西暦2021年前に転生したんだから科学者として頑張るしかないでしょ!!   作:namaZ

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八月中は多分もう投稿しません。書くとしたら九月からになります。
久しぶりすぎで木原の口調忘れた(笑)
















第三十六次観測

「森を抜けました。これで携帯も機能するはずです」 

 

 

 戦闘音も赤い光もまだない。アルデバランはまだいないようだ。民警との衝突前にたどり着けた。携帯を掴み出すと衛星モードに切り替えて番号を呼び出す。

 

 

「……」

 

「どうしました?固まってないで早く繋いでくださいよ」

 

「……ここは本当に電波が届くんだよな?」

 

「?障害物が無いですからね。衛星電話なら尚更機能するはずですが」

 

「……まずい、キャンプ地に向かうぞ!」

 

 

 駆け出そうとする蓮太郎を悠河が諫める。走りながらでいい、どういうことだ。事情を話せと。

 

 

「……電波が一切届かない。似たような状況に身に覚えがある。あの時はアイツが絡んできた」

 

「『木原』か……」

 

 

 電波妨害(ジャミング)による連絡手段の遮断。それにより走ってアルデバランより先に民警のキャンプ地にたどり着く必要がある。問題はこの電波妨害が偶然このエリア付近に展開されていて俺たちが其処に入り込んでしまった。もしくは、俺たちがここに来るのを分かっていて電波妨害をこのエリアに展開していたのか。後者だとしたらこのまま大人しく行かせてくれるのか?

 

 

「常に監視されているのか?」

 

「おう。そうだよ」

 

 

 ――――――え。

 

 チッ――――――顎に拳がカスる。それだけで、蓮太郎の膝は崩れ落ちた。抵抗も出来ぬまま手首を捻られ顔面から地面に着地する。そのまま右腕を極められ、首に圧がかかる。何時でも首の骨が圧し折れるよう靴底が首に乗せられる。

 

 

「動くな」

 

 

 その一言に込められた力に。悠河とももか、あの蛭子親子でさえ止まるしかなかった。彼らの後ろにもう一人姿を現す。少女は肩まで届く短めの赤髪に黒のセーラーワンピースを着ている。赤のスカーフが髪とマッチしているのがポイントだ。下らない分析をしてはいるが、ももかと小比奈はガストレア因子による本能か、はたまた直感からヤバい奴を見れば喧嘩を売るべきか逃げるべきかをある程度理解できてしまう。二人とも死と隣り合わせの環境で育ったせいもあり、生き抜く処世術を身に着けたのかもしれない。故に直感した。

 

――――――この二人には勝てない。

 

 

「がははははははははははははははは!!」

 

『ッ!!』

 

 

 それぞれが得物を無意識に手に取る。危機的状況に対する条件反射だが、今はどうしようもない。

 

 

「まぁまぁあんちゃんら落ち着けってぇ!!別に殺し合いをしに来たわけじゃねーんだかんよ!!まぁそんなにも先走りたいなら止めねぇよ?」

 

「……誰の指示だ。『木原』か?」

 

「さーなーどうだろうな!?あんちゃんは俺が違うっていえば納得すんのかよ!!?しねーだろ!!俺がその『木原』って奴の命令でこんな事してんですって言えば満足か!!まぁ実際違うけどな!!……その変どうでもいいだろ?俺があんちゃんらに要求するのはたった一つだ。ここで大人しくしててくれや」

 

「……ざけんなッ」

 

 

 その要求に真っ先に反論したのは、今にも殺されかけている蓮太郎だった。

 

 

「アルデバランがそこまで来てんだ。今ならまだ先手が取れる。……航空支援が要請できんだよ!!プレアデスを倒したって報告するだけでこの戦況を覆せるかもしれねぇんだよ!!俺はもう、あんな死に方をする奴を増やしたくないんだ……民警が全滅すればお前も終わりだぞ」

 

「終わりでも何でもねーよ。あー……何か勘違いしてねーか?あんちゃんのやりたい事も信念も覚悟もよーく分かった。でもな、組織で働くってはこういう事だ。人が死ぬ、たくさん死ぬ。やりたくないししたくないでまかり通るスジはねーんだわ。上の命令に従うのが組織だろ?どーしてもやりたくないなら、んな組織やめてらぁボケ!!だからなぁんな分かり切った条文宣っても俺には響かねーぞ!?俺に言わせれば身内以外どーでもいいんですわ。英雄様と違って赤の他人にまで手を伸ばすほど人間出来ちゃいないんだよ!!分かったかこのアンポンタン共!!」

 

「流石です。清々しいまでのゲス発言」

 

「がはははははははははは!!知ってるくせに!!そういやー自己紹介まだだったな!!俺はIP序列9位『旅人の運転手(カプリース)』!!これを聞いたうえでやるってんなら命賭けろよ!?」

 

 

――――――IP序列9位。

 

 それは、天地が引っくり返ろうが決して越えられぬ壁。正真正銘の化け物が1位と2位なら、その枠組にいる一桁台もまた化け物。百番台の蛭子ペア、九十番台のティナ・スプライト。それを遥かに凌駕する世界最強の人類の九番目。

 

 

「それで、どうする!!?」

 

 

 勝てない、レベルが違いすぎる。何も知らないままこの唯のおっさんと知り合っても酔っぱらいの戯言ものでしかなかったが、それを裏付けるプレッシャーと、実力を見極めているのに最も長けている蛭子ペアが挑発も殺気も飛ばさない。小比奈に至っては怯え、小さな体を震えさせている。これはももかにも言えるが、何処か慣れている様な反応だ。そう、どうしようもない各上相手のプレッシャー、重圧にどう考え、思い、体をどうするべきか分かっている様な反応。

 蓮太郎も悠河も影胤も、小比奈でさえどうするべきか打開策を足りないの脳で考えている。だからこそ、ももかは諦めていた。直感から小比奈とももかは同じレベルで危機感を共有した。だが、違いがあるとすれば性格。

 ももかは、受け身で流れに身を任せるタイプ。

 小比奈は、戦うな以外の選択肢を知らない。そもそも戦ってすらいない相手から逃げるといった教育をされていないのだ。

 故に、殺されるのは嫌だし痛いのも嫌だけど、"どうしようもないなら仕方ないじゃん"と諦めていた。

 

 

「ももか」

 

 

 なのに。名前を呼ぶこの少年は微塵も諦めていない。

 

 

「生きて帰るぞ!!」

 

 

 プロモーターに応えるのがイニシエーターなら、ももかは決して諦めない。

 

 

「うん!」

 

 

 流れは、決まった。

 

 

「馬鹿もここまでくると愚かですね」

 

 

 IP序列9位のイニシエーター:ヴァンティアンは、戦闘力が最も高い蛭子ペア、その司令塔であるプロモーターの心臓を何の躊躇もなく獲りに行った。機械化兵士といえどもとは人間、視界には霞みしか捉えきれず何も反応できない。しかし、今だかつてない強敵を前にした小比奈だけは完璧に対応した。勝てるか分からない強敵を前に、高められた集中力と溜め込んだ闘気と殺意が、ヴァンティアンの攻撃が引き金となり完璧に対応できるだけの爆発力を発揮した。

 

 

「ッ!!これは……驚きです。一呼吸で繰り出せる最大連撃全二十一撃を急所に叩き込んだのですが……ここまで完璧に防がれたのは初めてです。……嗚呼、これも初めてですね。今から殺す相手に()()など懐いたのは」

 

 額、目、乳様突起、アゴ、首、頚椎、心臓、肋骨、肝臓、肝臓、みぞおち、膀胱、肩口、脇の下、上腕骨隙間、手首、肘後部、膝、モモ、スネ、アキレス腱。人体の急所と呼べる箇所に過剰なまでの殺傷行為。1位を含め彼女より上位の8人に防がれていたなら何も感じなかっただろう。9位10位、二十番台までなら何か思う事もあっても殺意までは抱かなかっただろう。しかし、相手は百番台の雑魚。遥か格下に己の二十一撃全てを完璧に防がれる。それは、『運転手』の娘として、お父さんに教えてもらった絶対と確信する技を防がれたことによる怒りと屈辱。

 

 

「よく考えることがあります。何故、遥か格下相手に抵抗された強者は冷静さを失い。暴力的になるのかと」

 

 

 ヴァンティアンは武器あるオープンフィンガーグローブのバラニウム加工されている甲の部分を人差し指で優しく撫でる。

 

 

「成程。確かに、見下していた相手にコケにされるのは頭に来ますね」

 

「斥力フィールドッ!!」

 

 

 影胤はフィールドを全力展開しヴァンティアンを弾き飛ばした。影胤も理解しているのだ。小比奈の限界を超えた動きは生半可なものではない。精神的な疲れに加え、肉体の彼方此方は先ほどの動きに伴う犠牲を払っている。呪われた子供たちがどれだけ傷の治りが速かろうが、そんな不完全な状態では命取りになる。

 

 

「あーやるしかねーな。あの子妙にヤル気満々だが俺は気絶だけですませてやるぜ!!」

 

「ッ!!」

 

 

 右腕を破壊しようと力を込めた『運転手』は、掴んでいる手の感覚の違和感の正体に思い至った。

 

 

「あーそう言えば機械化兵士だったか!!?痛そうにしてたし気のせいと思ったぜ!!」

 

 

 痛覚神経を遮断した蓮太郎は、右腕を無視し転ばせようと体を回転させ蹴りを足に叩き込む。

 

 

「うそだろ!?」

 

 

 足は大木のように地面に張り付き微動だにしない。

 

 

「鍛え方が違うんだよ!!機械化兵士なら機械を使って鍛えぬいた人間超えてみせんかい!!」

 

 

 掴まれたままの右腕に圧がかかる。何をしようとしているのか察した蓮太郎から熱が引いていく。右腕を破壊するんじゃない。右腕の接合部を破壊するつもりだ。

 

 

「うおおい!!」

 

 

 影胤がヴァンティアンを弾き飛ばした瞬間駆け出したももかの右こぶしを『運転手』は回避のため掴んでいた手を放す。

 

 

「仕切り直しか!!ええぞいいぞ!!オラオラ準備が整うの待っててやるよ!!さっさと立って構えろ!!」

 

「うるせぇんだよ少し声抑えやがれ!!」

 

 

 蓮太郎と並ぶように悠河とももかはIP序列9位を見据える。

 

 

「どうやら待ってくれてるみたいですし僕の作戦に聞く耳在りますか?」

 

「俺だけじゃどうあがこうが勝てない相手ってのはわかった。……力を貸してくれ」

 

 

 当然とばかりに、最も最適な作戦を伝える。蓮太郎はなにか言いたげな顔をしたが、そうするしか生き残る道がないならそうするまでと作戦を肯定した。

 

 

「今更じゃもう手遅れかもだけどあえて言わせて貰うぜ!!アルデバランがひと暴れしてこっちが指定する時間までプレアデスを倒した報告をしないと約束してくれんなら!!縛るだけにしてやるよ!!」

 

「「断る!!」」

 

「嗚呼!!知ってる!!」

 

 

 義眼開放――――――三つの眼の力が解放される。

 『運転手』の重心、構え、筋肉繊維の力の加え方で未来を予測する。『運転手』とて人間、呪われた子供たちの身体能力を有していない。どれほど鍛え貫こうが、人間としての技術を極限まで極めたというのなら、人間の造り出した人間を圧倒する機械で粉砕するまで。ヴァンティアンは未知数だ。IP序列9位の恐ろしさはヴァンティアンに集約されている。ここの3人より、ヴァンティアンを圧さえこんでいる蛭子ペアの方が称賛するべきだ。

 IP序列9位――――――その肩書は本物で、脅威であるが、プロモーターは別だ。なら、全力をもってプロモーターを倒し、イニシエーターを全員で叩く。人間を超える新人類が三人も居るのだ。可能な筈。

 そう考えていると『運転手』は見抜く。その未来予知を越え叩き潰すと誓う。

 

 

「「行くぞ!!」」 

 

「来いいいいいいいいい!!!」 

 

 

 『運転手』は構えを解かない。そもそも彼の任務は時間稼ぎだ。向こうが時間をかけるならその邪魔をする必要はない。何より、彼の戦闘スタイルは何がどうなろうが変わらない。人間を、人類を超える新人類機械化兵士。

 義眼の演算加速は最大で「1秒間を2000秒間に体感」させる?ガストレアステージⅣを殺せる手足?あらゆる攻撃を弾くシールド?そんなんで俺に勝てる気なら、人間の底力見せてやるよ!!

 

 

「くらえ!!」

 

 

 蓮太郎は左足の踵を叩きつけ仕込んだカートリッジを炸裂させる。推進力を得た体は空高く飛び上がり、悠河とももかはそれに合わせるように地を走る。

 

 

「(シャコペアが先に当たる。ちんちくりんは落下重力を利用して更に威力を倍増させた踵落としか?)」

 

 

 そこまで読んでも構えは変わらない。動きが読まれるならその読まれた相手の動きに反応すればいいだけだ。

 

 

「痛いのはがまんしとけ!!」

 

 

 悠河の眼と同調したももかは、何処をどう殴り、どう対応するのか、同じ眼と思考を共有している二人にしかできないコンボ攻撃を二十パターンまで試したところで防がれると予測した。よって、ももかは作戦も糞もない戦法に出た。

 

 

「シャコラッシュ」

 

 

 我武者羅なただのラッシュ。だがシャコであるももかの拳を一撃でもくらえば致命傷だ。それをインパクトの瞬間、手首を弾いて軌道をずらしている。その光景に、予測通りにP8拳銃を『運転手』の足に発砲する。一撃でも逸らし損ねたら死に直結する状況の中、ももかの背に隠れるように抜いたP8拳銃を防ぐとは出来ない。拳銃も発射タイミングも分からないまま撃たれて唯の人間がかわせる筈がない。

 足に当たった瞬間、弾丸は弾かれた。

 

 

「俺みたいな脳筋馬鹿が飛び道具対策してねーと思ったんかい!!服の下には分からねーくらいの極薄プロテクターを着こんでんだよ!!」

 

「そこまで予測できなかったが、これで9位を倒せるなんて考えちゃいないよ。先輩!」

 

「おう!!」

 

 

 『運転手の』頭上まで接近した蓮太郎は踵を振り上げ――――――振り下ろす。ももかは蓮太郎に巻き込まれないよう後ろに飛ぶ。『運転手』も即座に頭上に対する防御の構えをとった。頭上に構えた『運転手』の拳数ミリ手前を思いっ切り空振った。

 

 

「あへ?」

 

 

 そのまま飛んでいく蓮太郎に、自分はまんまと嵌められたのだと悟った。

 

 

「おんどりゃー始めっから!!?」

 

「嗚呼そうだよ。まともにぶつかる分けないじゃん」

 

「脳筋馬鹿(笑)」

 

 

 左足のカートリッジの推進力で飛んでいる蓮太郎に追いつく手段は『運転手』にない。奇しくもヴァンティアン同様、格下にコケにされたのだ。

 

 

「ザッケンナー!!ぶっ殺してやる!!」

 

「吠えるな。雑魚に見えるぞ」

 

 

 怒りを表した『運転手』だったが、波が引くように感情の高波を霧散させる。

 

 

「本当なら護衛である俺がどうにかするべきなんだが……あの人もあの人で妙にヤル気だからな。さっさと沈めて戻ることにするわ!!」

 

「(妙に会話が噛み合わないな。先輩の方向に誰かいるのか?どうにかなるレベルだとありがたいんですが、そう簡単にいきませんか)」

 

 

 『運転手』が歩き出す。ゆっくりと此方に攻撃の意思をもって近づいてくる。義眼が教えてくれた。悠河とももか、どちらかが一人で戦おうとすれば五手――――――否、二手で敗北すると。

 

 

「攻撃の手を絶対に休めるな。あとは合わせる」

 

 

 ももかはプロモーターを信じて自ら懐に飛び込む。ももかの攻撃は防げない、回避するか逸らすしか方法は無いのだ。それを利用して悠河が更に責め立てる。ももかの動きを予測し、ももかの真後ろから拳銃で狙い撃つ。

 

 

「なんてアホな戦い方だ!!思い付きはしても実行なんて普通しねーよ!!」 

 

 

 目を共有し、プロモーターなら合わせてくれるというイニシエーターの絶対の信頼がなければ成立しない戦法。演算し、最適な予測を繰り出す眼にどれが最善か選び出し実行する判断力の思考速度。特殊な訓練を受けなければ思考速度に対し反応の遅い肉体で予測された動き通り動くのは困難極まる。まさに、この二人でしか成立しない戦い方なのだ。

 

 

「(服の下で見えないが、アイツが身に着けているプロテクターは外骨格だ。人間に不可能な動きもそれで説明がつく)」

 

 

 銃が効かないなら戦い方を変えるだけ。ももかのアッパーカットに合わせてボディーブローをぶちかます。『運転手』は半歩下がると二撃の力と速度をそのままに別方向に受け流した。

 

 

「なッ」

 

 

 ももかは体勢が崩れガードが甘くなり、悠河のボディーブローはそのままももかの脇腹に命中した。致命的な自爆。その隙を逃す相手ではない。

 

 

「その若さで俺様とここまで渡り合ったんだ。凄いことだぜ?機械化兵士か……その眼と武術を磨けば三十行くまでには俺を超えれると思うぜ!!」

 

 

 『運転手』の掌が二人の胸にそっと添えられる。悠河とももかはその先何が起こるのか理解したが、回避は不可能だった。

 

 ――――――発勁。

 

 "ズンッ"

 

 結果は分かっていた。これは、内臓を直接殴りつけるのに等しい。眼以外は生身の悠河は完璧に極まった発勁に抗うことも出来ず、予測通り意識を失った。ももかも、呪われた子供たちの能力を引き出すサイボーグの肉体とはいえ重要器官は生身だ。意識までは刈り取られなかったが、最早戦闘続行は不可能だ。

 悠河とももかの敗因は一つ。『運転手』の人間としての技術、武術の巧さが、悠河の考えを超える化け物に他ならなかったことだ。

 大抵の相手は一本のルートで予測が可能な義眼も、一つの姿勢から構えから複数の攻撃を繰り出す武術の達人には、何本ものルートが枝分かれしている。悠河がボディーブローを放つあの時、四本のルートが予測されていた。

 一つは、致命傷とまではいかないが悠河の拳がほんの僅か命中するルート。

 一つは、どちらの攻撃ももう半歩下がって回避するルート。

 一つは、先ほどまでと同様逸らされるルート。

 最後の一つは、此方の力と速度を利用して悠河のボディーブローをももかに命中させるルート。

 プロモーターである悠河は、最後の一つは在り得ないと断じ実行し、イニシエーターはそれを信じ敗北した。

 

 

「ふぅーあいたたたた……楽しかったぜ!!」

 

 

 久しぶりにいい汗をかいたと首を右左と回す。『運転手』が装備している外骨格パワードスーツは銃弾は防げても衝撃までは吸収できないのだ。痛みと腫れによる運動の阻害を表に見せず義眼を騙し切った『運転手』の肉体操作はある程度薬品が使われている事を考慮しても、それを可能とする技量は超人に相応しい。

 

 

「そちらも終わったようですね」

 

「お!!そっちはどうだった!?殺したのか!!?」

 

「生きてます。殺してもよかったのですが、蛭子小比奈は此方に一歩踏み込んできている。ドクターからも天然から生まれ出る可能性の芽をつむいではならないと厳命を受けています」

 

 

 ヴァンティアンのオープンフィンガーグローブは悠河に試験用として渡されている『幻想殺し』の次世代型。悠河の戦闘データの全てが記録されているヴァンティアンのオープンフィンガーグローブは当然、影胤の斥力フィールドを砕く。そこからの流れは蹂躙だ。

 

 

「へぇ……強かったか?」

 

「今後に期待ですね」

 

「俺もだ!!」

 

 

 世界初である、新人類の先兵である機械化兵士とIP序列9位『旅人の運転手(カプリース)』のゾーンに到達した者たちの戦いは、圧倒的実力差で勝敗を決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――急げ。

 ――――――早く。

 ――――――速く。

 一刻も早く電波妨害の領域から抜け出し、プレアデスを倒した事と増援要請次第戻るつもりでいた。蓮太郎が戻っても足手まといになるだけかもしれない。けど、あんな化け物相手に奮闘しているあいつ等を見棄てる選択はなかった。民警のキャンプ地の近くまでは電波妨害は無いはずだ。そこまでたどり着けたら――――――

 

 

「はいはいごめんね~これ以上行かせる分けにはいかんのよ」

 

 

 "キーーーーーン"脳を揺さぶる耳に響く甲高い音に、超加速していた体勢が崩れ視界がぐるんと回転する。そのまま地面に衝突する前に脚部のスラスターを落下方向に向け威力を相殺し何度も転がりながら無理矢理立ち上がる。ティナ戦での経験がここで役に立った。

 

 

「いやごめんね。ほんと行き成りね。嗚呼スイッチ切ったからもう大丈夫だよ。何か言いたそうだね。今耳栓外すから文句だけは聞いてやるよ」

 

 

 なんで――――――こいつがここにいる。

 

 

「『木原』ぁああああああああああ!!」

 

「はい、『木原』です。何々どうしたの?一々大声で名前確認しないと誰かも分からんのか?てぇー意地悪な質問だったな。今のニュアンスは"どうしてお前がここにいる"かだろ?まーあれだよ、ひとまず僕のために大人しくしててくれ」

 

 

 義眼を開放する。神出鬼没のこいつを捕らえるのは今しかない。こいつが俺たちを襲った首謀者なら、捕まえた後、あの化け物を止めるように指示を出させればいい。

 

 

「ほいっと」

 

 

 『木原』が嵌めていた耳栓が蓮太郎の顔の左右一メートルほど真横に投げられる。

 

 

「ボン」

 

 

 炸裂した。殺傷能力は無く、音だけの爆弾。まるで狙いすましたかのように、耳には異常はなく音は頭の中で波の様に視界と感覚だけを蹂躙する。

 

 

「セイ」

 

 

 "パパンパン!!"と乾いた音が連続する。蓮太郎は感覚が狂いながら左右の手で空気を裂くように振るったのに対し、『木原』は右足一本地面につける事なく、二段蹴り、三段蹴りの要領でそのまま連打する。打ち合いの末、地に付したのは、驚くべき事に機械化兵士である蓮太郎。

 

 

「橈骨麻痺って知ってるか?横になって寝ていると下に潰されていた腕の感覚がまるで他人の腕の様に感じる現象だ。足でもなったことある奴いると思うが……まぁ要するにだ。そういった神経を体内で伝播する衝撃同士をかち合わせ麻痺させたんだ。効果は一時的で一分もあれば後遺症も残らず元通り。俺って何て優しい『木原』何だろ」

 

 

 『木原』はそのまま蓮太郎の首筋を引っ掻く。

 

 

「……目的はなんだ」

 

「そう睨まないでほしいね。大層な目的なんて掲げてないんだから。だから、ね?安心して寝ていな。大丈夫、二時間程度で起きると思うからそのあとは好きにするがいい」

 

 

「なに……を……」

 

 

 体が強制的に眠気を感じている。瞼も重く逆らうことも出来ない。

 

 

「科学者の手は危険な薬品が染みついてるから今後気を付けることだね」

 

 

 蓮太郎の意識はそこで落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識覚醒する。夜なのに何かを照らすような赤い光と、破壊音で自分がどういう状況なのか思い出し立ち上がった。

 

 

「……なんだよ……これ」

 

 

 赤、赤、赤――――――

 

 どこまでも赤く光る眼に、大地は埋め尽くされていた。

 

 

 










PS1の攻殻機動隊ghost in the shellを購入。小学生のころプレイしたこの神ゲーをもう一度プレイしたくなった。

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