覇種の使い魔~輝輝臨臨~   作:豚煮込みうどん

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話が(原作的意味で)中々進展しませんな。それでもここでエレ姉やんには学院を訪れておいて欲しかったのよ。




突然の襲撃

~エレオノールside~

 

「ようやく到着ね。全く…長い馬車移動だったわ。」

私は馬車のステップを踏んで石畳の上に降り立つと聳え立つ学舎を懐かしい想いと共に見上げた。

直ぐにでも今回学院を訪れた目的を果たしたかったけれどまずは学院長の下を訪ねてご挨拶をしなければ…

 

「さぁ待ってなさい、チビルイズ。」

 

この忙しい姉の手をわざわざ煩わせたんだからそれ相応の成果はしっかり見せて貰うわよ…

私の口角は自然とつり上がる…油断してると柄にも無く喜びが顔に出てしまいそうだわ。

立派に成長したであろう私の可愛い不出来な妹に久しぶりに会えるんだから嬉しくてたまらない。

 

私は一度深呼吸をして呼吸を整えると微笑みを消して、ヴァリエール家長女としての厳しくも気品ある美しい表情を作った。

 

ルイズが私の笑顔を怖がってるのがちょっとショックなのは内緒だ…

 

 

 

~ルイズside~

 

「っ…!??!」

 

遠くから微かに聞こえた馬車の車輪の廻るガラガラという音に私が不意な危機感を感じて思わず身を竦ませ震えたのは日課の餌やりを終えて教室に向かっている最中の事だった…

 

その謎の感覚の答えは直ぐに分かったわ。

 

授業の合間に使用人の一人が恐る恐るといった様子で私に連絡を伝えに来た。いわく私の実家から家人が来ていて午前の授業が終了しだい学院長室を訪ねる様にと言う事だそうだ。

 

(ついに来てしまったのね…この時が…)

 

私は杖を握り込んだ己の手を見つめる…分かってはいた事だけど逃げ出したくなる。だってエレオノール姉様は意地悪だもの…

 

 

_________

 

 

「失礼致します。」

 

私が入室すると其処には既にエレオノール姉様がいらしていた、何故かもの凄く不機嫌な表情で…

 

「お久しぶりで御座います、エレオノール姉様。」

 

「久しぶりねおチビ、まずは謝っておく事があるのでは無くて?」

 

挨拶を交わしながら私に歩み寄ってきた姉様が私の両頬をむにっと摘んで力を入れて引っ張る。痛い痛い!やっぱり姉様は意地悪だわ。

 

「な、何の話でふか??」

 

「既にオールドオスマンからもそちらのミス・ロングビルからも聞いたわよ。貴女系統に目覚めただなんて話は出鱈目で魔法がまだ成功しないらしいじゃないの!!」

 

「げっ…」

 

私の一番恐れていたお話の流れがお会いした直後に流れて来た…姉様の両の手の力が更に強まって私の頬をグイグイ引っ張る。痛い痛い!千切れてしまいます!!

 

「まぁ、姉妹でのスキンシップはその辺にして置くが良かろう、それにエレオノール君、君の妹君の系統が風か水じゃと予測したのはさっきも言ったがわし等教師でもあるのじゃ。」

 

(オールドオスマン、ナイスフォローです!!)

 

オールドオスマンのフォローに感謝した私だったけど姉様の頬を抓る力は些かも緩んでくれない。

 

「それで魔法が上達しないのはこの子が至らないからですわ!!それにその事を正直に手紙で伝えなかったのは事実!これは当然の罰です!」

 

 

結局私はそのままの状態で暫く姉様のお叱りを受ける事になった。でもお叱りだった筈のお話の内容が婚約者の男性への愚痴だったりアカデミーでの上司への文句だったり…それって私絶対関係ありませんよね?

 

 

 

~エレオノールside~

 

おチビへのお仕置きを終えて私達は早速ルイズの使い魔が眠っている広場へと学院長の秘書であるロングビルの先導で向かっていた。

関係ないけど彼女も私と同年代で未婚らしい、かなりの美人で器量も良さそうなのに…

本当にトリステインの貴族は女を見る目が無いから困るわ。まぁ、仕事が出来る上に美しい女というのは男性を立てるというのがどうしても難しくなってしまうししょうが無い部分があるのよね!!

聞けば実は彼女も土のトライアングルで普段ルイズが大分世話になっているそうだし平民だって言う事を除けば共通点が多いし良い友人になれるかも知れない…時間があれば少し話をしてみようと思う。

 

「異常はありません。」

 

「そうですか、ご苦労様です。」

 

話が脱線してしまったけど衛兵とのやり取りを交わし、直ぐに私達が連れてこられたのは学院のすぐ脇に広がる平野だった。

かなりの広範囲にわたって柵がこさえられており、各所に『立ち入りを禁ずる!禁を犯せば命の保証無し』と物騒な注意書きが施されていた。

おまけにかなりしっかりとした衛兵が常駐しているらしき小屋まで設置されている…その仰々しさに私は理解がまだ追いついていなかった。

 

 

「ここが私の使い魔の今の居住区です。」

 

「数日前までヴェストリの広場にて生活させていたのですが様々な理由で現在は学院外に住まわせております。」

 

ルイズの説明にロングビルが補足をしてくれる。でも私には二人の言葉の意味が分からなかった。

 

「ちょっとお待ちなさい、ルイズの使い魔は巨大な魚と聞いているわ。ここには水場など無いし第一肝心の使い魔がいないじゃない?もしかして私をからかっているのかしら?」

 

その当然の私の疑問に応えたのはニヤニヤとした笑顔のオールドオスマンだった。

 

「うむ、実に君の言う通りじゃがアレ等は些か規格外でな…我等の常識を持ってではとてもじゃあ無いが計る事ができんのじゃ。まぁ、こればっかりは実際に目にするべきじゃろうな。どれ、ミス・ヴァリエールや、君の姉君の度肝を抜いて差し上げなさい。」

 

要領を得ない私を置いてオールドオスマンはルイズにそう言うと視線を何も無い…いや、やたらと荒らされた地面に視線を向ける。

 

「分かりましたわ。それでは…ゴル!!シル!!出てらっしゃい!!」

 

ルイズが声を張り上げて使い魔らしき名を呼ぶ。その横顔は私が見た事も無い位に自信に満ちあふれていて…もしその時私に余裕があったのならば深く記憶に留めようとしただろう…

 

私の思考が停止したのは地面の震動を感知した次の瞬間だったわ…

 

 

堅い筈の大地をまるで沼の中でも泳ぐ様に突き破って現れた黄金と白銀の巨大な魚。

凡そ10メイル程の距離を取っていることでようやくその全貌が覗える程度という桁外れの巨体は話には聞いていたが何処か信じれていなかった様相そのままだった…

 

「黄金の方がゴルで白銀の方がシルです。彼等は大地を泳ぎ、陸を闊歩する魚です。またその食性は雑食そのものであらゆる物を食します。」

 

唖然としている私への淡々としたロングビルの解説が耳を素通りしていく。

 

「初めてこやつらを目にした人間はみんな同じ反応をしよるわい。まぁミス・ヴァリエールに対して極めて従順じゃからそう警戒はせんでも良いわい。」

 

「如何ですかエレオノール姉様?私の使い魔は。」

 

褒めて下さい。と全身で伝えている様にルイズが私に振り返って両手を広げる。私としての本心は今すぐにでもルイズを抱き上げてその母様譲りの桃色の髪を撫で回したかったけれど…

どうやら私はこの妹に筋金入りに素直になれないらしくて不覚にも私は研究者として詰めよってしまった。

 

「おチビ!!何なのこいつ等はっ!??」

 

「きゃっ、ちょ…痛いです姉様!」

 

思わず肩に手を置いて詰めよった私の手に力が入る…

 

「いけません、伏せて下さい!!ミス・エレオノール!!」

 

ロングビルの声が響いた次の瞬間、土が脈動して一気に巨大なゴーレムへと姿を変えると凄まじい衝突音が頭上から響いてきた…

 

「もう持ちません、ミス・ヴァリエール早くとめて下さい!!」

 

「止めなさいあんた達!!」

 

見れば今は動きを止めている様だけど銀の個体は巨大な二つのアースハンドに胴を掴まれ、金の個体は四つ足の巨大なゴーレムに組み付かれていた。

両方に共通しているのはゴーレムもアースハンドも深く亀裂が走っており今にも崩れそうな事だ。

 

「この人は私の姉様よ、悪い人じゃあないの!!」

 

ルイズの言葉で私は状況に気づいた…突然現れた見ず知らずの人間が主人に掴み掛かったせいで使い魔が怯えた主人を守ろうと動こうとしたんだわ…

 

「ふう、肝が冷えたわい…しかし迂闊じゃったのう、こやつ等の前でミス・ヴァリエールを刺激してはならんという事を伝えておらんかったわい。」

 

一気に精神力を使った様子のオールドオスマンとロングビルが疲労した表情で私にじっとりとした視線を送る…

 

「す…すいません。」

 

私は腰が抜けたまま謝罪を行うと今はルイズに叱られている二匹の使い魔を改めて見上げた…

 

 

_________

 

「アカデミーで研究を行う必要がありますわ。」

 

あれから通された応接室で私はオールドオスマンとルイズに研究者としての率直な意見を伝える。

 

「そんな!!姉様は私から使い魔を取り上げるつもりなの?酷いわ!!」

 

すかさず返って来た妹の悲痛な訴えに努めて冷静な態度を保ちながら私は茶を口に運ぶ。

 

「まぁまぁ…落ち着きなさいミス・ヴァリエール、エレオノール君も誤解を与える様な言い方は感心せんの。」

 

やっぱりオールドオスマンは分かっていらっしゃる…

オールドオスマンの言葉でルイズも落ち着いた様で何よりね。

 

「誰も使い魔を研究用に連れて行こうなんてしないわよ。第一そんな事を無理にしようとして暴れられでもしたら道中でもアカデミーでも死人の山が出来上がるだけだもの。

あの使い魔、貴女以外の命令には従わないんでしょ?」

 

「えぇ、まぁ…」

 

さっきの件の後に聞いたらトライアングルクラスの対攻城戦用巨大ゴーレムでようやく遊び相手が勤まるだなんてとんでもない化け物よ。

仮に預けられてもこっちが困るもの。

 

「アカデミーには研究用に鱗や牙とか…そうね、体液なんかを提供して貰えれば十分よ。それとも貴女が学院を2,3年お休みして使い魔と同行してくれる?そうすればもっと詳しく調査が出来るわ…解剖とかね。」

 

「フム、前向きに検討してはどうじゃ?将来的にそちらの道に進むというのであれば多少の期間ならば採り計れるかもしれんぞミス・ヴァリエール。」

 

必死の形相で首を横に振るルイズを横目に笑って仰るオールドオスマンの言葉に私も微笑みを返す。

 

「非道いですわ。姉様もオールドオスマンも…」

 

「冗談よルイズ、それと品評会にもお邪魔させて貰うつもりだから数日は此方にお世話になるからね、使い魔の研究と一緒に貴女の魔法の特訓をしてあげるわ。まさか嫌とは言わないわよね?」

 

「えっ!?」

 

私がなるべく優しい笑顔で告げたその時のルイズの本当に嫌そうな表情に、私は情けと容赦はすまいと固く心に決めた。

 

 

 

 

(それにしてもとんでも無い使い魔を呼び出した物ね…大きすぎる力は例えそれがどんな形の物でも混乱を招くというけれど…

アレを狙って間違いなく色んな思惑が動くでしょうし…

とにかく何があっても私達家族であの子を守らなければいけないわ…)




『突然の襲撃』Fで極稀に起きる乱入クエストの名称。発生時にモンスターアイコンを赤い爪が引き裂くという演出の後ハンターが確定で身を竦ませる。尚発生率は1/1000という噂。

『エキューチケット(鱗)』Fの世界ではポルタチケット(各色)と呼ばれる。色によってお値段が変わる所謂金券。


マチ姉(え?何でミス・エレオノールは同年代で私が独身だって聞いた途端こんなに対応が優しくなったの?私は結婚出来ないんじゃなくて結婚しないのよ?一緒にされたら困るわ…)
みたいな事がきっとあったと想う。




次回は品評会です。

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