マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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大好きな男の子と泥棒悪魔。
例え少しだけしか居なかったけど幼馴染み。
例のあの人な現れてから変わった彼を見て、彼女は恋をした……。
だから彼女の心は淀み混沌へと堕ちていき、奪ってくれた一人の悪魔から全てを壊してでも取り戻そうと走り出す。

トモダチと初恋の人
のらりくらりで逃げて誤魔化してきたせいで、その二つがぶつかり合うと知った少年は、精神を磨り減らすリスクを負う裏技を使ってでも二人の間に入り、適当な理由をでっち上げ、現実と幻実を取り混ぜて滅茶苦茶にしてやろうとする。


恋敵と想い人
自分の本質と似た彼に惹かれ、手にしたと同時に現れた彼のトモダチを名乗る少女に分からせ、そして心をへし折り、彼と永遠の不幸(シアワセ)を共にする為、全てを取り込み、バッドエンドへと誘う。


と、まあ……プロローグ? かな。


三人のマイナス

 私には知り合いは居るけど、友達と呼べる者が一人いた。

 それは友達と同時に初めて好きになった人でもあり、事情により離れ離れになってからもずっと変わらずであったのに、それが今、何処の馬の骨とも分からない女……しかも悪魔に奪い取られそうになっていると知った時はショックだった。

 しかも尤も最悪だったのが、彼がその悪魔の事をハッキリと好きだと宣った時だ。

 

 それを聞かされた時、初めは単純にその悪魔に洗脳されてるかと思っていた。

 でもそれは違っており、彼……イッセーくんは本当にあの悪魔が好きと思い知らされてしまった。

 

 いくらアプローチを仕掛けても、イッセーくんから出てくる言葉は全て悪魔の事ばかり。

 やれセンパイが……。

 どれセンパイが……。

 

 

「…………」

 

 

 何でなの? どうしてその悪魔が好きなの? 何故私ではなかったの? 何が違うの?

 分からない……理解が出来ない。

 私はずっとイッセーくんが好きだったのに、それまで何も知らないあの女が全部……全部……!

 

 

「クソ悪魔がぁぁぁっ!!! 今度こそバラチョンにしてやらぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「こ、コイツ……! 確か前に依頼者を殺してた神父……」

 

「フリード・セルゼン……天才と呼ばれた元エクソシストにて、今は異端者だな」

 

 

 喧しい元エクソシスト。

 その殺気を受けて構えている悪魔に転生したイッセーくんの兄とその仲間とゼノヴィア。

 そして、ただひたすらに横から全てを奪ってくれたあの悪魔からどうやってイッセーくんを取り戻すか必死に考える私……。

 聖剣がどうとか、聖剣が憎くて復讐したがってる悪魔とか……私にとっては最初(ハナ)っからどうだって良い。

 どうすれば私に振り向いてくれるか。

 どうすればあの悪魔から全て取り戻せるのか。

 どうすれば……どうすれば……。

 

 

「うるさい」

 

 

 取り敢えず考えなければならない。

 その為にはまず……さっきから奪われた聖剣のひとつを振り回す馬鹿が煩いので、聖剣に恨みがあるらしい金髪の悪魔と切り結んでいる隙を突いて、一応持たされている擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の刀身を槍状に変化させてから脇腹辺りを貫いてやる。

 こうすれば取り敢えず黙るだろうと思って。

 

 

「あがっ!? いっ、たいですねぇ、そこはさっき刺された――ごがっ!?」

 

「煩いんだよキミの声……」

 

 

 不意討ちをした私に驚いているのか、戦っていたゼノヴィアと金髪の子が、其々獲物を持ったまま目を見開いて立ち尽くしているが私には関係ない。

 そしてこの喧しい奴はまだ騒げる元気があるらしいので、取り敢えず脳天に踵落としをして黙らせてやった。

 あは、駄目だ……全然スッキリしないや。

 やっぱりこのドロドロと心にへばり付く嫌な気分を晴らすには……。

 

 

「ハァ……ねぇゼノヴィア」

 

「な、なんだ……?」

 

 

 もうこれしかない。

 地に伏せて動かなくなった煩い奴と共に、呆然と私を見ているゼノヴィアを呼んだ私は、持っていた擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を投げ渡す。

 

 

「それアナタにあげるわ」

 

「な……なんだと? 何のつもりだ?」

 

 

 突然渡された事に困惑するゼノヴィアとその他は私の真意が解らないという表情だが、本当の事を教えるつもりは無い。

 まあ、これだけは言っとくケド。

 

 

「私、今を以てこの任務を放棄するわ。

そしてもう教会には戻らない……やることが出来たから」

 

「なっ!?」

 

「「「!?」」」

 

 

 渡した聖剣を抱えたままギョっとするゼノヴィアと悪魔共。

 

 

「何を馬鹿な事を言ってるんだ!! そんな事したらお前もそこで気絶してる奴と同じく異端者に――」

 

「結構よ。元々私は単純に聖剣の適合数が高くてスカウト――いや連れていかれたに過ぎないし、今はもう主よりも大事な者が在る……だから構わない」

 

 

 主よりも……それは勿論イッセーくんの事であり、話を聞いていたゼノヴィアとセーヤくんが何と無く察したのか、共に顔を歪めていた。

 

 

「馬鹿な事を言うのはやめろ! お前は私に断罪させろとでも言わせたいのか!?」

 

「そうだ……キミは一誠のせいでおかしくなってるだけだ。だからーー」

 

「あ?」

 

 

 ゼノヴィアは良いとして、セーヤくん。

 キミ――いや、お前今何て言った? イッセーくんのせいでおかしいだと?

 …………フ、フフフ!!

 

 

「セーヤくんが私の何を知ってるというの? おかしい? あはははははは、私は知ってるよセーヤくん。

キミとはイッセーくんが『5歳の誕生日を迎えた後に』知ったけど、アレだよね……私もイッセーくんも両方を気味悪がって近付きもしなかったよね?

それでいてイッセーくんのせいで私がおかしいと分かるの? フフ……悪魔に転生した癖に何時までも偽善者ぶるのは止めたら?」

 

「ぐっ……!」

 

 

 知りもしない癖に、自分が正しいと信じてやまないその性格……教会の狂信者達と何ら変わらない。

 初めて見た時からそうだ……ホントうすら寒い。

 

 

「ゼノヴィア。私を断罪したければそうすれば良い。

けど今はまだ無理……。私にはやることがあるから……それじゃあ」

 

「ま、待てイリナ!」

 

 

 顔を歪めたまま立ち尽くすセーヤくんから視線を外し、渡した聖剣を抱えたままどうすれば良いのか解らないといった表情をしていたゼノヴィアに一言告げて私は走り出す。

 動揺していたので隙だらけだったので容易に逃走出来た。

 後ろから私を呼ぶ同僚の声が聞こえたが無視した。

 既に今の私にあるのは…………。

 

 

「ふぅ、邪魔なモノが消えて肩の荷が降りた……。

これでやっと手加減しなくて済むよ……イッセーくん♪」

 

 

 かつて誕生日以降に変わったイッセーくんを見てから私の中で燻っており、つい最近目覚めたこの謎の力を思う存分ブチ蒔けられる。

 勝つ勝たないじゃない……要はあの雌悪魔からイッセーくんを奪い返し、そのまま自分共々世間には死んだ様に偽装すれば良いだけの話。

 その為だけに密かに使い方を訓練したこの力。

 触れたものを有機物・無機物・因果も関係なく壊れる謎の力。

 勿論人の記憶も、人との繋がりも全てが壊れる秘密で裏技で私のオリジナルの力……。

 

 

壊楽手義者(ハンドレッド・ブレジャー)……。

ふふ、元々私は異端者なのよ」

 

 

 この力で、あの女からイッセーくんの記憶を壊す。

 そしてイッセーくんを奪い返し、永遠に逃げられなくしてからずーっと愛してあげる。

 

 ふ、ふふ……あははははは♪ どうしよう、イッセーくんってば女の子みたいに細かったからなぁ……。

 生まれる子供も可愛いに決まってるよね? 楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 ゾワリとしたものが背中を駆けた気がし、後ろを振り返ってみたものの何も無い。

 気のせい……そう思えたらそれまでだったが、俺にはどうしてもそれで処理が出来なかった。

 

 

「……。センパイとは別だけど、何処か似てる……」

 

 

 黒く……混沌よりも這い寄り、引き摺り込まんとするこの感覚は、前にセンパイから感じた感覚と似通っている。

 だけどセンパイ本人のモノとは違い、今感じてるソレは静かな水面を思わせるものでは無く、ただただ無差別に引き摺り込んできそうな底無し沼を連想させられる感覚だ。

 それが誰のモノなのか……普通なら解らないし知る止しも無い話だが、俺には何故かその時、この感覚の主が誰かなのか解った。

 

 

「イリナちゃん……?」

 

 

 裏切り、傷付けた相手であるトモダチ……紫藤イリナ。

 ちょっと妄想チックな所があるけど、俺にとっては大事なトモダチだった子……。

 その子の感覚だと直感した俺の口は無意識にその名を口にし、薄暗くなってきた空を見上げ、もう一つの感覚がする方へと急接近しているのを察知――

 

 

「…………。センパイの方へと向かってる?おい、ソレはマズイ」

 

 

 今自分も向かってる方向に猛スピードで追い抜き、後少しでぶつかり合いそうになるイメージが浮かんでしまった瞬間、俺の鈍足な足は自然と駆け出していた。

 のらりくらりで逃げていたそのツケを回収しなければならないという、強迫観念にも似た気分になって。

 

 

「二人にスキルは使いたくない……というより使えない。

ははは……サンドバックで許してくれたら良いんだけど………ゼェ……ゼェ……」

 

 

 しかし悲しいかな、元が引き籠り体質な俺は、学園に向かって走り始めてから数百メートル地点で既に吐きそうな程にバテていた。

 

 

「ぐっ……仕方ない……!」

 

 

 これで日に三度となるが、仕方が無い。

 今在る自分自身から逃げて…………。

 

 

「時間制限付きだが、これで何とか……!」

 

 

 己の運動不足な身体という現実から幻実へと逃げ、無理矢理身体をすげ替えるという裏技を決行してから再び全力疾走を開始。

 3分だけ自分の身体を幻実と化せるこの使い方……。実は前に安心院なじみから教わった使い方の一つだったりするんだが、どうにも使い勝手が悪すぎて使う事が無かった。

 しかし今、トモダチとセンパイが互いを消そうとしているともなればそうも言ってられない。

 だから使う……センパイにも内緒にしていた、安心院なじみ曰くの『兵藤一誠・逃争神モード』を。

 

 

「……。でも結局逃げるだけなんだよな…」

 

 

 物理的に逃げる為に自分の身体に幻実逃否(リアリティーエスケープ)を適応させるってだけの話……なのだが、今更な話自分の身体に幻実逃否(リアリティーエスケープ)を適応させるのってかなり疲れるのだ……こう、精神的に。

 センパイの顔を剥がした時以来一度も使うことが無く、大概は杭と釘にスキルを使って何とかやって来てたが、トモダチとセンパイの間に入ってしっちゃかめっちゃかにする為には速く動かなければならなく、こうして3分間ヒーローみたいな真似事を決行してるんだが……。

 

 

「そうだな……『転んで気分が悪かったから二人の間に入って邪魔したい気分になった』……これで言い訳としては十二分だ」

 

 

 それでもあの二人……というか全てに負ける気がしてならないのはお約束だった。

 

 

 

 

 

 

 思っていた以上に早いですね紫藤イリナ。

 まあ、こちらとしても好都合ですが……。

 

 

「そうです。今夜駒王学園にと、グレゴリの幹部・コカビエルが先程宣戦布告をしてきました。

ですから――はい、出来るだけ早めに此方へ来て欲しいのですよ。

私達ではどうにもなりませんからね。それに、貴方様は彼に死なれでもしたら困る……違いますか?」

 

 

 コカビエルの相手なんて馬鹿正直にするつもりは無い。

 だからリアスは嫌がるだろうけど、冥界に居る魔王様に何とかして貰う為に、彼女の兄であるサーゼクス・ルシファー様に連絡をする。

 妹の危機となれば天使陣営から例え不干渉だと言われても飛んで来るだろうし、何よりサーゼクス様は彼……一誠くんに死なれでもされたら困るという読みがあった。

 

 

「では……これで……」

 

 

 電話を切り、学園を覆う規模の結界を形成する為に今は皆出払っていて私一人の生徒会室の会長席の椅子に背を預けながら天井を見る。

 実際彼は死という現実から逃げる事が出来るから実質不死身だが、その事は教えずに彼が如何にか弱く……そして前に知った『安心院なじみ』と一誠くんが唯一繋がっている為、彼に死なれたらどうなるかと遠回しに脅しておけば彼は絶対に来る。

 そうすればコカビエルの事は彼とリアス達に押し付け、眷属達には申し訳程度に協力し、危なくなったらさっさと逃げろと命を出した。

 これでこれから来るだろう彼女と平和的な『お話』が出来る。

 どうやら一誠くんも此処に来るようだが……フフ。

 

 

「今回の一誠くんはどちらの味方になりそうもないですね……まあ仕方ないですが」

 

 

 親しいものが少ないからこそ、一誠くんは一度受け入れた者を絶対に裏切れない性質を持つ。

 それは安心を覚えると同時に私の不安を煽る……。

 だから私はハッキリさせるのだ、紫藤イリナに対して。

 

 

「私と一誠くんと同じ過負荷(マイナス)だろうが、貴女は所詮トモダチ止まりなんですよ」

 

 

 所詮、オトモダチ止まりで終わりだとね……。




何時から先に影響されてる彼女が持ってないと錯覚した?

…………とまあ、コカビエル戦は兄者達が活躍する手前、ソーナさんVSイリナさん………の間に入って滅茶苦茶にしてやろうと雑魚なりに本気の一誠くんによる三つ巴仁義なき戦いのオープニングでした。


………何故かラスボス臭溢れるソーナさん。

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