西暦2021年前に転生したんだから科学者として頑張るしかないでしょ!!   作:namaZ

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次の話の繋ぎ回です。
八月中はマジで忙しいのであと一回投稿できればいい方と思っていてください。
九月から本気出す!!















第二十八次観測

 ティナ・スプラウトにとっての日常とは――――――

 

 『呪われた子供たち』として集められた私たちは親の顔も場所も戸籍も何もない。

 最初は名前すらなかった。

 首輪のように付けられた番号付のタグ。

 個を識別するナンバー。

 少女たちに求められるものは一つ。

 役に立つのか、役に立たないのか。

 午前は勉学、生きるため戦うための知識を学び、人とガストレアを殺すための武器の組換えと扱い方を学ぶ。

 午後は実技、身体能力が元々高い『呪われた子供たち』には基礎体力をつけるなどの訓練はなく、組手と武器の扱いをひたすら叩き込まれる。

 娯楽はない、毎日その日の評価を開示され月一に退場者が発表される。

 退場者のその後を知るものはいないが……想像する恐怖が彼女たちを駆り立てる。

 ここでは死ぬと命令されれば死ぬよう教育されている。

 それでも、まだナンバーで呼ばれる間は個として識別されるが、退場者(ロスト)はマウスと化す。

 死ぬこともできない拷問に近い実験を強要されるのを恐れ、退場者(ロスト)に選ばれたものに時折自殺をしようとする少女もいる。

 それを許してしまうと連帯責任で自殺した少女と同じグループに所属している少女たちの中から成績関係なしにランダムで数人身代わりにされた。

 それを知った施設の少女たちは同じグループに所属する少女が自殺しないよう自分たちで手足を拘束して研究者に引き渡すのが恒例となった。

 ここで唯一信頼するのはマスターのみ。

 マスターだけを崇拝し如何なる命令にも疑問を抱かず忠実に実行する。

 少女たちは道具で、『呪われた子供たち』はマスターに使われる命。

 日々減っていく少女たち。 

 家族がいた。

 姉妹がいた。

 大切な仲間がいた。

 明日には消えるかもしれない淡い関係。

 そんな日常に最年長であるティナ・スプラウトはマスターであるエイン・ランドの手により『呪われた子供たち』から強化狙撃兵に造りかえられた。

 麻酔はない。

 痛みに慣れるよう訓練されているが、頭を開き脳を弄くられる感覚には手足の腱と関節にバラニウムを埋め込まれていなければ暴れていた。

 ハイブリッドとして新たに造り出されたティナ・スプライトはマスターの忠実な駒として与えられた能力とモデルを駆使し、その身を暗殺者として完成させた。

 マスターのイニシエーターとしてティナ単独の戦闘力でIP序列98位を誇る。

 彼女と同じく、生き残った選ばれた妹たちは初期型のティナ・スプライトと違い、真にマスターの求めるハイブリットとして98位を超える化け物となった。

 同じ施設で同じ環境で育った姉妹として、ティナ・スプライトは少女たちを大切に思っている。

 姉妹は家族でティナの身内。

 最年長であるティナは姉妹たちの中で多くの出会いと別れを経験している。

 それが原因か、彼女の本質か――――――妹たちより寂しがり屋で、人の温もりを求めている。 

 マスターの命令に疑問を抱くな、殺せと命令されれば身内でも殺し、死ねと命令されれば脳を自ら破壊する。

 でも少女は根が優しいから。

 暗殺者として任務と関係のない人殺しを好まないし、ターゲットにも十字を切り謝りながら引き金を引いていた。

 

 そんな日常(毎日)に特別な非日常はなく、今回の任務も一人の要人の暗殺。

 現場はアメリカではなく日本の東京エリアということを除けばいつも通りの日常。

 任務上世界のあらゆる言語を習得しているティナは、会話などのトラブルを起こすことなく入国する。

 体質上太陽が昇っている時間帯が弱い彼女は寝惚けることが多々ある。

 パジャマのまま自転車に乗って出かけ、一般人に絡まれる。

 眠気で回らない頭でも、こういう輩はどの国でも同じなんだなと変わらぬ日常をすごす。

 傷つけず一人でどうやり過ごそうか悩んでいると、不幸そうな顔つきをした男の人が()()()()()()

 それはティナ・スプライトの日常において在り得ない存在。 

 他人も姉妹もマスターも助けてはくれない、そんな弱い子は実験マウスになる。

 この男の人はティナの人生観では"在り得ない"ことをやってのけたのだ。

 物語の中にしかいないと思っていた存在。

 

 

「正義の、ヒーロー……生まれて、初めて見ました」

 

 

 ティナ・スプライトは生まれて初めて非日常に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嗚呼……確信したよ。二つ名持ちの百番台に単身で勝利をおさめ、あまつさえ死闘をやってのけた互いの心を通わせ苦難を乗り越えた仲間となっている。暗殺ターゲットだった聖天子も惚れているとはいえ蓮太郎くんに甘すぎる。国家元首の暗殺未遂犯の死刑を取り消すなんて並大抵の批判なんてレベルじゃない。嗚呼けど、それを可能にするのが主人公(ヒーロー)か」

 

 

 ティナ・スプライトは救われた。

 他の妹たちと違いティナ・スプライトの性格――――――本質が優しすぎたんだ。

 ティナはずっと非日常に憧れていた。 

 もしも……もしも……と、何処までも優しい姉はその優しさを妹たちに教えられなかった。

 あの場所では間違っているから、マスターに命を捧げ命令に従順でいれば百番台のティナ・スプライトを含めた五人の姉妹には不自由はないのだ。

 任務がなければ惰眠を貪ってもいいし、お菓子をお腹一杯食べてもいい。

 実力がすべて。

 ただそれだけ。

 そこに優しさなどない。

 あるのは命令に従う従順な駒と己が絶対だと信じる自己の強さ。

 愛という何とも平凡な逃げ道に逃げたティナ・スプライトは己の価値観で救われたのだ。 

 ほかの妹たちも同じだなんて安易な考えはいけない。

 ティナ・スプライトのように救わなきゃと考えるのも烏滸がましい。

 彼女たちは自己の価値観でもう生きてるんだから。

 

 

「その点ヒーローは弁えている。自分の救える範疇をしっかり弁え……抗っている。暗殺者であるティナ・スプライトと心を通わせ改心させ、『光』を教えた。凄いよなぁー僕には無理な思考だ」

 

 

 僕が造り出した娘たちはレルネとエヴァを除いて愛なんて注いだ記憶がない。(エヴァにとっては傍迷惑)

 娘たちは僕のことをどう思ってるんだろう?

 創造主である父親(ドクター)に逆らえないよう教育だけはしたけど木原的感性に任せたせいか一般的にはよくないお父さんと思われてる可能性大。

 

 

「ももかは僕に会うのが恥ずかしくて隠れたんじゃなくて会うのが嫌で隠れたのか?……今の時代的風景や思想、『呪われた子供たち』の価値と可能性を考慮すれば『平和』のためには仕方ないことだ。争いと戦争がガストレアのせいで頻繁に起きているせいで科学の発展はここ十年で半世紀分進んだとみている。でもね……人あっての科学なんだ」

 

 

《ドクターは私に何と言ってほしいのですか?》

 

 

 ゴポッと空気の泡が液体を上り溜まらないよう排出される。

 仮死状態に近い夏世は自分で肺も動かせない。

 生命維持装置が自動で生命活動を促している証拠だ。

 

 

「いやさ……正直僕のことどう思ってる?割とマジに答えてくれると助かる」

 

《……怖い人です》

 

 声は紛れもなく彼女の声。

 口にチューブを入れられている彼女は喋れないが、この声は紛れもなく彼女の声だ。

 それもそのはず、生前の千寿夏世のデータを基に脳波を読み取りコンマの間で声に翻訳しているのだから間違いようがない。

 それより肝心なのは、滅多に落ち込まない『木原』が今の発言で少なからずダメージを負っているのが重要だ。

 

 

「……僕って怖い?」 

 

《怖いです。『木原』さんの話を聞く限りだと貴方の娘たちは貴方なしではほぼ生きられない体にされています。浸食率は上げないことが前提なのに逆に上げて、体に機械を埋め込んで人の形に保つよう制御しているのが現状です。私のような例もいることですし、生まれてから今までドクターの実験に侵されてきた彼女たちはもう分かってるんですよ》

 

 

 翻訳機能が優秀すぎるせいか、声に怒りが含まれているのがわかる。

 誰もが『木原』を恐怖し、逆らえず、言いたいことも言えなかった彼に対し、彼女は言い切った。

 

 

《"自分たちはドクターのマウス(モルモット)にすぎない"》

 

 

 元平凡な日本人の精神では首を括って終いかねないと『木原』の感性に任せて生きてきた。

 その方が楽だから、『木原』として生きていけば余計に悲しまず楽しく生きていけるから。

 新しいことに挑戦し、失敗と成功を重ねるのが楽しくて―――――― 

 

 

「なぁんだ……『木原』の本質は理解していたつもりだけど……僕自身の本質はこれっぽちも解析できてないじゃないか。人体実験は悲しいことだ。人の命を何だと思っている。でも未来のため、人類のために。……だからって人の命を粗末に扱っていい理由にはならない。……そうか、うん、そうなんだよなぁ……」

 

《なにをいって……》

 

「どうやら待たせるのも持つのもあまり得意じゃないらしい。科学者として実験の結果を見るまで安心は出来ない。何かの拍子にダメになるのを考慮すると今からの方がいい。断然その方がいい!!」

 

《ドクター?》

 

「どうもおじさんとも呼ばれたくてね。本人たちの意思を無視するようで悪いけど……まて、今年以内にと条件を付けて……ジョセフにだけ言う……レルネのかわいい反応が見られる……娘の初心なシーンと子供ができて一石二鳥……この方針で行こう。そゆことだから一旦帰ってお仕事してくるよ。将監くんも頑張ってることだしね」

 

 

 去っていく後姿をレンズ越しに見ながら、誰に聞こえることなく翻訳機能をオフにし少女は呟く。

 

 

 "私は……お荷物だ" 

 

 

  

 

 









作者癌でいつ出るかなーと心待ちにしていた『ノーゲームノーライフ七巻』。もうヤバいです!!でも体直してから書いてくださいマジお願いします!!ゼロ使の二の舞はご勘弁です。

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