この度の大幅な物語の改変本当に申し訳ありません。
自分の文才ではあれ以上話を進める事ができませんでした。
本当に申し訳ありません。ですが、もしよろしければ今後もこの二次創作の小説を読んでいただければ本当にありがたいです。
さて、では本編の方なのですが、これからはいよいよ朝鮮戦争編を書いて行きたいと考えています。だいぶ情勢も落ち着いてきたのでこのタイミングでいかせていただきます。
これからも自分の粗末なしょうぜつにおつきあいできれば幸いです。
それでは今後もよろしくお願いします。
□お慕い申し上げております
サアアアアアア―――。
シャワーノズルから熱めのお湯が噴き出す。
水滴は肌に当たっては弾け、またボディーラインをなぞるように流れていく。
白人にしては珍しく均整の取れた身体。しかし、その流線美はただ美しいだけではなく、適度に筋肉が付き、見る人だれもが美しいと思う肉体美を醸しだしている。
それは彼女―――セシリア・オルコットの努力の証であった。
スッと伸びた脚は艶めかしくもスタイリッシュ。一見するとそこいらのアイドルにも引けを取らないどころか、勝ってすらいるそれ。
だが、そこに時たま見られるすり傷あとは、彼女の日々の鍛錬の激しさを物語っていた。
その見るからに沁みそうな脚にシャワーを浴びながら、セシリアは物思いにふけっていた。
「…。……」
セシリアは一夏のことを思い出す。
あのこれまで出会ったことのない瞳(め)をした男のことを。
他者に媚びることのない眼差し。それは、セシリアがこれまで出会った男たちを逆連想させた。
父は母の顔色をうかがうばかりの人だった。
名家に婿入りした父。母には多くの引け目を感じていたのだろう。幼少の頃からそんな父親を見て、セシリアは『将来は情けない男とは結婚しない』という思いを幼いながらに抱かずにはいられなかった。
そして、篠ノ之束によってISが開発されてから父の態度はますます弱いものになった。
母は、どこかそれが鬱陶しそうで、父との会話事態を拒んでいたキライがあった。
「…。……」
母は強い人だった。
女尊男卑社会以前から女でありながらいくつもの会社を経営し、成功をおさめた人だった。厳しい人だった。けれ憧れの人だった。
そう。『だった』。両親はもういない。事故で他界した。
いつもはべつべつにいた両親がどうしてその日に限って一緒にいたかは未だにわからない。
一度は陰謀説がささやかれたが、事故の状況はいともあっさりとそれを否定した。越境鉄道の横転事故。死傷者は百人を超える大規模な事故だった。
そして彼女は世界に『絶望』したのだ。
それからはあっという間に時間が過ぎた。
手元には莫大な遺産が残った。
若くしてオルコット家の当主となったセシリアは世界の厳しさを思い知らされた。
何度も何度も頭を下げ、必死に勉学を積み重ね。彼女はただひたすらに努力を重ねた。体を求められたこともあった。一時期は路頭に迷いかけたこともあった。
けれどセシリアは決してめげなかった。
そんなときだった。彼女に転機が訪れたのは、勉強の一環で受けたIS適正テストでA+の判定が出た。政府に国籍保持のために様々な好条件が出された。両親の遺産を守るため即断した。
第三世代装備ブルー・ティアーズの第一次運用試験者に選抜された。
そして、かねてより計画していたことのために、彼女は海を渡った。いずれ起こるであろう戦争に自ら終止符を打つために。
そして出会ってしまった。織斑一夏と。理想の強い瞳をした男と。
「ぃちか…さま…」
意味もなく、セシリアはその名を口にする。
不思議と、胸が熱くなるのが自分でもわかった。
だが、この胸のドキドキはどうしようもなく、自分の意思ではもう、押さえつけられなかった。
「…ぃちか…さま…」
そしてセシリアはその気持ちを偽ることを、もうしたくなかった。
そうだ。これは間違いなく、セシリアが男性に対して決して抱くことはないだろうと考えていた感情だった。
いつも母にひれ伏すばかりの情けない父の姿。オルコット家を存続させるためとはいえ、無理やり躰を求めてきたあの卑劣な政界の豚ども。
そんな男性の姿しか知らないセシリアにとって、これはもう革命に近い感情だった。
「…ぉりむら…ぃちか…さま…」
その兆しは薄々感じていた。
昨日、初めて教室で彼の姿を見た瞬間。セシリアはこれまで自身が抱いて男性に対する印象を完全に崩壊させた。それほどまでに、彼の印象は衝撃的な物だった。
その男―――織斑一夏は、何よりも美しかった。
顔立ちは無論のことだが、セシリアには、彼のその後ろ姿が妙に印象的だったのだ。
自己紹介の時、彼は席の配列の都合上、セシリアには背を向けた形での自己紹介をした。その自己紹介の内容を聞いたクラスメートは、皆一様に彼に好感、もしくはそれに近い感情を抱いただろう。
だけど、セシリアは違った。
セシリアがまず初めて彼に抱いた感想は複雑な物だった。
いくらにこやかな笑顔を浮かべても、セシリアにとって、彼の印象は変わらず、あの自己紹介の時に見た後ろ姿のままだった。
まるで、この世界事態に絶望したかのような、悲壮感の漂うその背中。
それでも、何かを誤魔化すように笑い続ける彼。セシリアにとって、その姿はとても、見覚えのあるものだった。
そう、その後ろ姿は間違いなく【自分(セシリア・オルコット)】のものだった。
自分自身、悲惨な人生を歩んできたと自負できるセシリア。
その壮絶極まりない人生を送ってきた自分の後ろ姿と、彼の―――織斑一夏の後ろ姿は、どうしようもなく同じ物だった。
「…もう、誤魔化しはできませんね…」
それ故に、セシリアは彼に強く惹かれた。
初めはただの好奇心だった。だけどもう遅い。
もうセシリアには、この気持ちを誤魔化すことなんてできなかった。
これまでの自分のやり方。アイデンティティを粉々に砕いた昼間の彼との闘い。熱く、神々しく、なにより彼の―――一夏の闘い方に、セシリアは恐怖を感じた。
だけど、その危うさにセシリアは惹かれたのだ。
そして変化した。淡い恋から、燃えるような愛へと。
だからもう、すべてが手遅れだった。
「あぁ…一夏様…」
―――わたくしはあなたを…お慕い申し上げております…。