ISS 聖空の固有結界 ~IS学園編~   作:HYUGA

22 / 28

 遅くなって申し訳ありません。
 すべてはモンハンが悪いんです。すみません。ホントすみません。

 さて、今回はあの子の登場です。
 そして一応は韓国と北朝鮮。それぞれの国の主人公とも言える二人を紹介します。
 あとのことは“あとがき”に書こうと思いますので、どうかお見逃しなく。

 それではどうぞ(^_^)/~





第二話 機械仕掛の少女

 

 □機械仕掛けの少女

 

 

 そこは漆黒の闇に閉ざされた戦場だった。

 目の前に見えるのはまるで世界に絶望したかのように恐怖する色白い顔。

 けれども、彼女の息はすでに止まっていた。

 闇の中でも分かる。真っ赤に色づいた大量の血。

 そう、彼女は自らの運命に絶望したままこの世を去っていたのだ。

 そのあまりに哀れな姿に、けれども彼女を殺した本人である少女は何も感じてなどいなかった。

 

 

 

 「…目標1。殲滅完了。敵のISコアを回収します」

 

 

 

 それは、まだ年端もいかない少女だった。

 年はおそらく15、6といったところ。けれど、彼女自身、自分の年齢など覚えてなどいない。

 闇に栄える漆黒の髪はまるで何日も洗っていないかのようにぼさぼさだ。だが、彼女の顔立ちを見たものは、十人中九人は整っていると答えるだろう。

 着飾れば栄える美を持つ。少女はそんな美の原石のような存在であった。

 

 

 

 「…作戦実行に問題なし。引き続き標的の殺戮を行います」

 

 

 

 けれども、その美は彼女自身の瞳で完全に払拭されていた。

 まるで、世界に自分一人であるかのような孤独な瞳。それは見る者を恐怖に陥れる無の瞳であった。その瞳をかつての凰鈴音はきっと、こう称するであろう。

 

 それは“織斑一夏”と同じ瞳であると。

 

 少女は兵器だった。

 彼女はただ、無表情に、無意識に、無感情に、与えられた任務を真っ当する。

 それが彼女に与えられた唯一の生命活動だからだ。

 ただ、与えられた任務をこなし。正確に、そして何よりも早く。そうプログラムされた歩く殲滅兵器。

 

 ISという兵器に拘束された人間兵器。それが、少女の正体だった。

 

 

 

 「…新たな目標を探知。これより殲滅を開始します」

 

 

 

 そして、彼女は再び動き出す。

 その瞳の先には、たった今起こったことに恐怖と絶望している女の姿。

 彼女もまた、IS乗りだった。そして、少女と同じ人種の人間であった。

 けれども、彼女は少女にとって敵であった。同じ人種。同じ民族。だが、彼女は少女にとって敵だった。

 

 なぜなら、彼女達の国は50年の長きにわたる間、戦争をしているのだ。

 

 そう、見た目も瞳も髪の色も。彼女達はまったく同じと言っていいほど似通っている。

 それでも彼女達は敵同士。これは、同じ民族同士が血で血を争う。

 民族戦争なのである。

 

 

 

 「…朝鮮軍南部殲滅IS部隊“一番”。目標を殲滅する」

 

 

 

 そして、少女は再び刃を握る。

 同じ血が流れる同族の女を殺すために。

 ただ、IS適正が高いという理由だけで、自らの人生を無茶苦茶にした母国のために―――。

 

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 

 約三か月ぶりの再会であった。

 俺、織斑一夏は久方ぶりに会った幼馴染の彼女に笑顔を向ける。

 それは普段と同じ、張り付けたような偽物の笑み。

 だけど、舞姫こと俺のセカンド幼馴染である凰鈴音は俺のその笑みが偽物だと知っている。それ故に、鈴は少し不機嫌そうに顔を歪めた。

 

 

 

 「ねぇ、一夏。なに?そのバカ面…。数馬のマネしてるみたいだけど、あんたにはこれっぽっちも似合ってないわよ。気持ち悪いから今すぐ止めなさい」

 「あれ?ひどくね?おっかしーな…。結構、クラスじゃ評判いいんだけどなぁ…」

 

 

 

 首そう言ってを捻る俺に、鈴は大きくため息を吐く。

 その表情は心の底から「呆れた」と、いった表情だった。

 

 

 

 「はぁ…。バカ一夏。ねぇ、あんた。なにやってんのよ?そんな意味のないこと、あんたらしくない…。そんなバカなこと今すぐやめなさい。ホント、胸くそ悪いわよ?」

 

 

 

 そう言って、彼女は俺を睨みつける。

 それは半ば敵意すら孕んだ視線だった。無論、一夏はその視線の真意は分かっている。それはここがIS学園である以上、避けては通れない道なのだから。

 彼女達。ここにいる生徒は全員、将来優秀なIS乗りとなることを約束されたエリート達。

 ならば、いずれ自分と彼女達は―――。

 そこまで考えて、俺は思考を止めた。訪れてもない未来を考えるなど、自分らしくもないと思った。

 俺はただ自分のやるべきとをやるだけだ。それが篠ノ之束の剣たる自分の存在意義であり、己自身の望み。

 復讐に走った時点で、俺に選択の自由はないのだから―――。

 

 

 

 「…。そんな意味のない事…ね」

 「…なによ?」

 「いや、別に。ただちょっと、かつての凰鈴音ならあり得ない言葉だな…って、思ってな…」

 「…別にいいじゃない。月日は、人を変わるものなのよ…」

 「…。そうか。いや、そうだな」

 

 

 

 あぁ。そうだ。まったくもって意味はない。

 こんなジレンマも。頭に浮かぶ彼女達の笑顔も、なんの意味もない。

 だって、俺にとっては、彼女達のことなど、どうでもいい存在なのだから。

 IS学園の生徒なんて。一年一組の生徒なんて。幼馴染の箒のことですら。俺にとっては興味の欠片もない。

 それが、俺達と言う存在なのだ。

 

 

 

 「そんなことしたって…。後で、辛くなるだけよ…」

 

 

 

 そう言う鈴の顔には影が差していた。

 何か彼女にも思う所があるのかもしれない。

 けれど、今はそのことを気にしている時間はない。いや、俺はあえて気づかないふりをした。

 なぜなら、俺には鈴が何を言いたいのかがすぐに分かったからだ。

 何もかもを失った俺達。そんな俺達だからこそ、“何かを得ることを”望まないのだ。

 それは鈴だけじゃない。俺だって…。

 だって俺達はそれを失った時の悲しみを、知っているから―――。

 

 

 

 「…。悪かった」

 「…」

 

 

 

 口に出た言葉。それは、素の俺の言葉だった。

 失いたくない。確かに、その気持ちは俺も強い。けれど、今の俺は何よりも彼女達を失うことが怖いのだ。

 たとえ、同じ空間を共にするクラスメートよりも。同じ部屋で寝泊まりする幼馴染よりも。

 俺は、俺の“心”である彼女達を、何より失いたくないのだ。

 それ以上。俺は何も言わなかった。

 

 

 

 「そ。ならいいわ」

 

 

 

 そして彼女も、それ以上は何も言わなかった。

 それが、四年という時間が築き上げた俺達の関係だった。短いようで長い関係の中で、築き上げた、俺と彼女との隔たり。それは低いようで高い。そんな、難攻不落の壁であった―――。

 

 時刻は深夜1時を回ったところだった。

 普段は賑やかなIS学園にも、一人として人は見当たらない。そう、自分と彼女以外には―――。

 

 

 

 「ぃ…さ…。ぁ…けて…く…さい」

 「ん?」

 

 

 

 だが、そのとき。どこからか声が聞こえてきた。

 いや、本当は最初から聞こえてはいた。だけど、できて数年の人工島であるこのIS学園に、まさか幽霊などいるはずもないので空耳であろうと、気にしてなかった。

 が、やはりそれは空耳ではなく。今となってははっきりとまではいかないが、確かに聞こえている。

 それは俺から向かって正面。つまり、鈴の方から聞こえていた。

 

 

 

 「あ。いけない…すっかり忘れてたわ」

 

 

 

 そして、どうやら鈴の方にもその声に心当たりがあるらしく。「ヤバ…」と、いった感じの顔でがさごそと持っていたボストンバックのチャックを開けた。

 ちなみに気にしていなかったわけではなく。彼女が持つそのボストンバックは、彼女の私物が全部入っている謎の品である。フットワークが軽い彼女らしいとは言うものも、明らかに十着を超す私服や、俺も持っている朝日をバックにした例の写真。果ては彼女の両親の形見とも言うべき包丁やお玉などの調理のマイセットなど。中身をすべて出したら、明らかに容量が合わない品なのである。

 そのISSの特性から。基本、束さんの足となる彼女は外泊が多い。それ故に、彼女はそのボストンバックをよく、持ち歩いているのである。

 

 そして、そのバックから聞こえてくる謎の声。

 いよいよもって分からない。が、彼女がバックのチャックを全開にした瞬間。それは起こったのだった。

 

 

 

 「一夏さぁーんっ!!!」

 「ぐえっ…!?」

 

 

 

 直後。何か重たい物体が、俺の腹に体当たりをしてくる。それを受け止める暇もなかった俺は、一瞬でその衝撃にノックアウトしてしまった。

 チャックを開けた本人である鈴は「あちゃー」と、顔をしかめている。対して、被害者たる俺は痛みで顔を歪めた。

 そう、その衝撃はまるで全力疾走の牛に突き当たられたかのごとく。

 いや、属性的にはきっとそうだ。

 彼女は昔からそうだった。会うたび会うたびにまるで牛か猪のごとく全力で近寄ってくる。

 

 それは彼女が“人間”だったころからまったく変わらないことであった。

 

 

 

 「こんにちは一夏さん!!で、さっそくなんですけど、もう!聞いてくださいよ一夏さん!鈴さんってばひどいんですよ!?いきなり私の部屋に来たかと思えば「仕事よ!」っとか言って、無理やり私をあのバックに押し込んだんですよ!?あの明らかに整理してないバックの中にですよ!ひどくないですか!?もう鈴さんが動くたびにお玉は頭に当たるは、包丁が目の前をチラつくわで死ぬかと思いましたよ!!しかもフランスからですよ!?日本に来るまでの時間ずっとですよ!?まったく、こんなんだからいつまでたっても―――」

 「ねぇ、蘭?ちょっとお話しましょうか…?」

 「ひっ…。あーん鬼畜女につかまった~。一夏さ~ん。助けて下さ~い」

 

 

 

 鈴が俺に突き当たってきたその“赤い球体”をガシッと鷲塚む。

 それに対し、赤い球体の方の画面に映った彼女は「ひっく…ひっく…」と、泣き真似をしつつ。俺に助けを求めてくる。そして、俺は深くため息を吐いた。

 本当に、このじゃじゃ馬は鈴と同等かそれ以上に扱いにくい。けれども、彼女もまた鈴やシャルと同じように、俺の―――いや、俺達の大事な人だった。

 

 

 

 「よう、蘭。元気だったか―――は、聞かなくても分かるな。久しぶり。相変わらず元気そうで何よりだ」

 

 

 

 そう言って、俺は真っ赤なバレーボールのような姿の彼女に微笑みかけた。

 パイロット独立支援補助システム。通称“RAN”。

 それが彼女の正式名称である。

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 少しだけ、昔の話をしよう。

 かつて―――とは言っても、僅か二年くらい前の話だ。

 俺には友達がいた。言わずと知れた五反田弾である。そして、彼には彼が愛してやまない一人の妹がいた。

 その名は五反田蘭。俺達より、一つ年下の少女であった。

 

 彼はシスコンだった。それこそ、彼女に手を出した者を殺しかけるくらいの。

 そして彼女もなんだかんだ言いつつも、彼のことを兄として慕っていた。

 そんな二人の関係を、俺も、鈴も、数馬も、温かく見守っていた記憶がある。

 

 あの日が来るまでは――――。

 

 あの日、御手洗数馬が殺された。

 原因は御手洗数馬がとある女子生徒に暴行を働こうとし、その女子生徒が正当防衛で殺害したということになっている。だが、実際には女子生徒の方の怨恨であった。

 その日から、弾は変わってしまった。

 その事件のすぐ後、彼は数馬を陥れた女生徒に復讐を決行した。

 結果。彼女は、両目をエアガンで撃ち抜かれ、失明するという大事件に発展してしまった。

 その後、弾は行方知らずとなる。

 

 だが、悲劇はそれで終わりではなかった。

 

 それは、その日から僅か三日後。金曜日の出来事だった。

 五反田食堂が全焼したのである。

 原因は不明。理由も不明。

 だがしかし、その火事のことを知り。そして、後に弾の行方―――。そして、あの悪夢の病“IS症候群”のことを知った俺は、なんとなくその火災の理由を悟ってしまった。

 

 あの火事は日本が。国が起こした火事なのだと。

 

 要は証拠隠滅である。

 五反田弾という存在。そして、五反田弾を創り出した“遺伝子”。

 そのすべてを、国は隠滅したのだ。

 自らの保身と。この腐った世界の保持のために。

 

 けれど、そんな些細なことはどうでもいい。

 問題なのは、その日。五反田家の人間は、この世からいなくなった。と、いうことだ。

 肝っ玉だが気のいいおばさんも。頑固だけど料理がうまいじいさんも。

 そのすべてを。あいつらはたった一晩で奪っていったのである。

 

 たった一人。五反田家長女。五反田蘭。彼女を除いて―――。

 

 五反田蘭は、悪夢のような火災から唯一助かった人間だった。

 だが、彼女が生きているのか、といえば正直疑問であった。

 五反田蘭は、あの火災の後。全身に大火傷を負い、生命維持装置がなければ生きられない体となっていた。無論、彼女に意識などあるわけもなく。その後一年間、彼女は意識のないまま病院のベッドの上で過ごすこととなった。

 転機が訪れたのは事件から一年後のことであった。

 もともと家族のいない彼女。もちろん医療費など払えるはずもなく、保険という名の、国からの慰謝料も打ち切られ。彼女は死を待つだけの存在となった。

 だが、そんなある日。彼女は忽然と姿を消したのである。

 歩けるはずもなく。そもそも意識もない。

 そんな彼女が、何の前触れもなく、一晩で消えたのだった。

 

 無論。種を明かせば簡単な話である。

 彼女は俺達がさらったのだ。俺と鈴。二人で。

 そして、俺達は彼女を束さんに診せた。しかし、彼女の身体はやはり束さんの技術をもってしてもどうすることもできない状態であった。

 だけど、それでも彼女は生きていた。生きていたのである。

 だから、束さんはある賭けをした。

 心のより深い所。そこにもし、彼女がいるのなら。もしかしたら、彼女をまた現実の世界に連れてこれるかもしれない。そのわずかな希望の為だけに、束さんは三カ月の時を使った。

 あの天才。篠ノ之束が、たった一人の女の子のために。三カ月もの時間を使ったのだ。

 その結果。彼女―――五反田蘭は、この世界に蘇った。

 

 パイロット独立支援補助システム。通称“RAN”として―――。

 

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 「お久しぶりです一夏さん!!今日の作戦。不肖ながら全力でサポートさせていただくので、どうぞよろしくお願いします!!」

 

 

 

 そして今。蘇った彼女は俺の目の前にいる。かつての彼女と変わらないような笑顔で、楽しそうに。そう言って、赤い球体の中で彼女はぺこりとお辞儀した。

 その実直な反応に、俺も苦笑いをしながら僅かにうなずいた。

 

 

 

 「まぁ。よろしく頼むよ、蘭。あまり無茶はしないように気をつけろよ?」

 「はい!!もちろんです一夏さん!!私。今日は精一杯、一夏さんのため“だけ”に頑張ります!!」

 

 

 

 まるで研修に来た熱心な新人のように、彼女は元気よく返事する。

 頑張ろうとしているのは分かる。けれど、元気が良すぎて俺は若干引いてしまっていた。

 

 

 

 「…ねぇ、蘭。もしかしたらあたしの聞き間違いかもしれないから、敢えて聞くんだけどさ。いやね、ホントに、きっと間違いだと思うのよ?けど、聞くわね。あんた、今。一夏のため“だけ”って言わなかった?」

 「?何言ってるんですか鈴さん?もう、そんなわけないじゃないですか!」

 「そ、そうよねー。いや、ごめんね蘭。私の勘違いだったわ。ごめんごめん」

 「あはは。まったくもう、鈴さんったらドジっ子なんですから~…。……まぁ、もちろん鈴さんは一番危険なところに送ってあげますけどね…」

 「よし蘭。表に出なさい。むしろ今すぐぶっ壊してあげるからこっちに来なさい」

 「きゃー。こーろーさーれーるー」

 「殺しゃしないわよ。スクラップにするだけだから♪」

 「年増せ!!貧乳!!」

 「…。ねぇ一夏。こっから一番近い活火山って…どこだっけ?」

 

 

 

 何かバチバチと目から怪光線を出しながら、鈴と蘭がにらみ合う。

 すごく、怖かった。きゃっきゃっと楽しそうに笑う蘭。けれど、やはり目は笑っていない。そして、鈴。お前はお前で目が本気すぎる。火山でいったい何をする気なんだ…。

 一見仲の悪そうな二人。

 が、それでも俺は知っている。これが、この二人のコミュニケーションなのだと。

 こんなんでも、蘭は自分を助けてくれた鈴のことを慕っているし、鈴も親友の妹。しかも、同年代の女子ということで何だかんだ言って蘭のことを可愛がっている。

 こんなんでもこの二人はすごく仲がいいのだ。

 

 

 

 「はぁ…もう、いいわ。蘭、あんたの話に付き合ってたら時間がいくらあっても足りないわ…」

 「私はいつまででもやっててもいいですけどね」

 「こら。まったく…また後で付き合ってあげるから、今は我慢しなさい。今はホントに時間がないんだから。分かった?」

 「はーい」

 

 

 

 どうやら一応の収束は着いたようだ。

 そして、ここに来て。やっと俺達は本題にへと話を進める。正直、こんなに早く事が進むのは想定外だった。けれど、起こってしまったことは仕方がない。

 俺達は、俺達が求める世界のために、戦いを始める。

 

 

 

 「一夏。分かってるでしょ?」

 「あぁ、予定よりかなり早かったからな。まさかこんなに早く動くなんて…」

 「束さんの予測も、偶には外れるんですね」

 「そりゃな、相手は人の集まりだからな。いくら束さんが天災でも、そこだけは正確には予測なんてつけられないだろ?」

 「それに束さんだって人の子。間違えることだってあるでしょ?」

 「う~ん…でも、でもですよ。一夏さん、鈴さん。もしかしたら、束さんにはこれすらも予想の範疇であって、私たちも束さんの手の平で踊るコマの一つだってことも…」

 『『…。……』』

 

 

 

 蘭の言葉に、俺も鈴も押し黙ってしまう。

 それは本当に有り得そうだったから何も言えなかったのだ。が、それでも―――。

 

 

 

 「ま、そのときはそのときさ。俺達は束さんを信じる。ただ、それだけだ」

 「そうね。踊らされてるなら踊らされてるで別にいいわよ。ただ、これまで見たどんな踊りよりも魅力的に踊ってあげるだけだから」

 

 

 

 それは、信頼と呼ぶにはあまりにも不格好な言葉だった。

 けれど、俺達にはそれだけで十分だった。

 そして俺は、右手のブレスレットに呼びかける。俺の翼たるそのISSに。そう、俺達はこれから―――。

 

 

 

 「アンロック。認識番号0927。ISS解放」

 

 

 

 厳重に掛けられたロックを言葉の鍵で開ける。

 それは、IS状態時の点検でISSの正体を露見させないため。そして何より、俺達自身が間違ってISSを起動させないための保険である。

 だがいずれも、この場においては何の意味もない。

 これからやるのは、こないだのセシリアとの“遊び”なんかではない。本気の戦争だ。

 故に、俺は出し惜しみなどしない。全力で、ぶっ潰させてもらう。

 

 

 

 「…来い【白夜零式】」

 

 

 

 さぁ…行こうか鈴。楽しい楽しい国潰し(デート)に―――。

 

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 「…うーん。どうしたものかな」

 

 

 

 質素な造りの仮設テント。その中央に置かれた大きな机に乗った地図を、1人の男が眺めていた。

 年は四十代に入ろうかと言う中年と呼ばれる世代。

 顔は、どちらかといえば普通の顔であった。若干、髪の生え際も広くなり始めている。そこまで見れば、どこにでもいる中年になりかけの男である。だが、いずれの者も彼を普通の人間とは思わないだろう。

 それは服の上からも分かる細く締まった筋肉。それになにより、彼が着る服そのものがそれをもの語っていた。

 黒い背広のような服の胸元には、輝く勲章が複数。

 

 そう、男は軍人であった。

 

 

 

 「右翼には第一から第三部隊。左翼には第四から第七部隊を配置しているから問題ない…とは、言い切れないしな。いくら旧兵器を積んでも、結局はISには勝てないし。一応、均等にIS部隊を配置するか…?」

 

 

 

 その彼が見つめる先。地図上に乗った駒はいずれも自軍の有利を現していた。

 そのいずれの駒も、彼は自分の手で自由に動かすことの出来る人間であった。その様子はさながらボードゲームを勤しむ中年のゲーマーのようである。

 

 

 

 「だが、あのIS部隊が俺の言う事なんて聞く訳がないしな…。どうしたものか…」

 

 

 

 だが、普通のボードゲームと違う点。それは、彼自身の手で動かす駒が本物の人間であるということ。そして、その一振りが多くの人間の生死を左右するという点であった。

 

 

 

 「ま。いずれにしても、やはり重要になるのはISか…」

 「失礼致します」

 

 

 

 駒の配置を置いては変え。また置いては戻す。

 そんな作業を繰り返す彼。そのとき、テントの中に一人の男が入ってきた。

 見た目は男よりさらに若い。未だ青年と言ってもさして問題ない軍服の男であった。

 

 

 

 「あぁ中尉。ご苦労さま。で?何か用かい?」

 「はい。ご報告があってまいりました。まず、大佐の指示通りに全部隊の配置。ならびに武装が完了いたしました。いつでも敵を迎え撃てる準備が整っております」

 「うん。そっか。それで、お姫様たちのほうはどうだった?」

 「そ、それが…」

 

 

 

 中尉と呼ばれた青年は、思わず言葉を言いよどんだ。

 その様子にだいたいの結果を悟った彼は、「やはりな」と、深くため息を吐く。

 それは、大方予想通りの結果であった。

 

 

 

 「はぁ…何を考えているんだか。うちのお姫様たちは…」

 「…大佐。よろしいのですか?あんな者達の手に、この国の未来がかかっているだなんて。正直、私は耐えられません」

 「いいわけないだろう馬鹿者。こんな非常時に…いったい、何をやっているのだ」

 

 

 

 中尉の言葉に、彼は激昂する。

 それは単に、国を愛するが故の愛国心からくる感情だった。

 だが、それ故に彼は苦悩しているのだ。

 国を愛するが故に。自分の手で国を守れないというこのジレンマに。

 彼の心は、揺らめく。

 

 

 

 「…分かった。今度は私が行こう」

 「っ。ですが大佐…!」

 「くどい。お前にだって分かっているだろう。私たちには、こうする他、国を守る術がないことを」

 「っ。だ、だけどこれじゃあ…!!」

 

 

 

 瞬間。自分の失言に気づいた中尉はハッとする。

 頭を振り。中尉は再び彼の瞳を見る。その瞳は、心なしか濁っているように見える。けれど、その瞳は決してまがってはいない。真っ直ぐな瞳であった。

 

 

 

 「…ですが、大佐。これではあまりに…不合理で、なりません」

 

 

 

 そのとき彼は中尉の瞳に浮かぶ雫を見逃さなかった。

 けれど、彼はそれを指摘するつもりはなかった。彼の気持ちは痛いほど分かる。それはきっと、この前線基地の兵士のほとんどの思いであろう。

 だからこそ、彼ら全員の思いを背負って彼はいかなければならないのだ。

 

 例えそれが、どんなに屈辱的なことであったとしても―――。

 

 

 

 「…分かってくれ。とは言わない。だが理解してくれ。この国を守るには、彼女達の力がいることを…」

 「…大佐。自分は…自分は…」

 「…あぁ。分かっている。だからこそ、私が行くんだよ。泥をかぶるのは、私だけでいい」

 「…すみません、大佐。無力な自分たちを…どうか許してください」

 「あぁ。許そう。だからもう立て。そして泣き止め。そしてこれからしっかり戦ってこい…国のために」

 「っ…。はっ!」

 

 

 

 そうして中尉はテントから出て行った。

 一人残された彼は、のろりと近くにあった椅子に座りこむ。ポケットから若いころから愛煙しているタバコをだし、口に含んで火をつけた。

 妻に止められ禁煙していたが、今となってはそんなこともどうでもいい。

 久しぶりに吸うたばこの煙は、やけに目に染みた。

 

 

 

 「まったく…ひどい世の中だよ…」

 

 

 

 彼の名前は“イ・リギョク大佐”。

 韓国軍北部防衛の最高責任者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 では今回のちょっとした裏設定を紹介します。

 Q1,一夏はどうやって部屋を抜け出したの?
  A,ビール飲んで酔っ払ったから少し風に当たってくる。ちなみに一晩帰ってこなかった理由はそのまま酔っぱらったままベンチで寝てしまったから…。

 Q2,一夏のISSの起動暗証番号の由来は?
  A,千冬姉の誕生日。シスコンですから。

 Q3,蘭ちゃんって、ぶっちゃけあれですよね?
  A,ハロです。


 そして、今回登場した韓国と北朝鮮。二つの国家の主人公は次回あたりにあとがきで紹介したいと思います。ちなみにイ・リギョク大佐。前小説時はなぜかものすごく人気でした。
 それでは、またいつになるかは分かりませんが(ってオイ!)ウソです。できるだけ早く書きます。また次回!!それでは!!



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。