ISS 聖空の固有結界 ~IS学園編~   作:HYUGA

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 あとがきにキャラ設定「織斑一夏」を追加しました。


第1章『世界崩壊のタイムリミット』
第一話 賑やかな孤独


 □賑やかな孤独

 

 織斑一夏は悩んでいた。この状況をどうやってきりぬけようかと。

 別に、問題があるわけではない。命の危険があるわけではないし、社会的に殺されかけているわけでもない。ただ、孤独なだけだった。

 孤独自体は慣れている。小学校に復学したころは、鈴と出会うまでずっと孤独だったわけだし、去年までの約一年半の中学校生活も、友達なんていなかった。

 が、それとはまた別の理由で、織斑一夏は孤独を感じていた。

 

 ――――これは…、きついなぁ…。

 

 ただ単純に孤独だったらどれだけよかったものか。

 一夏は、辺りから向けられる視線視線視線…。前後左右から向けられる様々な視線を受けながら考えていた。「どうしてこうなった…」と。

 

 IS学園は女子校である。世間一般的に、俗世の人々はそう思っているに違いない。

 ところが、IS学園は、認識されていないだけで、立派に男女共学のシステムは出来上がっていた。

 それは、まだIS学園ができたばかりの頃。つまりISが出来て間もない頃に、まだ権力を持っていた男が、最後の望みをかけて作った制度だった。

 しかし、その制度も、昨今では必要ないと認識されつつあり、あと数年で、その制度は完全になくなるはずだった。彼が現れるまでは…。

 

 織斑一夏は男であるにも関わらず、ISに乗ることができる。

 その事実が公表されたのは、今から二年前。第二回モンド・グロッソが行われた時のことであった。

 その日、織斑一夏は誘拐された。理由は、彼の姉、織斑千冬のモンド・グロッソ連覇の阻止。かの「ブリュンヒルデ」こと、織斑千冬は、右目が義眼で、左手首の先が義手であっても、圧倒的力を誇っていた。それ故に、世界各国は恐れていたのだ。そんな傷だらけの者に、世界最強の称号を取られたあかつきには、各国の国家代表の名折れだと。

 故に、織斑一夏は誘拐されたのだ。ところが、それは思わす結果をもたらした。

 すなわち、初の男性操縦者の出現である。

 結論から言えば、一夏は千冬が来る前に誘拐犯を撃退した。

 しかもただの撃退ではない。ISに頼らず(・・・)、ISのように(・・・)圧倒的な力を使い、彼は誘拐犯を撃退したのだ。

 この事件は後に「モンド・グロッソの悪夢」として、世に語り継がれ、ISより優れた兵器が現れるのを危険視した世界各国の思惑により、一夏はISの操縦ができる唯一の男として世に公表されるようになったわけである。

 

 そして、現在に至る。

 

 右を向けば、右にいた生徒が顔を反らし。左を向けば左にいる生徒が顔を反らす。

 関心を持たれてないというより、むしろ皆自分に関心がありまくりなこの状況。織斑一夏はこの賑やかな孤独の中、目の前にいる復旦の先生に早く終われと念じていた。

 

 

 

「え~では、みなさん。ようこそ、IS学園へ。入学おめでとうございます」

『…。……』

 

 

 

 ――――おい。誰かなんか言ってやれよ。俺なんかを見ている暇があるんなら。

 

 目の前にいる緑髪で、数馬が喜びそうな胸を持った先生の言葉に応える生徒は一人もいない。なんだこのクラス。学級崩壊寸前じゃないか…。ま、その原因で俺が言っても説得力はないけれど。

 織斑一夏はそんなことを思いながらため息をついた。

 

 

 

「え、えーっと…で、では、みなさんに自己紹介をしてもらいましょう!皆さんも新しい学校に来たばかりで不安でしょうから」

『…。……』

 

 

 

 ――――すみません、先生。ほんとうにごめんなさい。

 

 一夏は、心の底から目の前の先生に謝罪する。最早、先生は涙目だった。が、そこはプロの教師。その涙を瞳に押し留め、最初の生徒を呼んだ。

 さすがに個人で呼ばれたら、無視するわけにもいかず、呼ばれた生徒―――相川さんは、「はい」と言って、自己紹介を始めた。

 自分の番まではまだ時間がある。自己紹介など、簡単にすませようと思っている一夏は、その場で即興で考えるつもりだった。

 だから、自分の番がくるまでの間に、一夏はさっき見つけた知り合いに目を向けた。

 

 ――――箒。七年ぶりか。髪型…ぜんぜん変わってないな…。

 

 一夏が顔を向けた先にいたのは、彼ののファースト幼馴染の篠ノ之箒の姿だった。

 かつては、千冬と束で以外で唯一心を許していた存在…。七年ぶりに見た彼女は、あの束の親族ということもあり、かなりの美人に育っていた。

 一夏の視線に気が付いた箒は、自分が見られていると知り、一瞬で顔が赤くなる。が、すぐに他の生徒同様に一夏からプイと顔を反らし、窓の外に目を向けた。

 

 ――――あらら。これは嫌われたかな…。

 

 その態度に、一夏は苦笑いする。そして、それと同時に安心した。自然とその表情が出たことに、一夏は安心したのだ。

 

 

 

「…くん。織斑一夏君!!」

「あ、はい!」

 

 

 

 そのとき、目の前で名前を呼ばれた。呼んだのはこのクラスの副担任。山田麻耶先生だった。

 一夏は、突然のことに思わず大声で返事をしていしまう。

 それに驚いたのはむしろ目の前にいた先生の方だった。その様子に、複数の女子たちがくすくすと笑った。

 

 

 

「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってるかな?ごめんね、ホントごめんね!でもね、えっとね、自己紹介、『あ』から始まって次が『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ごめんね?ごめんね?自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」

 

 

 

 むしろこっちが恐縮するほど謝ってくる先生に、俺は苦笑いしてしまう。

 そんな謝ることもないのに…。そんな彼女に、一夏は「きにしないでください」と声をかけ、クラスメート全員の顔が見れるように振り返った。

 初めて正面から見た一夏の端正な顔に、数名のクラスメートの頬が赤らむ。

 そんなことも、鈍感な一夏には露知らず。凶器にもなる笑みをニコリと浮かべた。

 

 

 

「初めまして、織斑一夏です。出身はS県の○○中学。趣味は剣の鍛錬とツ○ッター。特技は料理とか家事全般に姉の好い所を探すこと。今ので分かったかもしれませんがシスコンです。好きな食べ物はカレーライスと酢豚。実は友達が少ないのでこれから仲良くしてくれれば嬉しいです。みなさん、これからよろしくお願いします」

『きゃあぁああああああああああ!!!!』

 

 

 

 最後にもう一回、ニコリと微笑むと、我慢できなかったのか何人かの女生徒が叫ぶように歓喜の声が上がった。

 その勢いに、一夏は気押しされる。ビックリした山田先生も、軽く飛び上がっていた。

 そんな雰囲気の中、ついにあのお方が現れたのである。

 

 スパンッ。突然、頭に稲妻が走ったような感覚に苛まれる。

 それが何なのか。一夏はすぐに悟った。

 おそるおそると振り返れば、そこにはご立腹の姉上の姿があった。最終兵器、降臨である。

 

 

 

「げ…ち、千冬姉…」

「なんだその腑抜けた呼び方は。もう一度気合を入れてやろうか?」

「な、なんでもありません!」

 

 

 

 ザッと一夏は姿勢を正す。

 織斑一夏。彼の弱点は三つある。親友、幼馴染、そして姉…。

 彼は、自分との関係が深くなればなるほど、上下の関係が出来てしまうという特殊体質であった。

 中でも彼女。織斑千冬は二等親。姉である。一夏にとって彼女は、鈴や箒、束といった幼馴染のさらに上を行く逆らえない人間だった。

 

 

 

「…っていうか、何やってんだよ千冬姉…。こんなところで?確か、ドイツの方で教官やってるっていってなかったか?」

 

 

 

 スパンッと、絶対に避けることのできない一撃(出席簿)が下る。

 無論、それを食らったのは一夏であった。

 

 

 

「学校では織斑先生だ、馬鹿者。公私を混同するなど三流のやることだ。そう道場でいつも言っていただろう?」

「いてて…。でも、千冬姉。教師である前に、俺とあんたは姉弟だろ?それくらい、説明してくれたっていいはずじゃないか?」

 

 

 

 スパンッ。再び、絶対に避けることのできない一撃(出席簿)が下った。

 さすがに三発目となると効いたらしく、一夏は頭を押さえ痛そうに顔を歪めた。

 どうやら、千冬が本気であると悟った一夏は、とりあえずいったん気持ちを落ち着かせるために軽く深呼吸した。

 そして、改めて千冬に対峙する。

 

 

 

「ふぅ…ちふ…じゃなくて、織斑先生。なぜ、織斑先生はここで先生なんてやってるんですか?」

「うむ。最初からそう言えばよかったんだ。悪かったな織斑。叩いたりして。…まぁ理由は、簡単だ。ただ単純に去年からこの学園の教師をするようになったというだけの話だ。お前にも言ってなくて悪く思う」

「そ、そうだったのか、ちふ…じゃなくて、織斑先生」

「あぁ。だからこれからはまたお前といれる時間を増やすことができる。よろしくな、織斑」

 

 

 

 そう言って、よしよしと千冬が一夏の頭をなでる。

 その行動に、一夏はサッと頬が一機に赤くなったことが分かった。

 

 ――――あの、織斑先生。こんな衆目の前でそんなことやらないでいただきたいのですが…。

 

 一夏の思いが伝わったのか。はたまた、周りの視線に気が付いたのか。千冬はゴホンと一回咳払いをし、改めてクラスに顔を向ける。

 そこにはいつも通り。できる女。織斑千冬の姿があった。

 

 

 

「ゴホン。諸君、私が担任の織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物にするのが仕事だ。君達に相当な無理を強いる。が、それに応えてみせろ。分かったら返事をしろ。分からなくても返事をしろ」

 

 

 

 …。だが、千冬の言葉に頷く者は誰もいなかった。

 先ほどの一夏との会話での一幕もそうだったが、クラスの女子達は、別段一夏と千冬が出す桃色空間に何も言えなくなっていたわけではない。

 無論、それもある、だが、クラスの大半が彼らの会話を無言で聞いていたのは…。……。いや、千冬のことを見ていたのにはもっと別の理由があった。

 

 

 

「ふん。やはり、こうなってしまったか…まぁ、仕方ないといえば仕方ないがな…」

「…織斑先生。それを俺の前で言うのはちょっと…」

「おっと、すまない…織斑。無神経だった」

「いや、別にいいよ…」

 

 

 

 そう言って、一夏は彼女の姿を改めて眺めた。

 あの夏の日。自分のせいで傷ついた彼女の姿を…。

 

 ――――やっぱ…、目立つ…よな…。

 

 一夏はギュッと唇を噛んだ。千冬のその姿に、悔しさが込み上げてきたのだ。

 織斑千冬。彼女の眼球の色は左右で違う。左目は一夏と同じ。夜のような黒い眼球で覆われている。対して、右の眼球は鮮血のように真っ赤。そう彼女の右目は義眼だった。

 そして、左手首は白い手袋で隠されてはいるが、そこの部分にも、彼女には人間らしい部位はない。彼女の左手首から先は義手だからだ。

 

 

 

「まったく、こんな為りではまともな仕事もできん。こんな、醜い為りではな…」

「…。そんなことはない。千冬姉は…姉さんは…とても、美人だよ。今も昔も変わらない」

「一夏…」

 

 

 

 自嘲気味に笑う千冬。その彼女に、一夏は穏やかにそう告げた。

 どんな姿でも。どんな差別を受けようと。どんな弱くなっても。一夏にとって、千冬は昔、自分を何度も助けてくれた気丈で気高く。それゆえに美しい姉。

 一夏はどんなときも、千冬を尊敬し続けているのだ。

 

 

 

「…。ま、あとは嫁の貰い手が現れれば万々歳なんだけどね。あはははは」

「織斑。後で寮の寮長室に来なさい。そこでじっくり話そうか。それと…」

 

 

 

 スパンッ。一夏の頭にまたしても、絶対によけることのできない一撃(出席簿)が落ちた。

 

 

 

「織斑先生だ。馬鹿者」

 

 

 

 だが、そう言う千冬の顔には笑みが浮かんでいた。

 形はどうあれ、一夏の言葉は千冬にとって慰めとなったのは間違いなかった。

 だからなのか、千冬は再びクラスメートの方を向く。その顔付きはさっきと比べ物にならないほどに、晴れやかだった。

 

 

 

「ようこそ、IS学園へ。私は諸君らを歓迎する。これから諸君らにはISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染みこませることになると思う。大変だとは思うが、頑張ってほしい。皆、期待している」

 

 

 

 さっきとは違う千冬のその態度に皆驚き、そして、爆発した。

 

 

 

「キャアァアアアア!千冬様、本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

 

 

 きゃいきゃいと騒ぐ女子達。一夏は改めて千冬の人気の高さを知ったが、当の千冬はとても鬱陶しそうな表情をしていた。

 

 

 

「…訂正だ。私のクラスには馬鹿者しかいないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 キャラ設定

 〇織斑一夏(おりむらいちか)

 身長/172㎝
 国籍/日本 立場/IS学園1年1組・篠ノ之束「最高の剣」

 IS学園1年1組所属。
 9歳の時にISを動かせると判明したため、両親に1億で売られる。
 以後、1年間様々な機関でモルモットとして扱われ心が壊れた。
 千冬に助けられて以降、表情を失っていたが、鈴、弾、数馬などとの出会いで現在は
 ちゃんと笑うことができる。
 しかし、中学の頃に相次いで友達を失ったことで現在は世界への復讐を誓い、束に協
 力をするようになった。
 なお、現在の彼の態度は御手洗数馬を真似ている。



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