当然読了済み☆
今回の話は、材木座回です!
第13話
帰る途中今日は向かいの寮がやけにうるさかった。消防隊員の人がいたり、野次馬がわんさかといた。火事でもあったのだろうか。
「廊下だけ燃えたって聞いた?」
「何それそんなことあるの?」
「さぁ? でもおかげで誰も死ななかったみたいだよ」
廊下だけ燃えるって、そんなことあんのかよ……まぁ死人が出てないならよかった。
自分の部屋に帰って風呂でも入ろうかとしていたら電話が掛かってきた。
「小町!! ちゃんと元気で学校行ってるか? ちゃんとご飯食べてるか? ちゃんとお風呂にも入ってるか? イジメられてないだろうな? 俺がいなくてもやっていけてるか?」
『お兄ちゃん、ちょっと怖いよ』
よし、元気だ。
『いや元気かどうか聞きたいのはこっちですよ。でも、その調子だと大丈夫そうで良かったよお兄ちゃん』
やっと妹離れしたんだね……嬉しいはずなのになんでだろ………トホホ、なんてわざとらしいことを言ってくる。わざとらしくても可愛いのがうちの妹だ。そこら辺のあざとい連中とは違う。
『そろそろ一週間経ったけどほんとに大丈夫?』
「あぁ、ある一点を除いて問題ないな」
『何かあるの?』
「あぁ……」
電話の向こうが静かになる。小町が真剣に話を聞こうとしているのだ。呼吸音が少しだけ聞こえてくる。なんかエロイな……妹に欲情するってなんだよ、ダメだろそれ。
「……小町がそばにいないことが唯一心配で仕方がない」
『へ……』
「ん? どうかしたか?」
『心配して損しちゃったよー、でもそんなこと言われちゃうと小町すぐにでもそっちに行きたくなっちゃう! あ、今の小町的にポイント高い』
「はいはい、嬉しい嬉しい」
『あ、でもすぐじゃないけど、お兄ちゃんのとこに行くことは決まったよ!』
『学園都市じゃなくてお兄ちゃんのところにってところがポイント高い』
「はいはい、お兄ちゃんのところに来てくれて嬉しいですよー」
は? いやいや、待てこら、こっちに来る?
「えー、ちょっと待て、こっちに来んのか?」
『うん。今日電話掛けた理由がこのことなんだけどねー』
おい、最初は心配だからって言ってたよね? 俺の勘違い? 小町悪い子!
『なんか今朝ポストに小町宛てに手紙が入ってて、お金とか、諸々全部負担するからこっちに来ないですか? ってさ少し怪しいかもしれないけど、行けるなら行こうかなーと思って』
「差出人は?」
『えーと、ちょっと待ってね』
ガサゴソと紙のこすれる音が聞こえる。
『ちょっと、お母さーん! 今朝の手紙どこにやったのー?』
『今手続き書いてるわよー』
物騒な声が聞こえた。聞いてるだけではほんとに詐欺っぽいからやめて欲しいんだが……そういうのは父親の領分だろ。マジでうちの親父はクソだからな。
『ちょっと手紙見せてねー』
『はいよー、八幡と電話は終わったの?』
『んーん、まだしてるよー』
『お兄ちゃん待ったー?』
「お前なぁ、保留の仕方まだ覚えてねえのか?」
もしこれが他人だったら親の雰囲気とか、親の呼び方とかバレっバレになる。
でもまぁ、そのおかげで母親から俺の話をふられた時に嬉しげになる小町の声が聞こえたりするんだけどな? ご馳走様です。ご愁傷様ですとも言われかねない。
「そんで、差出人は? あと切手」
『えーっと……学園都市統括理事長、アレイスター……イコールクロウリー? 切手は貼ってないね』
「そのイコールは読まなくていいと思うぞ、ファーストネームとミドルネームを分けてるだけだろ」
アレイスター=クロウリー……この街のトップ直々の招待状。暗部に引きずり込もうとしたあのアレイスターだ。裏があると考えるのが自然だ。
そして、アイツの名前を使ってるとなると、嘘っぱちともいいきれない気がしてくる。
やはりこちらに来ない方が安全なのかもしれない。そもそもこの街は治安が良くないしな。
いや、今しがたアレイスター=クロウリーは実家すら手が届く範囲だと証明されたばかりだろう。それなら俺の近くにいた方が安全なのか?
「人質を取られた」と考えることもできる。
「多分それは詐欺とかじゃないが、そっちの友達とはどうするんだ? 突然こっちに来たら困るんじゃないのか?」
「いーのいーの! お兄ちゃんとまた一緒にいられる方が嬉しいよ! 今の小町的にポイント高い!」
今時の女子中学生ってそんなにドライなの? それは友達とは言えないと思ってしまうが、俺だけなのだろうか。
『とゆーわけでっ! 今週中にはそっちに行っちゃうから、彼女の一人でも見せてね!』
そして小町は電話を切った。
「あなたに電話をかけてくる人なんているのね」
「いるわ! 妹の小町だけだけど」
自分で言ってて涙が出てくるわ……
「仲が良いのね……少し羨ましいわ」
「一人っ子のやつは大抵そう言うよな、実際そこまでいいもんじゃねえぞ?」
「いえ、そうではないのだけれど」
「?」
「それで、妹の小町さん、こっちに来るのかしら?」
会話を聞いていたのだろう。
「あぁ」
すっかり忘れていたがこっちに来たらコイツと会うことになる。そんなことになったら小町のことだから勘違いしていじりまくってくるに違いない。電話切る直前に彼女見せてとか言ってたし……
学園都市に来るだけで彼女ができたら誰も困らねえっつうの。
ピーンポーン
インターホンが鳴る。
おいおい小町よ、そういういたずらいらねえからな……
心の準備をして扉を開ける。直前。
「ケプコンケプコン」
「……雪ノ下、無視していいからな、というか、無視しろ。何があっても扉を開けるな」
「けれど、今呼び鈴がなったじゃない」
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!
渋々出ようとしていたら雪ノ下が先に動いた。
「うるさいわね、迷惑だと思わないのかしら、あなたの脳みそはそんなこともわからないの?」
扉をあけたその先には、季節はずれの真っ黒なコートを着た太めの男が立っているのが見えた。やっぱりコイツかよ……
「え、え、は、八幡は……」
「私は雪ノ下雪乃よ、彼ならそこにいるけれど」
「は、はちえもーん!」
靴を適当に脱ぎ捨ててダッシュでこちらに向かってくる。
「待て待て! グハァッ!」
「はちえもーん、あの女は彼女か?! 我は貴様を同士だと思っていたのだぞ!! この裏切り者めが!!」
俺に全力疾走で突撃してきた上に盛大な勘違いをしながらプロレス技をかけて来る。
やばい、落ちる……
次第に床を叩く手にも力が入らなくなってくる。
こんな……ところで俺は死ぬのか……
「さ、せ、る、かぁぁあああああ!!」
必死の相手の肩に触り能力を使う。不良を撃退したときと同じように。
「ぬぐふぅっ! は、はちまん貴様何をした!!」
「ちょっと能力使っただけだよ! っつかお前が……はぁはぁ……プロレス技で俺を落とそうとするのがっ……はぁ……悪いんだろ!」
息も絶え絶えになりながら叫ぶ。
「それにしたって関節外す事は無いかと思うのだが……というか、どうやって」
「……貴方達、なんの茶番かしら」
見ていられなくなったのか、ようやく雪ノ下が突っ込む。
その声を聞いてか知らないがすすっと腕を引きずりながら俺の背後に回る。
「お主、八幡のなんなのだ!」
いい声で叫ぶ。俺の背後じゃなければかっこいいかもしれないのになぁ……あとそういうのは相手の目を見て言おうな? というか早く帰れ。
「あぁ、コイツは今寮がないから、ここに居候しているんだよ」
「それは……捗るでござるな」
捗るってなんだよ。怖いわ。というか帰れ。
「さっきからその話し方はなんなのかしら? やめなさい鬱陶しいわ。あと比企谷君、わかり易く説明しなさい」
「ご、ごめんなさい」
おい、キャラ崩れてんぞ、っつか帰れ。
「同じ千葉から来た材木座義輝、ちゅうに……」
「いかにも我が剣豪将軍、材木座義輝であるッ!!」
「うるせぇ、紹介してるから黙ってろ」
「は、はい」
ねえはちえもん辛辣じゃない? ねえ、なんて聞こえてくるが知らない。無視だ。
「ちょっと比企谷君、なんなのアレ」
「あぁ、それはな」
説明するのも恥ずかしいくらいだ。
「中二病ってやつだ」
「ちゅーに病? 病気なのかしら?」
精神病? と首を傾げているが、まぁ、あながち間違いではないのかもしれない。
「別にマジで病気、というわけじゃないが、ゲーム、漫画、アニメ、ラノベ等に出てくる設定をさも自分にもあるかのように振るまうことだ」
「なんでそんなことするのかしら?」
なんで? この質問こそ笑えるな。なんでもなにも、漫画に登場する主人公や敵キャラはどう見える? それがもし自分にもありえる話でそんな力が自分にもあったら? どう感じる?
「「カッコイイからだ」」
不覚にも材木座と意見が被ってしまった。
「なるほど……同一視が酷くなったみたいなものね」
同一視、といえば防衛機制と言う奴だっただろうか。
そう考えれば中二病も一種のストレス発散法であり悪いことばかりではないのかもしれない。
「まぁそんなところだ。でもあれはまだましだ」
実在している、していた何かになりきる。なんてままあることだが。自分で空想してしかもそれになりきるなんて恥ずかしくて思い出すだけで恥ずかしい。作家がその主人公になりきって自分のかっこよさを語っているようなものだ。恥ずかしいというか痛い。
「あぁ、そんな誘導尋問には引っかからないがな」
「別に誘導してないわよ……」
雪ノ下が軽く引いている。
べ、別に俺のことじゃねえし?!
「それで、貴方何の用かしら」
「フハハハハ! 我は」
「どこを見ているの。話しているのは私よ、目を見て話なさい」
「ハハハ! これは失礼した! 凡俗な」
「喋り方も普通にしなさい」
「は、はい」
「というか、その格好はなんなのかしら」
「こ、この服は瘴気から身を守る為の外装である、のだ!」
「喋り方」
「はい……」
だぁー!! もうやめてやってくれ! 見てる俺が恥ずかしい!
「……で、お前はなんで、俺の部屋に着たんだ」
「ふむ。やはり気になるか。」
「いや、やっぱいいわ、帰れ」
社交辞令で聞いてやっただけで、心底興味無い。帰ってくれるならなんでもいい。ラブプラ〇でもしてろ。
「待て八幡! 話す! 話すから!」
「早く話せよ……」
それで帰れ。ラブライ〇でもしてろ。
「今朝我がベランダで敵、奴らの監視をしていた時のことだ」
なんだ、自意識過剰か。
「へえ、一人ベランダで外の空気を吸っていた時に?」
「何やら白い修道服着た女がベランダに干されておってな」
「へぇ、白い……は? それ布団なんじゃね?」
「いや、我のベランダではなく向かいの寮のベランダなのだが」
向かいの寮ということは、同じ高校の一年……
「ってかお前も同じ高校かよ!!」
「知らなかったのか?」
「知らねえよ! 最悪だ……」
コイツと同じ高校とかそれだけで学校に行く気が半減する。コイツ暇があったら俺のところ来そうだし。
「んで?」
「そう、そこからが重要なのだがな。昼頃になって何やら火事が起こったのだ」
なるほど、向かいがうるさかったのはその火事のせいか。
「関係が無いとはどうしてか思えぬのだ、廊下しか燃えていないというのも気になる。しかしな、救急隊が駆けつけるまでにその付近を調べて回ったんだがな」
「こんなものがあった」
そう言う材木座の手には正方形の紙があった。そこにはCとFを混ぜたような記号が書いてあった。確かこれは……
「ルーン文字ね」
「あぁ、でもこれは、流石にただのイタズラだろ」
「まて八幡、異能が存在するのだ。魔術が存在してもおかしくないとは思わないか?」
なるほど、言わんとすることはわかる。
「こんな文字を知っているのはその手の専門家か、魔術師が存在しているならば、そやつであろう」
「そして今朝現れた修道服の女」
「つまり……? 魔法なんて物が存在するといいたいの? 馬鹿らしいわね」
正直、俺は雪ノ下と同じように簡単に否定できない。
なら原石ってなんだ? 突如俺の体にそういう力が備わったなんて、それこそ科学的確率では無いと思う。
材木座が声を小さくして雪ノ下に聞こえないように耳打ちする。
「ここだけの話、我は今回の火災、犯人はその魔術師だと思っておるのだ」
その目は偽りなどにひとつも宿しておらず、中二病だからこそ引っ張り出せた証拠があり、そのうえで俺を頼ってきたのだ。
「ちょっと明日から我とひと仕事頼めぬか?」
その声はいつもの作った声ではなく。遠目に見ただけの少女を守ろうとする、硬い意思を帯びた、真剣な声だった。
俺もその真剣な声に動かされそうになる。コイツは真剣に考えて見知らぬ少女を救けようとしている。それが無意味であっても、何か行動しようとしている。それなら俺はどう誠意をもって答えるべきか。
答えは決まっている。
「明日は多分ずっと部屋でゴロゴロしてる予定だったから」
「はちえもん……」
「なんかあったら呼んできていいぞ」
「はちえもぉぉぉおおおおん!!」
うるせえな、ちゃんと働いてやるっていってんだぞ? なんでそんな呆れたみたいな意味を込めて叫んでんだ
「あなた……最低ね」
「ぬ、話は変わるがお主、確か雪ノ下雪乃と言ったな?」
「ええ、そうよ」
「もしや彼奴も同じバスに乗っておったか?」
「それがどうした?」
「いや、お主逆に聞きたいのだが、なぜ知らんのだ。あのバスに乗っておったのはほとんど我らが高校の連中だぞ?」
「は? マジで?」
「ほら、1年の時にも学園都市に行きたい者は学年ごとに10人まで学校側から推薦してくれる。と言っておったではないか」
「マジ?」
友達いないから全然知らなかったんだけど。
「いや、何故覚えておらんのだ。お主のクラスではないが、金髪のメスと葉山とかいう鬱陶しい奴らがそれに志願して、そのアピールが酷かったせいで志願者が少なかったではないか」
あぁ、確かにあった気がする。そのせいで俺たちはそのビックウェーブに乗り遅れて2年になってやっと来た、という事か。
つか、葉山……?
「その葉山ってもしかして葉山隼人ってやつか?」
「うむ? それがどうかしたか?」
「いや、なんでもない」
あいつか、あいつとその取り巻き……と言うことは由比ヶ浜も……?
「それで、雪ノ下殿」
珍しく材木座が女子と面と向かって話そうとしている。チラチラこっち見んな
「…………」
「お主、覚えておるぞ、こちらに来る前は我が母校と同じ高校であるな?」
「ええ、そうだったかもしれないわね、貴方達のことは知らなかったけれど」
心なしか雪ノ下の表情に焦りが見える。
「へえ、じゃあ廊下とかですれ違ってたかもしれないな」
「八幡! 問題はそこではない!」
うるせえよ、声の大きさ抑えろよいい声してんだから
「なんだよ……」
「雪ノ下雪乃といえば、容姿端麗、成績優秀、品行方正、『奉仕部部長』のあの雪ノ下雪乃ではないか!」
「あぁー……国際教養クラスの……」
思い出してきた。確かにそんなやつがいた気がする。顔も見たことはないが、噂だけは聞いたことがあった。
「え? マジでお前あの雪ノ下雪乃なの?」
「はぁ……まぁ、そうよ、どれほど尾ひれのついた噂になっているか知らないけれど、『あの』雪ノ下雪乃よ」
「割とラノベの主人公向きなのかもしれんな、八幡。高校入学直後『事故』したとも聞くし、女の子が居候なんて、さっきの能力も説明できぬし、もしや貴様
ごめんなさい
「事故……?」
雪ノ下が呟く。
「あぁ、アホな飼い主が犬のリードを離しちまって引かれそうになってる犬を、それはそれは超かっこよく助けたんだよ」
「あの車は結局大丈夫だったのか? 許してはくれたけど高そうだったし」
「ムハハハ! 心配するところが違うであろう! それで一週間入院してぼっちになったんであろう? ププププ」
イラッ
「ブヒィィ!!」
結構全力で腹にパンチをお見舞いした。つーか、ブヒィィ!! とかリアルで言う奴いたのかよ。こいつを殴るんなら罪悪感ゼロでなぐれるな。あと柔らかいお腹してるからちょっと気持ちいい。
「ぐふっ……まぁ良い、ではまた明日来る! さらばだ!」
「あ、まて、まだ肩治してない」
そう言えばずっと外れっぱなしだったんだな、シュールすぎんだろ。
「これしきのこと!」
あの不良たちは一瞬でビビって逃げていったのに、コイツはひるまねえのな、コイツの方がかっこいいんじゃね? まぁ、路地裏で人の金にたかる奴がかっこいい訳はないがな。
「私に任せなさい」
そう言って雪ノ下は材木座の肩に触れる。おい、そんくらいで鼻息荒くするなよ、雪ノ下がちょっと引いてるぞ。
「力を抜きなさい」
雪ノ下……それは女子に対する免疫がゼロの材木座には無理な注文だ。
なんとなく雪ノ下も察したのか面倒くさそうな顔をしている。
雪ノ下が一息入れて力を込めたら手の長さが元に戻った。まぁつまり、治った。
「はい、治ったわよ」
そんな簡単に治るもんなんだな、雪ノ下がすごいのもあるんだろうけど。
「フハハハ! 感謝する! さらばだ!」
どたどたと床を踏み鳴らして帰ってゆく。
それにしてもうるさかったな。
「やっと帰ったな……」
「えぇ、なにかどっと疲れたわ」
足音がまた近くなってくる。
「どうした、なんか忘れ物か?」
「いや、一つ言い忘れておってな。我々はまだ学生だ。過ちは、絶対に犯すなよ」
それだけ言い残してまた走って行く。
「……雪ノ下、ちょっとあいつぶっ殺してくるから待ってろ」
「待ちなさい、私も行くわ」
その夜、一人の男の悲鳴が学園都市に響きわたった。
小町と、材木座登場!