西暦2021年前に転生したんだから科学者として頑張るしかないでしょ!!   作:namaZ

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次回から物語は動き出します。
それぞれの想いがぶつかり合う戦いへと。


感想、アドバイス等よろしくお願いします。








第二十四次観測

 『木原』は胸を大きく広げ大空をみやげながら鼻から深呼吸して肺を空気で満たし――――――ゆっくりはいた。

 

 

「日本の空気は美味い……これが故郷の味ってやつ?僕は帰ってきた!!」

 

「ローマ連邦出立から七十六時間二十三分二十秒経過し東京エリアに到着致しました。只今の時刻は午前十時七分五十秒です。故郷の定義は人それぞれ異なりますが、ドクターにとって故郷とは日本なのですか?」

 

「んなわけねぇぇええだろおおおおおお!!がはははははははは!!ドクターのギャグを一々真剣に返答してたらきりねえぞォ。そんな事よりヴァンドゥとヴァンヌフが留守番ってどうしてですか!?」

 

「おうふ、何度説明すれば納得するんだ『運転手』君?あの二人には沙希ちゃんの護衛を頼んだでしょ?分かる?分かってくれよ?てか分かれ?なぁ?」

 

「ドクターが俺達親子の仲を引き裂こうとしてるよ!!ヴァンティアンもトラントも寂しいよなァ!?」

 

「えっと……ちょっこと寂しいけどお姉ちゃんもお仕事がんばってるしわたしもお姉ちゃんに負けないくらい頑張るから平気だよぉ?」

 

「同意。留守番中の妹にお土産を買ってくるようにせがまれたので帰りに購入しても?」

 

「仕事してくれるんなら文句ない。ほら僕非力だし」

 

「非力の定義にもよりますが、ドクターの護身用アイテム……護身兵器を含めないのなら非力、ではないです」

 

「誰かこの子に相手のノリに合わせる会話術教えてやんなよ。正直者過ぎて将来苦労するぞ」

 

 

 いやー楽しいなー、『木原』では有り得ないこんな馬鹿な会話が自分の癒しだ。

 死の無い『普通の生活』を望む僕にはこの世界は重すぎる。

 原作が始まった。

 それだけで、憂鬱だ。

 西暦2031年日本のエリアで大規模な出来事、事件は常に監視していた。

 そして今回の蛭子親子が呼び覚ました七星の遺産。

 これ程の事件は無い。

 元日本の首都東京エリアこそが原作の舞台。

 主人公はまだ分からないが、平凡な少年なのだろう。

 少し我が強くて、周りに引っ張られ厄介ごとに巻き込まれ、面倒な女がいつも一緒で、いつも周りを疎ましく思い、失いたくないと願う。

 そんな少年だ。

 年齢は高校生の可能性が一番高い。

 だってラノベ系主人公って大体が高校生くらいの年齢だろ。後、女難の相。

 巳継悠河は主人公のライバルポジか、敵対組織の一刺客ポジが似合う。

 予想外な事態を招く主人公を殺すのも提案の一つだが、それは愚行だ。

 『自分の人生の中では誰もが皆主人公』なんて理屈は求めていない。

 僕が求めるのはどんな戦力比、絶望な状況でも必ず希望の『光』を引き寄せる――――――民衆(正義)の味方。

 それは僕には無い性質。

 今回の事件を解決する――――――奇跡の様な手腕、出来事で解決へと導く者こそ主人公(もう一人の救世主)

 僕は『人間』の可能性を知っている。

 世界を救う『希望(一位)』と『民衆の味方する救世主(主人公)』。

 故に、鬼畜外道な『木原』を裁けるのは合理的に世界を救う『希望』等ではなく、世界よりも仲間を、視界に入る誰かの願いを聞き届ける民衆の味方こそが『木原』の宿敵。

 

 "全てが終わった先で『木原()』を裁けるのはヒーローだけ"

 

 

「一位はその他色々政治の都合やら組織の都合だかよーわかんねぇがあんな戦力国外に出したくないのは分かる!!が!!ヴァンドゥとヴァンヌフをォ!!」

 

「まだ引っ張るよこのおっさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――♪」

 

 

 ふふふ、ふふ――――――ふ、ん……。

 

 

 鼻歌。

 一定のリズムを繰り返し繰り返し繰り返し――――――

 飽きることなくこの歌に喉を震わす。

 この歌に思入れがあるのか、『鬼』の顔は消え、瞼を閉じ、木に寄りかかりながら静かに、『光』がまだ彼女の中にあった頃を思い出させてくれる。

 この歌を歌って瞼を閉じると『光』が見える。

 ワタシを照らす暖かな『(過去)』が見える。

 耳からの雑音など聞こえない。

 聞こえるのは『光』が会ったあの頃の総て。

 こんな日常がいつまでも続けば――――――

 嗚呼、でもワタシは知っている。

 コレは幻で、コレは幻聴だと。

 それでも、この時だけが『光』を失った『鬼』を忘れることが出来る。

 現実を拒絶できる。

 嗚呼分かっている。

 幻想はいつまでも続かない――――――

 

 

「ふふふ、ふふ――――――ふ、ん……フフフフフ」 

 

「おや?君が笑うところなど初めて見るよ。なにか、そう、私の様に玩具でも見つけたのかな?」

 

「そう?そうなのよね……笑ってるのね、ワタシハ」

 

「私は君に協力し、君は私に協力する。そう約束したあの日から私達は同士だ。似た者同士である私の勘だが、私のそれは好敵手であるが、君のそれは片思いの恋い焦がれた待ち人に出会える……そんな瞳だ。嗚呼勘違いしないでほしい。恋する瞳とか愛を秘めた美しい瞳とかそんな『光』ある瞳ではない。濁りに濁った狂喜の瞳だ。世界を呪う狂った『闇』の綺麗な瞳だ。そんな瞳に一途に見詰められるどこかの誰かさんがとてもとても羨ましい」

 

「やっぱ変態さんね。そこだけがワタシとアナタノ違い。ワタシは今も『光』を求めているもの。『闇』を払い、在った筈の幸福を胸に抱きながらひっそりと生きていたいの」

 

「居ない者を常に想い生きていく、やはり狂ってるよ。度し難いほどに」

 

 

 クククと、笑いながら娘を抱き眠りにつく。

 見張りは交代制で最初はワタシだ。

 警戒は怠らないが、いつもと違い気分が高揚しなんだか人とお話をしたくなる。

 『鬼』となったワタシにいつまでも付き従う幼子。

 今年で九歳となるワタシの『光』の唯一の現世の繋がり。

 

 

「明日、どんな形であれ決着がつく。ワタシは殺すわ、どんな障害が立ちはだかろうと絶対に殺すわ、四肢捥がれ、この双眸が潰されようが、心臓が鼓動する限りワタシは喉元に噛み付く。……たとえ一死報えず心臓が止まりアイツの足元でのたれ死んでも、ミリーが居る。死ねばもう触れ合えず話す事も出来ず未知を共有できなくなる。でもね、ワタシがそうであるように、ワタシの中に確かに生きているの。生きているのよ。アナタは如何ミリー?アイツに『光』を奪われた人たちは大勢いる。『鬼』は無数にいる。ミリーは如何なの?」

 

 

 この子は無口で内気だ。

 ワタシと同じで全てを失い依存していた『光』を失い人形と化した。

 何も成そうとしない幼子の手を取りここまで巻き込んだ。

 でも、それでも、ワタシ死ねばこの子が殺し、この子が死ねばまた誰かが殺しに逝ってくれる。

 『人間』の肉体は滅びようが意志は誰かに受け継がれる。

 『闇』は『人間』にこびりつく本質。

 ゆえに、『鬼』は目に視えぬ本質。

 最終確認。

 この子が何も答えず人形に成り切るなら、置いて行く。

 ワタシが死んだとき、この子は気付くのだ。

 人形と化した己の中に眠る本質を。

 

 

「………………ぁ」 

 

「ん?」 

 

「……しあわせだった……のかなぁ」 

 

「……」 

 

「……最後まで……一緒で、しあわせだった、かなぁ」

 

「……」

 

 

 ワタシには答えられない。

 

 

「……たたかう」

 

「……え?」

 

「……いっちゃうんでしょ?……おねがい、おいていかないで」

 

 

 ワタシはこの子を利用するのだと再度自覚させる。

 事実、唯の人である自分と呪われた子供たちのくくりで物事を合理的に考えるならこの子は必要だ。

 

 

 "この子の心を殺したのはアイツでも、肉体を殺すのはワタシの意志"

 

 

 『鬼』であるワタシには答えられない。

 付いてくるならそうすればいい。

 ワタシはこの子の頭を撫でる事しかできない。

 明日、総てがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しにたい」 

 

 

 目覚めたももかはまず自己嫌悪で死にたくなった。

 死にたくなっても――――――死にたくない。

 所詮口先だけの女だ。

 ゆえに。

 

 

「……きえたい」 

 

 

 総て関係ない遠い何処かにきえたい。

 きえさって人生をリセットしたい。

 それでも私は逃げきれない。

 逃げることが出来ない。

 

  

「お、目覚めた」 

 

「ぅ……ゆうがぁ?」 

 

 

 乱暴で口も悪くて性格も最悪、そんな人間最底辺な彼が扉を開け私が寝ている布団の近くに腰を下ろす。

 

 

「えっと……なんじ?」

 

「丸一日寝てたよ。それにしても結構重いね」

 

「乙女に体重訊く?やっぱ人間最底辺だね。常識がないよ常識が、これだから脳筋は」 

 

「そうかそうかそんな態度をとるのか、お腹を空かした頃合いだと御粥でも作ってきたのに」 

 

「オウゴットファーザー血の盟約を契ったファミリーを見捨てるのですか?」 

 

「誰がゴットファーザーだ根暗。僕が食べるよ」

 

「おにぃきちくぅあくまぁげすぅげどうぅはげおたんこなすうんこいろのかみのけぇエ!?」

 

「殴った」

 

「うぅ~」

 

 

 泣いちまうぞ、このやろう。

 悠河は御粥を一口食べると残りを頭脇に置いた。

 

 

「まだやることがある。忙しいんだよ。それ食ったらもう寝て明日に備えろ。置いてくぞ」 

 

「あーんしてよ」 

 

「口移ししてほしいか?」 

 

「……」 

 

「……」 

 

「……いい、けど?」 

 

「一著前に女の顔で男を誘うな馬鹿」 

 

 

 "パチン"。凸ピンされた。イタイ。

 結構マジなのに。

 

 

「お休み」

 

「……お休みなさい」

 

 

 そして悠河は出ていく。

 こんな忙しい時期に私の分の仕事まで頑張ってくれてるんだからツンデレだよ。

 なにより、私と『木原』を合わせないよう配慮してくれた。

 ダメなのは解っている。

 私は悠河に依存している。

 悠河に逃げ道を作っている。

 でも、それが私だから。

 少し冷めた御粥をスプーンで掬い一口食べる。

 

 

「……あたたかいなぁ」

 

 

 ありふれた御粥が、何故か胸にしみた。

 明日は何時もみたいにからかってやる。

 まずはスプーンでの間接キスからからかってやろう。

 唇を指でなぞる。

 いつもより気分がイイ。

 明日はいつも以上に頑張れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某病院の病院の一室で、蓮太郎は星を眺めていた。

 木更さんと延珠には心配をかけてしまった。

 俺が目覚めたのを確認すると、二人して散々人の事を馬鹿にして……謝るしかなかった。

 もう無茶はしないと出来うる限り約束して、木更さんは延珠を引っ張って帰って行った。

 俺は星を眺め、黄道十二星座を探していた。

 ゾディアックの危機、蛭子影胤の脅威、在るか分からない未来を想いながら、それ以外の更なる胸騒ぎが蓮太郎を支配していた。

 蓮太郎はごく普通の平凡な少年だ。

 それでも、死線を幾度なく経験し生き延びてきた彼の勘が確信をもって語りかけてくる。

 

 

 "決戦は――――――明日だと"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






パンプキン・シザーズなる戦争漫画を朗読、物語の進行速度は遅いですが、我々には無い、戦争があったからこその思想と残酷さを楽しむ?ことができます。
オススメです!!

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