マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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季節ネタ。
全然ネタ入ってないけど只の便乗


ちょっと前と現在

 夏休だ冬休みとかが俺はずっと嫌いだ。

 家に居なくてはならない、顔を合わせたくない奴と合わせる嵌めになる……とまぁ色々ある。

 中学卒業と共に黙って家を飛び出そうとした事がバレて以来、両親との仲はお世辞にも良いとは言えず、ただただ俺にとっては居心地の悪い場所だった。

 故に俺は、冬休みとなった本日も朝起きたら直ぐに服を着替えて外に出る。

 何処に行くかなどの予定も無いし、遊ぶような友達も無い。

 ただ単に家の連中が寝静まるまでこうしてフラ付くだけなんだが、これは別に両親が悪いからとかでは無く俺が逃げてるだけ。

 あの日突然現れて、俺の双子の兄と名乗る男が現れてからは、両親も何でも出来る奴を大切にしている……それを見るのが嫌だから逃げる。

 それが今の俺だ。

 

 

「…………」

 

 

 つか寒い。

 いや冬だからしょうがないけど寒い。

 家を出た朝の5時に比べたら、午前10時を回った今はマシになってきては居るが、それもドングリの背比べ程度だ。

 何せ今日はクリスマスイブとやらなのに、空は厚い雲に覆われて太陽が出てないからな……厚着をしても寒いものは寒い。

 あんまり公園でボーッとしてるだけという虚しさも相俟って余計に寒い。

 世間は楽しそうにしてるのに、俺は全然楽しいとは思わない……5歳のあの日からな。

 

 

「…………寒い」

 

 

 独りで居ることは慣れたが、こういうイベントがある日は流石に思うところがある。

 まあ、思った所でどうにもならんけどさ。

 

 

「クリスマスイブ、ね……」

 

 

 そういや、昔トモダチだったあの子は今何してるのかなぁ。

 5歳の誕生日に奴が現れてから少しした後に遠くへ行っちゃったあの女の子は今頃、楽しくやっているのだろうか……。

 

 

「ハァ……」

 

 

 いかんな、独りのあまり余計な事を思い出してしまってるぜ。

 そんな昔の事思い出しても、どうせあの子は俺なんざ覚えちゃいないだろうし、思い出すだけ無駄で虚しいだけだ。

 やめだやめ……くだらねぇ。

 

 

「………。行くか」

 

 

 このまま座ってると要らん事まで思い出しそうだし、気分転換に街でもふらつこうかと、ベンチから立ち上がってノロノロと歩き始める。

 疲れたら適当なファミレスで飯でも食い、それからネットカフェで寝てしまおう。

 金は掛かるが、学校に内緒でやってる仕訳のバイトの給料も明日振り込まれるだろうし、一応無駄遣いしなかったお陰で財布の中には福沢諭吉が4枚ある。

 それなら今日くらいはパァッと何もかんも忘れて遊んでしまえ。 

 そう思いながら街にやって来たのは、多分間違いだったんだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、ニーチャン。ゲーセン行く金かんぱしてくれや?」

 

「持ってねぇ訳ないよなぁ?」

 

「大丈夫、素直に渡せば何もしないからさ!」

 

 

 如何にもという風貌のヤンキー達に捕まってしまうという不幸にブチ当たるとは…………もう死にたくなった。

 

 

「…………っ!」

 

「あ!? テメっ、待てゴラァ!!」

 

「逃げられると思うなや!!」

 

 

 しかし、渡せと言われて素直に渡す程弱気なつもりは無いので、俺は隙を見て猛ダッシュで逃げた。

 何でも出来る優秀な『兄』とまではいかないが、これでも運動神経はそれなりに良いので、あっちこちの角を曲がってヤンキー共を翻弄し、無事逃げ仰せる事が出来た。

 

 

「はぁ……はぁ……やっぱりツイてねぇ……」

 

 

 しかし、逃げられたからといって街に戻るのは得策では無く、またかち合うかも知れない危険性を考えた俺は、そのまま郊外に出ようと、息を整えてからもう一走りと地面を蹴ったその瞬間だった。

 

 

「て!?」

 

「きゃっ……!」

 

 

 ドスンと曲がり角で何かにぶつかり、足が止まった。

 しかもこれまた不運な事に、ぶつかった箇所が丁度鳩尾だった為、メッチャクチャな苦しみで思わずその場に膝を付いてしまう。

 

 

「ぬ……おごっ……!?」

 

 

 や、やっべ……久々の苦しみで胃液が出そう……うぐぅ……。

 

 

「も、申し訳ありません! 大丈夫です――あ、あれ?」

 

 

 ぶつかった相手が苦しんでる俺を見たせいか、かなり慌てた様子で声を掛けてくれたが、取り敢えず苦しくて顔を向けらずに蹲っていると、何かに気付いた様な声を出しているのが耳に入る。

 

 

「ごほっ! ……うぇ?」

 

 

 そんな声を出されたら、何のこっちゃと気になる下世話な俺は、苦しさそのままでぶつかった相手を見ようと顔をあげる。

 

 

「……………へ?」

 

 

 そして俺の顔は間抜けなまま止まった。

 恐らく相手も同じ感じだろう。

 いや、だってそうだろう……この街でぶつかった相手がだ……。

 

 

「一誠……くん?」

 

「セ、センパイ……? ゴホッ」

 

 

 半年前からの知り合いである支取センパイなのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 取り敢えず何時までも地面に踞ってる訳にもいかないという事で、移動する事となった俺はセンパイに連れられる形で家をやって来た。

 勿論俺の家では無くてセンパイの自宅らしきマンションに。

 

 

「大丈夫ですか? 本当にごめんなさい……」

 

「いえ平気っす。ちゃんと確認しないで走ろうとした俺のせいですしね……」

 

 

 寒いという理由で入れて貰ったセンパイの自宅は、中々お高そうな部屋だというのが初めて入って見た俺の感想だった。

 小まめに掃除してるのか、床も壁も染みのひとつも見当たらないし、今座らされてるソファもスゲーフカフカしてる。

 多分俺が使うベッドなんかより余程寝心地が良さそうだ。

 

 

「ありがとうございます……もう大丈夫なんで、帰ります……」

 

「ぇ……」

 

 

 しかし、長居をするのは邪魔になると判断した俺は、まだ少しだけ感じる鳩尾の痛みを我慢して、ソファから立つと隣に座ってたセンパイが何故か悲しそうな顔を向けてくる。

 

 

「そ、そんな……もう帰るんですか? 一誠くんなら信用出来ますし、まだ居て頂いても……」

 

「いや……そんな無理しなくても大丈夫ですよ。

センパイの家族の人たちにも迷惑でしょうしね……」

 

 

 今は出掛けてるみたいだが、これがもし帰って来た時に知らん餓鬼が居たなんて所を見れば、恐らくセンパイを大事にしてるだろう家族の人達はいい顔なんぞしないに決まってる。

 だから……いや、正直に言えば一刻も早く逃げたいという衝動に駆られながら、嫌に寂しそうな顔してるセンパイを敢えて見ないフリして玄関に行こうとしたが、この日までロクにセンパイを知らなかった俺は一つ知ることになる。

 

 

「いえ、この家には私独りですが……」

 

「え?」

 

 

 事故とはいえ、まだ鳩尾に一撃入れてしまった事に罪悪感ありますという顔で独り暮らししてると告げるセンパイに、俺は思わず足を止めて振り返る。

 

「一人って……あれ、家族は?」

 

「えっと……冥か――――海外に……」

 

 

 こんな高そうなマンションで独り暮らしするには流石に親とか居ないと無理だろうとか思いながら家族の事を聞くと、センパイは妙に歯切れが悪そうに家族が今居る所を大雑把に教えてくれた。

 

 

「家族は両親と姉が居ますが、その三人は今海外に居て、私は学校に行くために此処に残る事に……」

 

「あ、なるほど……ね」

 

 

 だからか、ちょっと寂しそうな顔になったのは。

 そうか……何か悪いこと聞いちゃったな。

 ははは、何時も俺はこうだな。

 

 

(う、うぅ……まさか姉さんが冥界の四大魔王の一人で、実家が上級悪魔貴族のシトリー家だなんて言えない……。一誠くんは私が悪魔だなんて知らないし……ごめんなさい、本当は全部嘘なんです……だからそんな顔しないでくださいよぉ……)

 

「余計な事聞いちゃいましたね……は、はは……無神経でごめんなさい」

 

 

 人を信用しないから無神経。

 人の心が分からないからズケズケと入り込もうとする。

 人の気持ちを理解しようとしないから、こうやって知ろうとするときの手立てが無い。

 だから俺は馬鹿なんだ……。

 

 

「やっぱり帰ります。お世話になりました」

 

 

 もう分かった。いい加減理解した。

 俺はやっぱり、人を信用すべき人間じゃねぇ。

 あの男が現れてから俺の中で時間が止まってしまってる以上……独りで居るべきなんだよ。

 獲て失うくらいなら、最初から要らな――

 

 

「ま、待って!」

 

「っ!」

 

 

 い……あ?

 

 

「別に家族は関係ない……!」

 

 

 帰ろうとする俺の腕を掴んで止めたセンパイの顔は見れないが、この時は何と無く予想できてしまう。

 いや、それ以前に他人に触れられた影響で俺の身体に震えが走る。

 

 

「は、離してくださいよ」

 

「い、嫌です……離したら帰るんでしょう? だから嫌です……」

 

 

 潔癖症では無い。

 何時の頃からか、他人に触れられると自然と震えてしまう。

 止める為には今センパイが俺の掴んでいる腕を離してくれれば良いのだが、センパイは離してくれない上にかなり強い力で掴んでるせいで上手く外せない。

 だから口で言って分かって貰うしかないのだが……。

 

 

「そ、そうです。一誠くんを此処まで連れて来たのは私で、その借りがある筈です……だ、だから居てください……此処に……!」

 

 

 センパイは最後まで離さず、逆に居ろとワケの分からない事を言ってきた。

 

 

「な、何でそうなるんだよ……わかんねーよ。アンタが何を考えてるのか……!

俺は……俺は帰りたいんだよ! 離せ! 触るな!!」

 

 

 何を考えてるのか分からない。

 段々イライラしてきた俺は、センパイ相手だというのを忘れて声を荒げながら手を引き剥がそうと身を捩ったりと躍起になる。

 けれど最後まで……本当に女かよと思うくらいに強く……けれど痛くは無い力加減でセンパイは離さなかった。

 

 

「なんで……アンタが俺なんぞに……」

 

 

 理解できない。

 人気者で周りに誰かが常に居るような人が、他人も信用できず独りの俺に何故此処まで……。

 そうだ……思えば最初は単なる追試の講師だっただけの人だったのに……それだけで終わるだけの関係だったのに――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっとけないんですよ……アナタが。

単なる知り合いで終わらせたくないんですよ……!」

 

「…………なっ」

 

 

 その答えがわからず、混乱していた俺にセンパイは教えてくれた……。

 予測出来なかった答えを……。

 

 

「最初は学園始まって以来初の追試者ってだけの認識でした。

そして初めて会った時、勉強が出来無いと見て分かるくらいに貴方は覇気のカケラも無い人だった。

でも、私にはその覇気の無さが、何か大切なものを無くして自分を見失って怯えてる様にも見えた……」

 

「そんな、カッコの付いた人間じゃねーよ俺は……」

 

「現にアナタは私を含めた他人全部を信じようとしてない……。

それは、昔何かショックな事があった……違いますか?」

 

「うっ!」

 

 

 わからないが、泣きそうな声と顔を向けながらのセンパイの言葉に、俺の心臓は飛び出る思いがした。

 それは勿論、殆ど合ってたからだ。

 話した覚えなんてないのに……。

 

 

「話せとは言いませんし、これは私の単なる自己満足です……」

 

 

 引き剥がそうと躍起になってた俺の身体は力が抜け、その場に崩れ落ちるが如く座り込んでしまい、呆然とした顔になって弱々しい笑顔をしながら俺の手を握ったセンパイを見上げる。

 

 

「正直……私自身も混乱してるんです。

それまで興味無かったのが、貴方と出会ってから……私は―――――

 

 

 

 

 

 

 毎日、貴方が頭から離れない……。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 多分、純粋というのがそういう意味だとするなら、正しく今センパイが見せる笑顔がそうなんだろう。

 俺は何か……良くわからないけどその笑顔に目を奪われた気がした。

 

 

「あ、あはは……すいません。

こんな事言われても迷惑でしたよね……」

 

 

 熱いのか、頬を紅く染めながらペコリと一つ頭を下げたセンパイが悪いとは思ってない。

 というか誰が悪いとかそんな話では無い。それは分かる。

 

 

「……………。いや、別に……だけど、やっぱり分かんない……。理解しようとしても答えが見つからないんです」

 

「……。わかってますよーだ……」

 

 

 でも、やはり理解が出来なかった。

 言ってる事が……その意図が。

 でも一つだけ確実に分かる事は……。

 

 

「は…………何か疲れちまいました。

申し訳ないんですけど、ちょっと休ませて貰っても良いですか?」

 

 

 この場から逃げたいとは思わなくなったのと、センパイに今も手を握られてるのに、震えが止まってるということだけだった。

 

 

「ええ、よろこんで。

クリスマスが嫌いで何も無いですけど、ゆっくりしてください」

 

「へ……一致しましたね。俺も嫌いなんですよ……」

 

 

 だから……何と無くもう少しだけ此処に留まる事にし、笑って許可してくれたセンパイに本当の事の一部を言ってしまった。

 

 

 これが去年のクリスマスの話だった。

 

 そして今は――

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間、か? ククク……こんな所に来るとは珍しい。

褒美に痛みも無く喰らってやろう」

 

「え……あ……ど、どちらさま?」

 

 

 自然界に絶対存在しないだろうと馬鹿な俺でも断言出来るくらいの化け物に見下ろされていた。

 久々に一人で帰る時に見つけた、郊外の廃屋に住み着いたにゃんこ達に餌をあげてただけなのに……。

 

 




スキル・不運(ハードラック)

此処最近幸運続きだった一誠の身に降り掛かるコントロール不能のスキル。

効果は不幸と(ダンス)っちまう。

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