『ダークソウルプリキュア』なんてどうかなと思った私は人間性が溢れているんだと思います。
~ギーシュside~
ヴェストリの広場に辿り着いた僕たちの目の前には全高10メイル、全長30メイルを超える例の使い魔二匹のその迷惑と言えそうな程眩い異常な様相が飛び込んできた。
「ゴクリンコ…」
誰のとは言えない、もしかしたら全員の唾をのんだ音だったのかも知れない…
兎にも角にも、使い魔の巨大魚は日向ぼっこでもしているのだろうか?大人しく呆然と突っ立って周囲を見回している。あのメイドが言っていたように実際は大人しいというのは満更でも無い情報だったのだろう。
「おい、鱗はおちてそうか?」
「いや…無さそうだよ。今朝ヴァリエールが拾い集めたって言ってたからな。」
僕達は広場の隅にはえている植え込みに身を隠しながら、ギムリとレイナールが小声でやり取りを交わす。ちなみにここに居るのはもう一人、マリコルヌだ。
「それじゃあ仕方ないか…剥がすしか無いな。」
「どうやってだい?直接行くなんて流石に僕はごめんだよ。」
「少しは考えろよマリコルヌ。エアハンマーでも一発叩き込んでやれば鱗位剥がれ落ちるだろう。」
「成る程、ちょっと乱暴ではあるけど…それを僕がゴーレムで回収すれば安全だし確実だろうね。うん、良い案だ。」
頭脳派のレイナールらしい意見だと僕は感心しながら作戦の詰めに自分のゴーレムを提示する。
皆、作戦が出来上がった事で満足げな表情で頷いてみせる。
「何だかワクワクしてきたね。」
間の抜けたマリコルヌの台詞にみんなの緊張が和らいだ。
「そうだね。」
僕も実は少し不安はあるけれどそれ以上に今はワクワクしている。
巨大なモンスターからお宝を手に入れようだなんてまるで謡い伝えられた冒険譚の一節みたいじゃあないか。
もちろんコレはばれたら不味い行いだというのは理解している。
仮に僕の可愛いヴェルダンデにエアハンマーなんてぶつけられたら僕は例え相手が魔法衛士隊隊長でも構わず報いを受けさせるだろう。
それでも僕たちはぶっちゃけ小遣いが欲しいのだ。
「それじゃあ、レイナールとマリコルヌがそろぞれエアハンマー使って、ギーシュがゴーレムで回収。俺は見張りとサポートに付くぜ。言って置くが報酬は山分けだからな!」
ギムリが言って立ち上がった。自分だけ魔法使わないのかという不満はちょっとあったけどしょうが無い。火の魔法の出番は今回はなさそうだしね。
「OK、行くぞ『エアハンマー』!!」
「出でよ、僕のワルキューレ!」
タイミングを合わせた二つの風のハンマーがそれぞれ二匹の使い魔の胴体に向けて放たれたのを確認して僕もすぐに十八番のクリエイトゴーレムの呪文で青銅の騎士乙女ワルキューレを二体作成する。
次の瞬間、完全な不意を突く形でエアハンマーの直撃を受けた二匹の怪物は僅かにその身体をしならせるも、何事も無かったかのように不動の姿勢を保ったままだった。
「嘘だろ?」
呆然とした様子で零れ落ちたレイナールのその呟きから察するに結構本気で放った魔法だったのだろう…
ダメージを与えたのかと言う話であればきっとまるで効いちゃあいないだろう。
それでも確かに二人のエアハンマーは鱗を散らせる程度の効果を発揮していた様で太陽光を反射する極薄の鏡の様な物がヒラリヒラリと宙を舞う。
となれば後は僕の出番だろう。
「行け!!」
薔薇の杖を振るい2体のワルキューレをそれぞれ金と銀の怪物に向けて疾走させた。
三歩、ワルキューレが踏み出した辺りでだろうか?ターゲットがワルキューレに気が付いたようで1メイル程その場で跳躍を行う。
まるで…いや、まさしくあれがこの生物の威嚇なのだろう。
その圧倒的重量から引き起こされた振動でワルキューレの足が一瞬止まった。
そこからが早かった…
一瞬で僕のワルキューレに向かって銀色の化け物が腹ばいの姿勢でまるで滑る様に突進を仕掛けてきたのだ。
「まずいっ!みんな逃げるぞ!!」
警戒をしていたギムリの咄嗟の喚起と腕を引かれる感触…
大型の船舶にも匹敵するような巨体の突進は僕のワルキューレをまるで犬の糞の様に
挽きつぶして僕達の脇を抜けるとそのまま学院の外壁へと突っ込んだ。
一瞬、訳が分からなかった僕ではあるけれど今はギムリに感謝している…
固定化がかけられた石造りの城壁に巨大な穴を開けた化け物の突進の痕は何が起きたのか完全に凍り付いていた…
これはとても不味い事になった。どんな奴でも理解出来る、僕らが好奇心で踏んだのはまさに竜の尾だ…
誰が実は大した事無い図体だけの使い魔だなんて言い出したんだろう…そんな事を言い出した奴の口に土をねじ込んでやりたいくらいだ。
少々現実逃避してしまっていた僕だったがこの危機的状況は僕達を決して逃がしてはくれはしない。
「っ!!うわぁぁぁぁあああ!!
視界に映り込んだ黄金の閃光、それが何か判断する間もなく僕は恥も外聞も無く叫び声を上げながらベッドに飛び込むように地面を蹴って夢中で跳んでいた。
瞬間、すぐ後ろで空気が弾けるような独特の音と激しい閃光。
振り返ると其処には三人の戦友が身体から煙を上げながらピクリともしないで倒れ伏している。
「あ…あぁ…」
腰が抜けたままズリズリと後ずさる…情けない?いいやこうなって当たり前だ!!なんなんだこの化け物は!!
混乱で頭が真っ白な僕の絶体絶命の危機は続いていた。
地響きと共に影が僕の身体を包むと同時背筋を冷たい物が走る…冷や汗なんかじゃあ無い、確かな冷気を伴った恐怖が…
震えながらぎこちなく振り返った僕の目の前で銀色の化け物が今まさにその巨大な口を開いていた。
(僕は死ぬのか?)
何への問いかけなのか…到底良い回答なんて期待できない、それは確信にも似た疑問だった。
~ルイズside~
「ロック!!」
詠唱なんか何でも良かった、とにかく早く…今だけはこのどんな魔法でも爆発失敗する私の魔法に助けられた。
爆発が起きた…
それは今まさにギーシュに噛みつこうとしていたシルの目の前、いや最早口の中といえるような場所で、たまらずシルもたたらを踏んで後ろに下がる…
ギーシュの大馬鹿はこっちに気が付かないまま何が起きたのか解らないって感じで固まっている。そのあまりに間抜けな姿に私は思わず歯が砕けてしまいそうな程、奥噛みしていた。
でも今はそれは後回しだ。私はそのまま大きく息を吸い込むとお腹の底から声を張り上げる!!
「ゴル!!シル!!伏せっ!!」
私の命令に二匹はビクンと反応してその場で伏せって大人しくなった。その表情からは何も読み取る事が出来ない…それでもパスの影響なのか、特に爆発魔法を受けてしまったシルからは不満げな雰囲気を感じたのは気のせいじゃあ無いだろう。
私はシエスタの下手くそな状況説明からこいつ等4バカが何を考えたのか直ぐに察する事が出来た…
シルゴルの鱗の価値を知ったんだからそりゃあ欲しくなるだろう。
だから慌てて追いかけてきた、私の可愛い使い魔に手を出そうだなんて許せる物かという憤りを抱えたまま…
だけど、現場に辿り着いた私は血の気がさぁっと引くのを感じると共に杖を抜いてシルとギーシュの間に無我夢中で飛び込んでいた…
ギーシュの命を救う事が出来た…他三人も火傷を負って昏睡しているようだがそれは良い。間に合って良かったと心の底から思うわ!!
だが私が杖を向けたのはよりにもよって自分の使い魔だ。私は例えるのも難しいが敢えて例えるならばまるで自分の身を切るような心の痛みを感じた。それもこれもここに居るバカ共のせいだ。
私がギーシュを睨み付けるとギーシュはばつが悪そうに顔を背けて視線を逸らす。これだけでこの状況を招いたの原因がこいつ等にあるという事を私は確信した。
「ミス・ヴァリエール!!」
私を追いかけてきたシエスタとこの騒動を聞きつけたのだろうかミスタ・コルベールが駆けつける。
「シエスタ、そっちの三人を医務室に運ぶように手配して頂戴。ゴルの電撃を浴びて火傷してるわ。」
「は、はい!」
私は冷えきった頭でシエスタに命令するとギーシュの胸ぐらを掴んで顔を寄せた。
「ギーシュ!!正直に答えなさい、貴方達私の使い魔の鱗を狙って手を出したわね?」
自分でもこんな冷淡な声が出た事に正直驚く…
「っ、う…」
視線を何度も泳がせたギーシュは観念したように歯切れの悪い声を漏らすと首を縦に振った。
「……何となく事情は察せれたよ。しかし困ったね…使い魔が暴れて生徒に怪我人がでた上に外壁もああだ。」
ミスタ・コルベールの視線の先には大穴が空いた外壁。
「しかしどうやら非はミスタ・グラモン達にあるようだ…」
続けて項垂れるギーシュ…他人の使い魔に私利私欲から攻撃を加えたのだ、これは実際かなり重い処分が妥当だろうと思う。
私は正直揺れていた。
こいつ等のした事は許しがたいしそのせいで怪我をした事も自業自得だ。
それでもシルゴルの事で浮かれてしまっていた私にも落ち度は無かっただろうか?
父上や母上は仰っていた、貴族の魔法、ヴァリエールという家、大きな力とは責任が伴うのだ。
私はシルゴルという強大すぎる使い魔の力に対する責任を少しでも意識していただろうか?最初にミスタ・コルベールにも指摘されていたではないか…
今回はコレで済んだ。しかし次は?
私は彼等を御せれていると言えるのだろうか?
「はぁ…」
私は溜息を吐いて胸元の鱗を取りだした。
「ミスタ・コルベール、今回の件使い魔の監督の行き届いていなかった私にも責がございます。無論、彼等を庇い立てする気もございませんがそれでも彼等は既に手痛い教訓を受けたかと存じます。どうかご容赦を…
故に城壁の修繕に関しましてはこちらの我が使い魔の黄金と白銀の鱗にて賠償させて頂けませんでしょうか?」
「しかしミス・ヴァリエールそれは…」
「お願いします…」
渋い顔を浮かべたミスタ・コルベールだったけれどしばらくして諦めたように私の手から鱗を受け取ってくれた。
こういうこちらの意を汲んでくれるのがこの先生の良い所だ。
「とは言え、ミス・ヴァリエールには厳重注意、ミスタ・グラモン達には追って厳しい沙汰がある事を理解しておいて下さい。…やれやれ」
そう溜息を漏らしてミスタ・コルベールがその頭頂部を手の平でペチペチ叩きながら踵を返す。
「す、すまなかったよルイズ…」
「怒りと呆れが一周してもう逆に冷静になっちゃったわ…はぁ全く…」
溢れる溜息…昨日までMAXだった私の幸福が漏れ出ていく。
私はそのままギーシュを無視してシルの元まで歩み寄る。何も考えていないようなその愛嬌のある顔、その先端に小さな擦過傷。
「ごめんねシル、でもいい?人を襲ったら駄目よ。他の使い魔もよ。」
そのまま頭をしばらく撫でていると何となく不機嫌だったシルの機嫌も良くなって来た気がした。
「…良い子ね。」
それと同時に今度は撫でて貰えなかったゴルの機嫌が悪くなっているような…と思っていたらゴルはピョンと跳びはねたかと思うと一瞬の内にそのまま固い地面をまるで泳ぐように砕いて地面に潜行してしまった。
驚きに固まった私を他所に続いてシルも同じように地面に潜ると暫く地面がグラグラと揺れそれは徐々に治まった。
「…君の使い魔は一体何の系統なのだろうね…」
「火じゃあ無い事だけは確かよ…」
呆然としたギーシュの言葉に私も無意識に答える…
私の使い魔とその受難の生活はまだまだきっと始まったばかりなのだろう。
納品完了。後10秒で街に戻ります。
そして完結!!