
「くっ…。も、もうしわけ…ご、ございません…」
その言葉は、男にとって屈辱以外の何物でもなかった。
だがそれでも、イ・リギョク大佐は、ただ頭を下げるしかなかった。
彼の目の前には、眼鏡をかけた少し神経質そうな女性が立っている。名をパク・ビョンヘ少佐という。
なぜ、少佐である彼女が、大佐であるリギョクに強く出れるのか。それには、かの兵器が関係している。
韓国軍特殊IS部隊。彼女はそこの指揮官なのだ。
故に、大佐であろうと将校であろうと、彼女は誰よりも強く出れる立場にある。
なぜなら、彼女の指示なしでは、この国は防衛すら叶わないのだから。
「分かったのなら早く行きなさい。そして二度とこんな愚かなことはしないことね。私たちが動くのは、あなた達が、全滅(・・)してからだと思いなさい。どうせ弾除けの楯くらいにしか役に立たないんだから、それくらい当然でしょ?むしろ、国のために死ねるのだから感謝すらしてほしいくらいだわ」
「…。ですが、少佐。現状をお分かりでしょうか?一昨日の篠ノ之束博士の演説。あれで世界は変わってしまいました。最早ISはスポーツの道具ではなく、戦争の兵器なのです。もし、ISがなければ、我が国は―――」
「はぁ…。あなたって本当にバカなのですね。いえ、むしろ愚か者の部類です。まったくこれだから男という生き物は…。いいですか、大佐―――」
そして、彼女の口から出てきた言葉は、イ・リギョク大佐にとって信じられない一言だった。
「いいですか、大佐―――。
あの篠ノ之束の演説はすべてデタラメです。ウソです。くだらない冗談です。
どうせ、どこかのバカな男が流したのでしょう。まったく、本当に愚かだわ。篠ノ之束が私たちに刃を向けるだなんて有り得なませんわ。
そして、そんなことも分からないあなたも本当に大馬鹿。うぅん、違う。あなた達、男を現す言葉に馬も鹿ももったいないわ。そう、あなた達は豚なのよ。くさいくさい豚なのよ!」
リギョク大佐は愕然とした。
この女は、なんという世迷言を唱えるのだと。
そんなはずはない。あの放送は確かに本物だった。それこそ、アリの子一匹通さないほど入念に調べた結果出た結論だ。だが、彼女はそれを全面から否定したのだ。
どちらが愚かだ。リギョク大佐は思わずそう心の中で唱えた。
が、それでも彼女に頼むほか、リギョク大佐に選択の余地はない。
リギョク大佐は歯を食いしばった。やらなければいけない。屈辱で、心が折れそうだった。だがそれでも、リギョク大佐の決意は変わらなかった。
彼の肩には、韓国防衛軍総勢20,0000人の命がかかっている。そのことを考えると―――。
土下座など、安いものだった。
「…。なんのつもり」
少佐の目は冷たかった。まるで、虫けらを見るように冷め切っていた。
それでも、大佐は土下座を止めない。プライドなど、それこそ彼にとって豚に食わせるくらいどうでもいいものだった。
そして、リギョク大佐はその年季の入った顔を地べたにつけた。
「…。パク・ヘギュン少佐。無理を承知頼みたい。
今、我が国は未曽有の危機にあります。かの大国の崩壊により、北は今、我が国との戦争再会を望んでいます。ですが、極秘裏に入った情報によりますと、北は、イラク経由でISコアを手に入れているとのことです。私たち、通常の軍ではどうしようもできません。ですから、どうぞ。どうぞお力添えください…」
それはもう、見ていて痛々しいほどの光景であった。
おそらく、ここ数年。北からの攻撃を守り抜けたのはこの男あってのことであろう。自国だけでなく、他国にもその名を響かせ、朝鮮の羆とまで言われる名将。
その彼が、一回り年下の若造にここまでしたのだ。その意味はかなり大きい。
だが、そこまでしても彼女は―――。
「…。ふ~ん。そうですか。では、頑張ってください」
そう言って、彼に背を向けたのだった。
何もわかっていない。このスポーツIS上がりの小娘は、何もわかってない。
大佐は、ギリッと唇を噛んだ。
「…。くそったれ」
その背中を睨み。大佐は土まみれの身体を起こす。
何もない。ここまでして、リギョク大佐が得たのは、ひどい虚無感だけであった。
最後のプライドもささげた。もう、大佐にやれるものなどなにもない。今となっては、彼の肩に乗った20,0000人の命も、ただ重いだけだった。
*
「なんとか…してやりたい」
リギョク大佐が土下座するところを、1人の男が見ていた。名など、この場で言っても意味のない。それほど、平凡な一かい兵士にしかすぎない二等兵の男。
彼は大佐の部下の一人だった。だが、そう呟くも、彼に力などない。
なぜなら彼は一かいの兵士。二等兵。地位も力もなにもない“男”なのだから―――。
「あそこまでした大佐を、くそっ…。くそっ…。くそっ…!!」
「…なに、あんた。そんなとこで何やってんの?」
「っ…!」
暗闇から聞こえる突然の声に、男は戦慄した。
普通の場合だったら、言葉巧みに言いくるめれば何とかなる。それくらいには、男は知恵を回らせることはできた。が、あいにくと場所が悪い。
なぜなら、ここは軍のキャンプの中とはいえ、IS操縦者のキャンプ地のすぐ近くなのだ。
男はいまさらながら、好奇心で大佐の後をついてきてしまった自分を腹立たしく思った。
こんな場面を見つかれば、最悪“軍法会議”すらありえる。男は全身の血が一気に引いた心地だった。
「す、すみません!出来心だったんですよ!
だ、だってISの国家代表なんてそうそう会えるものではないですし、少しだけ。一目見ようかと思って…も、もちろん話を盗み聞きしようだなんて、これっぽっちもなかったんです!!」
男はなんとか言葉を取り繕う。
目の前の相手にそれが通じるかは分からない。だが、それでも、男は必死に言い訳を考えた。
ところが、そんな男に帰ってきた言葉は―――。
「バカじゃないの?」
少し怒った様な、そんな拗ねた言葉だった。
「…へ?」
男は思わず顔を上げた。目の前に、1人の女性の姿があった。
まだ若い。男と変わらないような年の女性だった。そして、男は彼女のことを知っていた。
「な、なんだ…。お前か…。びっくりさせんなよ…」
「…。人の顔を見たとたん、失礼なやつ」
「い、いやさ。でもお前だしいいかなって…。固いこと言うなよ。ガキの頃に一緒に風呂に入った仲だろ?」
「っ!?死ねっ!!」
そう言って、彼女は男の脛を思い切りけり上げた。
痛そうに、片膝を抱えながら男が片足けんけんをする。その姿に、女は情けなくて思わずため息を吐いてしまった。
「はぁ…いつまでたっても子供なんだから…」
「うっせ。この乳なし!」
「…。大声出してもいいんだけど?」
「わぁ!!ごめんなさいごめんなさい!!許してください!!お願いしまーす!!」
女の言葉に、男は悲願するように頭を地面に貼り付ける。
それは、さきほどのイ・リギョク大佐の土下座とは比べ物にならないほど軽い土下座だった。
なんとも情けない。彼女は、男のその姿に頭を抱えた。
「はぁ。で、結局あんたこんなところでなにしてんのよ?」
彼女の言葉に、男は下げていた頭を上げる。その顔は、どこか不機嫌そうだった。
「なにって…。ちょっと…散歩しに…」
「それが散歩しにきた男がする顔じゃないでしょ。いいから話しなさい。このバカ」
そして、結局男は彼女に事のあらましをすべて話してしまう。
その藩士を聞いた彼女は、少し考えるように、あごに手を添えた。
「…。なるほど、あの大佐さん。やる人だとは思ってたけどそこまでやるんだ…。ほんと、あんたちは大違いね」
「…。バカにしないのか?」
彼女の反応は、男には予想外だった。
いくら知古の仲とはいえ、彼女もまた女。大佐の行動を情けないと言って、一蹴するものだと思っていた。だが、彼女は、少年の言葉に少し拗ねたように顔をしかめた。
「…。あんた、それ本気で言ってんの?冗談だったらやめなさい。笑い話にもならないわ」
「…いっ…。も、もしかして…お怒りですか…?」
「当たり前よ。だいたい、あんな身を挺してまで部下を守ろうとする大佐のことを、尊敬こそすれど、なんでバカにしなきゃいけないのよ。あんな傲慢な女といっしょにしないで。ぶっ殺すわよ?」
「暴慢な女って…。お前、一応上司だろ…?」
「あたし。あのおばさんのこと大嫌いなのよ」
そう言って、女はぷいっと視線を逸らした。
「…。ま、そんな話はどうでもいいわ。それで、どうせあんたのことだから大佐さんのために何かやってあげたいとか考えているんでしょ?」
「…。っ…。さすが、なんでもお見通しってわけな」
「当たり前でしょ。いったい何年一緒にいたと思ってんのよ?」
そう言う彼女の顔には笑みが浮かんでいた。
「…。ねぇ、そのお願い。あたしが叶えてあげてもいいわよ?」
「うぇ?」
男はなんとも間抜けな声をだし、彼女を見た。
その言葉の意味を理解するのに、男は少し時間を有す。が、彼女の言葉を理解すると、男はそれこそ鬼気迫るように彼女に迫った。
「っ…。お、お前…分かってくれるのか?」
「勘違いしないでよね。別にあんたのためなんかじゃないんだからね。どっちにしろ、あのクソ上司に従う通りなんてないんだし、それに―――」
少し、顔を赤らめながら、彼女はそう答える。
そして、彼女は後ろを振り返る。どこまでも真っ暗な森が広がっていた。
この森の、遥か10キロ先に、南北境界線は存在する。別に、そこまでなら、ちょっと様子を見に行くだけなら―――。
彼女は決意した。
「好きな男の頼みくらい聞いてあげるわよ」
「…へ?」
最初と同じくらい、男はまぬけな声を出してしまった。
が、そんな男にも目もくれず、彼女はその腕に輝るブレスレットに願いを込めた。
そして、彼女は真っ暗闇な空へとその翼を広げた。直後、下で男が何かを叫んでいるのが見える。が、すでにかなりの高度にいた彼女に、その声が届くことはなかった。
それでも彼女は、希望に胸ふくらませ、飛び立つ。
その先にあるのが、絶望だということも知らずに―――。
*
「…。こちら一番。敵基地より飛翔する機影を確認。以降、目標一とします」
『本部了解。ならば一番。すみやかに目標の撃破にあたれ』
「…。一番、了解」
そこはまだ、韓国領の森の中だった。
だが、その漆黒の影はそんなこと関係ないと言わんばかりに、暗い闇を駆ける。
午前二時二十七分。
絶望の夜が今、その幕をゆっくりと上げた。
ISS(インフィニット・ストラトス・セカンド)の到着まであと、二十五分。