西暦2021年前に転生したんだから科学者として頑張るしかないでしょ!!   作:namaZ

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明けましておめでとうございます。
fate/goを初めて六か月ちょいお正月イベの星五確定でやっとゲット――――――したのに玉藻の前、嫌じゃないし嫌いでもないけど――――――もっと火力の高いサーヴァントが欲しかった!!課金してもどいつもこいつもこないしやになっちゃう!!ヘクトール二十回以上きててやになってきたぜ(遠い目
そんな作者の苛立ちが固まった話です。特に最初。












第三十三次観測

 ローマ連邦から輸入した最新兵器に、使い慣れた銃器と兵器を携え自衛隊は二千のガストレアと衝突した。蛭子影胤の手により一度は壊滅した陸上自衛隊特殊兵科所属駆動鎧戦術部隊を再編し戦車やミサイル群の掃討に逃れたガストレアを着々と減らし遠距離からの攻撃手段のないガストレアでは勝敗は決していた。

 二千のガストレアとレベルⅣアルデバラン。幾つもの都市を破壊してきた怪物に、自衛隊は自らが東京エリアの、ひいては日本の盾で在らんとする意思と気概、第一次関東会戦と第二次関東会戦を戦い抜き化け物どもから市民を守り切った経験と自信を胸に燃え滾らせ照準を赤目に抜けていた。

 

 

「たったの二千だ!!なぁに、十年前とそう数は変わらん」

 

「あの巨体だ。こっちは目を瞑っても当たるぜ」

 

「あっちから近づいて来るから照準を合わせる必要もない」

 

「おいせめて目は開けて撃て、無駄弾は税金の無駄だ」

 

「ちがいねェ!!」

 

 

 一日モノリスが崩れるのが早かろうが、歓迎パーティの準備は事前に出来上がっている。最前線で戦う者たちにとってこの戦争は、現状が最善。強いて言うなら「一日くらい待ってろよ」の声が上がるくらいだ。

 

 

「にしてもスゲーなアレ」

 

「パワードスーツ部隊の事か?」

 

「そうそうそれ。戦車の砲撃なみの銃口を片手で撃っといてあの機動力だぜ、仕事全部取られちまう。ま、楽できるからいいんだけどな」

 

「おいおい新設部隊にいい顔させて悔しくないのか?今こそ俺ら歩兵の雄姿を知らしめる時だぜ」

 

「俺はごめんだね。あんなのと一緒に並んで撃ってみろ、耳がイかれちまう」

 

「ちがいねェ!!」

 

 

 不安要素など有るはずがない。勝つのは自衛隊。火力も統率も機動力も情報力も上上上上上上上上。新しい壁が届くまでの時間稼ぎどころか、「殲滅しちまった方が早いんじゃね」精神で殺して殺して殺してガストレアを絶滅させてやると自衛隊の心は一体となっている。

 

 

「(随時絶やさず制圧爆撃……ガストレアの生命力は脅威だが、どの部隊もカバーし合い連携も問題ない)弾を絶やすなァッ、常に弾数と残弾に注意を払え!!」

 

 

 この場を指揮する隊長は腕よりも思考を、悩むより口を動かしていた。戦いが始まりどれ程経過しただろうか。被害が少数出るのは遺憾ながら、完璧な陣形や作戦などないからだ。だが、新設した駆動機の制圧力は凄まじいの一貫だ。歩兵をカバーしつつ、砲撃やミサイルから逃れたガストレアを確実に仕留めている。負けが許されないのは分かっているからこそ、口では部下を奮い立たせる。壁が崩壊する時点で東京エリアが終わる可能性の方が高いのは計算しなくとも理解できる。それでもなお、自衛隊である彼らは戦わなければならない。十年前の屈辱は一日たりとも忘れない。煮えくり返った怒りが、隊長である彼の原動力。思考は冷静に、肉体を怒りに燃え上がらせる。自衛隊の現場を指揮する隊長としての統率力と判断力、十年間鍛え続けた肉体から繰り出す戦闘力は、IP序列275位我堂長政に引けを取らない。

 

 

「(作戦は上手くいっている。ミスはない。失敗もない。なら―――)――見せ付けてやろうじゃないか……後ろで眺めている民警共に東京エリアの、日本の防衛は誰が守っているかおよッ!!」

 

『おおおおおおおおお!!!』

 

 

 士気を高め、さらに活気になる。行ける行けるぞと皆が脳裏に描くのは、ガストレアの脅威からエリアを守り抜いた己の姿。いつかは、日本ごと取り戻すと己を奮い立たせる。

 

 

「(さあアルデバラン、雑魚じゃ陣形を崩せないぞ……あの巨体だ。有りっ丈の弾打ち込んでやる)」

 

 

 最初の空爆で撃ち尽くしたミサイルを補給した戦闘機が戦場に返ってくる。これからその全機の火薬がアルデバランだけに注がれる。

 

 

「(いつまでも劣勢で自分たちが蹂躙する側だと思うなよ。我々人類も十年で十二分の力を付けた)怨みに報ゆるに徳を以てす……ふん、貴様らには生涯当てはまらぬ言葉だ。……撃て」

 

 

 勝利は目前だ。最初は、不安でいっぱいだった。十年前とは違うのはわかっている。敵の情報と対処も十年前とは違い余りある。でも―――――恐怖とアノ光景は拭えない。敗戦に敗戦を重ね、閉じ込められた。十年、屈辱に耐えながら反撃のトキを待ち続けた。そして今、閉じ込められた唯一の楽園さえ地獄に塗り替えようとしている。

 

 

「(我々は自衛隊だ。防衛の要であり、日本の反撃の象徴でもある。勝算はある。勝てる。負けない。人類の領域をこれ以上侵させない)」

 

 

 それでも――――――恐怖は隊長である彼を苛立たせる。その怒りを、力に変える。

 

 

「アルデバランを発見したようだな……勝った」

 

 

 アルデバランさえ斃せあ残りは烏合の衆。時間さえかければ勝てる。逆に、アルデバランがいる限り負ける可能性がある。

 

 

「(見てるか民警、子供を武器にして戦わせるなんて気に入らない。俺たち大人が頑張ればそれでいいんだ)」

 

 

 彼らは何も悪くない。舐めてなどいないし侮ってもいない。勝てるか分からない相手に最善を尽くしている。それでも尚、化け物は人類の予想を超える進化を遂げる。

 

 

「……ぜッ……全機………………撃墜だと?ヘリは……トマホークは!?」

 

 

 情報網が混乱している中、光の槍が弧を描きながら彼らに降り注ぐ。

 

 

「がァッ、ガストレアァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 光の槍で陣形に穴を空けられ、それを埋める指示をする現場指揮官を失った自衛隊は――――――崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千寿夏世(プログラム)起動――――――"代理脳超高度並列演算処理器ニ接続ヲ開始シマス"

{

{

{

{

{

{

{ 

{ 

{ 

{

{

{

{

{

{

{

{

{

{

{

{ ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――"接続完了"―――――――――"全システムオールグリーン"――――――"掌握ヲ開始シマス"

"東京エリアノ全システムヲ掌握シマシタ"》

 

 

(速い……三十分もかかってない)

 

 

《尚――――――『木原』ニ従イ入力キーヲ"千寿夏世"ト任命――――――『木原』ニ従イ代理脳デアル超高度並列演算処理器ヲ含ム入力キーヲ"千寿夏世"ヲ"ツリーダイアグラム"ト呼称シマス――――――――――――――――――――――――――――――――「……ナルhoど,kこれは私にしか耐えられない」》

 

「気分どうだ?」

 

「大丈夫です将監さん。寧ろ気分がいいです……東京エリアが自分の体の一部に感じます」

 

 

 それは全能感。夏世は東京エリアの所有する戦艦、ヘリ、戦闘機、無人兵器からあらゆる面での情報を網羅している。個人が所持しているパソコン、携帯端末、町中のカメラも夏世の目で在り耳で在り動かせる手足だ。

 

 

「これで東京エリアは思いのままか。規格外だな『木原』は」

 

「何だビビってんのかァ?」

 

「まさか……けどこのままだとガストレアに蹂躙されるだけだ。民警の敗北は貴方方の敗北を意味する。……僕も同じか」

 

 

 手元の液晶パネルに表示されている情報に無い唾を飲み込む。

 

 

「勝てるのか……これは」 

 

 

 自衛隊の壊滅、民警は大打撃を受けた。自衛隊を壊滅させた光の槍は民警をも壊滅の危機にさらした。各民警チームがガストレアの進行を妨げている間、我堂長政率いる少数精鋭チームが光の槍が降ってこないアルデバランの内側に侵入。我堂長政は己の足一本を犠牲にアルデバランに致命傷を与え、撤退に追い込んだ。第三次関東会戦の初日は、主力自衛隊の壊滅と民警の半数近くが犠牲となり終了した。

 

 

「……戦力が半減とかそんなレベルじゃない。士気も最悪だ」

 

「だからこいつの出番だろ。女神の啓示だ」

 

「少し時間を下さい。何分初めてなので慣れるのに時間がかかります」

 

()()か……感覚的にはどうなんだ?」

 

「そうですね……体が東京エリアになったと考えてください」

 

「…………………………どうイメージすれば」

 

「馬鹿かテメェーそういうのはな言葉の意味をそのまま受け止めればいいんだよ。マジかよスゲーってな」

 

「……そうか」 

 

 

 何かいろいろ諦めた悠河。

 そこに、予期せぬ来訪者が現れた。

 

 

「悠河!!」

 

「……エヴァ?」

 

 

 エヴァが悠河の胸に飛びつき、放さんとばかりにしがみ付く。エヴァは悠河の胸に顔をうずめたまま何も言ってこない。どうしたものかと、落とさないよう左手をお尻にやり、右手でしっかりと頭を押さえる。撫でるのも忘れない。多分こうして欲しいだろうと思い。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 何故ここにエヴァがいるのか。自分がいなくても大丈夫だったか。聞きたいことは山のようにあるが、今はどう切り出せばいいか分からずにいた。そしてあまりにも突然だった為、そんな二人を傍観するしかなかったももかは魂の抜けた心底青ざめた表情をしている。

 

 

「最新の情報を伝え忘れてたみたいだな。ドイツからお客さんだ」

 

 

 絶対わざとだろうが、サプライズにしては嬉しい訪問客だ。悠河は実の()のように思っているエヴァをただただ心配していたのだ。その間もももかの表情からは魂は抜けていく。

 

 

「あのーそろそろよろしいでしょうか?」

 

「「!!」」

 

 

 夏世の声で、勢いよく悠河の腹を蹴り距離をとったエヴァはさっきまで自分の行動に顔を赤面させあたふたしているが、蹴られた悠河は地にうずくまり痛みに耐えるしかなかった。

 

 

「ゆぅ~がぁ~だぁいじょうぶ~?」

 

 

 好機を得たとばかりにももかは悠河に寄り添う。鬱憤は何一つ隠さないが。

 

 

「か、肩を貸してくれ……」

 

「いくらでも貸すよ~いくらでもね~チラ」

 

 

 結構ガチで入ったのか、ももかの変化に気づかない悠河。ももかはももかで、悠河に見えないようエヴァを挑発しまくっている。

 

 

「……悠河のなに?」

 

「わたし~?悠河の()()のペアだけどぉ」

 

「い……いっ、しょう」

 

「そうそう、死が二人を分かつまでずっと一生永遠と一緒なんだから」

 

「へえ……で、でもそれって所詮上司と部下の関係でしょ?所詮仕事の関係で、所詮その程度でしかないんでしょ」

 

「へえー口減らないねー、なら君はどうなの?」

 

「私は!……私は……」

 

「わたしはぁ?」

 

「か、家族……みたいなものよ!」

 

「そっかー家族かーねえねえ悠河、この子の言ってることほんと?」

 

 

 さっきから何が言いたいんだこの二人はと、話についてこれない悠河は困惑しつつ質問に答える。

 

 

「そうだ。家族だよ」

 

 

 エヴァは勝ち誇った顔をし、ももかは絶望に染まった顔をする。

 

 

「エヴァは俺にとって妹だ」

 

 

 ももかは勝ち誇った顔をし、エヴァは絶望に染まった顔をする。

 

 

「うっさい!バーカバーカァ!死ねぇ」

 

「まったく、毒舌の子しかいないな僕の周りは」

 

「え~私は違うよ?」

 

 

 悠河は溜息をこぼす。積もる話はあるが、現状の優先度を考慮すれば上から二三番目くらいだ。

 

 

「テメェ―らスッゾコラ。こっちとらそいつが誰かも聞かされてねーんだぞ。おら計算が終わった。見てみな」

 

「95.2%……負ける」

 

 

 予想はしていた。けど、IP序列2位のエヴァが戦えば戦況はひっくり返るはず。何より、東京エリアには『雷神』の情報は無い。計算に組み込んでいないのも納得できる。

 

 

(希望はある……このことを言うべきか?)

 

 

 IP序列百番台、二つ名持ちの中で国家兵器と等しいのが一桁台。その情報は機密の塊だ。悠河は自分の判断でエヴァの情報を開示していいものかを悩んでいる。エヴァはドイツの――――――グリューネワルト翁の刃だ。

 

 

(民警が全滅……東京エリアの防衛力が完全に消滅する前に、エヴァに動いてもらおう。そもそも何故、第二位のエヴァがここにいる?何らかの意図、指示があったはずだ)

 

 

 夏世に見つからず、聞かれない場所で問いただす必要がある。

 

 

「95.2%は現状の敗北の確率を計算したものですが、 光の槍のガストレア。アルデバランと並ぶレベルⅣガストレアと思われますが、この個体が斃さない限り勝率はさらに低くなります。攻撃方法からテッポウウオと推測されます」

 

「演算処理装置無しでここまでの正確無二の狙撃を……アルデバラン並みの脅威と知能だ」

 

「打つ手なしってことでオーケー?」

 

「馬鹿が、対策たてんだろーが。あんまイライラさせんな斬るぞ」

 

「へーそれって私も含まれてるの?低脳な塵虫にできるわけ」

 

「……ぶっころす」

 

「落ち着け将監!エヴァも挑発するな!」

 

「チッ」

 

「ふん」

 

 

 致命的にそりが合わない二人、気が強い奴が並ぶと駄目だ。

 話は戻り、現状を鑑みてのこれからの打開策を話し合ったが、どれも――――――

 

 

「推定テッポウウオ型ガストレアが存在している限り、90%以上の確率で大敗します。この戦争はまず、アルデバランより先にこの長距離狙撃を可能としている推定テッポウウオ型ガストレアの撃破がキーポイントです。ですが、ソコにたどり着くには二千のガストレア、アルデバランの目を掻い潜り斥候するしかありません。夜になればほとんどの個体が睡眠をするため推定テッポウウオ型ガストレアだけを狙うなら成功の確率が上がります。何%か教えましょうか?」

 

「やめとくよ。どうせやらなきゃならないんだろ?C4はこっちで準備する。場所を特定しといてくれ。いくぞももか」

 

「りょーかい!じゃ~ね~エヴァちゃん♪」

 

「ちょっ……待ちなさいよ!私じゃなくてそのブサイクを名指しで指名ってどういう了見よ!!」

 

「(あの二人もこの子が一桁台、しかも序列第二位『雷神』とは思うまい)パートナーだからだ」

 

パートナー(結婚相手)!!?」

 

 

 雷に打たれたような顔をするエヴァ。こいつは何か致命的な何かを勘違いしているんじゃないかと考えた悠河だが、どう勘違いしているのかまでは思い至らなかった。

 

 

「(教授の許可なく)お前は使えない。(大抵の荒事は雷神の力を借りなくても)こいつで十分だ」

 

 

 プルプル肩を震わせるエヴァの表情は窺えない。

 

 

「エヴァ?」

 

「うっさい!バーカバーカァ!じゃあね!また明日!!!!」

 

「お休み、また明日」

 

「明日も用事あるんだから覚えてなさい!!」

 

 

 来るのも唐突だが、帰るのも行き成り、悠河とももかを抜かし走り去っていく。

 

 

「変わってないな」

 

「……ちょっと同情する」

 

「何がだ?」 

 

「べっつに~……夏世ちゃんに教えないの?」

 

「聞いてこないってことは弁えてる証拠だ。こちらから教える義理もない。意外なのは君だ、エヴァを知ってるのか?」

 

「そりゃーね、ある意味姉妹みたいなものだし」

 

「エヴァは知らないみたいだが?」

 

「下の方が一方的に知ってるだけだよ。優秀な姉は落ち零れの妹の存在さえ聴かされてないと思うよ」

 

「じゃあエヴァの親は……」

 

「私と一緒であのキチガイ」

 

「本人を目の前に同じ姿勢で挑めたらな」

 

「うっ……それは無理」

 

 

 この会話を盗み聞きしている夏世には意味も分かるまい。室戸菫も『木原』に関する詳しいデータは持ち得ていない。悠河も知らない。そもそも東京エリアで『木原』に詳しい奴っているのか。『木原』が東京エリアに千寿夏世を設置した時点で、木原の情報は無いと判断した方がいい。

 

 

エヴァ(優秀な姉)を憎んでいるのか?」

 

 

 ももかは考える素振りを見せる。

 

 

「……落ち零れ(失敗作)は、こうやって外で好き勝手生きられる。いろいろ縛りもあるけどぬるい方だよ。普通な姉(未成功)は、落ち零れでもないから仕事とか用事、実験に付き合わされる。優秀な長女と次女(成功作)は、そりゃーねヤバいよ。生まれてから死ぬまでの計画表でもあるんじゃないのってくらヤバイ」

 

「……」

 

 

 悠河はエヴァを知らない。今まで何があったのか、何をしてきて何をされたのか。何も知らないんだ。

 

 

「多分だけどね……普通の幸せってのしらないんじゃないの。そうあれ、そのために生まれてきた。そんな環境でずーと育ったらそうなっちゃうのも仕方ないよ。でもね、あの子はそんな普通な幸せを探してるんじゃないかな?」

 

「……そうか」

 

「そ、だから……ちょこっと嫌だけど明日は悠河の事かしてもいいかな」

 

「僕はお前の所有物じゃないぞ」

 

「……鈍感」

 

「何がだ?」

 

 

 もういいと叫んで、ぷいっと顔を背けてしまうももか。悠河はこの年齢の女の子は心底難しいと思った。

 作戦を実行するのは夜が妥当だ。C4もすぐ揃えられるし余った時間にエヴァと遊ぶのもいいだろう。

 

 

「三人で行こうか」

 

「なんでそうなるかなぁ……ま、いいか。人数多い方が楽しいしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会戦時の敵の総数は二千体ほどだった。だが、前衛を務めていた七千の自衛隊決戦兵力が倒され、ガストレア陣営にも五百体の被害を与えたが、代わりに倒された自衛隊員二千人がウィルス感染によりガストレア化してアルデバランの傘下に加わったとみられる。膨れ上がったガストレア三千五百体と我々五百ペア千人の民警軍団がぶつかり、九百体の損害を与えたが、こちらも半分のペアが殺され……悲しいことに百体程度が敵の傘下に加わったとみられる」

 

 

 我堂長政は静かに事実のみを告げる。

 

 

「ガストレアが二千七百体に対して、我々は五百人」

 

 

 その数字には負傷者は勿論、十歳という未熟な精神に深刻なトラウマを負ってふさぎ込んだもの。ペアの片方が殺されて戦力が半減以下になったのも多数にいる。相棒を失った民警同士が即席のペアを組んだとしても阿吽の呼吸などたがが知れている。それを含めれば戦力は三分の一程度。絶望的だ。

 

 

「それをしてもらって尚、辛い決断を下さなければならない」

 

「なに?」

 

「アルデバランがハチのガストレアと分かったのは君のおかげだが、テッポウウオ……プレアデスの分析も理解した。里見リーダー……君に聞きたいのは他でもない、作戦行動中に英彦の陣を離れ、アジュバントを単独行動させたことに申し開きはあるかね?」

 

 

 周囲の視線の圧力が一層増し、強力なプレッシャーを感じる。

 

 

「待ってくれ。俺たちは本陣の背後に回った奇襲ガストレアに気づいて、それを迎撃するために――――――」

 

「――――――ガストレアの死体は確認済みだ。だが建前は建前、命令違反は命令違反だ。この二つは分けて考えなければならない」

 

「仮にも軍隊の体制を保っている民警軍団の中で、一人の命令違反者が出ればどういうことになるか、考えが至らない君ではあるまい。上官の命令無視、他の民警にしたら敵前逃亡とも捉えられる。ましては君と君のイニシエーターのIP序列は高位序列者である三百位。君の行動は、震える膝を懸命に堪え列についていた他の民警に致命的な動揺を与えた。そのツケは、払わなければならない」

 

「だ、だけど――――――」 

 

「軽率だったな里見リーダー。君のアジュバントを解体し、君を極刑にする。言い訳は聞かん。君を処罰しなければ"命令に背いても罰しられない"悪しき前例を残すことになる。規律が緩んだ軍隊は軍隊とは言わん。烏合の衆だ。敗戦ムードが高まっている今だからこそ、風紀を引き締めなければならない」

 

 

 我堂長政の言葉が、ずしんとのしかかる。

 

 

「ふ、ふざけんな!」

 

 

 我堂に詰め寄ろうとした瞬間、我堂のイニシエーター朝霞に組み伏せられる。床に叩きつけられ肺の空気がたまらず吐き出される。

 

 

「カハッ」

 

「動けばお命、散らすことになりますよ」

 

 

 蓮太郎の喉元に、冷たい日本刀の刃が突き付けられる。

 

 

「……俺の、アジュバントだけは咎めないようにしてくれ……あいつ等は俺の命令に従っただけだ。頼む」

 

天蠍宮(スコーピオン)を倒した救国の英雄が死刑因。里見リーダー、もう一度死んでみる覚悟はあるか?」

 

「え?」

 

「団長!」  

 

「まあ待て、里見リーダー知っての通り今回の戦いは代替モノリス着工まで持ちこたえる防衛線だ。だがディフェンスだけではいけないという意見もあってね。特に民警の恐怖の象徴になっているプレアデスを撃破できれば、この閉塞した状況の打開する糸口になるのではと考えている。だがなにぶん精鋭を派遣できるほどの余力は我が軍隊には持ち合わせていない。――――――そこで、君に一つ頼みごとをしたい」

 

 

 アルデバランを撤退に追い込んだ代償に片足を失った筈の我堂のプレッシャーに衰えはない。杖を片手に立ち上がると、しかめ面を作って断言した。

 

 

「単独適地潜入と正体不明長距離狙撃ガストレア・プレアデスの撃破だ」

 

 

 その頼みは、処刑と同一だ。

 我堂は「朝霞」と傍らのイニシエーターに下知を送ると、PDA端末を操作。巨大な3Dモデリング画像が部屋全体に表示される。

 

 

「現在民警軍団とガストレアの軍団はモノリスを挟んで等距離に位置している」

 

 

 画像は広大な森を表示する。樹冠も高く、ステージⅣのガストレアが隠れるのも可能。ガストレアウィルスのせいで異常な成長と多様な生態系が見える。

 

 

「この森のどこかに、二千七百体強のガストレアが拠点を構え休息している」

 

「アルデバランやプレアデスが森の何処にいるのかわからないのか?」

 

「残念ながら不明だ。こればかりは人工衛星でも分からない。第六世代型の赤外線映像装置(サーマルビジョン)を搭載した無人偵察機もあるが……官僚はこれを飛ばすことに非常に消極的だ」

 

「……プレアデスか」 

 

「巡航ミサイルや支援戦闘機すら撃墜させる生物兵器を、お偉い方は非常に恐れている。彼らは、制空権の確保を約束していたのだが……まったく、昨日は飛行ガストレアに好き勝ったやられて防戦一方だった」

 

 

 強力なガストレア一体で戦局が左右される。そんな冗談を現実にするのがプレアデス。冗談な生物はゾディアックだけで十分だというのに。

 

 

「里見リーダー……元リーダーか。やりたまえ、君に拒否権はない。成功確率は極小だろうが、死ぬ予定の君ならば失っても惜しくない人材だ。死んだ英雄というのは、勝手がいいだろうさ」

 

「正体表しやがったなタヌキジジイッ!!」 

 

「これは偽りざる本音である。アルデバランも私の与えた傷が完治次第、必ずここに再襲撃してくる。今を除いてチャンスはないのだ。里見くん、君がこの任務を受けてくれるならアジュバントに罪を問わないことを約束しよう。だが、断れば……君もろとも処罰する。君には、君を慕ってくれるイニシエーターと、可愛らしい幼馴染がいるそうじゃないか。……可憐な彼女たちが苛烈な罰を受けるのは忍びない」

 

「延寿や木更さんに指一本触れてみろッ……ぶっ殺してやる!!」 

 

「なら決まりだ。道具はこちらで準備しよう。君は今日のうちに仲間たちに別れを言いたまえ。ミッションを完遂出来ることを心から祈っている」

 

 

 もう話すことは無いとばかりに、椅子に座り瞼を閉じる我堂に、部下が一枚の報告書を見せる。

 

 

「これは……君は桁外れの幸運の持ち主かもしれんな」

 

 

 我堂が投げ渡した紙を掴み、内容を流し読んだ。 

 

 

「なッ、間違いないのか?」 

 

「正式な書類だ。私も己から死地に飛び込む輩がいるとは驚きだ。こちらから送り返したくても暗号化されていては無理だ。運が良ければ森で出会うかもしれんな」

 

 

 その紙には、単独でプレアデスを撃破するミッション内容が書かれており、実行する民警の名前にはこう書かれていた。

 

 

『IP序列630位巳継悠河』

 

 

 

 

 

 









Dies irae ~Interview with Kaziklu Bey~発売日の三月まで暇すぎる!!邪眼は月輪に飛ぶとか色々見つけたが如何せん短すぎた。ゲーム、漫画、何かおすすめ在りますか?活動報告に今日中に記載するので、何かあればよろしくお願いします。

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