マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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えーっと、誰も待ってないけどお待ちどう。


クレーマー一誠

 少なくとも、妙にしつこい姫島朱乃やら塔城小猫よりは受け入れられている。

 すっかり涙腺が緩くなりやすくなってしまっていたゼノヴィアは安堵する訳だけど、それとは別にあの二人は少ししつこすぎやしないかとも思っていた。

 

 相手にするのが心底めんどくさくて、ハッキリいって鬱陶しいにも程があるとすら本人から言われているにも拘わらず、彼女達は何をトチ狂ってるのか、一誠達マイナスとカテゴライズされる者達に『救い』を見出だしている。

 

 ゼノヴィア自身もデュランダルという存在そのものを一誠によって『否定』され、己の中に宿していた確かな自信を消し飛ばされてしまったがゆえに一時は救いを求めていた事もあったが、彼女達との最大の違いは、救いを無意味に求めてはいけないものなのだと気付いた事だ。

 

 だからゼノヴィアはマイナスのスキルを持ってないものの一誠達に受け入れられているのだ。

 ……まあ、ちょっとでも見捨てられると思ったりしたらメソメソと泣いてしまうのは変わらないが。

 

 まあつまり何が言いたいのかと云うとだ……。

 

 

「正直言って、本当に貴女方と関わるのだけはご勘弁願いたいと言いますか、お互いにとってもその方が良いと思うんですよ? ですけど、おたくの眷属さん二人があんまりにもしつこすぎて、今度は俺達の友達にまで絡み始めたとなれば一言くらい文句言っても悪くないと思うんです?」

 

「……………」

 

 

 姫島朱乃と塔城小猫は本当にしつこすぎる。

 その一言に尽きるのだ。

 

 

「兄が居たら話もできなさそうなんで、留守を見て訪ねさせて頂いた訳ですけど、本当になんとかなりませんかね? ゼノヴィアさんにまで絡まれて困ってるんですよ」

 

「それは私も何度も注意はしているつもりなのだけど……」

 

「注意されてるのにじゃあ何で来るんですかね? いっそ縛り付けてしまって欲しいですね?」

 

「流石にそれはできないわ。けど必ず二人には止めさせる――」

 

「そう言った人が本当に止めさせた試しなんて俺無いと思うんですよね?」

 

 

 塔城小猫と姫島朱乃の飽くなき過負荷達への執着は、そろそろ本人達もうんざりし始めていた。

 それこそ無視していればどうにでもなっていたのだが、ここ最近は過負荷じゃないのに過負荷達から認められているという理由による嫉妬だかなんだかで、ゼノヴィアが絡まれ始めた。

 

 他人に対しては結構泣かないどころか強気でもあるゼノヴィアだが、偶々それを見ていた一誠が友人が絡まれてると知れば一言文句を言いたくもなる訳で。

 二人の主的位置に居るリアスに、誠八が留守の隙を見て直接物言いをしに来たのだ。

 

 

「勝手に来られて、その都度兄に変な誤解をされて勝手に逆恨みされても嫌なんですよそろそろ。

関わるべきじゃないって本人も五月蝿いくらい言ってるのなら、貴女からも強制させてくれませんかね? 勝手に居座られて迷惑なんですよマジに」

 

「よく言っておくわ……」

 

 

 だらけた日常。

 無力な世渡り。

 生ぬるい友情。

 

 そんなスローガンを掲げてダラダラ生きてる一誠達にとっては朱乃と小猫の存在はまさに厄介なものしか寄越してこない存在そのものであり、己の不幸を許可もしてないのに他人と共有させて来ようとする姿勢が気にくわないのと、誠八が一々神経質にキレて鬱陶しいというのもあるので、そろそろリアスに本気で制止させて貰いたい………というのを、偶々居たゼノヴィアと一緒にオカルト研究部の部室に居たリアスを訪ねて直談判した一誠。

 

 

「じゃないとイリナちゃんかロスヴァイセさんがそろそろプッチンしちゃうんですよ」

 

 

 心の枷をぶったぎる事で、凶悪な過負荷を完全覚醒させたロスヴァイセによって大ケガまでさせられたリアスとしても、言われなくても二人には一誠達に近寄る事を禁止させているつもりではある。

 

 

「いくら言っても聞いてくれないのよ、あの二人が……」

 

「そこを聞かせるのが王様である貴女の役目ですよね? ゼノヴィアさんがあの二人に色々と言われてるんですよ。さっさとやめさせてくれないと俺も黙ってる訳にはいかなくなりますよ?」

 

「わ、わかっているわ。

必ず止めさせるから今日の所は……」

 

 

 一誠達からの印象が凄く悪いらしい二人に、リアスは内心、『何をしてくれちゃったのよ……』と胃がキリキリと痛くなる。

 

 そもそもあの二人を見てると、自分達の暗い過去を一誠達という存在を使って誤魔化そうとしているのはリアスも何となく感じていた事だった。

 

 

「本当に頼みますよ? あの人たちが一々来る度に兄から嫌味をネチネチ言われるんですから」

 

「え、ええ……」

 

 

 それは『逃げ』である事はわかっていたけど、指摘するのがリアスは怖いのだ。

 それまで形成してきた信頼関係が一気に崩壊してしまうかもしれないからと。

 

 

「行こうぜゼノヴィアさん」

 

「うん、わかった」

 

 

 だから実の所リアスはそれ程強く二人に言えていない。

 言うとは一誠に言ったものの、言える自信は無いのだ。

 一誠が話している最中、売店で一誠に買って貰ったんだと、別に聞いてもないのに、子供みたいに自慢気な顔してもきゅもきゅと食べていたゼノヴィアの手を引きながら部室から去っていくのを見送ったリアスは、他に誰も居ない部室に一人残り、大きくため息を吐くのだった。

 

 

「言いはしたけど、経験上すんなり要求が通るとは思えないんだよなぁ……」

 

「じゃあ姫島朱乃と塔城小猫は絡んでくるのをやめないということなのか?」

 

「俺を嫌ってるお兄たまの説得すらほぼ聞いてない感じからしても、そう思ってた方が良いね。

いっそ二人を丸ごと否定――――は、難しいかなまだ……」

 

 

 旧校舎からの帰り道。

 そろそろしつこいと本気で台無しにするかもしれないと言う一誠の堪忍袋が破裂するかしないかは、リアスに掛かっているのだ。

 

 

 

 

 灰色な景色しか見ることができなかったロスヴァイセの視界は、今も確かに見えるものの殆どが灰色のままだ。

 だけど彼という存在だけは灰色ではない。

 

 とてもひ弱で、とても最低で、とても終わっている。

 

 

 なんて素敵な男性なのだろう。

 これ以上に運命を感じた男性は他に居ないし、この先だって無いのは間違いない。

 だからこそロスヴァイセは彼を――一誠を旦那様とする事に決定した訳だが、どうやら自分よりも先に最低に最高な一誠に惹かれた女性は少なくないらしい。

 

 イリナしかり――そして、一誠自身が大好きだと公言しているソーナ。

 

 ゼノヴィアに関しては、寂しがり屋なだけなので問題は無いにしても、この二人に関してはロスヴァイセにも無視はできない存在だ。

 

 が、正直ロスヴァイセは喧嘩して一誠の取り合いをするくらいなら、上手くその二人とも仲良くなって、まさに仲良く共有できれば良いという珍しい考えも持っていた。

 

 

「子供は二人欲しいかな? うふふ、アナタの子供……うふふっ♪」

 

「あのねロスヴァイセさん? 何度も言うけど、俺はもうセンパイと……」

 

「? 知ってますよ? だって昨日の夜だってソーナさんとお部屋で裸になって抱き合ってたのも知ってますし。

ふふ、羨ましいくらい幸せそうな声までソーナさんは出してましたからね~?」

 

「ならどうして……」

 

「決まってるじゃないですか。

ソーナさんがアナタを大好きな様に、私だってアナタがとても大好きだからです。

アナタという男性を知った今、最早他の男性なんて幸せ者(プラス)過ぎて近寄るだけで焼かれそうですもの。

だから私は余り物にされても全然構いません。アナタのお側にずっと居られるだけて不幸(シアワセ)ですから……♪」

 

 

 別に結婚の経験なんてないのに、変な人妻的な色気を醸し出しながら微笑むロスヴァイセに、一誠も微妙に言葉に困った。

 旦那様にならなくても、不倫相手の都合の良い女にされても構わないからずっと傍に居るという、破滅にしかならない道を至極当たり前のように歩むと言われてしまえば、その爆発的に退化した性質の事もあり、それだけ本気なのがわかってしまうのだ。

 

 

「というか、覗くのはよくないと思うけど」

 

「ふふん、今後の参考という奴ですよ」

 

「その今後ってのは来ないと思いたいんだけどな……」

 

 

 

 

 ソーナ・シトリーは今が人生で最高に最低で、最低なる幸福の連続だ。

 

 最初の出会いでは、自分の本質とまだ向き合えずに卑屈なだけだった一誠が少しずつ受け入れ、遂にはどこに出しても恥ずかしくない程に退化してみせた。

 

 そして自分もまた、一誠と惹かれ合っていくにつれてその性質を退化させていき、互いが互いに、どんな姿でも本気好きなのかを確かめる為に顔面の皮を剥がしたり、ただの肉片だけになってみたりと、考えうるだけの本気の確かめ合いをし、本当の本気にお互いが大好きなんだと解り合えた。

 

 こうなれば最早離れたりはしない。

 例え誰かが引き剥がそうとするなら、考えられるだけの手札を全て切ってソイツの全てを台無しにしてやる。

 

 永遠に真実に到達させないという、真実を改竄してしまう一誠のスキルに似てるようで真逆で、運命の糸で結ばれたかの様な対となる性質を持つソーナは誰も止められないだろう。

 

 

『アナタはもう、どこにも向かうことは出来ない。

特に――『真実』に到達することは決して無い。

でも考えようによっては、永遠に真実へと到達出来ない方が幸せなのよ? まあ、仮に誰かに殺されたとしても、その殺された真実に到達できずに永久に殺され続ける現実となるかもしれないけど、ある意味不死身になれるのだから悪くないとは思うけどね?』

 

 

 己からイッセーを引き剥がすという『真実』には決して到達させない。

 一誠とこの先も永久に共にあり続けたいという想いによって発現した彼女の過負荷は、悪魔でありながら過負荷という『勝てるマイナス』であるが故に発現してしまったスキルなのかもしれない。

 

 そして何よりも、彼女こそが一誠という過負荷を覚醒させた元凶なのかもしれない。

 燻らせていた本当の精神を少しずつ教え、共有する事で少しずつ腐らせていく。

 

 周囲はソーナが変わり始めたのは一誠のせいだと思っているのかもしれないが、『真実』は逆。

 彼女という存在が一誠を退化させていったのだ。

 

 

「まあ、聞かないでしょうね。

あの二人が言って聞くだけなら、こんなに苦労なんてしなかったもの」

 

 

 お互いに最も近しい過負荷。

 同じく過負荷へと退化してしまったイリナやロスヴァイセも確かに近しい者ではある。

 だがここまでスキルの性質が酷似している者は血縁者ではないにも拘わらずあり得ないレベルであり、まさに『相性が良すぎて、小指が赤い糸で結ばれているペア』と言えるのはこの一誠とソーナだけだ。

 

 

「いい加減面倒なんだよね。

お兄さんが一々目くじら立てて来るし、俺としてもあの二人に対してはなんも思っちゃいないし」

 

「ある意味であの二人も不幸よね。

イッセーや私達に救いを感じてるだなんて」

 

「単なる自殺願望者なのかもしれないね」

 

 

 イリナもロスヴァイセも一誠に惹かれている。

 その気持ちはソーナ自身も持っている事なので一定の理解は示しているつもりだ。

 だから普段一誠が二人に迫られてもムキになったりはしないし、敢えて黙っている。

 

 それは一誠自身が二人に常に言っている通り、どんな事があろうとも結局はソーナのもとへと戻ってくるという自信と自負があるからだ。

 そして何も言わない代わりに、二人となる時間の邪魔を決してさせないという取り決めをしている。

 

 それがまさに今この時であり、人間界で使ってる家のソーナの部屋で一誠と他愛の無い話をしながら二人きりの時間を過ごしている。

 

 

「まあ、あの二人の事は正直本当にどうでも良いとして……。

ロスヴァイセさんが言ってたんだけど、めっちゃ声とか聞かれてたみたいだね俺達」

 

「防音にしてる筈だから覗いたりしてたのかしら? 没頭し過ぎて周りが見えなくなるから気付かなかったわ」

 

「うん、俺もだよセンパイ。

それでどうしよう? 多分また見られるかもしれないし、今日はお話するだけにします?」

 

 

 邪魔さえしなければ、別に聞き耳を立ててようが見られていようがソーナにしてみれば知ったことではない。

 一誠は気を使ってくれているようだけど、ソーナはといえばベッドに腰かけていたまま、手を伸ばし、目の前の床に直に座っていた一誠の手を取って立たせる。

 

 

「イッセーは嫌?」

 

 

 少し、わざと不安そうな眼差しで見上げながらソーナが弱々しく訊ねる。

 断る事は無いとわかりきってる上でだが、ソーナとて甘えられるなら甘えたいのだ。

 それほどに一誠の気質は自分にとってあまりにも心地よくて、安心できて、身を委ねきれるのだから。

 

 案の定、その表情と声色を前に一誠はソーナの眼鏡を外してあげながら、繋いでいた手を絡ませ、地味なパジャマ姿のソーナの身体を優しく押し倒し、額をくっつける。

 

 

「嫌じゃない。

ふふ、センパイにそんな顔と声で言われたら嫌だなんて、舌が捻じ切られても無理だぜ?」

 

 

 最初に夜を共にした時から、もうソーナは自身が紛いなりにも純血悪魔であるからなんて冥界での風評なんて塵の様に投げ捨てている。

 彼女が求めている異性に少なくとも悪魔やその他は存在しない。

 その全てを兼ね備えてるのは、負ける事が運命付けられたこの人間の男の子ただ一人。

 

 双子の兄に比べたら華奢な身体の全てに抱かれたい。

 絡ませた指をしっかり握り合いながら、優しく何度も互いにキスをし、衣服のボタンを外すソーナ。

 

 

「……イリナとロスヴァイセさんに比べたらやっぱり足りないと思う?」

 

 

 そして露になる胸元を見せながら、ソーナは一誠に自分より大きいイリナやロスヴァイセと比べてどうなのかと訊ねると、一誠は笑う。

 

 

「ただの物言わない肉片になったセンパイでも大好きなんだから、大きさとかどうでも良いよ」

 

 

 ソーナという人格そのものに惹かれている時点で、他者との差異なんか無意味だとハッキリ断言する一誠は、優しく胸元に触れる。

 

 ぴくんと冷たい指に触れられてくすぐったそうに身体が動くソーナがとても一誠には可愛く思え、優しく、もっと強く彼女の身体を抱き締めていく。

 

 

「もし子供ができちゃったら……ふふ、実家は大騒ぎになりそうだけど、別に良いわよね? 一誠が大好きなんだから、私は悪くない。」

 

 

 自分の全てをさらけ出せる相手が居る。

 

 真実に到達させないスキルを持つソーナにとって、誰にも邪魔させてなるものかという唯一ともいえる信念。

 

 

「真実から出た真の行動は、決して滅びはしない。

ふふ……好きよイッセー……何度でも、何時までも」

 

 

 どんな残酷な現実になろうとも、生き残るのはこの世の真実。

 未来永劫一誠と共に在り続けるという真実だけを見続けるソーナという少女は、真実をねじ曲げる少年と今日も繋がるのだ。

 

 

 こそこそと部屋の入り口からこっちを見ては、たまに一人で慰めてるだろうお友だち達だろうとも、この時間だけは譲れない。

 

 決して、何時までも……永久に。

 

 

「ぁ……も、もう、胸の事を聞いたからって、そんな赤ちゃんみたいにちゅーちゅーしないでよ……♪」

 

「あ、いやなんとなく……? 俺は少なくともセンパイの胸も大好きだから」

 

「ふふ……ああ、もう本当に大好き♪」




補足

いや、久しぶりだったんで、取り敢えずリハビリ的な意味でイチャイチャさせてみたよ。

原点はやはりこのソーたんだね!


その2

割りと切実に、例のお二人をお兄さんに早く何とかして欲しいと思うらしい。

すがり付かれても困るのだ。

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