マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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逃げたい……でも相手が強すぎて逃げられない。

そして予感は……


的中してしまう予感

 変な女に引っ掛かった気にしかなれなかったイッセーは、謎のロスヴァイセなる女性を落ち着かせ、ある事無いこと硬軟取り混ぜた言葉で誤魔化す事で、取り敢えずその場からの逃走に成功はした。

 

 

「どうしてこうなるかなぁ!」

 

 

 成功はしたが、嫌な予感だけはずっと残ってしまう。

 故に珍しく自宅へと帰る道の中、一人毒づいている。

 あの女性が間違いなく一般の方ではないという事もそうだけど、何より彼女は間違いなく厄介な立場な人だということを。

 

 

「オーディンって名前は確かアザゼル先生が言ってた様な……。

あーもう、どうしても嫌な予感がするぜ……」

 

 

 その予感は果たして的中してしまうのか……? 嫌な予感だけなら間違いなく当たってしまうイッセーは久し振りに頭を抱える。

 

 

「オーディン? あのじーさんなら今この街で遊んでるが、オーディンがどうかしたのか?」

 

「いえ別に。たまたまゲームのキャラにそんな名前が出てきたので、どこかで聞いたなぁと思っただけです」

 

 

 試しに次の日になってアザゼルに然り気無くオーディンについて聞いてみたが、やはりどう考えてもロスヴァイセが口走ったオーディン様なる存在と同一人物にしか終えない。

 

 

(まっずいぞ、またしてもお兄ちゃまに買わなくて良いめんどくさい敵意を……)

 

 

 上手く誤魔化しながらオーディンの事を聞き出せたイッセーは、そのオーディンとの打ち合わせがあると、今はどうなってるのかも知らない兵藤家へと行ってしまったアザゼルを見送りつつ内心盛大なため息を吐いた。

 只でさえ最近は姫島朱乃だの塔城小猫だののせいで買わなくとも良い誠八の恨みを買い漁ってる状況なのに、これではまたしても変な恨みを持たれてしまうかもしれない。

 

 

「オーディンがどうしたの? 何か気になる事でもあるの?」

 

「へ? いや、別になんでもないですよセンパイ。あ、それより俺ジュース買ってきますわ!」

 

「あ、ちょっと……!」

 

 

 この件は取り敢えず自分で何とかしなければいけないと、ソーナ達に飲み物を買ってくると言って家を飛び出したイッセーは、対策案を講じる事になった。

 

 見えても見てもない下着を見たとブラフかました相手に取っ捕まりましただなんて、流石のイッセーも情けなくて言えないのだ。

 

 

「……………。イッセーが何かを隠しているわ」

 

「アンタもそう思うの? 奇遇ね、私もよ」

 

「隠してるって何をだ?」

 

「それはこれから解る事よ。

そうね……昨日イッセーから全く知らない女の匂いがしたから、もしかしてそれとも何か関係があるんじゃないかと私は思ってる訳だけど、イリナはどう思う?」

 

「アンタと同じ意見なんて気に入らないけど、私もそう思うわ。

もっとも、イッセー君の事だから何かに巻き込まれたんでしょうけどね」

 

「に、匂い? 普通にイッセーの匂いしかしなかったぞ……」

 

 

 もっとも、割りとこの三人に隠し事は通用してないのだが。

 

 

 

 

 所変わってこちらは兵藤家。

 リアスの実家のパワーによって魔改装された結果、町内でもとりわけ浮いた豪邸と化しているこの家には、今北欧神話の主神であるオーディンや堕天使の重鎮のバラキエルが来客していた。

 

 

「……………………」

 

「あ、朱乃……」

 

「おー……空気が最悪じゃのー」

 

 

 だがその空気は誰が見てもわかる通りに悪く、その原因は堕天使の重鎮の一人たるバラキエルに対してリアス眷属の女王であり、バラキエルの娘である姫島朱乃が完全に殺意の入った拒絶オーラを撒き散らしているからだ。

 

 

「副部長……その、オーディンさんも来てるのですし」

 

「ええそうね」

 

 

 無論周りというか、仲間達はそんな二人を見かねて様々なフォローをしようとした。

 しかし何を言っても淡白な返事でバラキエルを視界に入れようともしないし、誠八からの話しかけに対しても冷たいものがあった。

 

 

「よーっす、遅れてすまん――――んぁ? 何だこの空気?」

 

 

 そんな空気の中を台無しにするダウナー調子でやって来たのはアザゼルであり、変な空気を感じてキョトンとした顔をしており、それを見たリアスがあきれる。

 

 

「空気を読んでちょうだいアザゼル……」

 

「は? ………あぁ、バラキエルと朱乃の事か。

何だお前等、まだそんな調子なのか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 ほぼ他人事みたいな調子のアザゼルの言葉に父娘は沈黙で答える。

 結局、こんな空気のまま改善もなくオーディン達との互いの自己紹介はスタートした。

 

 

「えーっと、改めてワシの名はオーディン、北欧神話の主神じゃ。今回は日本神話との会談のために来日したのじゃ、よろしく」

 

 

 描写はないが、既にこのオーディンの性格を何と無く理解していたリアス達女性陣は、彼から向けられる舐め回す様な視線に軽く嫌悪感を持っていた。

 とはいえ、相手は北欧神話のトップなので態度には出さず、淡々と自己紹介を済ませる。

 

 その間、なんとか娘との関係修復を少しでもしたいというバラキエルのすがる様な視線を朱乃に向けていたのだが、本人は全て一瞥すらくれる事なくガン無視している。

 そしてここまで全く触れられてなかったが、椅子に座るオーディンの後ろに銀髪の女性が立っており、出掛けから戻ってきてから妙に様子がおかしい事に気付いていたオーディンが紹介する。

 

 

「で、こやつはワシの秘書でヴァルキリーのロスヴァイセという娘じゃ」

 

「………」

「おいロスヴァイセ?」

 

「ふぇ?」

 

「いや今お主を紹介したから挨拶を……」

 

「あ、は、はい! ロスヴァイセと申します! 以後お見知りおきを……!」

 

 

 慌てて頭を下げるロスヴァイセ。

 やはりどこかおかしいと、オーディンは彼女の調子を引っ張り出す為にこんな事をリアス達に話し始める。

 

 

「ちなみに彼氏いない歴史=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」

 

 

 彼女を知る者なら、これを言えば面白いくらいの反応をして怒る筈だとオーディンはわざとにやつきながら言うが、驚くべきことにロスヴァイセは怒ることは無かった。

 

 

「(あ、ありゃ?) ふむ、どうじゃそこの赤龍帝よ、こやつを貰ってくれぬか?」

 

「え……」

 

「!」

 

 

 ならばこれならどうだと、ちょうど年も近い赤龍帝の青年を巻き込んでのからかい言葉を放つが……。

 

 

「えへー……」

 

 

 ロスヴァイセは某嵐を呼ぶ五歳児が、きれいなお姉さんを前にした時の様な笑みを浮かべてボーッとしていた。

 つまり反応がゼロだった。

 

 

「おい、アンタの秘書変なもんでも食ったんじゃねーのか?」

 

「そ、そのようじゃのう? 何時もなら笑えるくらい怒るのだが……おーいロスヴァイセ?」

 

 

 何時ものロスヴァイセじゃない事に、流石のオーディンもちょっと心配になって彼女に話し掛ける。

 

 

「男に相手にされなさすぎて壊れたのかの?」

 

「アンタが虐め過ぎたんじゃねーのかよ? 今の世の中にはセクハラやパワハラで自殺する人間も少なくねーんだぞ」

 

「ロスヴァイセはそんなタマじゃない筈だがのぅ……」

 

 

 終始ニヤニヤと一人で笑ってるロスヴァイセにオーディンはアザゼルに言われて少し戸惑う。

 一体何が彼女に起こったのか……。昔から他の者と比べておかしな所があるとは思っていたが……。

 

 

「くふふふ、もう私は彼氏の居ないヴァルキリーじゃない……」

 

「は?」

 

 

 ニヤニヤしながら口走るロスヴァイセのその一言がどうやら原因だったとオーディン達は知ることになる。

 

 

「お、おぉ? のうロスヴァイセ? ワシの聞き間違いでなければ今お主……」

 

「えー? 何でしょうかオーディン様ー? そうですよー? もうオーディン様に彼氏居ない歴=年齢とからかわれる事も無くなりました~」

 

「いやいやいや、お主大丈夫か? 誰かに騙されてやしないか?」

 

「騙されてませんよー だって私、その人に裸を見られてしまいましたからぁ? これはもうその人と結婚するのが確定したって事ですし~?」

 

「な、なんじゃと!? お、お主昨日はどこに行ってたんじゃ!?」

 

 

 にへらにへらと、完全に捏造の入ってる様にしか思えない事を話すロスヴァイセに、オーディンは勿論、特に接点も無いリアス達も異性に裸を見られたという話しに、驚きも混じえながらも少し興味津々だった。

 

 そんな時だっただろう、ニヘラニヘラとしていたロスヴァイセが困惑してる誠八を見てこう言い出したのは?

 

 

「そういえばアナタのお名前は確か兵藤誠八さんでしたよね?」

 

「え、ええ……」

 

 

 何だ突然? と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()誠八はニヤニヤした顔のロスヴァイセに引きながらも頷く。

 すると、その頷きを見たロスヴァイセから――

 

 

「体格や顔付きは彼の方が幼い様ですが、彼――イッセーさんはアナタの肉親なのでしょうか?」

 

「………は?」

 

「!」

 

「「!?」」

 

『!』

 

 

 聞く筈もない名前が出てきた。

 その瞬間オーディンを抜かした全員の時間が一瞬だけ停止した。

 

 

「な、何故アナタがアイツの事を……?」

 

 

 努めて冷静を装おうとする誠八が何かを堪える様な震える声で問うと、アザゼル等も同じように質問する。

 それは他の者達も同じであり、特にそれまで無言・無表情・無関心を貫いていた朱乃と小猫は、まさかの名に、少し必死が入った顔でロスヴァイセを見ていた。

 

 

「昨日お暇をオーディン様から頂いた際に、偶々出会いました。

ふふ、その時私の裸を彼は見ましてね」

 

「バカな、何でそんな――」

 

「「嘘だ!!!!」」

 

「っ!? ふ、副部長? 小猫ちゃん……?」

 

 

 どす黒い感情が沸き上がるのを必死に抑えながら、ロスヴァイセの荒唐無稽なエピソードを否定しようとした誠八だったが、突然同じように聞いていた小猫と朱乃が見たこともない様な憤怒の形相と共にロスヴァイセへと突っ掛かり始めた。

 

 

「彼がその日会った様なアナタの様な方に対してそんな親切にする訳がありません!」

 

「ええそうですね、第一裸を見られたって話も嘘にしか思えません」

 

「ふ、二人ともどうしたのよ?」

 

「ひょ、兵藤一誠の話しになった瞬間朱乃が……」

 

 

 納得できねぇとばかりに詰め寄る二人に圧倒されてしまうリアス達。

 特にバラキエルは一誠と先日会ってたので、彼の話になった途端感情を剥き出しにする朱乃に酷くショックを受けていた。

 

 

「へぇ……? 彼を知っているのですか」

 

「ええ、大切な友人ですわ」

 

「尊敬する先輩です」

 

 

 本人が聞いたらさぞ嫌そうな顔をするだろう二人の一誠への関係性の吐露に、ロスヴァイセは珍しく鼻で笑った。

 

 

「なるほど、どうやら彼の言う先輩さんとイリナさんという方では無さそうですね」

 

「「……」」

 

「それはつまり……ふっ、アナタ方は彼から相手にされてないという事ですよねぇ?」

 

「「な……」」

 

「彼の人となりは何と無くわかりますからねぇ?」

 

「ろ、ロスヴァイセがグレた……?」

 

「アイツ、まさか今朝オーディンの事を聞いてきたのはこういう事だったのか? ……………ちょっと面白くなってきたんじゃね?」

 

「アイツ……どこまで俺を……!」

 

 

 つまり私の敵じゃないなと言外に言われてしまう二人。

 誠八が尋常ではないレベルの殺意を蓄積させてるのだが、誰も相手にされてないのがまた悲しい。

 

 

「ロスヴァイセだったか? 今言った事が本当かどうか本人に確かめるが……」

「アザゼル殿は彼の連絡先をご存じなのですか!?」

 

「ああ……一応携帯の番号の交換くらいは――」

 

「今すぐ連絡を! そしてできればその連絡先を私に!!!!」

 

「お、おう……」

 

 

 獲物を喰らうハンターみたいな目でアザゼルの手首の骨をへし折らんパワーで掴んで懇願するロスヴァイセに引いてしまうアザゼルは、取り敢えず携帯を使ってイッセーに連絡をしてみる。

 

 

「ロスヴァイセをそこまでにさせるそのイッセーなる男は何者なんじゃ? お主の肉親みたいじゃが……」

 

「家を勝手に出ていって他人に迷惑ばかりかける弟です……もう縁は殆ど切れてます」

 

「……………。その話が本当だとすると、割りと変な男に引っ掛かってるのではないか……?」

 

 

 流石に鵜呑みにするつもりはないが、まともとは思えない予感がしたオーディンは、珍しくロスヴァイセが心配になった。

 

 

「イッセーか? お前にひとつ質問が――「イッセーさん! 私ですよ!!!!」――――――――おう、そういう事だ。

てことはお前、本当にこのヴァルキリーの裸体を……え、見てないし捏造されてる? あ、やっぱり? だがコイツからお前達に近い空気を感じるのは捏造じゃあねーよな?」

 

 

 受話器の外から大声でイッセーの名を叫ぶロスヴァイセの目が怖く、そしてアザゼルとの会話からロスヴァイセと知り合いになってしまったのだけは本当なのだと朱乃と小猫はショックを受けている。

 

 

「嘘よ……こんな人が……」

 

「何でこんな後から出てきた人があの人に受け入れて貰えてるの……?」

 

「取り敢えず今から連れてきて話を聞いてみるが……」

 

「!? あ、アイツをこの家に入れる気ですか!? そんなの――」

 

「!! 来るんですか彼が!? アナタは私たちのキューピットなんですね!!」

 

「ちげーし、そもそもアイツはソーナ・シトリーっつー悪魔とだな……」

 

「大丈夫です。昨日の夜一人で考えた結果、不倫しようが浮気をしようがちゃんと帰って来てくれさえすれば割りと許せる事に気付きましたので!」

 

 

 こうして一誠の抱いた嫌な予感はアホみたいに的中してしまった。

 アザゼルに呼びつけられ、そして関わりたくもなかった事にまで巻き込まれる。

 その全てが……。

 

 

「ご、ごめんなさい!! じ、実は昨日――」

 

「「「………」」」

 

 

 だが一誠とてただされるがままという訳では無い。

 このまま一人で行ったらまず普通にまずいと観念し、殺される覚悟で三人に事情を話す事で同行をして貰う事にした。

 

 なので――――

 

 

「うちのイッセーがお世話になったようなのでご挨拶しに同行しました」

 

「で、私のイッセー君に迫るふざけた女はどれ?」

 

「お茶が飲みたいんだが……」

 

 

 負の性質全開のソーナとイリナがニコニコしながら兵藤家へと踏み入る事で、ある意味もっとエグい状況になったのは云うまでもない。

 

 

「うっ……!」

 

「な、何だこの三人は……! ひ、一人は普通に思えるがこの三人は……!」

 

「これは……まずいの」

 

 

 そして初めて負の三人を前に初見の者や馴れてない者達は言い様のない吐き気に襲われ……。

 

 

「私がロスヴァイセです。

センパイさんとイリナさんって方はアナタ達ですか。

残念ながら、イッセーさんとはもう結婚する予定で決まりました」

 

「……………」

「よーし、ぶっ壊す……!!」

 

 

 ロスヴァイセだけは言い様のない歓喜に包まれていた。

 

 

 

終わり。

 

 

 

 

 急激に堕落し始めていくロスヴァイセ。

 無論初めてマイナスという概念を抱える者達を見たオーディンはそれを止めようとするが……。

 

 

「たったひとつのこの幸運だけは死んでも手離しません。

邪魔をするなら誰だろうと許さない……!」

 

 

 最早三人のマイナス達により急退化してしまった彼女は止まらない。

 自身の抱える不運を他人に押し付け……。

 

 

「ぐぅ!?」

 

「私が触れる全ての持つ運は奪い取る」

 

 

 時には触れた相手の幸運を根こそぎ奪い去る。

 故に彼女に触れられる者は最早だれも存在しない。

 他人に不運を押し付け、他人の幸運を奪い取り、時には不慮の事故で命に関わる不幸を撒き散らす。

 

 

「というわけでめでたくクビにされちゃいました!」

 

「だろうね。神系統にとって俺達は天敵らしいし」

 

 

 ただ唯一の例外は自分と同じ者達だけ。

 

 

「でもお祖母さんが心配するんじゃないのか?」

 

「そ、それは………どうしよう?」

 

「はぁ……最悪はアナタのお祖母さんを連れてきてあげるしかないわね」

 

「ったく世話の焼ける女だわ」

 

「私に家族は居ないが、大切にしないとな」

 

 

 なんだかんだ甘やかす友人達だけは自分の傍に居ても死なないから……。

 

 

「しかしキミのお祖母さんが今のキミのそのぐーたらっぷりを見たらショック死するんじゃないか?」

 

「大丈夫ですよぉ。イッセーさんに養って貰ってるから問題ないって手紙に書いときましたし~」

 

「また勝手に……」

 

 

 

不幸を撒き散らし、幸福を吸い尽くす――

 




補足

久し振りに兵藤家に戻った時、両親はイッセーを見るなり発狂寸前に陥って昏睡しました。

オーディンは三人を見た瞬間リアルに嫌悪感を感じました。

誠八は殺意度MAXになりました。


ロスヴァイセさんは……イッセーの友人三人を前に精神の中のスイッチが切り替わり掛かりました。


その2

不幸を無差別に撒き散らし、触れた相手の幸運を根こそぎ奪い尽くす。

……単純に凶悪過ぎる

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