西暦2021年前に転生したんだから科学者として頑張るしかないでしょ!!   作:namaZ

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大変遅くなりました。就活中のわが身は、あまり此方に時間を割けなくなってしまった。五月から続きが書ければ良いなと考えています。久しぶりに書いたので、物語の矛盾点がございましたら教えてください。










第三十四次観測

 命令無視によりアジュバント解散。それを伝える。仲間たちの反応はまちまちだったが、悔しいが解散を認めるしかなかった。チーム一丸となっていた所での解散は響くが、これでもう会えないわけじゃないと、拳を掲げた延寿がみんなに宣言する。

 そこからは夢のような時間だった。配給された三日分の食料をふんだんに使いやけくそに料理し、苦しくなるほど食料を胃に詰めていく。電気がない部屋には蝋燭が焚かれ、全員の表情を赤々と照らす。ぼんやりと照らされる優しい炎が延寿とティナの大きな瞳の中に映り込みキラキラ輝き、とても可愛らしい。蝋燭の光のせいか、ほんのり赤みの帯びている横顔に目を奪われてしまった。なかでも木更のややこぶりの猫目には妖しい美しさがあり、思わずずっと眺めていた衝動にかけられるが、目が合いそうになると慌てて視線をそらした。

 女性陣はお風呂に入りたいと話題に騒ぎ。男性陣は現実的で食料の備蓄を計算し、足りなければカエルやカタツムリを食べなければならないと蓮太郎の冗談に、お嬢様育ちの木更は半目で「最低」とつぶやく。

 玉樹は地下に貯蔵されていたワインを拝借し成人組で飲み明かす。一見馬が合わなそうな二人だが、マシンガントークの玉樹の話に、彰磨は黙って頷き話を聞いている。敗戦ムード漂う鬱憤を払い除け、戦場のただ中にいることを忘れさせてくれた。蓮太郎も気分が良くなり、時間を忘れ騒ぎ立て、時刻が深夜を回ったところで各自ホテルの部屋に解散した。

 延寿が寝静まったのを確認すると起こさないよう頭を優しく撫でる。手を放すと蓮太郎の心が徐々に冷却されていく。延寿の幸せそうな寝顔から視線を外し、歩き出す。――――――仲間たちと過ごす最後の時間が終わりを迎えたのだと悟った。

 食堂までたどり着くと暖炉の前に我堂の使いが立っていた。ナップザックを受け取ると中身を確認する。コンパスなどのサバイバル用品、極めつけにC4爆弾。装備を整えるとホテルの外に出る。結局延寿たちには打ち明けることなく出てきてしまった。

 

 

「里見くん……」

 

 

 何でいるんだ。恐る恐る振り返る。

 

 

「木更さん……」

 

 

 木更には正直に話そう。その上で、信じてほしい。悠河と合流さえすれば希望はある。それでも、木更を泣かしてしまった。男と女――――――男はすべてを背負い、一緒に逃げようと言ってくれた女に我儘を貫き通す。結局、延寿を頼むとしか言えない自分自身が歯がゆい。男は最後まで不器用なまま最愛な彼女に「ありがとう」すら伝えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノリスを越えれば、そこは人間の領域ではなくなる。油断や気の緩みなど許されない。夜の森はそれほど危険だ。火器はギリギリまで使用しない方がいい。自分の居場所をガストレアに教えているようなものだ。マグライトで先を照らさなければそこは闇が満ち一寸先も見えないほどだ。。

 その時、通常なら聞き逃してしまいかねない小さな音だったが、風の音とともに何処からともなくヒタヒタという足音をとらえた。息を殺し遮蔽物に身を潜める。その姿は闇に包まれて見えなかったが、シルエットから予測はついた。オオカミだ。

 実のところ、ガストレア化した生物の中でわけても民警を悩ませるのは、グロテスクな容姿をしたガストレアでも、強力な神経毒をもったガストレアでもない。本来それらを食べる最終捕食者、食物連鎖の頂点に立つような個体がガストレア化し群れを形成したならば、その脅威総計は民警にとって最大である。

 

 

「オオオオオオオオオオォォォォォォォン!!」

 

 

 突如、オオカミの遠吠えが闇を震わせる。ヤバイ――――――体は走り出していた。群れで行動するオオカミに対し馬鹿正直に向かい打つのは自殺行為だ。なら、ばれたのなら囲まれる前に一目散に逃げるしかない。

 オオカミは群れで狩りをする。一体を殺してもその間に二体が喉笛に喰らいかかる。足を止めてはならないのだ。だが、体力には限界が来る。蓮太郎は歯を食いしばり、半分振り返りながら発砲。少しは怯んでくれるのを祈るしかない。荒い呼吸が真正面から聞こえてライトをそちらに向けると、大きく開かれた口に生えた牙が視界いっぱいに広がって襲い掛かってくる。

 

 

「(いつの間に正面にッ!?)」

 

 

 恐怖で足がもつれ、木の根に足を取られ受け身も取れず無様に転がる。呻く暇もなく、一匹が右義足に喰らいつく。慌てて痛覚神経をカットオフするが、痛みが脊髄を奔り脳に直撃する。

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

 痛みにもがきながら拳銃のトリガーを三回引く。バラニウムの弾は牙と顎を砕き、一発は眼球にに命中。痛みに悲鳴を上げるオオカミは後退する。だが突如別のオオカミに胸を強打され二百キロの巨体が蓮太郎にのしかかる。大きく裂けた口が眼前――――――。

 

 

「うおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 

 

 右腕を口に突っ込み火薬炸裂式の義手を撃発。オオカミの顔が血飛沫を上げ飛散。倒れ掛かる巨体を回避し跳ね起きると周囲を確認。囲まれている。半歩右足を下げると足から炸裂音が鳴り響き、空薬莢をインジェクト。オオカミを飛び越え全力で走る。人間が全力疾走を持続できる時間は8秒といわれている。ペース配分を考えないでの全力疾走は蓮太郎の体から体力を奪った。このままではダメだ。オオカミは臭いで追跡する。唐突に道は途切れ――――――蓮太郎は絶望のあまり目眩がした。途切れた先は断崖絶壁。崖下は川が流れているが轟々と逆巻いている。飛び込めば命の保証はない。前方には十匹二十匹――――――闇の隙間から赤く光る眼は、どう見積もっても五十匹以上はいる。川かガストレアか、足がすくむ。生き残る可能性は川の方が高いけど――――――萎えた意気を叱咤し気合を込める。蓮太郎は覚悟を決め大きく飛んだ。激流にもみくちゃにされ平衡感覚が狂わされる。流木や岩に何度もぶつかる。激流を流れる石などの異物は散弾となり蓮太郎の体中を殴打した。意識を失えば終わりなのを本能から感じ取る。手を無茶苦茶に振り回す。ふと、蓮太郎の手が何かを掴んだ。それを岩だと理解した瞬間、激流に逆らい歯を食いしばりながら全身でしがみつき、叫び声を上げ這い上がった。生き残ったのだ。体はもう限界。水を吐き出しながら震える体。

 

 

「……しつこい奴らだ」

 

 

 蓮太郎の言葉を合図に、オオカミたちが木陰から出現する。蓮太郎は悟った。今日が人生最後の日になる。脳裏にかけがえのない思い出が流れ、気づけば涙が頬を伝う。

 突如、五十匹以上のオオカミがピンと耳を立て暗がりの木々の奥にいる何かに警戒し前傾姿勢になる。闇に殺到するオオカミたちが消えていく。静まりどのくらい経ったか――――――四つの影が歩み寄る。

 

 

「パパァ、あいつたしか延寿と一緒にいたやつだ」

 

「おやおや」

 

 

 なんてことだ。何故、この二人が一緒にいる。

 

 

「……一人?」

 

「ゴキブリ並みの生命力ですね先輩」

 

 

 かつて生死を競った最強の魔人と、次世代型の最新機械化兵が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ銃を下してくれんかね」

 

「断る」

 

「まったく、包帯や抗生物質を提供したのがもう誰なのか忘れたのかね?」

 

「テメェたちこそ、自分たちが何をしたのかもう忘れたわけじゃねぇだろな」

 

 

 まさかこの男と焚火を囲むことがあるとは過去の蓮太郎も思うまい。油断なく拳銃を構えながら左手だけで器用に包帯を巻く。

 

 

「私が本気を出せば、そんな豆鉄砲ききやしないよ」

 

 

 蛭子影胤が操る斥力フィールドは対戦車ライフルを弾き返すほどの防御力がある。かつて身をもって味わっている。色々追究したい気持ちはあるが、まず確認することがある。

 

 

「なんでコイツといる悠河」

 

「僕にも色々事情があるけど先輩が危惧している間柄ではないのは保証しますよ。任務優先。コイツと殺し合いがしたいなら好きにしてください。ガストレア共を引き付ける囮として」

 

「チッ」

 

 

 拳銃をホルスターにしまう。悠河の目は本気だ。蓮太郎と影胤が戦えばお互いただでは済まない。人知を超えた機械化兵が本気でやり合えば本人どころか周りも無差別に破壊する。要するにまき餌だ。ガストレアを引き寄せる餌。

 

 

「どうして未踏査領域にいる?また菊之丞(ジジイ)の悪だくみに加担して暗躍してんのか」

 

「ノーコメントだ。誘導尋問はやめてもらおうか」

 

「……悠河と行動している理由はなんだ」

 

「なに、彼とは相性が悪いからね。暇つぶしに同行してるよ」

 

「テメェはジャンケンで"グー"しか出せない。対して相手は相性最悪の"パー"。それで矛を収めるたまか?」

 

 

 違いないと肩をすくめる影胤。

 

 

「いやはやまいった。よく分かってるじゃないかね。なに、ただの気まぐれだよ」

 

 

 小日向が蓮太郎を上目遣いで見る。

 

 

「延寿は?死んだの?」

 

「別行動中だ」

 

「そう」

 

 

 そっけなく言うが、口元は嬉しそうに笑っている。

 

 

「里見くん、君こそなぜこんなところにいる」

 

「プレアデスを斃すため」

 

「プレアデス?」

 

「水銀を撃ち出す正体不明のガストレアだよ。この森にいるらしい」

 

「ああ、そうらしいね」

 

 

 影胤の反応に疑問を覚える。

 

 

「悠河といるからそうじゃないかと思ったが、お前ら昨日の戦列に加わってアルデバランと戦ってたのか?」

 

「まさか、この辺で一番高い木に登って文字通り高みの見物をしていたよ」

 

「僕も昨日参加してません」

 

「……戦わないとみんな死ぬんだぞ」

 

「裏方には裏方でしかできないこともある。この任務もそうだ。"死んで来い"先輩はそう命令されたものでしょう?英雄は表舞台でガストレアを倒せばいいんです。衆目で体を張って守りましたよって示せばいいんです。それが貴方のやるべきことだ。僕がプレアデスを斃せばその分英雄は楽できる」

 

 

 悠河は、可笑しそうに口を押えながら蓮太郎が一人でプレアデス退治を任された理由を口にする。

 

 

「こんな任務任された時点でやらかしたのは確定事項。大方、独断で戦列離れて勝手に行動したとかそんなところでしょう。我堂は命令違反者を決して許さない。ましてや相手が英雄ならとことん有効活用する。正直、先輩が一人で死にかけていたときは驚きを通り越して呆れましたよ」

 

 

 蓮太郎は、こんな任務を任された理由を見事的中されて何も言い返せない。

 

 

「フフフ……君たちを見ていると飽きないな。里見くん、私も話題を一つ提供しよう。かつて……私の同士には『鬼』がいた」

 

「おに?」

 

「嗚呼、彼女か。お前に劣らない頭が狂った狂人の」

 

 

 影胤は可笑しそうに喉を震わす。彼女とは似た者同士なのだから当然だと。

 

 

「同士と言ってもお互いの事は何一つ知らない仲だ。彼女はただ、唯ひたすらに『木原』を憎んでいた」

 

「『木原』を?」

 

「『木原』が何者かは私に知る由もないが、君たちは知ってるようだね」

 

 

 悠河は、『木原』はこの世界の秘密を知る――――――原因なのかもしれないと考えている。

 蓮太郎は、『木原』はこの世界の秘密を――――――ガストレアウィルスが何なのか知っているのではないのかと考えている。

 

 

「そうそう、国際イニシエーター監督機構のトップが誰か知ってるかい?」

 

「……いや」

 

「そこまでは」

 

「君たちのイニシエーターに深くかかわることなのだがな……国際イニシエーター監督機構の本部はローマ連邦に、『木原』はそこの出身だ。名前は伏せられてるが容易に想像がつく。更に、組織設立の時期も怪しい、第一位がゾディアックを斃したと報道されて間もなく、予め用意していたかのように組織は形になった。そこに誰もが疑問を挟まないんだ。確かに、『呪われた子供たち』は実用的な対ガストレア兵器だ。我々のような兵器を作るより金は浮く。誰が思いつく?大人が武装してやっと倒せる怪物を、子供が玩具で遊んでつい壊しちゃったで倒す。おいおいふざけるなよなんだそれは、我々の存在意義がないではないか。だが世界は安定の戦力と供給を求めてしまう。そこに目を奪われたら本質は見えてこない。何故――――――疑問に感じない」

 

 

 この疑問が君たちには分かるかい?その問いに答えを持ち合わせていない二人は、ただ黙るしかなかった。この二人も、『呪われた子供たち』のメリットにしか目が行っていなかった。そこにあるのだからそうなのだろうと疑問を挟まない。

 

 

「IP序列に、序列が上がるごとの擬似階級の向上、機密情報へのアクセス権、一組織に何故そこまで力が集中している?しかも世界規模でだ。日本には自衛隊、アメリカには軍隊、各国には戦いを専門にしている組織が必ずあるし、国ごとにルールも主張も考え方も違う。ガストレアの脅威に世界が混沌としている中、国際イニシエーター監督機構という基盤を作り上げた。これだけで偉業だよ。どれだけ追い詰められようが、国が違うだけで人は相いれない」

 

 

 人類の敵が現れた。だから、みんな仲良く同じルールで資源と武器と情報を譲り合いましょう。そんな都合のいい妄想は頭の中にだけ閉まっといてくれ。

 

 

「情報は武器だ。階級も国を跨げばあまり効果がないこともある。それを、序列が上がるごとの擬似階級の向上?機密情報へのアクセス権?前者はまだ納得しよう。所詮階級だ。問題は後者だ。機密情報へのアクセス権とは笑わせる。浸食抑制剤もそうだ。これだけけで武器だ。イニシエーターを問題なく安全に運用できる薬として浸食抑制剤を売り出せば需要は大きい。バラニウムの次くらいにはなるんじゃないか。そして機密情報へのアクセス権、これに関しては意味が分からない。何故態々開示する?浸食抑制剤は組織に反しない限り無料で貰える。アクセス権も実力次第で手に入る。一体『木原』はこれだけのお膳立てを用意して何を企んでいるのか……フフフ、私の勘だが、『木原』は五賢人クラスの頭脳を持っている。六賢人にしてもいいと思うが、そうしない理由があるんだろうね」

 

 

 悠河はあの戦いを思い出す。鬼は『木原』を心底恨んでいた。その憎悪は生半可なことじゃ生まれない漆黒の心。それを知るだけに、『木原』にいい感想は抱かない。『木原』の印象は最悪と言ってもいい。

 

 

「話はここまで、勝手な憶測さ。嗚呼最後に里見くんにこれを渡すよ」

 

 

 影胤はUSBを懐から取り出すと、蓮太郎に渡した。

 

 

「これは?」

 

「さーね、私も知らん」

 

「テメェ……」

 

「別に怪しいものじゃない。それは彼女が私にくれた情報さ。残念なことにそれの中身を確認する伝手も手段も今はないんだ。なら、私に勝った勝者の景品としてね」

 

 

 渋面でUSBを蛭子から手渡しされ、胸ポケットにしまい込む。

 

 

「ちゃんと中身を確認してくれたまえよ里見くん?情報は時に命より重い、『木原』に復讐するしか能がなかった鬼が、金棒を隠した。この意味を考えることだ」

 

 

 蓮太郎は胸ポケットに手を当てる。『木原』を恨み復讐を誓った鬼が隠した爪。中身はおそらく――――――『木原』の情報。

 心拍数の刻むリズムが速くなる。頭が熱くなる。これを知れば、何かが変わるのかもしれない恐怖、全てを知りたいと思う自分。何かを掴めるかもしれない期待に思いをはせる。

そこからはお互い会話が無くなり、薪が尽きたのを合図に就寝となった。

 蓮太郎の体の疲労は限界に来ており、体全体が重くだるい。瞼が落ちそうなのを堪える。影胤(やつ)より先に眠るわけにはいかない。体感で一時間ほどが経っただろうか。小日向とももかの寝息が聞こえ始めると目を開け、XD拳銃を掴み、音を立てないよう気配を殺し影胤の枕元に中腰で近づく。二人は横向きになり折り合うように一枚の毛布を共有している。蓮太郎は拳銃を頭部に照準する。

 

 

「……堪えてください」

 

 

 傍でももかと共に寝ていた筈の悠河が、その先を止めた。

 

 

「なぜお前が止める」

 

「……正直に話します。それ以外で止まりそうにない」

 

「……なんのことだ?」

 

「冷静に聞いてください。()()()は、蛭子影胤と契約を交わしました」

 

 

 何を言われたのか理解できなかった。

 

 

「契約内容の詳細は知りませんが、その中にアルデバラン撃破までの協力が含まれています。彼は、貴重な戦力なんです」

 

「ッ!?」

 

「それに、そいつ起きてますよ。僕の眼は誤魔化せない」

 

「随分な扱いだね」

 

「余裕だな。お前のバリアは、この至近距離から引き金を引くのに先んじて出せるもんなのか?俺が情けをかけられたら泣いて喜んで仲間になるとでも思っているのか?悠河も、こいつがどれだけ危険な存在か理解してるだろ。必ず、次の災厄を引き起こす。戦力として?嗚呼文句ねーよ。だけどな、俺は社会秩序を守る」民間警備会社社員としてお前を抹殺する義務がある」

 

「……娘も殺すつもりかい」

 

「本当にお前の娘なのか?」

 

 

 すやすや眠る小日向見た。

 

 

「勿論だとも。里見くん、蠱毒の壺を知ってるかい?大量の虫や蛇を同じ壺の中に入れて共食いさせて最後に残った最強の一匹が強力な呪いを持つとされているやつでね。昔、まだ私が若かった頃の話だ。私は攫ってきた女五人に人工授精を施すのと同時に胎児にガストレアウィルスを投与したことがある」

 

 

 蓮太郎は絶句した。これはつまり、人工的に『呪われた子供たち』を作ったということだ。

 

 

「そして生まれた五人の娘たちを別々の地下室に閉じ込めて六年間、殺しのトレーニングと洗脳教育だけをして育てた。そしてある日、私は五人初めて引き合わせて殺し合わせた。生き残ったのが小日向だ」

 

「なんのためにそんなことを?」

 

「私はこの世のすべてを知りたかった。すべてを支配する真理を見つけ出したかった。果たして人という種のその先にある彼女たちは何なのか、と」

 

「外道めッ。人の命を何だと思ってる!」

 

「それが分からなかったから私は実験をしたのだ」

 

「子供は純粋な存在だッ!天使にも悪魔にも育つ。お前のせいだ影胤。お前のせいでこの子は悪魔になった」

 

「然り、私は悪魔を作りたかった。だが失敗したよ。生まれてきたのは邪悪な天使だった」

 

 

 影胤は寝ている小日向の髪を優しく撫で、静かに顎を持ち上げる。

 

「見たまえこの可愛らしい寝顔を。醜く、おぞましく、愛おしい我が怪物少女(モンストレス)。この子たちは生物種としては強いが、結局のところどうしようもない弱さも抱えていた」

 

 

 その時、ん、という寝言と共に小日向が身じろぎして、場違いと思える満足げな寝言がささやかれる。

 

 

「パパ、大好き」

 

 

 蓮太郎の銃口が揺らいだ。なぜだ。なぜなのだ。

 

 

「蓮太郎先輩……」

 

 

 引き金にかけた指が凍り付いたように動かない。蓮太郎はぎゅっと目蓋を閉じた。

 

 

「チクショウッ!!」

 

 

 蓮太郎はやけくそに銃をしまうと、むしゃくしゃしながら腰を下ろす。

 

 

「傷の件、感謝してんよ。だがテメェは信用できねぇ」

 

 

 焚火の反対側で寝そべる影胤たちを警戒しながら寝転がる。

 

 

「最後に聴かせろ。すべてを知りたいんならUSB(これ)はお前にとって重要じゃなぇのか?」

 

「言ったはずだ。勝者への報酬だと。私を破った君へのプレゼントだ」

 

 

 会話もなくなり静寂が蓮太郎の思考回路を鈍らせる。微睡みの中、影胤のインパクトで聞きそびれたことを思い返す。

 

 

「(影胤は悠河と契約したわけじゃない……なら、誰と……)」

 

 

 意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 










ネタばれ?とも言えない感想

『Dies irae ~Interview with Kaziklu Bey -』『Kadenz fermata // Akkord:fortissimo』どちらも燃えゲーですが、やはり『light』は最高でした。他作品ではラスボスはれそうな敵でも、獣殿相手は苦笑いになるのは俺だけではないはず。ルサルカが代弁してくれましたしね。

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