マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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明けましておめでとうございます。

っとまあ、今年初の更新ですが、色々と消化不良気味な内容とタイトルの意味の無さ。


ソーナさんのマジ

 あの女曰く、過負荷(オレ)はこの世に一人しかいないらしい。

 『この世界で初めての――』という言い方からして、今まで他に居たのかもしれない。会いたいとは思わんが。

 あの女が何者なのかは取り敢えず横に置くとして、という事はだ、悪魔に過負荷と言っても通じ無いということになる。

 似た能力に神器というのがあるらしいが、俺はそんなもん持ってないし、厳密に言っちゃえば神器と過負荷は違うし……どうしたものか。

 いや、別に正直に言えばそれで終わりなんだろうけど、過負荷を知らない時点で信じて貰えないかもしれないし、何よりさっきから此方を敵意丸出しで見てくるあの男と……あれ、よくみたら金髪の人と黒髪の人も同じ目をしてる………………あぁ、嫌われてるのか。

 

 

「なるほど……偶然はぐれ悪魔に出くわしたと」

 

「ええ、そうですよね一誠くん?」

 

「あぁ、はい……」

 

 

 金髪の人、黒髪の人、そしてあの男からの視線にそろそろ鬱陶しさを感じる最中、俺の代わりに先日の事情を紅髪の先輩に説明してくれているセンパイに次いで相槌を打つ簡単な作業をする。

 トークスキルというよりは対人スキルが壊滅的な俺には、初対面でしか無い他人である紅髪の先輩とまともに話をすることは不可能。

 よってこの場はセンパイに任せるという形になっとる訳だが、やはり偶然出くわして死にかけた所をセンパイに助けられたってだけでは信じて貰えないらしく、紅髪の先輩はかなり怪しんでいる様子だ。

 

 

「助けた……それは分かったし、本当でしょう。

けどねぇ……」

 

「何ですか。本来なら貴殿方があのはぐれ悪魔を始末しなければならなかったのですよ。

それをモタモタしてる間に、一般人が殺されかけた……」

 

「む……。それを言われると痛いし、彼には申し訳無いことをしたと思ってるわ……。

だからこそ、現場にあった血の量から考え、彼が今こうして無傷で居る理由が知りたいのよ。

まさか一日程度で此処までソーナが完治させたとは……悪いけど思えないのよ」

 

「完全に死にさえしなければ何とでもなります。

現に一誠くんはこうして私の隣に居る……それが何よりの証拠です」

 

 

 俺がなまじ生き残ったせいで、面倒な事にセンパイを巻き込んでしまってるのは俺でも解る。

 そして過負荷(マイナス)の事を隠しながら説明しているせいで更に面倒な事になっているという事も……。

 一歩も両者退かずな話し合いは平行線のまま、ただ時間だけが過ぎていく。

 

 

「……。さっきから貴方は何も言わない様だけど、あなたからは何か言うことは無いのかしら?」

 

「ぁ……いえ特には……」

 

「あのはぐれ悪魔に殺され掛けた所をソーナに助けられたと……?」

 

「はい……」

 

 

 教えても何にもならない。

 そうセンパイが此処に来る前に言ってたから俺も誤魔化す。

 ジーッと真っ直ぐ見る紅髪の先輩の目から思わず顔を逸らしてしまったが、今までの行動と挙動から俺が人見知りの激しい性格してる事は向こうに伝わっている筈たし、何処も怪しさは無い。

 恐らく紅髪の先輩の後ろから俺を見てる忌々しい男からも伝わってるだろうからな。

 

 

「…………。そう、解ったわ。

貴方もそう言うのなら私もこれ以上聞かない。

そもそも私達がさっさと退治してれば、貴方を巻き込む事なんて無かったしね」

 

 

 俺もセンパイも頑な事にこれ以上は無駄だと感じたのか、紅髪の先輩は少し肩を竦める。

 どうやらしつこい性格ではないらしい。

 

 

「ごめんなさい……怖かったでしょう?」

 

 

 その上、あの化物と遭遇した原因としてからなのか、謝られた。

 その瞬間、後ろに居た例の三人の顔が露骨に歪んでいるのが俺から確認できる。

 

 

『そんな奴に何故謝る必要がある』

 

 

 的な顔で。

 まあ、そういう扱いは慣れてるし、初対面の人からの第一声が『死ね』と顔面パンチなのが殆どだし、寧ろ普通に謝られる方が背中が痒くなる。

 

 

「いえ、あんな所に不法侵入して勝手してたのがそもそも――――あ゛!?」

 

 

 ゾワゾワと全身に変なものが駆け巡るのを誤魔化す様にして謝る紅髪の先輩に気にしないで欲しいと告げようとした正にその時だった。

 色々と在りすぎて完璧に忘れていたが、俺が元々あの場所に出向いたのは――そう。

 

 

「ジ、ジローとその子供が無事なのか確認してねぇ……」

 

 

 にゃんこと戯れるという理由だ。

 それをあの化物のせいで台無しにされた挙げ句一度完全に食い殺されたんだった……。

 うぅ……思い出してから急に心配になってきたぞ……ジロー……。

 

 

「ジロー? ……? えっと……?」

 

「一誠くん?」

 

 

 急にソファから立ち上がり、彼女等には伝わらない名前を口にしたせいで、センパイと紅髪の先輩……ついでに無表情でこっち見てた白髪の人とか例の三人もキョトンとしている。

 

 

「あ、いや……元々あの廃屋に行った理由が、そこに住み着いてたにゃんこ――つまり猫に会いに行こうとしてたんですよ。

ジローって雌の白猫とその子供達なんですが……あの化物のせいですっかり忘れてた……無事なのか……」

 

 

 何の事だか分からないセンパイと紅髪の先輩にジローってにゃんこの事を教える。

 

 

「だからあそこに居たんですか……。

教えてくれたら一緒に行ってたのに……」

 

「いや、センパイをあんな小汚い場所に連れてくなんて失礼かなって……」

 

「そんなの気にしませんよ。

地獄だろうが、私は一誠くんに付いて行きますから」

 

「え……あ、はぁ……」

 

 

 悪魔にとって地獄は逆に天国なんじゃねーのか? というふとした疑問に突っ込まず、俺は真顔でそう言ってきたセンパイに曖昧な返事をする。

 いや、申し訳ないけど今はジローとその子供達の無事が気になってしょうがないのだ……。

 これ終わったらまた行くか……。

 

 

「猫……私は見なかったけど、セーヤは見た?」

 

「いえ……」

 

「朱乃は?」

 

「私も見て無いですわ……」

 

「祐人も?」

 

「はい……」

 

 

 紅髪の先輩が仲間にジローを見たか確認してくれてるが、どうやら見てないらしい……。

 うむむ……まさか俺が食い殺され、センパイが来るまでの間に……な、なんて……ははは、だとしたら俺は今すぐ幻実逃否(リアリティーエスケープ)で食い殺されたという現実から逃げて――

 

 

「私は見ましたよ……その子達」

 

「!?」

 

 

 己の中の過負荷(マイナス)が黒く増大しているのを感じながら、初めて自分の意思で発動させようとした正にその時だった。

 それまで一切喋らずに俺を見ていただけの白髪の人が、小さく……それでいてこの場に居る人達によく聞こえる声で言ったのを俺は聞き逃さなかった。

 

 

「見た……見た? ジロー――あ、違う、白い猫とその子供達を。

親猫含めて全部白い猫5匹を見たのか!? あ、これも違う、見たんですね!?」

 

 

 気付けば俺は、人見知りとかそういうのを忘れて白髪の人の元へと近付き、割りと小さいその両肩を掴んで揺さぶって確認する。

 

 

「ちょ、おい!」

 

 

 その行動が常識外れで行儀が悪いせいか、それまで睨んでただけの男が俺に向かって何か言おうと口を開く。

 だが、元々この男はクソ程に嫌いだ。加えてジロー達の安否の方が俺にとっては何よりも優先的に知りたかった。

 

 

「何も知らねぇテメーは今は黙れ……」

 

 

 だから、久々に殺意の籠った目であの男を睨み付ける。

 

 

「っ……!」

 

 

 するとどうだ、男はブアッと汗をかきながら固まって動かなくなった。

 珍しい事もあるもんだ……とはこの時思わず、取り敢えず邪魔が消えた所で再び白髪の人に視線を戻す。

 

 

「で、本当にジローは無事なんですか?」

 

「え、えぇ……あの、私は後輩なんでタメ口で構いません――」

 

「はい分かった! で、無事なの!?」

 

 

 そんなんどうでも良いんだよ。

 どうせもう2度と話す事なんて無いんだから。

 んな事よりジローだよジロー!!

 

 

「は、はい……無事に逃げ仰せてましたよ………」

 

 

 無事だ。

 2度の確認の末に得た白髪の人の言葉は、それまでテンパってた俺の心を落ち着かせるには十二分であった。

 

 

「……。そう、か……よ、良かった。

ジロー達……逃げられたんだな……」

 

 

 その瞬間、力んでいた俺の身体は突如として力が抜けていく。

 驚いた顔で俺を見る白髪の人の肩から手を離し、フラフラと目を丸くして座ってるセンパイの隣に戻ると、そのまま崩れ落ちる様にして座り込む。

 

 

「アイツ等が無事で……ホント良かった……」

 

 

 1年以上も付き合いがある、ある種友人とも言えるジローが死んだとなれば俺はこの世界を今すぐ嘘にしてやってた……それくらいジロー達は大事なんだ。

 だから無事で良かった……心からそう思える。

 

 

「猫……お好きなんですか?」

 

「え、あ……まあ……」

 

 

 そういやセンパイには言ってなかったっけか……。

 目を丸くしっぱなしなセンパイに頷きながら、今日にでも様子を見に行こうと決めてると、センパイに続いて紅髪の人が、少し面白そうなものを見る顔つきになっている。

 

 

「へぇ、中々可愛らしい趣味じゃないの」

 

「殆どの生物に嫌われてるけど、猫だけは俺を嫌わずに居てくれるから好きなんですよ。

ほら、にゃんこはいきなりバットで頭カチ割る真似はしませんから……」

 

 

 何が楽しいのか、少しニヤ付いている紅髪の先輩に好きな理由を教えた途端、ひきつった笑みに変わっていた。

 

 

「………………」

 

「あ、その白髪の人……ごめんなさい」

 

 

 情報提供者である白髪の人には、迷惑を掛けちまったので謝る……というよりはジーッと見てくるその視線に堪えられんかったからというのが強いが。

 

 

「いえ……でも分かりました。

あの子達が気にしてた人間が先輩だったんですね……」

 

「え?」

 

「あの子達が言ってたんです。

『トモダチが危ない』って……それが兵藤先輩なのが今分かりました」

 

 

 印象的な金色の瞳を向けながら、まるでジローの言ってる事が解る的な物言いに首を傾げていると、その顔を見て察してくれた紅髪の人が口を開く。

 

 

「彼女……小猫は元々人間じゃなくて猫の妖怪なのよ。

だから普通の猫と意思疏通が可能ってわけ」

 

「猫……よーかい……?」

 

「搭城小猫です……よろしくお願いいたします、兵藤先輩……」

 

 

 要するに化け猫って奴か……と、悪魔以外の人外もマジで居るんだなぁと白髪の人の頭からにゃんこの耳が出現しているのをポーッと眺める……………が。

 

 

「あ、そっすか。ども……」

 

 

 凄い微妙な気分だった。

 

 

「あら、猫好きなのに随分と反応がドライね? 確か最近の男の子は小猫みたいな姿を好むのが多いって……」

 

 

 何処から獲た情報かは知らないけど、紅髪の先輩はそんな事を言う。

 

 

「いや、パッと見は人間と変わらないのが猫の耳付けてるだけじゃないですか。

どう思えってんすか逆に」

 

「え…………ええっと、可愛いとか?」

 

 

 いつの間にか挙動不審が消えて、多分真顔になって紅髪の先輩に言う俺に少し戸惑いつつ答えるので、俺はじーっと白髪の人の顔と頭の耳を見てみる。

 

 

「………………」

 

「…………………………………」

 

 

 可愛い…………猫の耳取っつけただけの白髪の人が?

 

 

「…………………………………………………別に思わねー」

 

 

 うん、全然そうは思わない。

 てか、例えその化け猫で人と何ら変わらない姿でそんな耳付けられても『にゃんこを嘗めんな』としか思わない。

 流石にそれは言わないけどさ……。

 

 

「…………………。あ、そう」

 

「フッ……」

 

「…………」

 

 

 素直な感想に紅髪の先輩が何か知らんけど呆れ顔になって、センパイも何か知らんけど勝ち誇った顔になってる。

 白髪の人は……………猫耳引っ込めて無表情だから知らん。

 

 

「おい、随分と慣れてきて調子に乗ってるみたいだが……」

 

「は?」

 

 

 何やかんやで上手い具合に話をうやむやに出来た……てな所で今まで固まってたあの男が突如白髪の人の隣に立って俺を睨んでいた。

 

 

「やはりお前はダメだ。危険過ぎる……こうやって人をズルズルと堕落させる……シトリー先輩が良い証拠だ」

 

「……。どういう意味ですか?」

 

 

 俺……そしてその隣に座るセンパイに視線を移しながら、訳のわからん事を宣う男にセンパイの目は細まる。

 

 

「シトリー先輩……俺は最近知りましたが、コイツは――一誠は他人と共に居るとその人をどんどん堕落させるんですよ……。貴女には既にその兆候がある」

 

「あ? 何を勝手な――」

 

「さっきお前は黙れと言ったよな、だから今度はお前が黙れ。

俺は今シトリー先輩と話をしてるんだよ」

 

 

 なにも知らねぇ癖に知った事をほざく男に対して文句を言おうとした瞬間、男は俺を殺気混じりで睨んできやがった。

 その瞬間、俺の中のナニかが再び唸り声をあげる。

 

 

「……………。やっぱりテメーは嫌いだぜオイ」

 

「……………っ。ほらな、その腐った目と雰囲気……それがシトリー先輩を堕落させる証拠なんだよ……」

 

 

 顔を歪めながらも、ハッキリと俺がクズだと言い切る男に、いよいよ本気で消してやりたくなってきた。

 いや……多分今なら出来る……今なら完全に幻実逃否(リアリティーエスケープ)が発動可能だ。

 何やら黒髪の人と金髪の人が俺を気持ち悪いものをも目の前にしてる顔付きになってるが、知らん。

 取り敢えず今はこのエセ野郎を消して――――

 

 

「…………。だから、何ですか?」

 

「っ!?」

 

 

 今度こそ自らの意思で発動させようとしたその瞬間、またもやセンパイが俺の手を握りながら、あの男に向かって無の表情を向けた。

 お陰で俺の中の黒いナニかが一瞬にして霧散してしまい、やる気が失せてそのままソファに座り直す嵌めになるわけだが、考えてみたらせっかく誤魔化した所なので、我慢すべき場面なのだ。

 

 

「な、何って……そ、そもそもシトリー先輩は何でそんな奴と……」

 

 

 無表情ならが、異様な迫力で見据えるセンパイに男はしどろもどろに目を泳がせる。

 それは隣で見てた俺も正面に座る紅髪の先輩も同様だった。

 

 

「貴方は一誠くんの兄という事になってますが、今ハッキリ解りました。貴方は一誠くんと相容れない存在なんだと……そして、その一誠くんと好きで一緒に居る私とも……ね」

 

「なっ……ち、違う! 俺は只、コイツのせいで人が堕落するのは見たくな――」

 

「今言いましたよね、だから何ですかと。

ダメになる? 堕落する? 笑わせないで貰えますか。

それは貴方の勝手な思い込みですよ……だって――」

 

 

 淡々と物を言うセンパイに、男は何故か必死になって俺から引き剥がそうとするが、逆にセンパイは此処で笑顔になった。

 そして俺を含めた驚く面々に向けて言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は元々駄目な女ですから。

 あの女以上に魅力的と感じる笑顔で。

 

 

 

「だから一々貴方に言われなくても結構ですし、これからも一誠くんと共に居るのも変わりません。

私は、一誠くんが大好きですから……」

 

「センパイ……」

 

「「「「……………」」」」

 

 

 ニコっと……邪気もなにも無い笑顔は俺を含めた全てを閉口させるのに十分だった。

 

 

「話しは終わりですか? それなら私達は此処で……ほら、行きますよ一誠くん」

 

「ぁ……は、はい……」

 

 

 すくっとソファから立ったセンパイが、ボーッとしてる俺の手を引いて立たせると、唖然としている紅髪の先輩達に1度頭を下げてからさっさと俺を連れて出ていった。

 

 

「猫の件で上手くはぐらかす事が出来ましたね?」

 

「え、はい……」

 

「しかし本当に仲が悪いんですね、貴方と兵藤君は」

 

 

 その手をずっと離さずに繋ぎながら……。

 

 

 




補足

過負荷は惚れっぽい……つまり1度でも彼が惚れたら………………………

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