ほら、バレンタインとかいう地獄のイベント!楽しくないねぇ。実に楽しくない。では、11話
第11話
白髪の少年と対峙するのは確か御坂美琴の妹と自称するゴーグル少女だ。
「……(とりあえず雪ノ下をこの場からできるだけ素早く離さねえと……)」
はたから見ればただの男子と女子だが俺から見れば違う。彼ら双方の認識の仕方には明らかに平常から離れた「それ」がある。一言で言って。異常だ。
片や「殺意」を。
片や「責務」を。
……それでも、それだけなら俺はまだ見過ごしたかもしれない。
しかし彼らはそれが日常的であるかのような、殺すことに抵抗がなく、殺されることにも抵抗がない。そんな二人だった。
だから
間違いなく、何があろうとゴーグルの少女は、決まりきったルーティーンのように
――殺される。
その瞬間までどれだけの猶予があるか分からない。でもこれだけは言える。その瞬間を雪ノ下に見せるわけにはいかない。
それ以前に、殺し自体を止めなければならない。「知らなかった」では許されない。もしそんなことをしてしまったら、俺は、正気でいられない。少なくとも雪ノ下に、由比ヶ浜にも合わせる顔が無い。千葉にいる小町にも顔向けできない。たとえ許されようとも。俺は俺を許せない。
「雪ノ下。こっちに来い」
悩んでいる暇は無い。
俺は雪ノ下の手首を掴み走り出す。
「ちょっと……っ」
制止の声など聞いている場合ではない。焦って手首を握ったりしてしまったが状況が状況だからノーカンだろう。もっとも雪ノ下は今の状況のやばさにも気づいていないはずだが。やべ、そう思うと手汗が……
もうそろそろいいかと俺が速度を緩めようとした瞬間、雪ノ下が立ち止まる。疲れたのかしら?
「やめなさいと言っているでしょう」
ヒュッと風を切る音が聞こえた。そう気づく前に地面に叩きつけられ、肩固めと言うのだろうか。ドラマや映画でパトカーに叩きつけられて肩を固められ、手錠をつけられる。そんな技を使ってきた。
「……痛ぇ…………」
突然すぎてそんな言葉しか出てこなかった。
「あなたがすぐに離さないからでしょう。強姦なら諦めた方がいいわよ?」
「そんなことしねえよ!」
「あら、てっきり……」
やっと技を解いてくれた。
「まじか、そこまで信用無かったのか俺」
無いとかいうレベルじゃないだろ。肩を軽く回しながら言う。まだ痛ぇ……
「いえ、それはさすがに冗談なのだけれど、不快……いえ、驚いたのよ」
今お前不快って……まぁいいわ、とりあえずここで待ってもらおう。
雪ノ下を見つめて有無を言わさないように俺は言う。事態は急を要する。ここでグダグダしているうちに時間はなくなって行くのだ。
「雪ノ下、ここで待っていてくれ、絶対に動くなよ」
「……さっきからあなたどうかしたのかしら? 慌しいわよ」
「聞かんといてくれると助かる」
「……けれどそんな急いで「聞かないでくれると助かる」……ッ」
これ以上雪ノ下に首を突っ込まれては元も子もない。
「それにお前には関係ねえことだ。心配するようなことじゃねえよ。」
嘘……ではない。実質関係はないし、心配することでもない。あの二人に気づかずにあの場から離れた時点で雪ノ下に責任は無い。
そして雪ノ下は黙った。
迷いも、後悔も無いと。そう示すようにはっきりと雪ノ下に背を向けて走り出す。
――彼ら二人を止めるために。
こんな中二的展開、ほんとにあるなんて思っていなかった。千葉から一緒に来たアイツもこういう事を学園都市に期待していたのだろうか。「殺し合い」を目の当たりにしたかったのだろうか。
理解できない。と断言してやりたいが……ほんの少し興奮が入り交じっている。
でも、俺はそんな中二展開に興奮こそすれ、喜び勇んで無駄死に、野垂れ死にたくなどない。しかも片方は死ぬことを享受しているのだ。雪ノ下にその瞬間を見せたくなかった。理由はそれだけだ。
ならもう走らなくていいんじゃないか?
息を切らしてその現場に戻る必要はあるのか?
なんで俺はこんなに必死なんだ?
なんで俺は……
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?
二人が消えていた。
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「……比企谷君、あなた突然カッコつけて走っていって。実は何もありませんでしたで終わらせるつもり?」
その後何事もなかったかのように(本当に何もなかったのだが、むしろ最初より綺麗なイメージさえあった)引き返して雪ノ下と共に寮へ帰った。
そして今に至る訳だが……雪ノ下がお怒りのようです。ぷっぷー、ばっかじゃねえの? そんなので騙されるなんてなwwwww
強がりもここまでにしよう。あの流れで実は何もありませんでした。というわけなのだが。つまり俺の勘違い。本っ当に何もなかった。髪の毛1本も、バトルの痕跡も。汚れの一つも。
「答えられないのかしら。あなたあんなに急いで何をしていたの?」
「ゆ、雪ノ下さん、ごめんなさい。ほほ、ほ、本当に何もなかったんです。はい」
そんなこと言われてもなぁ……マジで何もなかったし、謝りたくても謝れねぇよ……
「いや、マジで何もなかったんだよこれが。俺の勘違いだったんだよ」
「そもそもあなたは何をあんなに焦っていたのかしら?」
「あぁ? トイレに決まってんだろ。今の今まで隠してやったっていうのによ。じゃあ俺はあの時必死に我慢しながらお花摘みに行くとでもいえば「黙りなさい」ごめんなさい」
間髪入れずに謝ってしまった。世界で争っても一二を争えるだろう。なにそれ何もかっこよくない。
「はぁ……まぁいいわ、結局大したことはないみたいだし」
本当になぁ……なんで何にもねぇんだよ。世界七不思議の一つに数えられるレベル。まぁ実際世界の七不思議なんて学園都市がほとんど解決させちゃってるんだけどな。夢もロマンもねぇよ。夢もロマンも中学の時に捨てました。
「……まぁ、なんか悪い」
「まぁ別にいいのだけれど。ただ少しあなた……」
「え、なんだって?」
小鷹の必殺技を使ってしまったが、ただ本当に雪ノ下の声が小さくなって聞こえないのだ。
「……いえ、やっぱりいいわ」
「えぇ……」
べ、別に気になってなんかいないんだからね!
ピロリンと雪ノ下の携帯に着信があった。
「由比ヶ浜か?」
「ええ、そうみたいね、何か用かしら」
『ゆきのーん!
今日は楽しかったね!ヽ( ´ ▽ ` )ノ
また一緒に遊ぼうねー!ヽ( ´ ▽ ` )ノ』
「……これ、返さないといけないのかしら」
「さぁ……返さなくていいんじゃね? というか、人から来たメールとかあんまり他人に見せるもんじゃねえからな」
「そうね、一応返しておくわ」
無視かよ……。良くあるよね、女子の「コレとコレ、どっちが似合うー?」
真面目に答えたら「えー? センス悪くなーい?」
答えを渋っても「チッ、答えろよ」ってなる。まぁそもそも女の子の友達なんていないけどね。あ、男子もいねえや☆
雪ノ下が返信メールを考えていた頃俺にも同じようなメールが来た。
返信……してやるか。
え?戦闘にはいるんちゃうんか?!って?ごめんなさいまだです。
そう言えば葉山は爆弾の時どこに言ってたんでしょうね?
それも書いていこうと思います。