明日から大体の人が仕事再開でしょうか?私は長い長い無職休暇なのでまだまだ元気です。
~ギーシュside~
ルイズの誘いに乗った僕達一行だったけれどその道程は常識的に考えたら余りに困難な道のりだった。
それでも僕達にはその常識を打ち破るモノがある。
「ここから真っ直ぐに直進すれば高低差も少なくなだらかな道で森を抜けられそうですな。しかし森では何が起こるか解りません、くれぐれも皆さん気を引き締め無理はしない様に、よろしいですな。」
引率のミスタ・コルベールが馬上で地図を眺めた後でラグドリアン湖のある南東の方角を指し示す、その先には深い森が広がっていた。本来はこの深く茂った森を迂回する街道、もしくは浅い林の中を抜けて旅は行われる物だ。
先ずは空を高速で飛べるシルフィードが先導し、上空から森を確認する。万が一進路状に障害物や人工物があった時に知らせたりする役目だ。
続いてゴルとシルが基本的には併走する事になりその後ろをミスタ・コルベールが馬で追う形になる。馬を操る事が恐らく一番大変であろうという事から率先して引き受けたミスタ・コルベール。だけどこの役目は時々僕が交代するだろう…
「それじゃあシル、ゴル、シルフィードを真っ直ぐ追いかけて頂戴。」
ルイズが使い魔の白銀の魚シルの首元の上に備え付けられたゆったりとした特製の鞍の上から指示を出す。
僕も前方に向かって真っ直ぐ飛行を始めたシルフィードを遠い目で眺める。
そう…ゴルの上から…
僕が背を預けるのはルイズの物と同じ、電気を通さない木材と皮で特別に仕立てられたかなりゆったりとした鞍ではあるけれど…ゴルの電撃の威力を目の当たりにした事のある人間としては正直言ってかなり怖い。
しかも一歩一歩がかなり大きいから普通に歩かれるとそれだけでかなり揺れるし立ち上がっている状態だとかなり視界が高い。なにより手綱は付いているけどまず間違いなく制御不可能なこの乗り物…
普段は押さえられているけど冷気を纏うシルに関しては防寒対策をしておけばこの季節ならば騎乗するのもむしろ快適な位だろう。でもゴルが纏うのは電流だ…
「私はシルに乗ってみるけど誰かゴルに乗ってみる?」
さっき行われたルイズの問いには誰も答えずに女性陣は無言でシルフィードの背に乗り込み始める。
僕もタバサのシルフィードに乗りたかったので近寄った瞬間「男子禁制」との一言で拒否されてしまった。
「ミスタ・コルベール!!」
「さぁ、マレンゴ号長い旅になるだろう、よろしく頼むよ。」
僕がシルフィードにかまけている間にちゃっかり馬を撫でながら確保していらっしゃる…
「良かったわねギーシュ、私のゴルの背中に乗れるだなんてもの凄い名誉な事よ。」
(あぁ、命掛かってるからね、死んだら名誉の戦死としてくれ…)
「もしかしなくてもこの世で最も高価な乗り物よね、其処だけは羨ましいわ…」
(そうかも知れないけど僕からすれば安全なシルフィードの背中の方が羨ましいよ。)
「私ギーシュがその子を乗りこなしてる姿が見たいわー。」
(モンモランシー、その言葉はせめて僕を見ながら言ってくれ。)
「私は乗りたくない。」
(珍しいな、同感だよタバサ。)
「ミスタ・グラモン申し訳ありません。」
(それでも立候補はしないんだねシエスタ君。)
「それでは出発ですな。」
(おいハゲ、あんた後で絶対交代だからな!!)
~ルイズside~
予想は出来ていたけどこれはかなり無茶な旅だわ…私の使い魔は本当に無茶をする。
シルゴルが這いずりで前進するとそれだけで細い木であればまるで私達が雑草を踏み分けるみたいにへし折られて地均しされていく。太い木も余程の大木じゃなければ体当たりや噛みつきでへし折れちゃうし。
障害物だらけの森の中を直進しているのに整地済みの様な道を走る後方の馬を引き剥がしかねないスピードでこの子達は進んでいる。
進路上のオーク鬼の集落にぶち当たったのはついさっき。
群れて逃げる彼等をシルとゴルが追いかけて挟み撃ちにして近い奴からかぶりつく。
破れかぶれのオークの怪力で振るわれた棍棒が二匹を叩いたりしたけれど余りの頑強さに棍棒が弾かれるわ砕けるわで見ていて正直可哀想な位だった。それでもオーク鬼が人里に近づいたら人は住みかを追われるし食べられてしまう事もある、必要な事だわ。
「ギーシュ、所でどうだったかしら?ゴルの乗り心地は。」
最初は完全に怯えちゃっていたギーシュだったけど3時間近くもゴルに乗っていたお陰でいまじゃすっかり慣れていた。
そんな私達は最初の森を抜けて丘に囲まれた平野で最初の休憩を挟んでいる。
「全く問題ないね、滑って進んでいる間は揺れだって少ないし何より爽快だよ。黄金の船で森という海原を開拓しているんだと思うと何だか胸が躍るね。」
興奮した様子でギーシュが大げさに言ってるけど私としても一安心だ。ここで私がゴルに乗るというのに痺れるだなんて言われたら嫌だもの…
シルの機嫌は良いけどギーシュを乗せていたゴルはちょっと不満そうだから拗ねてしまわないようにご機嫌を取らないといけない…
「次私がシルに乗ってみるわ。安全みたいだし、勿論良いわよねルイズ。」
「まぁ良いわよ。」
フライでシルの鞍にキュルケが飛び乗って私もレビテーションの補助を受けてゴルの鞍に腰を落とす。
このままのペースで行けばきっと日が暮れる前にはモンモランシ領にたどり着けるでしょう。
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大体旅は予定通りといった所で私達は今夜モンモランシ家のお屋敷に宿泊させて貰う事になったわ。
シルとゴルを紹介した時はかなり驚かされたけど、お近づきの印と宿泊のお礼として今夜落ちるであろう鱗の譲渡を約束してモンモランシーが今日あった切り開いた森の話をした時は大騒ぎになりそうだったけど…
何にせよこれでモンモランシ家がヴァリエール家に少しでも友好的になってくれれば嬉しく思う。
私達側としては突然の訪問に恐縮ではあったけどモンモランシ家としても碌な持て成しが出来ないと言う事が実に申し訳ないと随分と気を使わせてしまった。
まぁ一流の貴族宅だとお客が来たらそれ即ち晩餐会という流れが殆どだけど今回は逆にその方がゆっくり出来るから助かったって言うのが本音だ。
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「わぁっ素敵ですね、ミス・ヴァリエール。」
「確かにね、天気も良いしピクニック日和だわ。」
翌朝到着したラグドリアン湖はトリステインとガリアのオルレアン公領を対岸に持つがその対岸が見えない程巨大な湖で国内有数の景観地、私も昔王族の園遊会に招かれて訪れた事がある。そこで姫様の影武者をさせられた事は思い出深い。
「ピクニックと呼ぶには些か波乱な道程でしたがな。無事たどり着けて何よりです。」
各々がラグドリアン湖の景観を眺めて感想を漏らす。
ところが湖畔に近づいた辺りでモンモランシーが私達に制止の声をかけた。
「ちょっと待って、おかしいわ…水位が異常に上がってる…少なくとも私が学院に入学する前はこんな事になってなかったわ。」
見てみれば確かに…水面から民家の屋根が見えている部分がある。
「増水の要因は水の精霊?」
「かも知れないわね…うちはもう正式な交渉役じゃないからよっぽどじゃ無いと手が打てないけど、新しい交渉役は何してるのかしら。」
珍しく水面上昇現象に食いついたタバサ…もしかしたら実家とかがラグドリアン湖に面していたりするのかしら?
「ふーん…興味はあるけど。でもまぁ今回の目的には関係無いわね。」
そう、今回目的地をラグドリアン湖に定めた理由の一つがシルとゴルが水中に入ると一体どうなるのかと言う事を一度調べてみる為ということもあって此処まで来たんだから。
「ほら、シル、ゴル泳いで来て良いわよ!!」
私達の目の前でまるで競争するように飛び出した二匹が這いずって勢いよく水面に衝突をすると水のしぶきが壁のように広がってまるで船の進水式みたいな光景となった。
まるでスコールの様に降り注ぐ水しぶきに全身を濡らしながらその光景を見ていた私達は思わず互いに顔を見合わせて笑ってしまう。
「やはり魚ですからな、泳げて当然という訳ですか。」
私とコルベール先生はタバサからシルフィードを借りて上空から水中に消えた二匹の姿を探す。他のメンバーは浅瀬で遊んでいたり本を読んでいたり。
まぁ探すとは言ってもその姿はよっぽど深く潜られない限りは一目で分かるし、魚や氷が所々で浮いているからどこに居るかは解りやすい。
「陸、土中、水中と、空以外を支配出来るとは改めて恐ろしい生命ですな、これは生息するだけで生態系が崩れるという物です。」
「でもほんとこの子達って元々どんな所で生活していたんでしょうね…」
私は相も変わらず未だに殆ど解っていない己の使い魔の事に思わず首を捻る。取り敢えず生態報告書には今回の旅での事をしっかり書き記さないと…
「…此処まで来ると何処に、では無く、何処ででも生活が出来るのでは無いでしょうか?さしずめ次に目指すならばあの火山が立ち並ぶ火竜山脈辺りですかな?」
笑ってミスタ・コルベールが言うけれど本当にそんな気さえしてくる。
しばらくの間、水面から飛び出した後に深く潜水したりお互いにぶつかり合ったり何かをしたり気持ちよさそうに遊ぶシルとゴルの姿を私が眺めていたら不意にゆったりと飛んでいたシルフィードが羽ばたいてタバサ達がいる岸へと勢いよく向かい始めた。
「あ、戻ってきたわねちょっと大変よ。」
「何か問題ですかな?ミス・モンモランシ」
慌てた様子のみんなを代表してモンモランシーが話題を切り出す。
「水の精霊様があんたの使い魔の事でお話があるって出て来てるのよ!!ほら後ろ!!」
私が振り返ると何やら不自然な輝きを放って水面が人の形に盛り上がっている。だからタバサがシルフィードを呼び戻したという訳だ。
「水の精霊よ、この者があの二匹の主人であります。」
モンモランシーが私の背中をぐいぐい押して水の精霊の前に突き出す。
流石に私も本物の精霊を目の当たりにするのは始めてなので怖いから止めて欲しい。
「単なる者よ、そなたが我が内で暴れておる今代のリーヴスラシルの主か?」
「リーヴ…スラシル…?」
全員が固唾を飲んで見守る中、思いかけず水の精霊が私に問い掛けたその言葉に、私は呆然としながらオウム返しな返答を返す事しか出来なかった…
それでも私の胸の中にはその『リーヴスラシル』という初めて耳にした言葉が不思議な程にストンと、まるで其処に納まるのが自然だという様に染み込んでいた…
この後、動乱の中で私は知る事になる…私の運命を…私が何故この二匹の使い魔を召喚できたのかを…
今回リーヴスラシルの名前がハッキリ出ましたけど二匹のルーンの位置やゲーム内でのあの行動の特性を考えて解る人はもう予想付いてたんじゃないかなと思います。
原作の設定上その役割は不明ですがそのルーンが示すのは『生命』
ちょっと調べたらこの時代って森の開拓や金鉱脈の発掘ってほんと一大事業でもの凄い大変な事だったと思います。掘削だって簡単だし思った以上にアルゴルは富をもたらしそうですね。
マレンゴとはナポレオンの愛馬の名前です