マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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若干……いやかなりメンヘラ……


奇妙な団体

 よく分からない勘違いをされてる気がしてならない……いや、確実にされている。

 

 お兄たまの仲間である……えーっと、何だったかな、そう、塔城って子と姫島って子だ。

 その二人は自分を勝手にマイナスの側面と思い込んでるらしく、俺達に無意味な同類意識を抱きたがってる。

 

 別に勝手に同類意識を持つのは個人の自由だし好きにしたら良いと思うけど、ハッキリ言ってそれがかなり迷惑なんだよね、お兄たまの仲間って時点で特に。

 

 

「えーっと、取り敢えずグレモリーの先輩さんにフォローの手紙を皆して『わざわざ』書いてあげたんで、とっとと気絶してるお兄ちゃま連れて帰ったらどうです?」

 

 

 お陰で勝手に仲間を奪われた的な被害妄想をして殺され掛けるし、俺達にとっては要らない騒ぎを引き起こすだけでしか無いこの二人は、早い所元の鞘にでも戻ってもらいたい。

 てなわけで、サイラオーグさんやセンパイと協力して今回の騒ぎについてのある程度なフォローをした手紙を二人に渡し、丁重にお帰り頂く事にしたんだけど……。

 

 

「でも明日には帰るんですよね?」

 

「正確には今日の朝ね。もう日付変わってるし」

 

「そ、それならせめてその時間までは……」

 

 

 何をどう間違えてしまったからのか、この二人はどうしても俺に自分が抱える何かをぶちまけたくて仕方ないらしい。

 目の前でお兄ちゃんを串刺しにして俺とイリナちゃんとゼノヴィアさんがセンパイに先んじてが冥界から帰るまでは目覚めないように細工したというのに帰るつもりが全くないらしい。

 正直言うよ? ……………めっちゃ鬱陶しい。

 

 

「あのさ、俺――いや、俺達にどんな期待をしてるのかなんてのは知らないけど、そういうのはやめて貰えません? 正直鬱陶しいとしか思わないんだよこっちは」

 

「そうよ、第一イッセーくんに頼ろうとするのが実に気にくわないわ。アンタ達には誠八君ってのが居るじゃない。今串刺しにされて寝てるけど」

 

 

 俺の言葉を援護する様にイリナちゃんが割りと敵意を持ちながら姫島って先輩と塔城って後輩を睨む。

 イリナちゃんって基本的に外様の女の子が寄ってくるのが嫌いだし、お兄たまの仲間って時点で地雷しかないのもわかってるから今回はかなり風当たりがキツイね。

 

 

「こんな事を言うのもなんですけど、一誠君に何かを頼るのは完全に間違えですよ? 解決なんてできないし、状況を悪化させる確率の方が高い。

まあ、それは一誠君に限らず私と紫藤さんにも言える事ですが」

 

 

 センパイも二人に忠告する。

 そうだよ、何を思ったから俺達にすり寄ろうとしてるのかは知らないし、ぶっちゃけ聞いたら後戻り出来なさそうだから聞きたくないけど、勝手な勘違いから来る変な期待は止めてもらいたい。

 

 

「というか、君達二人に時間割くくらいならゼノヴィアさんに構う方が大事だし」

 

「ええ、ゼノヴィアは一応私にとっても元は相棒だし」

 

「厳しい事を言うようで申し訳ありませんけどね」

 

「え!?」

 

 

 何故か驚くゼノヴィアさんは今は放置しときながら、二人には何にも出来ないよとかなりハッキリと言ってやる。

 緩い馴れ合い、だらけきったその日暮らし、無気力な勝利。

 

 これをスローガンにその日をダラダラ生きる俺達にとってはこの爆弾持ちの人達は正直避けられるなら避けていきたい訳で……。

 別に同類でもなんでもない人達に頼られても大いに困るのさ。

 

 

「そういう訳なんで早いとこお兄たまを連れて帰ってくれよ。俺は早いとこ匙君とサイラオーグさんに混ざってゲッツしたカブトやクワガタで対戦したいから」

 

「そ、そんな……」

 

「随分と意地悪ですね」

 

 

 意地悪って言うけどな塔城さん、キミ達がそもそも勝手な思い込みで俺達に近寄ってきたんだろう? 意地悪も何もないだろうに。

 

 

「よし! よし!! よーっし!!! よっしゃあ!! 今のは俺の勝ちっすよサイラオーグ様!」

 

「ふ、ふふっ、中々やるじゃないか。ならお次は切り札であるパラワンオオヒラタを出撃させるっ!!」

 

 

 早くあの二人に混ざりたいんだよ俺は。

 俺の虫かごにある日本のノコギリをちょっと大きくした冥界型ノコギリクワガタとミヤマクワガタを出撃させたいんだよ。

 

 

「だから早くそこのお兄たま連れて帰った帰った!」

 

「じゃあわかりました。帰りますので副部長のお話だけは聞いてください」

 

「だからなにが『じゃあ』なのよ?」

 

「妙にメンタルが強くなったわねこの子」

 

 

 しっしっと犬でも追い払う様に二人――いや正確には三人に帰れと言ったのに、それでも食い下がるこの塔城さんき対するセンパイの感想には本当に心の底から同意できる。

 あのエロい格好のねーちゃんとのやり取りに巻き込まれかけてつい逃げた所を見られたせいか、おかしいくらいに開き直ってる。

 

 これはいっそ幻実逃否で――

 

 

「人と堕天使のハーフってどう思います?」

 

「何だこの人、遂に勝手に話し出しちゃったよ……」

 

「一体何が彼女達を駆り立ててるのでしょう?」

 

「しかも私達にってのが意味分からないわ」

 

「な、なぁなぁ、さっき言った事は本当なのか? 本当に私に構う方が大事なの?」

 

 

 所謂ごり押しって奴なんだろうけど、此処まで来られるといっそ清々しいよね。

 ていうか何だよ急に堕天使と人間のハーフって? 何の話しだし。

 

 なんてほぼ呆れてたら急に姫島って先輩は背中に転生悪魔の羽根とは別に前に不意打ち噛ましてやった堕天使と同じ様なカラスっぽい翼を、見せてきた。

 

 

「やっぱり汚らわしいと思いますか?」

 

 

 いや汚らわしいって言われても、何のこっちゃ俺にはわからないんですけどね。

 

 

「ふーん、ハーフだったんだアンタ?」

 

「父親は確かバラキエル……でしたわね」

 

「バラキエルって、コカビエルと同等の大物の堕天使じゃないか。人間と交わってたのか……」

 

 

 無知な俺とは違ってイリナちゃんやゼノヴィアさんなんかは少し驚いてる様子だし、センパイに至ってはどんな堕天使なのかも知ってる様子。

 しかしながら俺にはそのどれもがピンと来ないしさっぱりわからない。

 

 

「つまり? この人は堕天使と人間のハーフって身分に日々後ろめたさがあったって事?」

 

「えーっと、それだけじゃないと思います……ほら副部長、早く言ってしまいましょうよ?」

 

 

 むかーし少し流行ったらしい、某ムシキングばりに楽しそうにやってる匙くんとサイラオーグさんに早いとこ混ざりたいから話を巻きで進めさせると、塔城さんかこっちの先輩に早く話せと突っついてる。

 

 この姫島って人は前々から思ってたんだけど、ヒス起こしたり、かと言って急に何の脈絡も無く無関係な俺達に悩み相談を強制させたりと……こう、構ってちゃんというか、メンヘラというか……イリナちゃんとは違って地雷だらけな人ってイメージしかない。

 

 だって冷静に考えようぜ? 俺達この人って本当に顔をある程度知ってるってだけの間柄だぜ? そんな間柄同士相手に自分語りして尚且つなにかを求めてくるって、普通にマイナス関係なくおかしいぜ。

 

 それこそそこで背中から釘と杭を一本ずつぶっ刺して寝てるお兄たまにすりゃあ良いじゃん。

 ハーフだか何だか知らないけどホントにこの人は一体俺達に何を求めてるんだ? ワケわからない。

 

 

「その、父とは顔も合わせたくないんです。でもこの流れる血がそれを許してくれないから、私はどうしたら良いか……」

 

「はぁ………えーっと……」

 

 

 父親と顔を合わせたくない? う、うん、じゃあ会わなきゃ良いんじゃないの? 流れる血云々は別に意識しなきゃ良いんじゃないの? 純人間の俺が言っても説得力ないかもしれないけどさ。

 

 

「あのー……そういうお話はそれこそお優しいお兄たまにした方が俺達より千倍マシな答えが返ってくるんじゃありません? なんというか、今のアナタからは何から何までフワついたイメージしか沸かないっつーか、ねぇ?」

 

「ええ、本当によくわからないわ。意地悪とかじゃなくて、何故接点の薄い私達にそういう深刻そうな話をするのかも含めて」

 

「キツい言い方かもしれませんけど、アナタの王はリアスであって私じゃ無いんですよ? いえ勿論こういう事情をリアスが知らない訳じゃないのはわかってますけど」

 

 

 変にこっちに拘るせいでまたお兄たまから変な殺意抱かれちゃうし、数ヵ月前までの俺ならまず引きこもりになってるぜこんなの…………おぅふ、姫島って先輩が今の言葉に凹んでるし。

 え、これ俺達が悪いの? そうなの?

 

 

「こ、小猫ちゃんがアナタ達の側の方が凄い安心するって言うし、実際私もこうしてると肩肘張らなくて良いって気がしてちょっと安心するから、もしこういう経緯があるって話しても平気かなって……」

 

「キミさぁ、何を言ったワケこの人に?」

 

「だから先輩達の輪の中では例え駄目になろうとも責められず寧ろ居心地が良いって話を……」

 

「お兄たまに制止されてるのにそんな都合の良い話をしたんだキミは?

おいおい……変なイメージ持たれてるし、何なの? 俺達は単なる溢れ者同士でセコセコとその日暮らししてるだけの存在だぜ? 別に他人のメンタルケアなんかしてないし」

 

 

 あのエロい格好した塔城さんのねーちゃんとの一件のせいで勝手なイメージ持たれてるのは分かってたけど、此処までとはね。

 前々から妙に変な所があるとは思ってたけど、これは逆に関心しちゃうかも。

 

 

「センパイ、イリナちゃん………あー、あとゼノヴィアさん、ちょっと集合」

 

 

 話して追い返すには埒が開かないと判断し、取り敢えずいつもの三人を呼び寄せ、円陣を組むみたいに身を寄せての会議をする事にした。

 

 

「あの二人さ、いやほんの少しだけだけど確かに突いたらそうなる素養はなきにしもあらずかもしれない。

けどさ、けどだよ? だからといって俺達って仲間が欲しいとかってタイプじゃないよな?」

 

「うん、私イッセーくんとイチャイチャできたら他なんて滅べば良いと思ってるもん。仲間? なにそれ美味しいの?」

 

「既に困らないくらいに仲間が居るし、第一リアスや兵藤君に何を言われるか……」

 

「わ、私のこと仲間と思ってくれるのか? マイナスじゃないのに……」

 

 

 イリナちゃんとセンパイの意見はやっぱり俺と同じ様で、特にセンパイの意見と俺の考えはほぼ100%合致している。

 なんか円陣組んだ際に隣になったゼノヴィアさんが一人でニヘラニヘラとしてるけどそれはスルーし、俺も小さく二人に頷く。

 

 

「でしょ? ましてやサイラオーグさんが止めてくれなかったらまだ怪我の箇所が増えてたんだぜ? しかもスゲー滅茶苦茶な勘違いまでされてさ。

俺ってそんな女好きに見えます? てか割りと俺露骨にセンパイにアピールしてるよね?」

 

「ええ、その筈なんだけど、どうにかしてでも彼は一誠を悪者にしたいみたいよ。まあ、悪者扱いされるのは慣れてるし、虐げられるのもまたマイナスだから仕方ないのかもしれないけど」

 

「仲間……仲間……えへへ」

 

「さっきからゼノヴィアが変……って、変なのは何時もの事だったわね。

取り敢えず適当に対応して適当に追い返した方が最早無難じゃないかしら? それかいっそ全員でマイナスぶつけてしまうか……」

 

「うーん、変に素養が芽生えてるからそれが逆効果になりそうでならないな……」

 

 

 ていうかもう2時になりそうって時刻なのに帰らないこの二人の根性も別の意味で大したものだと思えてならないというか……。

 しょうがない……どうせ朝には帰るんだし、いっそ居たきゃ勝手に居れば良いスタンスで行くしかないか。

 どうせ俺が人間界に戻るまでお兄たまの意識は否定され続けるんだし―――――と、勝手にニヨニヨとしてるゼノヴィアさんを抜かして三人で結論付けた俺達は、互いに顔を見合わせて頷くと、まだ熱中してたサイラオーグさんと匙君を連れてセンパイの実家に戻る事にした。

 

 

 

 シトリー家客室・イッセー達の寝室部屋。

 

 

「えー……お兄たまはそこで寝かしてあげる事にして、取り敢えず皆さんには申し訳ないけど朝までオールで付き合って貰います。

文句があるなら何故かここに来たグレモリー先輩の眷属のお二人に言ってください」

 

 

 結局煙に撒けないまま仕方なしにソーナのゲストとしてシトリー家へと入れた一誠達は、なんかもうすっかり仲良しになっちゃって、小猫と朱乃とは逆に100%の善意で招待したサイラオーグを混ぜてのトランプ大会をする事になった。

 

 

「何かすいませんねサイラオーグさん」

 

「いや、俺は全然構わないよ。

それより結局キミ達は一誠君達に何を求めたかったんだ?」

 

「えーっと、安らぎとか?」

 

「失敗しても怒らない所とか……」

 

「いや、それこそアンタ等にとっての兵藤じゃないのかよ?」

 

「そう何度も言ったんだけど、どうも二人にとって兵藤君ではそれに当てはまらないらしいのよね、困ったことに」

 

「私達をどこかの心療内科医と勘違いしてて困るわ」

 

「トランプなら勝てるかもしれない……」

 

 

 マイナス人間イッセーとイリナ

 マイナス悪魔のソーナ。

 バアル家のサイラオーグ。

 泣き虫ゼノヴィア。

 リアス眷属の朱乃と小猫。

 一周回ってそんなメンツを前に平然とできるようになってる大物化待った無しの匙。

 

 そして――

 

 

「何か私が居ない間に物凄い奇妙な組み合わせになっちゃったね元士郎くん?」

 

「もう気にしたら疲れるんでそこら辺はフィーリングっぽく感じる事にしました」

 

 

 四大魔王が一人セラフォルー。

 以上、すさまじく奇妙な組み合わせの中、残りのソーナの眷属達が緊張した面持ちで見守るなか始まるトランプゲーム……名を神経衰弱は、周囲の緊張とは裏腹に殆どがマイペースであった。

 

 

「リアスちゃんに怒られないの? こんな夜中にこっちにウチに何も言わずに来ちゃってさ?」

 

「多分凄い怒られるけど、そのリスクを受けても有り余るメリットがあったのでしょうがないと諦めてます」

 

「小猫ちゃんと同じですわ」

 

 

 床に散りばめられた無数のトランプを囲って始まる神経衰弱。

 まず最初は一誠から時計回りの順番なのだが、運がほぼ死んでる一誠は勿論揃える事はできない。

 

 

「ちぇ、やっぱり無理か……」

 

「まあ、最初だからな……っと、次は俺だな……」

 

 

 捲ったカードを戻し、軽く混ぜるのを確認した後にサイラオーグの番となり引く。

 こうして次は匙、次はセラフォルー、次はイリナ、次は小猫、次はソーナ、次は朱乃、次はゼノヴィアと時計回りに捲っていくのだが、別にメインが神経衰弱ではなく、神経衰弱をやりながらのトークであった。

 

 

「なんでもこの人、堕天使の親父さんの血が流れてる自分が嫌いらしいです。

ぶっちゃけて言うけど、人間の俺からしたら『だからそれが何なの?』って感じなんですよね? だってこの人そうじゃなくても見た目は良いしそれで得してるし。な、匙くん?」

 

「確かに。毎日男女問わず、塔城達共々キャーキャー言われてるからなぁ」

 

「へぇ、人気者ってやつだな。まぁリアスもそうだがそんなオーラ持ってるのが見えるな」

 

「そんな事は……」

 

「別に頼んでるワケじゃないですからねアレ」

 

「その台詞をさっきまでのアンタ等にそっくり返してやりたいわ。

こっちは断ってるってのにしつこいんだから」

 

「私からしてみたら贅沢な悩みにしか見えないぞ……あ、揃った!」

 

 

 然り気無く朱乃の秘密が普通に他の者達に広まっちゃってるけど、本人も多少開き直ったのかそこら辺は気にしてない様子だ。

 寧ろそれは悪化してるというべきなのだろうが、生憎誰も指摘はしない。誠八が背中に大きな釘と杭を刺したまま死んだ様に寝てるのを誰も突っ込まない時点でお察しだ。

 

 

「第一お兄たまは何て?」

 

「えっと、私の堕天使の方の翼を見せたら『綺麗です』と言って、副部長は副部長だから……と」

 

「へー、流石に模範的な回答で笑いそうになるね。で、姫島先輩はそれで満足しなかったと?」

 

「あ、いえ、他の子にも同じ様な台詞を言ったのを聞いたので……」

 

「おいおい、とんだ致命的ミスだなお兄ちゃんよ。そりゃフォロー無理だわぁ」

 

「言った相手はちなみにアーシアって人です。ほら、金髪で元シスター見習いの」

 

「ほらって言われてもね、あ、元両親が実の子扱いするから俺に出てけって言った理由の子か?」

 

「え、キミはそんな事を実の両親に……?」

 

「そうなんすよコイツ。しかも言われてる当の本人はこんなヘラヘラしてるし……そこだけはちょっと理解ができないんですよ」

 

「だって昔からそんな扱いされてたし、何を今更ってかんじだもん。

それにセンパイの家に住める様になれたし、俺としては寧ろ歓喜的状況でしたよ」

 

「酷い親だな……何故そこまで差別するんだ」

 

「まぁほら、俺ってひねくれて可愛げも無かったんで両親からしたら素直でお優しいお兄たまの方がかわいいんでしょう。

だから別に両親の気持ちはわかる気もしますし、怒りだのって感情は無いっす」

 

「で、でもさ……ソーナちゃんのお部屋に住むのは――や、ダメって言わないけど男の子と女の子だし……」

 

「なんですか? 間違いが起こるとでも? ふふ、お姉様、寧ろ私はその方が良いんですよ?」

 

「!? だ、だめだよソーナちゃん!? ま、まだお互い子供だし、は、早いというか」

 

「心配しなくても良いわよ、この悪魔とイッセーくんより先に私がそうなるから」

 

 

 

 地位や生まれが全くバラバラで、かつその差を一切感じられないほのぼのとしてる様に感じる神経衰弱。

 それはある意味平等的な場とも言えなくもないのだけど、本人達にその自覚は無さそうだ。

 

 

「アーシアちゃんが住む様になってアナタが追い出されたって……。

セーヤくんは自分から家出したって言ったけど……」

 

「概ねそれで合ってますよ? ま、正確には両親に札束投げつけられて『これ持って家を出ていってくれ頼むから』って言われたのがオマケにありますけど」

 

「流石にそれは笑えないぞ一誠。

それはもはや両親じゃない」

 

「ある意味一番キツい追い出され方ですよね……」

 

「それでこんなヘラヘラできるんだらわからねー……」

 

「その哀しみがすっ飛んで余るくらいのトモダチが出来たのが大きいですからねぇ。

いやホント俺、センパイと出会えて良かったっすよ。匙くんやサイラオーグさんともこうして出会えなかったでしょうし」

 

「……おう」

 

「俺なんかで良いなら光栄だが……むぅ」

 

 

 そんなやり取りがのほほんと続く中、朱乃は小猫の言った通りだと肌で感じとる。

 確かに話してる内容はお世辞にも良いものじゃないし、一誠の話はぶっちゃけ笑えない。

 けど、やはりというかこの漂うマイナスの雰囲気は誇張なしに朱乃の心が安らいでいく。

 

 そして居るだけで徐々に心が腐りだしていくこの不思議な感覚。

 どれもこれも朱乃にとっては初めてで……そして何とも居心地が良い。

 

 

「ね、ねぇ……もしかしてソーナちゃんと……そ、そのぉ、き、キスなんてしてない?」

 

「普通にしましたけど?」

 

「したのかよ!? おいイッセーこの野郎テメー!! ど、どうだったんだよ?」

 

「え、どう?」

 

「だ、だからほら……か、会長とのアレだよ……どうだったんだよ?」

 

「えーっと、センパイの舌は凄かったなぁ……としか」

 

「し、舌ぁ!? お、お前っ! そ、そんなことまでしたのか!? しちゃったのか!?」

 

「うん。だってあの時は……ねぇセンパイ?」

 

「ええ、もう色々あってお互いに好きになりすぎてついって感じだったわ………って、あら? お姉様が気絶しちゃったわ」

 

「進んでるなぁ……最近の若い子供は」

 

「いや、サイラオーグさんも若者じゃないっすか」

 

「いやいや、俺にはそういうのは無いからなぁ。まあ、今はそれどころじゃないってのもあるけど」

 

 

 

 

「なんだろう、この安堵。

何処よりも、何よりも安心する。本当だったのね小猫ちゃん……」

 

「でしょう? 私達って爆弾を抱えてた分、それを爆発させても尚開き直ってるあの三人が羨ましくも安心するんですよきっと。

多分、何もかも成功しちゃう誠八先輩には絶対にあり得ない安心です」

 

「ええ、そうね……自分の心が段々腐っていくというのに、抗う気になれないどころかそれが心地良いとすら感じるもの。

やっぱり私達ってどちらかと言ったら彼等側……なのかしら」

 

「私はある種自分がそうだと確信してます。

あの人……イッセー先輩に助けられてからはとくに」

 

 

 プラスを否定し、自らマイナスへ。

 それを心地よき事と思ってしまうのもまた、誠八の思惑をすり潰す展開だった。




補足
兄貴のミス。
朱乃さんのフォローの失敗と、アーシアとまんま似た台詞を言ってしまったせいで変な不信感を抱かれた。

その2
兄貴は兄貴でマイナス化したイッセーにより余計に精神のバランスがおかしくなってるので、ここ最近はかなり愚行に走ってしまってます。

その3

サイラオーグさんは神経衰弱まで付き合ってくれました。
ちなみに彼にマイナスもプラスもありません。ほんのノーマルを極めた様な方で、偏見がまったくなく、寧ろ兄貴の愚行のせいでイッセー側になってしまってる

これもまた兄貴のミスです。


その4
ぶっちゃけ朱乃さんのお悩みを聞かされても『わからんし』としか返せない。
けど朱乃さんはペラペラとメンヘラよろしくに語るので、取り敢えず神経衰弱でごまかすことにしました。

が、その誤魔化しの最中のトークによる、突き放し加減が絶妙に朱乃さんにツボったらしい。

マゾッ娘とかじゃない意味で。

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