マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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絶対値が上がりました。
故に抑えないとこうなります。

そして表では理性的ですが本音のソーナさんは…………。

タイトル変更と少しの加筆をしました。


過負荷の絶対値とセンパイの本音

 放課後に嫌な事がある日の授業って、普段と同じとは思えないくらい嫌味に時間の経過が早く感じてしまう。

 学校に到着し、学年の違うセンパイとそこで別れ、そこからは何時もの様に独り空気の如く教室に入り、自分の席に座って授業を受ける。

 その間、まるで遠い昔の事の様に思い出される、センパイとツルんでる所を見られた結果からおこる周囲から受ける嫌がらせは、センパイが言った通り本当に無かった。

 これには素直にセンパイがすげぇ――いや、雑誌で見た現代っ子風に言えば『センパイってマジパネェ!』と思いながら、のそのそと買ったばかりのシャーペンの芯を一本一本折る作業に集中するんだが、まあ流石にセンパイとツルんでた事は周りにとってショッキングだったんだろう……嫌がらせは無かった代わりはヒソヒソ話(俺の事)だった。

 

 

「昨日の朝、誠八の弟が屋上で生徒会長と居た話……」

 

「ああ、それなら見た見た……。

けど意外だよな……ていうか、純粋に悔しいんですけど」

 

「だよな……支取先輩って美人だし……。

てっきり4組の匙が美味しい思いをしてるのかと思ってたのがまさかのだぜ?」

 

「何でだろうな? いや、1000歩譲って誠八とかだったら何かまだ無理矢理納得させられるけど……見ろよ、誠八の弟……朝からずっとシャーペンの芯折ってやがるぞ……」

 

「ああ……ピンポイントで不気味な事するよな……。

この前なんて鉛筆を1ダース分カッターで粉々に砕いてたぞ」

 

「マジか……誠八が関わりたく無いと思うのも分かる気がするぜ」

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 まあ、普段通りだな。

 上履きに画鋲仕込まれても無いし机の中身も無事。

 センパイが言った通りになんもされてない。

 平和……実に平和だ。

 周囲の人が俺見て何か話してるだけなら痛くも痒くも無いね……フフフ。

 ああ、ちなみにそのヒソヒソ話の輪に入ってる連中の中にあの男も居るが、見た限りは俺を気に入らん目で見てくるだけで何にも言わずって感じだ。

 見られるのも見るのも嫌なのに我慢し、目ン玉抉り取りてぇとか思うだけに留めてる俺は悪くないよな?

 

 

「では今日は此処までだ。また明日な~」

 

 

 この分ならストレスもあの男からの視線だけのに済みそうだと1日掛けた検証で理解し、この日の授業は終わって放課後となった。

 

 

「………一誠」

 

「……あ?」

 

 

 さてさて、センパイと1度合流しないとねぇとかボケーっと考えながら教科書数冊を鞄の中に入れていると、窓際の一番後ろの席であるあの男が、扉側の一番の後ろの席である俺の後ろから、通り様に小さく話し掛けてきやがった。

 その瞬間、今の俺なら『幻実逃否(リアリティーエスケープ)』で奴の存在を嘘に出来るんじゃねぇかって程にどす黒いパワー的なものな内から溢れてきた気がしたが……これ以上余計な真似してセンパイに迷惑を掛けると、コイツを消して喜ぶよりも遥かに死にたくなるので止めて我慢して黙ってると、奴はそのまま去り際言うのだ。

 

 

「分かってると思うが逃げるなよ?

お前はすぐに逃げる癖があるからな……じゃ、また後で」

 

「…………」

 

 

 逃げるなよと言われた。分かっている事を一番言われたくないこのクソ野郎に。

 それは多分、奴からすれば馬鹿にしてるつもりじゃないんだろう。

 俺が逃げ腰野郎だって分かってて釘を刺しているだけなんだろう。

 だけど……俺の気分は。

 

 

「………………。……。………………………」

 

「うっ!? き、気分が……おえぇっ!!?」

 

「な、なに……ふ、震えがとまら……ない……!?」

 

「い、嫌だ……怖い……怖い怖い怖い怖い怖い! ヒィィィィッ!?!?」

 

 

 許容範囲越え(キャパシティーオーバー)最悪(マイナス)だった。

 くそ、くそ………分かっていててもノウノウと俺の居場所を取ってヘラヘラと生きてるのが憎い。許せない。殺したい……。

 とまあ、こんな感じにこれから大事な用事を前にして気分が絶不調となりながらも、センパイの顔見たら何とかなるだろうという根拠も無い確信を持って俺も教室から出るのであった。

 その際、集団食中毒にでもなったのかクラスメートの殆どが死にそうな顔して吐いたり蹲ってたりしてたが……何を食ったのだろうか?

 

 

「あぁ、マジで絶不調だ。このまま逃げたいな……」

 

 

 後にした教室からまだ鳴り止まぬ悲鳴と嗚咽が、何故か気分の悪い筈である俺の過負荷(ココロ)を増大させてる気がしたのは……まあ多分気のせいだ。

 

 

 

 

 

 そもそも初めは単なる人間でしか無いと思っていた。

 恐らくあの日の事が無ければ今も出会う事が無かったくらいに、印象が無さ過ぎる人だった。

 しかし今は違う。出会えた事の己の運の良さに感謝すら覚える。

 人でありながら人でなしな心を持ち、触れたら容易く壊れてしまいそうな不思議な人。

 力なんて無い……私達のような種族が指一本で殺せてしまう程に弱い彼……。

 何時もネガティブで弱虫で他人を信用しない臆病者。

 端から見たら良いところなんて無いと皆は言うだろう……だけどそれで良い。

 彼の良いところは私が知っているし、これからもずっと誰にも教えない。

 彼の親兄弟ですら知らないだろう彼の笑う所や、無邪気に驚く顔は私だけが知ってれば良い。

 

 

「あー……えー……失礼、します?」

 

 

 対人恐怖症で触れられたら震えてしまう怖がりな所も、今朝みたいに心の成長が止まってるせいで平気な顔してあんな事を言うのを聞くもの私だけで良い。

 

 

「ええっと、諸事情により今から生徒会長と…………って、あれ……センパイだけ? 他の人は?」

 

「他の者は各々何時もの通りに生徒会の仕事をしていますよ」

 

 

 不思議そうに首を傾げるその仕種も。

 

 

「あ、あぁ……そうですか。

どうも多人数の中ってのは慣れる気がしないもんで……」

 

 

 ビクビクと怯えるその顔も。

 

 

「ふふ……朝カッコいい事を言って動揺させた癖に、そこは全く変わりませんね?」

 

「カッコいい事? ……うん? 何の事だかよく解りませんけど、これは多分1万2000年くらい経たないと直らないかなぁ……俺だし」

 

 

 諦めが呆れる程に早い所も。

 

 

「それじゃあ行きましょうか一誠くん。

ああ、変に緊張しなくても平気ですからね?」

 

「は、はぁ……初対面の人と会うってのは俺にとっちゃあエベレスト級のハードルなんだけど、そうもいってられないのは分かってますよ」

 

「大丈夫です、一誠くんの秘密はちゃんとぼかして説明しますから……。

それじゃあ、手を繋いでくださいな?」

 

「うっーす……」

 

 

 私は胸を張って堂々と言ってやれる。

 彼が好きだと……。

 まだ彼には言わないけど。

 

 

「今思ったんですけど、手を繋ぐ意味ってあるんですか?」

 

 鈍くて、意図が掴めず疑問に思うその顔が好き。

 

 

「ありますよ。ほら……自分で気付いて無いみたいですけど、震えが止まってるでしょ?」

 

「おぉ、言われてみれば確かに気持ちが楽に……。

なるほど、それを見越してるとは、やっぱしすげーやセンパイは」

 

 

 半分本当の事を話した瞬間、何の疑いも無く私に笑みを向けるその顔も好き。

 

 

「よーし……奴のツラは見たくないけど、これなら何とか我慢出来そうだと今だけ思える!」

 

 

 適当な事を言うその声も好き、好き、大好きだ。

 死んだ様に生きてるだけと言われていても、ちゃんと彼の体温を感じ取れるこの行為を含めた全部が好きだ。

 …………ふふ、姉さんや家族は今の私を見て軽蔑しますか? それとも許してくれますか?

 まあ、許さなくても構いませんけどね……一誠くんから離れる気はとうの昔に消え去りましたから。

 

 

 

 

 

 オカルト研究部の部室では、二人の客人を招く準備をしていた。

 

 

「学園だと他人のように振る舞ってたし、今日は結構楽しみだったりするのよね」

 

 

 いそいそと部員……いや眷属達が準備をしてる中、備え付けのソファに座る王・リアスは言葉の通り楽しそうに微笑している。

 王が楽しければ眷属達からしても何よりだったりするのだが、唯一兵士の駒である兵藤誠八は余り楽しそうには見えなかった。

 

 

「……」

 

「あら、まだ不貞腐れてるの? ホント仲が悪いわね、セーヤと一誠君は」

 

「別に俺は……」

 

 

 不貞腐れては無い……と楽しそうに微笑みながら自分を見てくるリアスに言いたかった誠八は結局言えずに、掃除する手を再び動かす。

 仲が悪い……まさにその通りだからだ。

 いや寧ろ終わっているというレベルと言える。

 

 

(相棒も色々あるんだねぇ……)

 

(煩いぞドライグ)

 

 

 そんな彼の心境を彼の中に存在しているが故にダイレクトに受信し、少しおちょくる声で誠八の意識に直接語り掛けるこの声の正体は、誠八が『生まれながら』にして宿る神器……赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の力の根源であり、かつて二天龍と云われた伝説の龍……赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)だ。

 

 

(俺も中から見てたが、イッセー……だったか? アレは本当の意味で今まで見たことの無い人間だな)

 

(……)

 

(なんていうの? 何しても負けそうっていうの? そんな感じするし)

 

 

 話すつもりもなく無言で床を掃く誠八に話続けるドライグの言ってる事は少し当たってるのかもしれない。

 

 

(まあ、俺には血の繋がった家族云々が存在しないからその気持ちは理解できんが、少しはまともな関係になったらどうだ?

奴も此方の事情を知ったんだからさ)

 

(……………無理だな)

 

 

 

 宿主である誠八にお節介とまではいかない進言をするが、あっさりと却下する。

 誠八としても昔は何故ああまでして自分を拒絶するのかが分からず、兄として上手くやろうとしていたつもりだった。

 だけど最早修復は不可能なまでにお互いがお互いを嫌っている領域まで来てしまった。

 だから誠八は諦めた……諦めてしまった。

 そして残ったのは……。

 

 

(アイツと拘わる人間は皆腐る。

だから俺はずっとアイツを孤立させていた……なのに、ソーナ・シトリーがまさかあそこまで……)

 

 

 人間から悪魔に転生しても残った、本能的に感じる一誠の『人間として終わった(マイナス)』部分と、それに触れることで変化してしまう人間が出る事への危惧だけ。

 だけど既に一誠は捕まえてしまった。

 自身に自覚は無いけど、一誠は――

 

 

 コンコン……

 

 

「む……来たわね……どうぞー!」

 

(早く、アイツと同じ人種を増やさない為にも、彼女を引き剥がさない――――っ!?)

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しますよリアス」

 

「し、失礼しまー……な、なんだこりゃ……。

暗いし何か怖い……」

 

 

 部室に入ってきた一組の男女。

 一人は誠八と瓜二つな顔立ちの男。

 もう一人は学園生徒会長であり悪魔。

 本来なら関わる事も無かった二人が扉を開けて入ってきた瞬間、誠八……そして他のリアス眷属である木場祐人と姫島朱乃の顔つきが変化し、全身に氷水を掛けられたと錯覚するほどの寒気が襲う。

 

 

(な……一誠……なのか? さっきまでとはまるで違う……! な、何だこの不快感は……! 何だこの気持ち悪さは!?)

 

 

 ほんの少し前までとはまるで違う、弟の雰囲気に今すぐ消し飛ばしてやりたいと健全に思う誠八。

 

 

(だ、誰だ……彼は?

僕が前に見た時とは明らかに違う……この嫌悪感はなんだ……!)

 

 

 一度だけ見たあの時と、今とは全く違う……見ただけで心が抉られそうになり、思わず切り捨ててやりたいと本能的に感じる祐人。

 

 

(セーヤくんと顔は似てますが、それは姿だけで中身は全く違う……。

ただ見ただけでここまで不愉快な気分になる方がいるなんて……!)

 

 

 隣で唖然とした様子で双子の弟を見ている誠八と、そわそわと落ち着き無い様子で周囲を見ている一誠を間近に見て、当たり前の様に吐き気と電撃で炭化してやりたいと思ってしまう朱乃。

 

 

 人と人外のハーフ。

 人から悪魔へと転生した二人。

 意味は違えど中身は同じ……人間を持つ者。

 リアスと最後の一人である小猫は、気まずそうに小さく促される形でソファにソーナと共に座る一誠の姿を見ても別段気にしてる様子は無い。

 人の側面を持つ三人だけが、小さく縮こまる一誠の……その雰囲気に明確な嫌悪感を示し、そして思った。

 

 

 

 人はあそこまで腐れるのかと……。

 

 

 

「座って頂戴、今お茶を用意するから。

朱乃……朱乃?」

 

「っ!? は、はい……」

 

「どうしたのよ? ほら、二人が来たからお茶の用意を……」

 

「う……か、かしこまりましたわ……」

 

 

 一誠の持つ気持ち悪さに呑まれ、リアスに呼ばれて初めて我に返った朱乃は、命じられるまま……そして少しでも一誠から距離を置こうと部室の奥に設置した給湯室に入る。

 その様子に、リアスは『らしくないわね……』と首を傾げながらも深くは考えず、改めて呼んだ二人のお客人に視線を戻し、ニコリと笑みを浮かべる。

 

 

「さて、と。朝も言ったけど、改めさせて貰うわね。

私がリアス・グレモリーよ。歓迎するわ兵藤一誠君」

 

「はぁ……ご、ご丁寧にどーも……」

 

 

 リアスの全く敵意が無い笑顔と声。

 後ろに控えていた祐人と誠八は険しい顔つきで何も感じてなさそうなリアスを疑問に思いつつ一誠を見つめ、小猫は興味もなさげな目で一誠を観察中。

 

 

(うーん……見た目は『普通』の人間だし神器も無い。

昨日の現場にあった血の量を考えれば、今こうやって居るなんてありえない…………何かあるわよね、この子)

 

(……。普通。何も無い。セーヤ先輩とは真逆……)

 

(さてと……リアス達が始末する予定だったはぐれ悪魔を、私が始末したという事は気にしてる様子はまるで無い。

やはり、一誠くんが何故無傷で生きているのが知りたいってだけのようね………教えたくないけど)

 

 

(……なんか胃がキリキリしてきた)

 

 

 基本的にコミュ障な一誠は、この時点で『合わないわ』と、さっきまでソーナと手を繋いで安定させていた精神を早速ぐらつかせるのであったとか。

 

 

続く




補足

絶対値が増えて気持ち悪さ倍増。
しかもそれすらソーナさんが、ある意味コントロール出来たりしなかったり……


その2

一誠のマイナスに当てられてリアスさんと小猫さんが平気な理由、それは……………


その3
猫好きだけど、狙う狙わないのどちらでも、猫耳萌えは嫌いな一誠くん。


その4
6話の時点ではまだ兄者は一誠が誰とツルもうが知らんと思ってた――というか一誠の性格上誰とも友達にならないと鷹を括ってましたが、ソーナという存在のせいで今の兄者は『一誠はガチで独りであるべき』という考えに変わりました。

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