更新遅くてほんま申し訳ない。
それはある日の出来事…
それぞれの日常にしてそれぞれの非日常の幕間。
~キュルケside~
「へー、中々…思い付きで言ってみたけど見た感じ、結構良い感じじゃ無い。」
「当然よ、当たり前でしょ。今流行のモデルの最新型の馬車よ。」
私の前で胸を張るルイズ、今私達の目の前には大型の馬車の架台が鎮座している。架台からは長くて太くて丈夫なロープが6本伸びている。それが伸びている先には当然の如く存在しているルイズの使い魔、ゴルの姿があった。因みにシルは領域のど真ん中で相変わらずボーっとしてる…
私の隣にはいつもの如くタバサが居る。とは言ってもいつもの如く本を読んでるけど…
「でもゴルとシルの引く馬車…この場合魚車かしら?って自分で言うのも何だけどグッドアイディアでしょ?ラグドリアンに行った時の鞍だとどうしても一人乗りですものね。」
そう、この魚車というアイディアを出したのは他でも無い私で適当な架台(とは言ってもかなり質の良い物だけど)を手配して今日それを試してみようという話なのだ。
「まぁね、あれはあれで乗ってて楽しかったけど流石にアレは優雅とは言えないものね。取り敢えず動かしてみましょう。」
そう言ってルイズが自ら御者席に乗り込んで手綱を握る。
「お待ち下さい、ルイズ様。わざわざ貴女が手綱を握らずとも他の者に任せればよろしいではありませんか。」
最近ルイズのお付きになったミス・エミットが不服というよりは心配そうに声をかけるけどルイズは苦笑いを浮かべながら首を横に振るう。
「この子達の手綱なんて他に誰が握れるって言うのよ。そりゃあ今は居ないけどこの子達に馴れてるシエスタなんかは任せられるかも知れないけどいきなりは無茶ってものよ。それとも貴女がやる?」
「無論私としては望む所ですがそれは先程ルイズ様が拒否なされたではありませんか…」
「だって貴女、馬乗るの滅茶苦茶下手じゃ無い…」
「………」
ルイズの言葉にミス・エミットが難しい顔で黙り込むのを私は内心笑いを堪えながら横目で眺める。雷の魔法に特化しているこの人は驚くべき事に何もしていなくても微力な雷を纏っているそうだ。でもその影響で基本的に動物に嫌われているらしく、馬に乗れないそうでその事で時々へこんでいるらしい。ミス・ロングビルの話だと昔ネコを撫でようとして引っかかれてマジ泣きしたらしい…
「まぁまぁ、ミス・エミット、実際の所ミス・ヴァリエールは乗馬の腕も優れていますし以前にも彼等を乗りこなしています。それにおいそれと虚無の使い魔の手綱を握る事が出来る人間は居ませんぞ。である以上他に選択肢が無いというのも事実です。」
立ち会いのミスタ・コルベールの言う通り、私達が前にシルゴルの背中に乗っていた時と今じゃあ立場がすっかり変わっているのよね。
今じゃあ始祖の使い魔と言う事で鱗の値段も高騰しまくっていて鱗を使った装飾品をはじめとした品々は各国でとんでも無い値段が付きつつあるらしい。鋳造加工して作られた金、銀食器なんかは特に人気で私もお父様から何とか手に入らないかって聞かれた位だし…
最高級品だけれどワイングラス一個で5000エキューって食器フルセットで揃えられる値段じゃ無いわよ…
私の思考が逸れている間になんやかんやでルイズが手綱を引いて声を上げるとゆっくりと立ち上がったゴルが一歩一歩、歩を進めて魚車がそれにあわせて前進していく。思わずそれを眺めているその場の全員から驚嘆の声が漏れる。
ルイズも予想していたよりも良い手応えを感じているのかしら、御者台で両手を振り上げ、足を伸ばして全身で喜びを表しているわ。
「よーし、良い子ね。それじゃあもうちょっとスピード出してみましょうか!」
馬が歩いてるのとそう大差ない速度で進んでいた魚車だったけどルイズがそう声を上げて手綱を振り上げた瞬間だったわ…
先に言い訳をさせて貰えば私は悪くない!私はあくまでアイディアを出しただけであって架台を用意したのはルイズだし、それをしっかり補強したり細かい道具を調整したのはミスタ・コルベールだし、更に言うなら肝心のゴルを操ってるのはルイズ本人なんだから…私は悪くない。
ルイズの指示通りに速度を上げようとしたゴルだったけれど、そもそもゴルが速度を上げるとなると当然歩きじゃあ無くなる訳ね。
腹這いの体勢で体を素早くくねらせて、全速力の馬以上の速度で地面を滑る様にゴルの体が地面を進む…当然ロープで繋がれたルイズの乗る架台を引きずって。
「…!!ちょっ…ゴル、ストップストップよ!!」
その速度たるや…ルイズの想像以上だったんでしょうね…慌てたルイズの命令にその場で即座に停止したゴルは本当に主人の命令に忠実な使い魔の鏡だとは私も思う…思うけども…
『あ…』
全員の唖然とした声が咄嗟に口から溢れる…
急停止したゴルに向かって一直線にしかも高速で突っ込む架台…さらに運が悪い事に地面から飛び出していた大きめな石に丁度車輪の一つが乗り上げる…
するとどうなるか?当然魚車そのものが一瞬の内に大砲の弾と化して錐揉み状になりながらゴルの体、具体的に言えば尾ひれの辺りに突っ込んでいく。
当然その場に居た私達メイジは一斉に杖を手にしてレビテーションなりの魔法を使おうとしたのだけれど…まぁ幾らこの場に居るのがトライアングルとスクウェアの凄腕ばっかりでも無理なものは無理な訳で…間に合う訳が無い。
『ガッシャアァァァンッッ!!!!!!!』
派手な音を響かせてゴルの尻尾に突っ込んだ魚車のボディが粉々に砕け散りながらバラバラと落ちていく、巨大な車輪が回転しながら地面に落ちるとそのまま慣性に従って転がっていく…
『ルイズ(様)!!』
私達が目を見開いて唖然としている中で破片と共に中空に放り出されたルイズは自分でも状況が分かっていないんでしょう…目をパチクリさせながらそのまま10メイル以上前方に投げ出されると無防備な体勢のまま地面に叩き付けられる。
それで止まる事も無く、一度跳ね3メイル程吹き飛ぶと更に2メイル程転がってそのまま俯せで倒れたままピクリとも動かない…
それを見ていた私の全身から血の気が一気に引いた…まるで体が凍り付いた様に動かなかった私の直ぐ横でタバサ、ミスタ・コルベール、ミス・エミットの三人が殆ど同時にルイズの元に駆けだしていた…
それを見て私も半ば反射的に僅かに振るえている足を無理矢理に動かしてルイズが倒れている傍に駆けだしていた…咄嗟の事だけど私はここで動き出せた自分を褒めてあげたい。そうできていなかったら恐らく私は自分自身を許す事が出来なかったでしょう…
「ルイズ様!!」
流石というか何というか一番にルイズの元に辿り着いたミス・エミットがルイズに声をかけた瞬間、私は又しても目を見開いて驚かされる事になったわ。
「!??」
だって普通に考えて死んでもおかしくない勢いで吹き飛んだルイズがまるで何でも無い様に普通に起き上がって来たのだから…実際遠目から見たら全然怪我も見当たらないし骨が折れてるなんて事も無い…
「あ~…びっくりした…これは正直失敗だったわね。やっぱりキュルケのアイディアは駄目ね。」
服に付いた土汚れを手で払い落としながら立ち上がったルイズはそのままゴルに近寄ると突き出した指をブンブン振りながらゴルにさっきの事を叱り付けているけど剰りの事に頭の中が真っ白になっている私の耳にはその内容が入ってくる事は一切無かったわ。
「ちょっとルイズ!貴女平気なの!?あんな勢いで叩き付けられたのよ!?」
私の問い掛けにゴルを叱っていたルイズが私に振り返る…その不思議そうな表情の姿はやっぱり少し土に汚れているだけだった…
「大げさねぇ。」
「大げさな訳ないでしょう!!!馬車が粉々よ!!私は!あんたが死んじゃった…かと…」
「えっ?」
そこまで私が口にしてルイズも自分が乗っていた魚車の成れの果てを見て絶句している…私としてもルイズの気がそっちに向いてくれて助かった…今私の喉はどうしようも無く熱くて頬が引き攣っている…つまり泣きそうだからである。
「ミス・ヴァリエール…体に異常はありませんか?念のため直ぐに医務室に向かいましょう。」
「え?あ…はぁ…きゃっ、ちょっとエミット!?」
ミスタ・コルベールの言葉に戸惑っている様なルイズをミス・エミットが無言で後ろから担ぎ上げて学院の方に向かってずんずんと進んでいく…
何にせよルイズが無事で良かった…
「………」
ふと隣を見ればタバサが難しい表情で何かを考えている。
「どうしたのタバサ?」
「…明らかに異常」
ルイズの事でしょうけどある意味で今回の件で私はあの子が『虚無』の担い手なんだと言う事の一端を見た気がした…コモンマジックこそ使える様になったみたいだけど虚無らしい魔法が使えないルイズ。さっきの奇跡みたいな光景はタバサにしても色々思う所があるんでしょう…
「…そう言えばタルブ戦役以来なのよね…」
思わず口をついて出た言葉…より正確に言えば『ルイズが一度死んでから』だけど私はそれは正直言葉にはしたくない…
「…虚無って一体何なのかしらね?」
私の空に投げかけた様な問い掛けに、勿論私の無口な親友は応えてはくれなかったけど多分タバサなりに私と同じ事を考えているんだろうなと思った。
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この数日後、様々な検査が行われルイズの身体について驚くべき事実が発覚するのだった…
余談だけどルイズとミスタ・コルベールの手によって魚車は改良に改良が加えられて実用化が図られたのだけど…正直私は乗りたいとは思わない。
アタリハンテイ力学的に崩れる瓦礫に巻き込まれたらダメージを受ける可能性も微レ存ですがその辺はガバガバ設定で行かせて下さい。
魔法学院での旅が終わる。
振り返れば遠ざかる緑の地獄。
友よさらば、薄れ行く意識の底に、仁王立つ母は修羅像、耳に残る叫喚、目に焼き付く風。
実家への帰宅が始まる。帰宅と呼ぶにはあまりに厳しく、あまりに怖い。
過去(トラウマ)に向かってのオデュッセイ。
次回『暗転』
ルイズは実家に向かう。