最近特に遅筆になりつつ……
第24話
「ミサカの検体番号は9980です。とミサカは名乗ります」
ミサカの検体番号。つまりそれは、どういうことだ。
「なぁ、御坂妹、お前は……クローンなのか?」
学園都市の都市伝説の一つ。
Level5第3位御坂美琴の軍用クローンがいる。
「はい、そうです」
真実は意外にも当人からしたらどうでもいいことなのかもしれない。だが、他人からしたら、俺や御坂からしたらどうでもいいことではないだろう。あの様子では御坂自身も知らないだろう。
「お前は『あの日死んだのか?』」
俺は一番気になっていたことを、包み隠さずに言った。本当の答えが帰って来ると期待していたわけではない。ましてや、答えてくれるとすら思っていなかった。
しかし、『何も無い』彼女にはストッパーも本当に何も無いのだろうか、答える。
「どの『ミサカ』のことか分かりませんが。死んだ記憶は、9978通り記憶しています」
想像はしていた。覚悟もしていたはずだった。だが、本当にそんなことがあり得るとは思っていなかった。1万人近くの『人間』が、クローンとして生まれ、実験動物となり、死していく。
それだけなら、まだ、まだ、マシだったかもしれない。しかし、彼女は「記憶している』と言ったのだ。どんな方法か、それ自体が実験なのか分からないが、彼女は一万近くの死を体験しているのだ。
あの時感じた『死への義務』はそういうことだったのだ。
実験のために死ぬ。死ぬことが実験の、科学の発展の糧になる。学園都市とは、そういうところなのだ。
死ぬ恐怖を、消える恐怖を、死から得られる全てを科学する。それが学園都市なのだ。
「ぐっ……」
突如頭痛が俺を襲った。頭が割れるように痛い。
この記憶は……
「? どうかしましたか?」
ミサカはひょこひょこと顔をのぞき込んでくる。
頭痛で歪む顔を隠しながら俺は答える。
「いや、何でもねえよ」
「頭痛の時はバ〇ァリンですよ。それでも効かない場合は病院に行くことをおすすめします」
「そう……か」
今の空気と全く的はずれな調子で答える御坂妹に嫌悪感すら覚えながら、俺は答えた。
胸の中に渦巻く感情とは裏腹に、声に出る言葉は、乾いたものだった。
「ミサカは今日の午後8時から実験予定ですので、失礼します」
「あー、まて、その実験は誰が主導してるんだ? あと、それはついて行っちゃダメなのか?」
「そうですね、ZXC741ASD852QWE963´とミサカは符丁の確認を取ります。関係者ではないようですね。それなら答えることはできません」
「そう……か」
「しかし、見たいというなら実験を見ることはできます」
「あぁ、8時か……まだ時間あるけど、その間お前何するんだ?」
「そうですね、ミサカはお買い物、というものをしてみたいです」
「買い物……? なにか必要なものでもあるのか?」
「いいえ、買うものというのはありませんが、テスタメントで入力された情報にに、お買い物をしているうちにいらないものを欲しくなる。というものがあったので、それを体験してみたいのです」
「なんでそんなもん、別にいいことでも……」
はたと気付き俺は口を閉ざす。
彼女にとっては、最後の思い出になるのかもしれないのだ。
「食事や、紅茶……というのも気になりますが、それはこれから生まれてくる『妹達』に託したいと思います」
「そうか……」
「んじゃ、案内してやるよ」
「はい、お供します」
御坂妹は小さくお辞儀する。
改めて御坂妹を観察する。御坂美琴と同じ顔、身長、体型、髪型、常盤台中学の制服。唯一違う点は頭に付けているゴーグルくらいだか、外してしまえば完全に見分けがつかない。
八幡はその姿を見て思った。御坂本人はこのことを知っているのだろうか。知っていたとしたら、なぜ放置しているのか。御坂美琴も科学に酔狂した人間の1人だとでも言うのか。そして、俺自身、彼女が死ぬ運命にあるのに、なぜ希望を持たせるようなことをしているのか。
その答えは出ないまま、それでも俺は御坂妹を連れて歩いていく。
公園からデパートまでは10分ほどで到着した。
「これがデパートですか……想像では人が『すし詰め』なのですが……」
「? まぁ、時間帯も時間帯だからな、夕方くらいになると人も増えてくるんだ」
「なるほど、それがつまり、『休日は金曜日の仕事終わってからだぜー!!』ってやつですね」
「もう、お前の知識の偏りに恐怖すら覚えるわ」
休日は金曜の仕事終わりからって、どこの俺だよ。
まぁ彼らと違って俺は外に遊びに出たりせず、家でゆっくりと寝るのだ。休日返上で遊びに出かけるとか、休日の意味分かってねえだろ、心身ともに休みましょう。ってことなんだから、そこからどうやって遊びに出かけることになるんだよ。でもそういうやつ、まぁ妹とかは「もう! そんな事言ってるからお兄ちゃんは友達いないんだよ? 友達と遊ぶって言うのは心の休憩なんだよ?」とか言いつつ、帰ってきたら女子って怖いからねー? とか矛盾したことを言い出すから、やっぱり休日は1人で休むのがいい。
「で、買いたいもの……じゃなくて、ふと、買いたくなるようなところを回ればいいのか」
女子といえば服……だが、『必要が無い』
「まぁ適当に回るか」
そのまま1階から順番に回っていく。食品売り場、玩具屋、男性服、女性服。全てを回っていくがやはりめぼしい反応は得られない。
しかし、御坂妹の足が止まる。その御坂妹の姿を感知した自動ドアが開き、それと同時に大音量のリズムに包まれる。
ゲームセンターだった。
「これがしたいのか?」
「わかりません」
「は……」
「分かりませんが、ここだけ、世界から隔離されているようです」
ゲームセンターをそんな風に表現した人間を見たのは初めてだが、確かにそうかもしれない。
日々、仕事に追われ、責任を負い、効率を求められ、無駄を削減される世界で、このゲームセンターというのは、その全てから逃れることが許される。逃れるために作られたと言ってもいい。
いやそんな深い意味はないだろうが。
御坂妹本人も、そういう日々を繰り返してきたのだろう。今までも、今からも。
「じゃぁ、ここでゲームしていくか」
財布の中身は確認せず御坂妹に言った。値段なんて気にしない。金は有り余っている。なにより、今は御坂妹にすべてを忘れさせてやろうと思った。いや、本当は自分で何故こんなことをしているのかもよくわかっていない。
「いいのですか?」
あぁ、いい。どうせ今日限りだ。
「んじゃ、適当にやりたいゲーム決めててくれ、俺はメダル買ってくるから」
そう言ってミサカのもとを離れてメダルを買いに行くが、何やらミサカが離れない。
「いや……決めててくれねえと……」
「いえ、お金でメダルを買うというのは不思議だと思いまして、馬券的なことでしょうか」
「まぁ、そういうことだな、お金の増えないパチンコみたいなもんだ」
ふんふんと首を縦に揺らし楽しそうにしている。
その目の前でコインがジャラジャラと音を立ててカップに入っていく。
「これがメダルゲームですか……テスタメントでは知り得なかった情報です」
「いやまだゲームは始まってねえからな!?」
ただ機械に金入れてメダル買っただけだから。1から100でいうとまだ0の段階だから。
「あれ? せんぱーい!」
ゲーセンでうるせえやつだな、ゲーセンがうるせえのに、人の声までうるさいとかやってられん。帰る。
「? 常盤台の彼女? なわけないか……置いて何帰ろうとしてるんですか? 先輩初めてあった時から変人だと思ってましたけど想像以上ですね?」
いや、俺に聞かれても知らん。仮に変人を認めたとして、想像以上とか知らん。あと誰だお前。
「こういう時の対処法はテスタメントで入力されています。ミサカに任せてください」
「え、敬語で一人称名前呼びとか新ジャンル……ありかも……?」
え、待ってどっちも何いってんの。御坂妹は何に対してやる気だしてんの?
名前忘れたけど、まだ1回しか会ったことないのにやたら親しげなあざとい後輩とか怖い。ってかありかもってなんだよ、そのあざとさやっぱり演技じゃねえかよ。
頭の整理がつかないうちに御坂妹が俺の前に出る。ちょうど近づいてきた一色と俺の間に立つような形だ。あ、一色だ。
「こいつ俺のツレだから、お姉ちゃんあんまり近寄んないでくれる?」
「「……………………」」
絶句の一言だった。
一瞬、誰が喋っているのかわからないくらいだった。御坂妹の声を極限まで低くしたような声で、御坂妹からは想像出来ないようなセリフを吐いた。しかも表情は一切動かさずに、だ。まぁ、元々表情に乏しくはあるが。
我に返った一色が今度はオロオロし始める。あざとい。
「せ、せんぱい……?」
「いや、俺に聞くな、俺もよくわからん……」
そんな突然振られてもぼっちの俺には対応できるわけがない。噛まずに言えた自分を褒めたいくらいだ。
「ミサカは迷惑な人間に対する対処法を数十通り所持しています。そのミサカの予防線を破ることは不可能に近い。諦めることですね」
「まてまて、別にこいつ逆ナンしに来た痴女とかじゃねえから、いやそうかもしれねえけど」
いや、ないな。
「何いってんですか、私が先輩に気があると思ってるんですか。ごめんなさい、まだ知り合ってまもないし、卑屈っぽいので無理です」
「別に告白してねえし……」
なんで告白もしてないのに振られなきゃなんないの。バカなの、童〇なの。いや童〇だけど。
「そうでしたか、これは申し訳ありません。とミサカは深く頭を下げます」
「いえいえ、別に大丈夫ですよー、それよりこんなところで何してるんですか?」
視線が俺に向く。御坂妹とは会話しにくいと判断したのだろう。
「ゲーセン来てるんだからゲームだろ。むしろお前一人でこんなところに来てるのか?」
一人で来てるならいつもの俺と一緒でかなり親しくなれそうな予感だが、そんなわけもないだろう。
「いえいえ、先輩じゃないんですからそんなわけないじゃないですかー? 友達と来てるんですよ」
「友達? ……なんかあれだな、大変だな」
完全に印象だが、ゲーセンとかに来るようなタイプじゃない。男子に媚びるこいつは女子の友達関係に亀裂が生じやすい。だから一色はゲーセンにゲームをしに来たわけじゃない。人間関係の安定を目的に来たのだ。
「先輩が何を想像したか分かりませんが他に意味なんてありませんからね」
上目遣いでのぞき込むように俺を見る。
「いや別に、俺はぼっちの方が気楽だって意味で言っただけだ」
嘘は言ってない。
「はぁ……まぁ、別になんでもいいんですけど」
一色は御坂妹を品定めするように見る。御坂妹は御坂妹で一色を見つめ返している。
その品定めも終わったのか一色が顔を上げ、俺に近づいて、顔を俺の横までえぇ?! 近くないですか? 吐息が耳にかかってこそばゆいんだけど。
「先輩、この後時間ありますか?」
「あふんっ……じゃねぇや、どういう意味だ?」
「え、先輩きもいです……」
やだ、今の聞かれた。もうこの子に責任とってもらうしかない。まぁ、そういう意味ではないだろうが。
「そのままの意味ですよー、ってかやっぱり知らないんですね……そんなことよりそこの子とゲームしないんですか?」
「あ、あぁ、やるか御坂妹」
「えぇ、この時をずっと待っていました」
なんか死亡フラグみたいに聞こえるなぁ……
「じゃ、私もご一緒していいですか?」
「ええ、ミサカは構いませんが」
チラと俺を見る。
「あぁ、別にいいぞ」
おそらくゲームをしている間に話をするということだろう。
「ミサカはあれがやりたいです」
御坂妹が指さしたのはプッシャーゲーム。上段が前後にスライドしメダルを押し出していくアレだ。
「あれか、ちょうど空いてるし座るか」
「アレは確か真ん中に入れた方が得なんですよねー」
「へぇ、知ってるんだな、一概にも確かとはいえないが、その通りだ。後一定以上のメダルがなければ期待はできない」
「だが!「ですが!」」
「私の分と先輩の分を合わせて5000枚ちかくある……」
「この枚数でジャックポットが出ないなら、この店はインチキだ」
「あと4000枚以上は俺のメダルな」
「こんなたくさん使い切れないので、手伝ってあげると言っているのが分からないんですか?」
俺の手には三段に積まれたカップ型ではない、箱型のメダル入れがある。パチンコの玉入れと同じやつだ。
「いや、余っても預けられるんだけどな……」
「そんな貧乏くさいことよくやれますね」
「え? 俺が悪いの?」
「あの、早くやりませんか……?」
御坂妹が戸惑いつつ(表情は変わっていない)急かしてきた。
「つっても、どう座るんだよ、あの椅子2人用だろ」
「別に3人座ってはいけないわけではないですから、先輩は真ん中で小さくなっててください」
「いや、それ俺できないよね?! それなら俺は立つ……」
いや、そうじゃない。これは……
「仕方ねえなぁ」
「察しが良くて助かります」
やはりそういうことだ。
「じゃあ……」
「あぁ……」
「ええ……」
「「「ひと狩りいこうぜ」」」
俺達は各々のおもいをむねに、モン〇ンをテーマにしたプッシャーゲームに挑むのだった。
どんどん書いていきたい感じもあるんですけど、意外と進まないんですよね…