やはり俺の学園都市生活はまちがっている。   作:鴇。

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嵐はされど、風はやまぬ。

第18話

 

 

「比企谷、君に用事があるんだよ」

 

 先程までとは打って変わって真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。その視線は向けられただけで背筋が凍りそうになる。

 

「その前に頼みたいことがあるんだけどいいかな?」

 

 

 

 

 

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 頼み事なんて言われるからかなりヤバイことを依頼されるのかと思ったがなんてことはなく、アレイスター対策に誰からも視認できない閉鎖空間を作って欲しいということだった。

 

 

「へぇー……すごいねこれ、どっちかというと『外の力』に近いような気がするわね」

 

「……雪ノ下さん、質問したくなる事増やさないでくださいよ……」

 

「まぁ、君の気になることに答える義務なんてないけどね?」

 

 笑顔で切り返すがその言葉は全くと言っていいほど優しさがない。

 さすが雪ノ下雪乃の姉だけある。冷酷で、冷淡で、決して腹の底は知れない、それなのにそれがカリスマ性に見える。

 アレイスターの事を知っていることも、アレイスターと敵対しているような、対策と言う言葉も、小町の事を知っているということも。全て俺にとって、まず解決しなければならない不安要素だ。

 そして……それが分かっているからこその発言の数々。

 

「雪ノ下さん」

「陽乃でいいよ?」

「陽乃さん」

「まぁそれでいいよ」

 

 なんか臥煙さんみたいな人だな。あの人もマジで怖いからな、その姉なんてもっと怖いって言われるんだから尚怖い、超怖い。

 陽乃さんに姉がいるみたいなフラグ建てないでおこう……

 

「小町を人質に取ったのは陽乃さんですか?」

「よく分かったね~えらいえらい! お姉ちゃん褒めちゃうぞー!」

 近い近い、向かい合う形でそんなに近づかれたらやばい。何がやばいって男の沽券に関わるくらいやばいいにおい。

「アレイスターが人質として小町を取るのは理解できます。ですが陽乃さんが俺を引き止めるだけにそんなことはしないでしょう。アレイスターと敵対しているようなことも言っているのに」

 そうだ、そもそも陽乃さんが俺に妹がいるなんてことが知れていることがそもそもおかしいのだ。

 

「じゃあまず比企谷君は私がここにいるのは偶然だとでも思ってるの?」

 

「だからそれは雪ノ下……妹をストーキングしていたからじゃないんですか?」

「そう言う事じゃなくてね、そもそも雪乃ちゃんてなんで比企谷君ちに泊まってるのかな?」

 ……なんで? 最初に出会った時たしかあいつは……

 

「チャイルドエラー」

 そうだ、そういえばおかしい。材木座曰く、同じ高校のやつは同じバスに乗ってこっちに来ていたらしい。そして雪ノ下も同じ高校から来ている。そんなタイミングで親に捨てられるなんて、まずもってありえない。

 ……自分から逃げた、以外は。

「もしかして自分から学園都市に逃げてきたんですか……?」

「そう、雪乃ちゃんは家族から逃げてきた。でもまぁ運悪くそこにも私がいたってわけだけどね?」

「姉の住所も知らないなんてことあるんですか?」

 言ってからしまったと思った。

 

「……それくらいの関係だ。なんて、言わなくてもわからない?」

 それだけ家族に関心がない。いや嫌悪しているということなのだろう。

 

「『そんなこと』どうでもいいの」

 

「私が小町ちゃんを人質に取った理由はただ一つ」

 

 

 

 

 

 

「雪乃ちゃんを、守って欲しいの」

 

 

 

 

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 なんだよ、結局シスコンかよ、みたいな話だが小町を人質と取られている以上軽い話ではない。

 いま目の前にいる二人を守らなければ、いや、『巻き込む』ことは許されない。

 

 そもそも俺が暗部に入るとも、アレイスターの言いなりになるとと限らない。はずだが、陽乃さん曰く。

『小町ちゃんがここに来ていることは知っているはずだし、きっとアレイスターの方も利用するんじゃないかと思うけど、その辺はよろしくねー』だそうだ。

 俺が小町を人質に取られなければそもそもアレイスターの言いなりにならないと思うが、それで雪ノ下に飛び火してしまうのが嫌なのだろう。

 どんだけシスコンなんだよ……その陽乃さんの妹と自分の妹を守ると言う意味でいえば俺のシスコン度合いはカンストしているんじゃないかと思う。いや、俺は妹を大切にしているだけで欲情もしないしシスコンじゃない。最近妹の様子がおかしくもないしな。

 

 俺が静かにしていれば、そしてアレイスターの誘いも小町を守ることさえできれば乗ることもないだろう。

 

『アザレアヲサカセテ~♪』

 

 ちょうど電話がかかってきた。アレイスターだったら完全に詰んでる。

 

「はちまん! 緊急事態だ! 外に出かけたはずの上条とシスターさんを突如見失った!」

 連絡してきたのは上条とシスターさんをストー……尾行している材木座だった。

 

「は? それお前のミスだろ……?」

 ついぞ頭がおかしくなったかと思って切ろうとする。

「我も最初はそう疑った! だがこの見失い方は経験がある」

 疑ったのか。自分で言ってて悲しくならないのかな。

 

「……気づいたら、というか、忽然ではないのにいつの間にか……」

 

「……」

 

「多分、『人払い』だと思うのだ。ターゲットは我じゃない。上条とシスターさんだ」

 

「……わかった、すぐ行く」

 

「小町、すまん、ちょっと外すわ」

 

「は? いやいや、お兄ちゃん、それはさすがにダメだよ。雪ノ下さんいるのにそれはダメだよ」

「いや、すまん、マジで用事だから、また埋め合わせするから」

 

「……ほう……埋め合わせとね、ならいいとしましょうか」

 

「雪ノ下さん、ほんと申し訳ありません。でもでも、この愚兄がきっといつか倍返ししてくれる筈ですので今日は小町とデートしましょう」

 

 

「そうね、そもそも今日比企谷君がいることが不思議だったし、いいんじゃない?」

 

 あれ? 俺がおかしかったっけ、小町との買い出しに雪ノ下がいることがおかしいんじゃないの……?

 

「まぁ、そゆことだから、すまんな」

 

 

 そう言って俺は走り出した。

 

 

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「来たかはちまん!!」

 とりあえず小萌宅正面へ来たところで材木座が俺を呼んだ。

「だいたいどのあたりで見失ったんだ」

「ここからそう遠くない」

 見失ったポイントでは、術中に嵌ってからかなり経っている可能性もある。だが、材木座が術にかかったということは、その術のエリアに触れたという事だ。

 

「お前が尾行していたルートをそのまま教えろ」

「うむ、わかっておる」

 材木座が人払いに向かって進み出した瞬間

ドガアアアアアア

 

 明らかな爆音が鳴り響いた。その方向へと目を向けると、そこにはあったはずの風力発電のプロペラが無くなっていた。

「材木座、あっちだ」

 材木座の反応を見るがあまり芳しくない。やはり先程の所に人払いが張ってあるということなのだろう。

 

「ついて来い」

「ちょっとはちまん……」

 かなりの全力疾走で音の方向へと向かう。

 近づくにつれ交通は減り、人は減り、中心部の音しか聞こえなくなる。ついでに材木座も消えた。

 まぁ人払いの中だし仕方ないか……

「ちょっと……まってはちまん……はぁ、はぁはぁ……」

 一応、汗だくで追いかけてきていた。

 そんな暑そうなコート着てるからだろ……

「はちまん、あれは……」

「あぁ、俺が最初にバトった痴女だ」

 神裂火織だったか。

 おそらくその神崎が放ったであろう斬撃は風力発電の支柱部分を切り裂き見事に輪切りにしていた。

 しかし、あれで尚七閃。唯閃をぬいていない。

 辛うじて神裂の声が聞こえてくる。

「彼女を保護したいのですが」

「また保護か、勝手な事ばかり言ってんじゃねえよ」

 そう答えた上条はよろめきながら立ち上がる。そして無策にも正面から神裂に突っ込む。いや、他に策が無いのだろう。

 

 前に上条と出会った時、俺の能力あの右手は打ち消した。きっとその時の力であの剣をどうにかしようとしているのだろう。だが無理だ。俺の壁を破壊した時、走って近づいて右手が壁に触れた。その時の上条は何が起こったかわからないというような表情をしていた。

 つまり、常時発動型で、近接のみの効果だということになる。

 いや、そんなことは問題じゃない。その右手は、相手のパンチを受ければそのパンチの勢いを消せるのか。まず消せないだろう。幻想殺しの名の下、おそらく『異能』しか消せない。

 そして神裂の攻撃に異能など微塵も含まれていない。それは俺が身をもって知っている。

 推測通り上条は右手を突き出してワイヤーを受け止める。

 

 その結果は分かりきっている。

 神裂のワイヤーを一身に受けた上条は地面に膝をつく。

 上条も気づいたようだ。斬撃の正体に。

「なぁはちまん、あれはもしかしてフェイクか?」

 意外と早く材木座がその正体に気付いていた。

「ここからじゃよく見えんが、地面の切り口とかが、剣で切りつけたようには見えんのだ。一瞬であれだけ切りつけられる速度を持っていたらあの程度ではすまんだろう?」

 ……感心した。正直それはあまり考えなかった。

 だが、その関心を飲み込むほどの衝撃があった。

 接近する隙もなく、ましてや異能でもないと断定されたこの状況で上条は立ち上がり、再び神裂と相対していた。

 

 それからは神裂が何度も上条を地面に伏せさせ、圧倒的な戦力差を見せつける。それでも上条は幾度となく立ち上がる。

 遂に起き上がらなくなった時には神裂の顔は何故か悲しそうに見えた。

 

 

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「上条! 上条!!」

 大声で呼ぶが反応しない。人払いが切れる前に起きて欲しい。

「人払いきれたら恥ずかしくて大声出せないからな」

「なぁはちまん、あの美麗な女は逃してよかったのか?」

 いいか悪いかで言えば悪いだろう。だがそうするしかない。現状打開策もないし、なにより気絶した上条に気を使いながらなんて自殺に等しい。

「まぁ、仕方ねえだろ。あいつに勝てると思うのか?」

「いや……」

 無理もない。挙動の一つも分からないような速度で動く相手にどうやって刃向かえなどというのだ。

 

「とーまー!!!」

 シスターが叫びながら近づいてくる。とーまというのが上条の下の名前だと気付くのに時間がかかった。

「……魔術結社のほうじゃないみたいなんだよ」

「あ? あぁ、まぁ一般人だ」

 ジト目で見つめられる。

「でもあなた、魔力を使役してる」

「……」

「こんなの初めてかも、自分の魔力じゃない。自然と周りからあなたに纏っているような……魔術の使用の痕跡はない。でもこれは何? 魔力が使われたがっている……?」

 声がどんどん小さくなって行くが止まらない。やがてシスターは唇だけ軽く動いているのが分かるだけになっていた。

「なぁはちまん、我は見誤っていたのかもしれん。ただの電波系怖い」

「いや、電波系女子とかお前の向かうところじゃねえのか?」

 電波系と全く関係ないが電脳コイルはかなり良作だと思う。メガネが中心に物語が回るのもなかなかないと思う。

「いや、流石に会話にならんのは……」

 お前そもそも女子と喋れないしな。なんてことは優しい俺は言わないが。

「シスターさん? そろそろ上条を……」

「うん、こもえのところに連れてかなきゃ……」

「あー、手伝ってやるよ」

 そう言ってゆっくりとお姫様だっこ状態で上条を持ち上げる。

 そのまま材木座に引き渡す。

「我なんだ……」

 だって、重いじゃん? 働くのは死ぬ時って決めてるから。

 

「……ありがとうなんだよ、そう言えばあなたたちの名前聞いてないかも」

 

「俺は比企谷八幡、こっちは材木座義輝だ」

「わかった! はちまんとよしてるだね! 私はインデックスっていうんだよ!」

 インデックスと名乗る少女は屈託の無い満面の笑顔を浮かべる。

 守りたいこの笑顔。

 

 

 だが俺は何も知らない。インデックスがなぜ彼らに狙われているのかも。そもそもどちらが正義で、どちらが悪かということも。

 




日曜日更新にしようかなーと。

遅れて申し訳ありません。テスト期間で勉強しないとだったり、大会があったりで忙しかったです。まぁまだテスト期間は続きますがね…

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