マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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兄の話のつもりが全然違う……すいません。


恋人作るの不可能男

 休日というものが俺は大嫌いだ。

 居づらい家に居なくてはならないし、遊びに行くような友人も無い。

 故に、ただただ居心地の悪さを感じる家に留まるのが嫌な俺は、仕方なしにフラフラと夜の22時前くらいまで街を徘徊する。

 まあ、一番時間潰せるのはシャワー付きのネットカフェとかだったり、一人カラオケとかだったり…………。

 

 

「2、3、4、5……っと……。

ふむ……『結婚する。ルーレットを回し、出た目の数×2000$』か」

 

 

 金が無い場合の独り人生ゲームとかね。

 フッ……この前のご褒美独り焼肉に散財しすぎたね……今日は朝の5時から現在12時まで無限ループでやり続けてるぜ。

 

 

「必ず結婚しないとならんのが、このゲームの欠点だな……」

 

 

 強制イベントマスに止まる度にこんなボヤキをしているが、別に侘しいとかは思わない。

 というか、そんな感情は小学生の時点で消滅しているので問題無い。

 

 

「6……12000$ゲッツ……ふっ」

 

 

 車形状の駒荷は6つ程の穴が空いている。

 その上に棒人間をもっと適当にした先端の丸い青い棒があるのだが、それがプレイヤーである。

 で、結婚イベントの駒を踏むとその人形が増え、ピンク色の駒を車に取り付けなければならない。

 ひとつの車に夫婦で乗り、人生を歩むという意味合いがあるんだろうが、ハッキリ言ってさっきの通り俺個人はこの結婚イベントは任意にしてほしい。

 半分以上人生ゲームの駒に感情移入している身であるので、結婚とか必要性が無いのだ。

 だって、結婚すれば生活費とか単純計算で倍になるわ、プライバシーも無くなるわ……百害あって一利無しとしか思えん。

 よく学校行く時に仲良く男女が手を繋いで歩く様を見るけど、アレの何処が楽しいのかわかりゃしない。

 ……まあ、人生ゲームの場合は出た目の数×2000$手に入るから我慢するけどさ……。

 

 

「1、2、3……。『家を買う、5000$』か……。

フッ、安いな」

 

 

 まあ、こうして独りで静かに人生ゲーム出きるだけマシかな。

 運良く今日は両親は二人でどっか行ったみたいだし、あの男も居ないs――。

 

 

『――!』

 

『……!?』

 

『…………』

 

 

 と、思ってルーレットを回そうとした瞬間だった。

 下の階から突然、2階にある俺の部屋にうるさい声二つが聞こえ、手を止めて怪訝な顔になる。

 てのも、その煩い声二つが両親のものでは無く聞いた事の無い声だからだ。

 一瞬だけ『泥棒?』とか思ってみたが、だったらこんなギャーギャー騒ぐ訳無いかと考えを改める。

 だったら誰なのか……聞こえる声の方向からリビングに入っていった声が少し気になる俺は、一応万が一に備えて部屋に置きっぱなしの、一度も使ってない金属バットを持って下に行く。

 

 

(強盗とかだったら…………死んだな俺)

 

 

 喧嘩の類いがそれなりにしか出来ない俺にもしかしたらの強盗相手に立ち回るなんて不可能だし盗みたければ勝手にしてくれとも思う。

 だがそれだと、帰ってきた両親に大騒ぎされた挙げ句『放置するくらいなら追い返せ!!』とか何とか言われる。

 それを考えたら死ぬ覚悟で特攻し、翌日の新聞の端にでも載った方がマシだ……とまあ、自分に言い聞かせながらバットを強く握り締め、何時でも殴り倒せる様に構えながら抜き足差し足でリビングに続くドアの前に到着。

 

 

『おぉ、スゲェでかいTVじゃん!

これなら大迫力でこのDVDが見れるな!』

 

『幾らすんだよこんなの? 誠八の家って結構金持ちだよなぁ~』

 

『そう、か?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 開幕直後に殴り倒そうと準備していた俺は、直ぐに回れ右して自分の部屋に戻ろうとする。

 いや……うん……なんだ……アレだよな。

 強盗じゃねーかって独りで不安がってたオチがコレなんてね。

 ていうか、こっちの方が現実味あったわ。

 

 

『見ろ、Gカップお祭りワッショイ! の新シリーズだぜ!』

 

『え、本当に此処で見るのか?』

 

『当たり前だろ~? なんだ、誠八ちゃんはこっちの『ロリロリ〇学生の夏の大運動会』の方が良かったか?』

 

『そうじゃねぇよ……どれでも良いわそんなもん』

 

 

 しかもこの前買ったとか言ってたTVで何か見ようとしてる感じだし……チッ、外に行くか。

 そう独りの静寂さを失った家から逃げようと部屋に戻った俺は、セール品で固めた服に身を包み、そんな入ってない財布を持ってソロリソロリと階段を降りるが…………。

 

 

「あ? 一誠?」

 

「ッッ!?」

 

 

 バレた……階段を降りて玄関に向かう所でリビングから出ていた兄と名乗る男と……。

 

 

「フッ……なんだコソコソと――って毎回そうかお前は?」

 

「……………」

 

 

 俺のクローンじゃないかと思うくらいに似てる顔で、奴がどんな意味でしたのかは俺には分からないが、少なくとも俺を小馬鹿にしてるように感じてしまう笑みを見せて来るこの男に俺はイラッとしてしまう。

 だけど此処で怒った所で意味なんて無いし、1秒でも早くコイツを視界から消し去りたいので、ガン無視を決め込んで玄関に向かい、靴を履く。

 

 

「何処か行くのか? 友達なんて居ないだろうに何処へ行くのやら……。

まあ、良いか……あんま父さんと母さんに心配させんなよ? 一誠……」

 

「………………………っ」

 

 

 ぶっ殺してやりたい。

 今の俺の気持ちはそれしか無かった。

 今すぐにでも顔をグチャグチャにしてやりたい。

 バラバラに解体して下水道に捨ててやりたい……出来もしない事を脳内妄想で展開させながら俺は黙って家を飛び出した。

 独りになれる所を探して。

 まあ、金が無いから行ける場所は限定されちゃうけどね……そう例えば。

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ」

 

 

 近所の公園とかね。

 残金が300円しか無いからネットカフェは不可能なので、こうして公園のブランコに座ってボーッとするしか出来ないのさ……情けないぜ。

 

 

「ママー あのお兄ちゃん独りでブランコに乗ってるー!」

 

「シッ! 見ちゃ駄目!」

 

「…………ククッ」

 

 

 知らない子供と母親に変な目で見られる始末だし……ハァ何で奴は家に変な連中を連れてくるかねぇ。

 そこから逃げた俺はもっと情けないし、ははは……もう笑うしかねぇや。

 

 

「どうすっかなぁ……」

 

 

 癪だが、奴の言った通り俺には友達なんて存在が無い。

 その理由も、人を信じる事が出来ない臆病な性格しているという自業自得な所が殆どなもんだから言い返す事も出来ない。

 財布の中身は300円だし、他に暇を潰せる場所も無い。

 だから奴のトモダチとやらが消えるまでこうして童心にでも返ってブランコで遊んでるしか道は無い。

 ますます自分が情けなく思えながら、ブランコを漕ごうとした俺だが……何だろうな、良いタイミングというか都合が良いというか……とにかく童心に返ろうとした俺の目の前に、よく話をするあの人が現れた。

 

 

「こんにちわ一誠くん」

 

「…………え? あ、あぁ……どうも……」

 

 

 漕ごうとしたブランコを慌てて定位置に戻して俺は頭を下げる。

 まさか休日の昼にこの人とかち合うだなんて思っても無かったからだ。しかも公園で。

 

 

「独り……ですか?」

 

「え、まあ……」

 

 

 制服じゃないセンパイを見ると妙に新鮮な気分にさせる。

 そのせいかは知らないけど、何時もより会話が何処と無くぎこち無い気がするのは多分気のせいでは無い。

 

 

「センパイは何で此処に?」

 

「ちょっとお買い物に出掛けようと歩いてたら、子供にしては大きいと思う人がブランコに独りで乗ってるのを見たので……」

 

「ああ、なるほど……」

 

 

 よくセンパイに目撃されるな俺は……。

 そんな事を思いつつ、フトこの前の事を思い出す。

 この人がわざわざ俺に親切にする理由を知った……というべきあの日の事を。

 

 

「一誠くんはどうして此処に?」

 

「いや……兄がオトモダチを連れて家に来ましてね……。

で、まあ居づらかったからこうして時間でも潰そうかなと……」

 

「なるほど……」

 

 

 普段の態度のせいで、俺が奴を避けている事を何となく察してるのだろう。

 今俺が言った一言で納得したのか、センパイは軽く頷いている。

 

 

「という事は、今は暇なんですね?」

 

「え……? あ……まあ……金も300円しかないですし……。

ブランコをやる以外する事は無い、かな……ははは……………やばい、自分で言ってて情けなくなってきました」

 

 

 家に誰か居るから逃げたとこうして口にすると、改めて自分の度胸の無さを自覚出来るのがしょうもなく情けなくて笑けてくる。

 恐らく夕方まで家には帰れないのは分かってるので、センパイの質問に対して素直に答えると、何やらセンパイが考え込む素振りを見せる。

 買い物とやらは良いのだろう――

 

 

「えっと……それならその……少し付き合って貰えませんか?」

 

 

 か?

 え……?

 

 

「え、センパイの買い物に、ですか?」

 

「はい」

 

「……何で?」

 

 

 確かに暇だけど、だからと言って何でセンパイの買い物に俺をわざわざ付き合わせるんだか分からん。

 いやだって、確かセンパイってトモダチ多かったと記憶してるし、その中から……特に匙君とか誘えば超喜ぶと思うし、第一俺なんぞ行ったって白けるだけだぞ、確実にな……。

 けど、センパイはそんな俺の考えを知らずにまたあの日の様に手を取ると、ボーッとしていた俺を立たせて公園の外に出ようと引っ張る。

 

 

「え、あのちょっと?」

 

「300円しか持ってなくて、昼間から公園で死んだ魚みたいな目をしてブランコ漕いでる一誠くんなんか見たく無いんですよ。

その様子から見て、お昼だってまだ食べてないのでしょう?」

 

 

 引っ張られル形で公園から連れ出され、少し戸惑う俺にセンパイがキッパリと言う。

 確かにセンパイの言う通り何も食べてないけど、300円あれば昼くらいは凌げるからそんな心配は必要――

 

 

「付き合ってくれたらお昼ご馳走します。

それでどうですか?」

 

「え……」

 

 

 無い――と思ったが、奢ってくれる話になった途端俺の中で何かが揺らぐ。

 いやだって、何を買うのか知らないけどそれに付き合ったら昼飯だろ? ヘタなバイトより楽な臨時収入だと考えると揺らいでしまうわ。

 ぶっちゃけ朝飯すら食ってないから、今凄い腹減っとるし、誰かに奢って貰うとか初めてだし。

 うむ……。

 

 

「はい、分かりました……それなら付き合いますよ。

ええ、喜んでね」

 

 

 お得感を取るしかない。

 俺は二つ返事でセンパイの買い物に付き合う事に了承の返事をすると、それまでグイグイと俺の手を掴んで前を歩いていたセンパイがピタリと止まり、クルリと此方に振り向く。

 

 

「お昼をご馳走しないと付き合ってくれないという所に、少し複雑な気持ちがありますが……ふふ……ありがとうございます」

 

「いえ。で、何を買うんです?」

 

 

 メリット無ければ他人には付いて行こうと決してしまい俺のしょうもない性格を知っても尚こんな態度だから、何か変に罪悪感が沸いてくるのを抑えて何を買うのかと問うと、センパイはフフフと笑いながら首を横に振る。

 

 

「さぁ? わかりません」

 

「は? え、わかりませんって……」

 

「駅前に行って、二人で歩きながら決めますから……」

 

「はぁ?」

 

 

 …………。何を言ってるんだこの人は?

 だってさっきは買い物にって……。

 

 

「あぁ、いや元々買い物のつもりで外に出たつもりじゃありませんから……」

 

「じゃあ何でさっきは……」

 

「アレは嘘です。本当は一誠くんの家に遊びに行こうとしただけです」

 

「は!?」

 

 

 妙に可愛らしい……のか、俺には判断基準が分からないので何とも言えないけど、笑顔見せながら本当の事らしい話をするセンパイに対して今度こそ俺は驚いた。

 だって、あの兄と名乗る男を訪ねて~とかならわかるけど、何で俺なのかが分からないからだ。

 

 

「一誠くんは私をまだ只の知り合いとしか思ってないでしょうけど、私は違いますから……」

「というと?」

 

「友達以上……ですかね」

 

 

 センパイが何を言いたいのかが分からずに聞いていくと、センパイは少し頬を染めながら友達以上と俺に対する認識を宣言する。

 

「友達以上……って何ですか? 親友ってこと?」

 

 

 人の気持ちも友達という概念も知らない俺には友達以上という存在がどんなものなのか皆目検討が付かない。

 この前の事と、今言った親友にしても、そもそも友人と親友の違いすら分からないのでどちらも同じにしか見えない。

 故に、ただただ頭に?を量産させて聞く俺を、センパイはちょっと呆れたといった様子でハァとため息を吐いている。

 

 

「親友とは別系統です。

知りたかったから自分で調べなさい…………鈍感」

 

「な……そこまで言っといて言わねぇとか酷いんですけど……」

 

「鈍い貴方も大概ですよ。

こっちはドキドキしながら言ったのに……」

 

 

 少し拗ねた様子でプイッとするセンパイに、初めて俺は『今だけ餓鬼っぽいなこの人』とか失礼な事を思いながら、友達以上の意味を考えるが、全く検討が付かない。

 親友じゃないと今言われたし、他にカテゴリーも思い浮かばないのだ……いくら考えても答えが見つかる訳が無いのは必然だった。

 

 

「その話は後にして、早く行きましょう。

ちなみに、一誠くんと此処で会わなかったら、本当に家まで行ってました」

 

「わ、わからない。何で俺にそこまで……」

 

「この前言いましたよね? 私は貴方と仲良く……いやそれ以上の関係になりたいんです。

鈍い貴方に気付いて貰うにはこうでもしないと……」

 

「は、はぁ……やっぱりわからない……どう見ても匙君の方が良い奴なのに何故陰気な俺なんだ……」

 

 

 また俺の手を握りながら前を歩くセンパイがますます分からない。

 俺は何度も自問自答しても見つからない答えにもやもやしつつ、何処と無く楽しそうなセンパイに付き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは一誠? それにあの子はソーナ・シトリーじゃないか……。

何で手なんか繋いで……」

 

 

 このやり取りを遠くから見られる事に気付かず、そしてこの日から俺の立ち位置が、単なるボッチから少しズレ始める事に……。




次回からその次から原作話になります。

まあ、一誠くんはただ兄のせいで巻き込まれるってポジの可能性が大ですけどね。

具体的に顔が似てるせいで。

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