ISS 聖空の固有結界 ~IS学園編~   作:HYUGA

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 え-では今後の事について少しだけ。
 次回の更新はかなりあとになりそうです。

 みなさん夏休みはどうお過ごしですか?自分は今日やっと大学の試験が終わって夏休みになります。と、実家に帰らなければいけません。
 一つ問題なのが実家がネット接続してないという点です。
 というか切られました。お金って大事ですね。

 というわけで実家では新しくネットを繋ぎ直さなければいけません。
 つなげられるかは分かりませんが。
 そのため、次回更新は下手したら一カ月近く先になるかもしれません。夏休み後ということです。本当にすみません。

 というわけで皆様。夏風邪と熱中症にご用心して夏休みを満喫してください。
 それではまた。


第3章『半世紀戦争のクライマックス』
第一話 ごめんなさい


 

 □ごめんなさい

 

 

 セシリアとの決闘から、約一週間の時が過ぎた。

 

 この一週間。様々なことがあった。

 まず、俺と箒。それに千冬姉の三人が事情聴取を受けたと言う事だ。

 理由は、俺達が篠ノ之束に近い。ただ、それだけの理由である。

 箒などは、事情聴取を終えた後、三日ほど不機嫌そうであったが、今では表面上はいつも通りの生活に戻っている気がする。それは千冬姉もしかりだった。

 逆に俺はというと、自身の立場がバレなるか否か冷や冷やな事情聴取であった。

 だが、その点は滞りなく。ボロを出さずにやり過ごすことが出来た。

 どうやら俺が篠ノ之束の【剣】だとバレるのは当分先の事になりそうである。

 

 そして、もう1つ大きく変わったことがある。

 それは、中国がその国力を大きく縮小せざるを得ない状況に陥ってしまったと言う事である。

 

 一週間前。俺達は―――と、いうより鈴が起こした大事件。

 中国の所持するISコアの半分以上を破壊したあの大事件以降、中国はその軍事勢力を極端に減少させてしまう。そこに着け上がったのが各地の反乱分子であった。

 かつて、中国は国内で起こっていた紛争をISで解決したことがある。その紛争をしていたかつての地域が一斉に武装蜂起したのだ。

 これにはかの大国もたまったものではない。現在、中国はその鎮圧のため動いており、他国に干渉する暇などないのだ。

 

 そして、この中国の国土低下の余波はもう一つあり―――。

 

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 

 「というわけでっ!織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 「おめでと~!!!」

 

 

 

 ぱん、ぱんぱーん。

 突如として部屋に鳴り響いたクラッカー音。だが、そのクラッカーの紙テープを頭に乗せた俺はただ唖然と口を開けるばかりだった。

 夕食後の自由時間。クラスメート数名に呼び出されて来た寮の食堂。そこにはなぜか一組のメンバーが全員そろっていた。そしてなぜか各自飲み物を持って勝手にやいのやいのやっていた。

 

 

 

 「…はい?」

 

 

 

 が、どうやらこの騒ぎの元凶であるらしい俺は、この状況をまったくもって理解できていなかった。

 クラス代表?え?誰が?俺が?なにそれおいしいの?

 俺は、思わずもう一度辺りを見渡した。

 皆、うれしそうに笑っていた。それこそ、一週間前の篠ノ之束のことなんてなかったかのように。いや、むしろ篠ノ之束が世界にもたらした恐怖。それを払拭するかのように、皆、この賑やかな催しを楽しんでいた。

 

 

 

 「いや~それにしてもめでたいめでたい」

 「そうだね~これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

 「ほんとほんと」

 「ラッキーだったよね~。同じクラスになれて」

 「ほんとほんと」

 

 

 

 耳を傾けずとも、そんな会話が聞こえてくる。

 だけど、決してめでたくはなかった。

 ちっともめでたくなんてない。なんなんだ、このパーティは?

 ちらりと壁を見ると、そこにはデカデカと『織斑一夏クラス代表就任パーティ』と書いた紙が貼ってある。そうかそうか、就任パーティ…就任パーティ…ねぇ…。っておい!!

 

 

 

 「今北産業おぉおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 俺は思わず叫んでしまう。

 なんだ。なんなんだ?これは!?イジメか?イジメなのか?我がクラスではイジメが行われているのか?

 ヤバい。思考が感情に追い付かない。

 それだけ、俺の頭の中はぐちゃぐちゃに混乱していた。

 

 

 

 「…え。えーっと。織斑くん?」

 

 

 

 突然叫んだ俺に、賑やかだったパーティ会場がいきなり静まり返る。

 その大半が、空気読めコノヤローと目で語っているような気がした。あれ?これ俺が悪いの?

 いくら俺でも、三十以上の瞳を一斉に向けられたら億劫になってしまう。ってか今気づいたけど、明らかにここにいるメンバーって一組だけじゃないよな?だって見知らぬ顔もいるし。

 けれども、そんなことは些細な問題でしかない。今の問題は、この空気をどうしようかということだった。

 マジでどうしよう?

 しかし、そんな俺のもとに救世主が現れるのだった。

 

 

 

 「落ち着け。馬鹿者」

 

 

 

 バシンッ。いつも通り思い一撃が俺の頭に入った。

 その一撃はまるで天から降ってきた雷迅のように、俺の頭を掻き乱す。物理的に。

 そう、それは我が姉にして一組のクラス担任。織斑千冬様の出席簿アタックだった。

 どうやら千冬姉もこのパーティに参加していたようである。

 

 

 

 「いっ…ってぇ…。な、なにすんだよ千冬姉…!毎度毎度…バシバシと俺の頭を出席簿で叩いて!そんなに俺の脳細胞を殺したいんですか?俺にバカになれって言うんですか?」

 「安心しろ。お前は元から極限のバカだから、これ以上叩いても変わらんさ」

 「あ~なるほど。そうかそうか。なら、仕方な…くねーよ。千冬姉さぁ…今、俺の事すごくバカにしたよな?それこそ最上級の罵倒でさ?」

 「?バカにバカと言って何が悪い?」

 「本気で不思議そうな顔すんなよ千冬姉!」

 

 

 

 コテンっと可愛らしく首を傾げる千冬姉。やめてください、興奮するじゃないですか。

 そんな時折見せる千冬姉の可愛いらしい姿にはぁはぁ言いそうになっている俺。変態じゃありません。シスコンです。そんないつも通り(?)な俺達の姿に、クラスメートたちの間にも活気が戻っていった。

 

 

 

 「ホント仲いいよね~織斑先生と織斑くん」

 「だよね~まるで恋人同士みたい」

 「浮気性な弟とその彼の首輪を握る強気な姉の禁断の愛ってやつ?」

 「うわ~なにそれロマンチック~」

 「うん。でももしかしたら…」

 「だね。ありえるかも…」

 「よし。だったら明日の校内新聞のネタはそれで決まりね!!」

 「っ…黛さん!?」

 「や、やばいってそれは…」

 「そ、そうだよ黛さん。考え直して」

 「織斑くんはともかく。織斑先生に見つかったら殺されるよ!」

 「え~だって~こっちのほうが面白そうじゃない~」

 

 

 

 何か大変な話がされているようだが、俺は本能的に絡まない方がいいと思った。

 絡んだら最後。千冬姉との家での過ごし方とか、根掘り葉掘り聞かれそうだったから。

 それになにより、めんどくさい。

 そんな俺の思惑を知ってか知らずか、いや知らないだろうけど黛さんの話はそれで終わった。どうやら明日の校内新聞で俺と千冬姉の禁断の恋について載ることはないようだった。

 別に期待なんてシテナカッタヨ?

 

 

 

 「ははは。一夏、どうやら他の者にはお前と私は恋仲に見えるそうだ。もういっそ私と結婚するか?」 

 「っ…そ、そんな見せかけの言葉なんかに騙されないんだからねっ!?」

 

 

 

 けど、ちょっとだけ心が揺らいだのは秘密である。

 

 

 

 「そ、それより千冬姉。この状況が、俺には未だに理解できないんだけど?いい加減説明してくれないかな?」

 

 

 

 そして、ここに来て俺は話を本題にやっと戻した。

 いつもの如く半端なく脱線してしまっていた。ま、もう脱線することには諦めているからどうでもいいんだが。俺の問いに千冬姉はふむと頷く。

 そして、今までの穏やかな雰囲気から一転。いつもの厳格な千冬姉がそこに現れた。

 文字通り、千の冬を越えてきたかのような軍人のような強面の織斑千冬が。

 

 

 

 「一夏。ひとまず、その話は置いておく。その前に説教をしなければいけないからな」

 「へ?」

 

 

 

 千冬姉のその言葉に、俺は自分の思いと反するように体がビクリと震えた。

 あれ?千冬姉…もしかして怒ってらっしゃいますか?

 俺の予測はどうやら大正解であったらしく、千冬姉は起こってらっしゃった。それも教師としてではなく、家族。たった一人の姉として、弟である俺に怒ってらっしゃった。

 

 

 

 「一夏?まさか忘れたわけではあるまい?お前、あれほど使うなと言ったのにも関わらず…使ったな。しかも、身体に負担のかかる鈴音の能力を…。この愚か者が」

 「っ…」

 

 

 

 俺は息を詰まらせる。

 周りに人がいるため小声で囁く千冬姉の言葉。だが、その言葉の中には確かに、たった一人の家族である俺の事を心配する姉の怒りの思いが込められていた。

 

 

 

 「は、反省文とか…書いた方がいいですか?」

 

 

 

 千冬姉の怒気にあてられ、俺はいつものよに少しへらっと数馬のように笑いながらその言葉を口にする。

 それくらいしか俺にできなかった。

 が、その数馬の態度が千冬姉の反感を買うことになる。千冬姉の目がキッと俺を睨みつけた。

 

 

 

 「馬鹿者!!反省文など、どうでもいい!!

  へらへら笑うな!!思ってもいない事を…。感情のないお前の顔など反吐が出る!!

  だいたいお前が反省文ごときで反省するわけないだろう?だからお前をクラス代表にしたのだ。一年間、死ぬほどこき使ってやるから覚悟しておけ!!」

 「ちょっ、千冬姉何言ってんの?っていうか嫌だよ、そんな俺を虐めるためだけにあるような役職。ってかそんな役職の就任祝いだったのかよこれ」

 「うるさいうるさいうるさい。

  だいたいお前は昔からそうだ。小学六年生の時おねしょしたときも私に内緒で勝手にシーツ洗ってるし」

 「ちょっ…。ってかあれは千冬姉に任せたら洗濯機壊れるからであって―――」

 「それだけじゃない。お前はいつだって…いつだって…。

  御手洗のときも…。五反田のときも…。鈴音のときも…。お前は、ちっとも私を頼ってはくれなかった。私には何の相談も…してくれなかった…」

 「…。千冬姉」

 

 

 

 いつの間にか、クラスの視線が再び集まったのが分かった。

 が、俺にはそんなことどうでもいい。素の俺にとって、この場にいる千冬姉以外の人間など本当にどうでもいい存在なのだから。

 今の千冬姉の言葉は明らかに素の俺に言っている。

 初めて俺を必要としてくれた人。初めて俺を愛してくれた人。

 その人の言葉は、俺の心にぐさりと深い楔を打ち込んだ。

 

 

 

 「…。千冬姉」

 「一夏。お前はいつだって…いつ…だ…て…」

 

 

 

 刹那。千冬姉がふらりとよろける。

 俺は彼女の身体を支えるように、そっと抱きしめた。

 

 

 

 「…。千冬姉?」

 「くぅ…くぅ…」

 

 

 

 耳元に安らかな眠り声が聞こえる。

 どうやらねむってしまったようだった。なぜ、突然眠りだしたのかは分からない。だが、千冬姉の眠りを害さないように、俺はそっと彼女を近くの椅子に座らせた。

 

 

 

 「一夏」

 

 

 

 千冬姉が眠りやすい体勢をつくってあげたとき、俺は後ろから声をかけられた。

 聞き覚えのある声。当然だ。その声は、俺のルームメイトにして幼馴染の女の子の声なのだから。

 

 

 

 「…。あぁ、箒か。すまん、これから千冬姉を部屋に連れて行こうと思う。俺はそのまま帰って寝るわ。みんなにはそう伝えてくれ」

 「千冬さんは眠られたんだな。…それもそうか、あれだけ飲まれていたのだから。酔いつぶれるのも仕方ない」

 「酔い…潰れた?」

 

 

 

 箒のその言葉に、俺は首を傾げた。

 

 

 

 「あぁ、かなりの無礼講だったぞ。

  ビール缶10本くらいはいったかもしれない。ほら、見ろ一夏。お前が千冬さんを寝かせた机。ビールの空き缶でいっぱいだろう?」

 「…ほんとだ」

 

 

 

 箒の言うとおり、机の上には何本もの空き缶が散らばっていた。

 そのどれもがお酒。ビールである。この場にいるのが学園の生徒である以上、これを飲んだのはすべて千冬姉ということになる。

 どうりでここに来た時から千冬姉の様子が変だったわけだ。どうやら、千冬姉は最初から相当酔っぱらっていたようだ。そりゃこれだけ飲めばそうなるはずだ。

 俺はそっとため息を吐いた。

 

 

 

 「まったく…生徒がいる前で何をやっているんだか…。学園の先生失格だな、この人」

 「そう言ってやるな一夏。そもそも、このパーティを開こうと言ったのは千冬さんなのだ。そこは大目に見てやってくれ」

 「え?マジで?千冬姉が?なんでまた?こういうことをしたいなら、この人が明らかにラスボスだろ?千冬姉ならこんなこと絶対許さないと思ったんだけどな…?」

 「あぁ。そうだな。私だってそう思う。だがな一夏、事実そうなんだ。

  わざわざお前のクラス代表就任という題目まで作って、このパーティを企画したのだからな」

 

 

 

 箒はそう言って持っていたジュースを一口飲む。

 が、それは普段の箒ならあまり飲まないであろう炭酸ジュースであることに俺は気づいた。

 どうやら箒自身、このパーティを楽しんでいるようだった。

 

 

 

 「…こんな状況だからな。皆、いろいろ鬱憤が溜まっていたのだろう。だからきっと、それを見越して千冬さんはこんなパーティを企画したんだろう。まったく、つくづくこの人には頭が下げさせられる」

 

 

 

 箒は机で穏やかに眠る千冬姉を見ながら少し微笑んだ。

 その瞳は、まるで聖人君主を見るかのような尊敬の眼差しであり、箒が千冬のことを信頼している証であった。けれども、俺は少しだけその言葉を、箒の瞳を否定しなければいけない。

 確かに、千冬姉は皆の気持ちを晴れやかにするためにこのパーティを企画したのだろう。それは間違いない。

 けれど、その根本は違うはずだ。

 いや、違うのではない。もっと、人間らしい理由があったはずなのだ。

 

 皆、特にこの学園では千冬姉のことを神や聖人のように見る傾向がある。

 それもそうだ。なぜなら千冬姉はかの有名なブリュッヒルデなのだ。この学園、皆の憧れなのは間違えようのない事実である。

 だけど、俺は知っている。ブリュッヒルデだって人間だということを。

 こんな年はもいかない子供を有事になったら戦役に駆り出さなければいけない異常な状況。しかも、その状況を引き起こしたのが親友であるのならばなおさらだ。

 それだけで、千冬姉の心をすり減らすには十分な理由だった。

 

 けれど、彼女はブリュッヒルデ。この学園の希望。

 だから、決して弱音を吐いてはいけない。その思いが、さらに千冬姉の心をすり減らすのだろう。

 その悲しみを、その苦しみを、千冬姉は今、かみ殺して生きているのだ。

 

 

 

 「だけど…」

 

 

 

 彼女だって人間。その限界があることを知っているのだ。

 だからこそ、千冬姉はこういう形の宴の場をもうけたに違いない。その思惑はきっと―――。

 

 

 

 「ただ、単に飲みたかっただけなんだろうな。こうして賑やかな場所で…」

 

 

 

 普段では考えられない穏やかな顔で眠る千冬姉。

 それはきっと、彼女の本当の姿なのだろう。十代の頃から、自らの感情を押し殺して俺を育ててくれたブリュッヒルデの少女としての姿。

 俺は目元に落ちた彼女の髪をそっとすく。きらりと光る雫が彼女の瞳から流れるのを俺は見逃さなかった。

 俺はその雫をそっとすくい上げる。

 千冬姉の顔に少しだけ笑顔が戻ったような気がした。

 

 

 

 「…もう、壊れかけてるおかもな。千冬姉も、俺みたいに…」

 

 

 

 世界に絶望したのは俺だけではない。千冬姉だってそうなんだ。

 青春を俺なんかのために潰し、片目と片手を失い。そして今も、誰も知らないところで傷つき続けている。もし、俺の正体が千冬姉に知られたら、千冬姉はきっと―――。

 

 

 

 「…けど、それでも止められない」

 

 

 

 俺にはもう、それしか生きる意味がないんだから。

 机の上にまだ空いていないビール缶が一本あった。俺はそのプルタブに指をかけ一気に飲み干した。すでにぬるくなったビールはただ苦いだけで、旨みなど全く感じることはない。

 けれど、ひどく身に沁み渡った。

 

 

 

 「ぷはっ…。あぁ、そうだ千冬姉。一言だけ言わせてくれ」

 

 

 

 ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 

 深夜。全寮制であるこの学園で、皆が寝静まったであろうその時間。俺こと織斑一夏は夜の散歩と洒落込んでいた。

 昼間は賑やかな学園も、さすがにこの時間になると静かな物である。

 海から吹きつける風が妙に心地いい。海の上にあるからか、空を見上げれば東京とは違い僅かながら星の光も見える。

 そんな穏やかな空間を崩すかのように、俺はふうと息を吐き出した。

 

 

 

 「…こんな夜中にデートのお誘いなんて、男冥利に尽きるよ」

 

 

 

 気配なんて感じない。けれど、俺は知っていた。そこに彼女がいることを。

 

 

 

 「そ。でも、こういうことは男がエスコートするものよ。そう昔から言ってるでしょ?」

 「生憎。これまでデートする機会なんてなかったからな」

 「あら?そうだったかしら?少なくとも中学の時に何度も二人だけで出かけた記憶があるんだけど?」

 「あははは。何言ってんだよ。もちっと成長してから出直してこいじゃじゃ馬」

 「ぶっ殺すわよ?」

 

 

 

 そして俺は彼女に向き直った。

 何もない闇。けれど、その闇の向こうから影が現れる。

 その姿に見覚えがあった。その姿は俺の心の支えだった。いつでも俺の周りをうろちょろしながら満弁の笑みで笑っていた彼女は、俺の心の中の太陽だった。

 俺は、そんな彼女の笑みにいつも救われていた。

 

 けれど、彼女は変わってしまった。

 

 中学二年生のときを境に、彼女はあの満弁の笑みを見せることはなくなった。

 いや、一時期は笑う事さえなかった。まるで、昔の俺のように。

 けれど今、彼女は笑っていた。だが、その笑みは決して昔のような太陽のような満弁の笑みではない。そう、その笑みはまるで今、空に浮かんでいるあの月のように冷たい笑み。

 いつまでも彼女には笑っていてほしかった。たとえ隣に俺がいなくても、彼女には幸せでいてほしかった。

 そして俺は、この残酷な世界が変えたその事実を前にしながら、笑みを浮かべた。

 貼り付けたような偽物の笑みを。

 

 

 

 「直接会うのは半年ぶりだな鈴…いや【舞姫】」

 

 

 

 彼女。俺のセカンド幼馴染である【舞姫(マキ)】こと―――凰鈴音に向けて。

 

 

 

 「そうね。それじゃ行きましょっか【雪羅】」

 

 

 

 楽しい楽しい―――国潰し(デート)に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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