時系列的にはレールガン1巻。
学校と放課後。
どうぞ
第7話
「なぁ……すまん、やっぱいいわ」
職員室入口前、立ち止まって言い淀む。
今聞かないと、一生聞けないような、そんな気がして聞かなければならないと、そう思ってしまったのだ。
しかし、俺たち二人はそれほど関係が深い訳でもない。だから俺には関与するべき理由がない。しかもおそらくだが雪ノ下とて、葉山とやらとの関係を聞かれるのは嬉しいことではないだろう。多分。
その迷いの結果として、あんなに中途半端な形になってしまった。
アレでは自分から言えと牽制しているみたいじゃないか。
俺が雪ノ下にどうこう言う資格も、言わせる理由もないのに。
「……葉山くんの事でしょう? 昔から家の付き合いがあったのよ。少しね……」
そこで言葉を切るのは合図なのだろう。
これ以上踏み込んでくるなと線引きしたのだろう。
彼女は最後に少し、と言った。単なる予想でしかないけど、少しは付き合いがあったとかの話ではなくて少し、何かがあった、そんなニュアンスが含まれている気がした。果たして少しなのかは疑問だが。
話はここまでと線引きをされたのだ。ならばこれ以上この会話は続けるべきではない。
すっと視線を前へ向ける。
「じゃ、入るけど、お前は転入手続きか? まぁ、自分で色々言えよ?」
「ええ、当然よ。あなたに心配される筋合いは無いわ」
余計なお節介だったのか、ちょっとキツい。分かり易いなぁコイツ……
もう一度目をドアへ向け、呼吸をひとつ置く。
コンコン
「失礼します。平塚先生はいますか?」
まぁこのくらいは難なく言える。フレンドシップ的なコミュ力は低いが、関係のない人間だとあまり苦でもない。
そこまで考えていたらドアにいちばん近い席に座っていた長い黒髪の綺麗な人がこちらを向いた。
座っているから分からないが身長は高そうだ。
「私だ、私が平塚だ、君が、そうか……送られてきた写真より腐ってそうだな……なんだろう、元カレのアイツに似ているな、あのヒモめが……」
全て聞こえなかったことにしよう。自分のためにも先生のためにも。この人ほんとに教師かよ……
「そんなことより、お前……」
平塚先生の視線が雪ノ下に向けられる。
「はい、チャイルドエラーとして学園都市に来た雪ノ下雪乃と言います。いきなりですが、ここに入学したいのですが」
「チャイルドエラァ……? そんなわけ……。……まぁ問題ないか。転入な。そっちに校長がいるから掛け合ってこい。私が許可したと言ったら幾分か申請も通りやすいだろう。粗相のないようにな。若いから目をつけられやすいんだ。若いからな。」
大事なことだから2回言いました。
というかチラチラこっちみんなよ……やりずれぇ……
「ありがとうございます」
「まだ、決まったわけじゃないだろう。行ってきなさい」
そう言われてそそくさと、校長の元へと向かう雪ノ下。
一瞬怪訝な顔をした先生だったが朗らかに承諾してくれたようだ。
そんなことより気になるのは、先生の疑惑の目に呼応するように何かを悟られないように一瞬俯いた雪ノ下の表情だ。
「女子の後ろ姿をそんな目で見るな比企谷。ところで今朝のはアイツか?」
「今朝? あぁ、電話ですかね。ええ、あいつですよ。」
「一応経緯を聞かせてもらおう。教師としてだ。」
逆に教師として以外に何があるんだよ……
とりあえず今までの経緯をすべて話した。自分がここに来た訳も喋らされた。こんなに喋ったの久しぶりだぞ……
「いきなり同居って事か……今聞いた中でも特に悪い奴には感じないが、気をつけておけ。今この状況は普通じゃないからな。それだけは覚えておけよ」
何処ぞのアニメで聞いたことあるようなセリフを使ってくる。
「言いたいだけでしょそれ。でもまぁ当然ですよ、これでも独りぼっちの長い身なので、寄ってくる奴は男女構わず警戒してますよ。」
だがしかし、先生は雪ノ下への警戒を解こうとしない。
何をそこまで警戒しているのだろう。口は悪くても、それ以外は基本ハイスペックでいい奴だと思う。
今までは。
そう。嘘では無ければ。
「それはそれでどうかと思うのだが……」
「まぁ話はこれで終わりだ。雪ノ下も転入に必要な手続きの書類とかもらったみたいだし。あいつが戻ってきたらそのまま帰っていいぞ」
「うぃっす」
職員室の一番奥の校長……ではなくおそらく教頭がいる所からすいと戻ってくる。
「必要な書類は貰ってきました。コレに記入して夏休みが終わるまでに持ってこればいいんですよね?」
戻ってきた雪ノ下がハキハキと先生に確認を取っている。できる子よ。
それも終わって帰ろうとした時。
「あぁ、いい忘れていた。最近爆弾魔が彷徨いてるらしいからあまり寄り道はしていくなよ。あと比企谷は夏休みの課題を持って帰れ」
嘘だろ、ありえねぇ、課題とかなんで準備してあんだよ…基本的に家からでない俺は読書かアニメかゲームか勉強しかしねぇんだけどな。ゲームは一人でしてたら寂しくなるからしてないようなもんだし。
まぁつまり、めんどくさいが普通に終わらせるタイプの人間なのだ。
「追加課題みたいなもんだが、転入に対しての不安と期待みたいな事ならなんでもいい。これについては雪ノ下も同様だ。以上だ」
適当だなおい。というか雪ノ下にはそれしか課題ないのね。差別? って聞いたらたいていの先生は区別っていうからなマジで。日本語理解してねえだろ。
体育の時に先生と組まされるのは区別か? いや、それにしたってひどいな……
「ありがとうございました。失礼します」
雪ノ下を追うように平塚先生に会釈だけして職員室から出る。
職員室にいた時にチャイムが鳴ったから恐らく授業中だろう。
雪ノ下もそれが分かっているからか少し安堵したようだ。
「じゃ、さっさと帰るか」
「ええ、言われなくても」
何事もなく寮部屋に着いた。まだ昼には早い時間だし、先ほどもらった課題を進める。
「あら、意外ね。あなたそういうの平気でやらない人かと思ってたわ」
「甘いな、俺ほどの屋内好きはやることが無くて課題くらい早い段階で終わるんだよ」
「課題をやる事は悪いことではないけれど。それは引きこもりというのよ、引き谷くん」
「おい、それ漢字変えてるだろ!」
小学生の頃に前の日直がずっとそれ書いてたの思い出すだろ。
それを見てクスクス笑われてたの知らないんだろうな、俺の前の子。え? 俺が笑われてた? ナニソレシラナイ。
「なんのことかしら?」
「ぐっ……」
帰っていきなり罵詈雑言を浴びせるとか暇なの? 好きなの? ないな、ごめんなさい。
嫌い嫌いも好きのうちなんて嘘っぱちだ。それなら俺はどれだけ好かれてたんだよ。神か。尊師か。麻原か。
その間を埋めるように雪ノ下も追加課題をやり出す。部屋に訪れる静寂が心地良く、夏の匂いを感じて顔をあげたら、雪ノ下が正面にいる訳なんだが……美少女が目の前にいるというのはむず痒いモノがある。こういう展開に憧れてきた筈なんだが、一人で勝手に照れてしまう。
バレる前に課題に集中しよう。
……気付いてるのだけれど……凝視過ぎて逆に何も言えない……
課題も飽き、昼食を終え近所を回ろうという事になった。
外に出ること自体好きではないが、知らない地に来たのだからそりゃ観光もするだろう。今からずっと住む街ならなおのことだ。
でも俺たちは。
爆弾魔の事などとうに忘れていた。
どうせなら今後の服も買おうとデパートを探している。
「それにしても雑多としてんな」
そう思うのも当然なのかもしれない。ほとんどの学校が、ちょうど今頃終わり、各々部活に励んだり、家に向かったり。
それこそデパートに向かっているところなのだ。
そのせいか人の波の方向は一定で、反対に進む人達は肩身が狭そうに歩いている。
ちなみに俺たち二人もそういうタイプだ。
正直に言おう。ちょっと迷ったんだよ……
「そうね……日差しよりそっちの方がキツいわね……」
「あの時道間違えて無けりゃクーラーの効いたデパートにいる筈なのにっ!」
「あら、それは災難ね。蝸牛は見なかったけれど……」
「また物語シリーズかよ…後、俺は別に家が嫌いとかそういうのはない」
そう、別に俺は家が嫌いではない。だって家には妹が待ってるし。寝れるし。自由だし。
つまり帰りたくないと思っている人間に取り憑く怪異である八九寺真宵もとい蝸牛の怪異は俺には……なんで怪異の解説してんだよ……
家に帰りたくない、でいうならきっと雪ノ下の方が当てはまるのだがここでは伏せておこう。
なにはともあれ目的のデパートにたどり着いた。
「ひろいなぁー。今度こそ迷うなよ、雪ノ下」
「ええ、分かっているわ、心外ね。私が道に迷うことなんてあるわけないじゃない」
じゃあなんでそんなに強く唇をかんでるんでしょうかねぇ……
「じゃ、また何かあったら連絡な」
「えぇ」
迷わないか心配だが、ケータイは持っているからおそらく大丈夫だろう。
小町がいたら今頃だからごみいちゃんは……とでも言っているのだろう。二手に分かれた方が効率が良い筈なのだが……
実のところ俺の方は部屋着一着買うくらいしか用が無いからそれを済ませたらゲーセンにでも行こうかと考えていた。
薄手の部屋着、もといパジャマ的なものを買うために探していた。
店に入りたいのだが、恐らく見知った人間がそこにいた。
鉄橋の電撃姫だッ!
鉄橋の電撃姫か……二つ名みたいでかっこいいな。
確か名前は……そう、Level5の第3位。超電磁砲の御坂美琴。
Level5ってだけで芸能人的な有名度を持つのかと思っていたがそんなこともないらしい。変装もしてないようだし、制服のままだ。
しかも周りに2人友達らしい人物がいる。
超能力者と友達って辛いんじゃないか…?ふと比べてしまうと、嫉妬して嫌悪して、憎悪して。そう思うと超能力者もいいことばかりではないのかもしれない。
俺は超能力者じゃなかった時でも嫌われていたけどな…いや、原石だからあの時からそうだったのか。
「よっす、長髪の美人さんの彼氏さん」
「俺と雪ノ下はそんな関係じゃねえよ……」
突然話しかけてきたのは上条当麻。俺の名前を知らないからと言ってその挨拶はどうかと思うのだが。
ちなみに幼女を連れている。何故だ。妹か? そんなわけ。
その視線に気づいたのか上条は答える。
「そこの洋服店まで案内するだけだ。えーっと……」
上条当麻も御坂美琴も本人から名前は聞いていない。ならば促すべきだ。
「俺の名前は比企谷八幡だ。高校二年生、多分お前より年上だ」
「えっ、先輩……か、まぁ目が疲れてるし……」
俺への挨拶の決まりでもあるの? いつの間に決めたの? 俺知らないところで決まってるの? そもそもそんなに俺の目腐ってる?
「俺は上条当麻、ところで比企谷先輩、高校は?」
「あぁ、とある高校だ」
「ええ! 俺もその高校ですよ!」
「まぁ、俺も洋服店に用事があるんだ。そこの電撃姫のところか?」
「あ、アイツ……俺も行きますよ」
そのタイミングで御坂が鏡を見て採寸を測っていた……
それ自体は大した問題では無い。ただ、合わせている服がガキっぽい。例えば上条が連れている幼女が着てもいいくらいだ。
簡単に言おう。
痛い。
当然それを上条も見ている。
「何やってんだオマエ」
まぁそうなるわな。俺は関係ないからしれっとそっぽ向く。
そのおかげか美琴が俺に気がつくことはなく上条にまくし立てる。
「な、な、なんでアンタがこんな所にいるのよっ!」
「いちゃいけないのかよ」
あーあー、そんなさも平然に答えたら煽ってるも同然だぞ。
救世主現れねえかなぁー、まぁ俺は関係ないからいいか。
「おにーちゃーん」
ナイスタイミングだ、少し遅れての登場。キュートにハートをチャージして空気をキャッチするプリキュアのようだぞ!!
「アンタ妹がいたの?」
「いや、この洋服店に案内してただけだ。」
「ふぅん……」
良かったねみこっちゃん、話をそらせて。
「あ、アンタ鉄橋で会ったよね?」
まさか、ここで俺にふるのか……
能力使っとけばよかった……
「あぁ、自己紹介してなかったな。比企谷八幡だ」
きっとリア充はよろしくとか付け足すのだろうが、宜しくするつもりはないので割愛だ。
「私は御坂美琴よ、よろしく」
最近の若者は敬語を使わないんだな。学んだ。
しかし、よろしくと言われてしまっては、返さないわけにはいかない。
「よろしく」
「それで、アンタ! 昨日の決着……つけさせてもらうわよ」
何コイツ見境無さすぎだろ……
「ここではじめるつもりかよ。大体こんな女の子の前で」
俺はいいのね。分かってたよ。
「ぐっ……」
買い物していくか。
店前でまだ何やら話しているが関係ない。さっさとづらかろう。レレレ…いや、それはおじさんだろ。
数分、適当に見繕って会計も済ませて店を出た。
御坂美琴と髪飾りの女の子と長髪の中学生二人が何やら慌ただしい。
「
グラビトン事件。
確か平塚先生が言ってなかったか。爆弾魔がいると。
その今回の標的がここ?
「ここが?!」
「そうみたいです。御坂さんは避難誘導に協力してくれませんか?」
「わかったわ」
「佐天さんも早く避難を」
「う……うん、初春も気を付けてよ」
「運悪すぎんだろ……雪ノ下は……! 連絡先交換してなかったら意味ねえじゃねえかよ……」
こんな時まで非リアの性が……笑えねぇ
「アンタ! 比企谷! 爆弾があるらしいから早く避難して!」
「いや、それはできない。方向音痴のツレがいるからギリギリまで待つ」
「……でもっ……まぁいいわ、手伝って!」
雪ノ下を探すついでだ。やぶさかではない。
「あぁ、わかった」
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あらかた店内の人間は避難したはずだ。避難誘導の最中、雪ノ下は見なかった。
「比企谷先輩! ビリビリ! あの子は?」
「は? まだ戻ってなかったの?」
「俺も見てない」
「クソ……多分まだ避難できてないと思うんだ」
「雪ノ下も見てねえし……くそっ……」
「おねーちゃーん」
近くにいた初春という風紀委員に駆け寄る少女がいた。
「あぁ、アイツだ。良かった」
いや、安心するのは早くないか? あの手に持っているものはなんだ。ただのぬいぐるみか? さっき持っていたか? おそらくだが爆弾魔が狙っているのは破壊活動ではなく。人的被害だろう。ならば、この店内で人がいるところに爆弾を設置する方法は。
「メガネかけたおにーちやんがおねーちゃんにわたしてって」
内部の人間に運ばせるッ!!
「逃げてください! あれが爆弾です!!!」
その瞬間初春はぬいぐるみを投げ捨て少女を庇う。
そして俺は走り出す。逃げる為ではなく。ぬいぐるみの方へと。
無機物にも俺の力は通用する。触れてゼロKにでもしたら流石に爆発はしないだろう。
そして、触れる。
血の気が引くような事態が起こる。
効か…ない!!
相手のパーソナルリアリティを帯びたモノには俺の力は通用しない……!!
咄嗟に異界師よろしく、自分の一帯に能力で壁を。
背後にもう一枚、全員を守るように展開する。異界師のアレというよりATフィールドに近い。
しかし。
誤算があった。
上条当麻、彼が右手を伸ばして突っ込んで来ている。
クソッ! 間に合うか?!
その右手が俺の結界に触れた。
ガキィィィィイン!
展開しかけていた上条のための壁と俺の壁が同時に、消え失せた。
「「は?」」
瞬間、爆弾が限界を迎えた。
あぁ…もっとこう、かっこよくスピーディーに書きたい。
とりあえず一章の最後までお付き合いお願いします。