西暦2021年前に転生したんだから科学者として頑張るしかないでしょ!!   作:namaZ

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ゆっくり進めるのは性分ではないので、一気に進めます。
結構早い段階で『木原』再登場しそうです。












原作開始
第二十一次観測


 地獄の使者が徘徊する世界に安寧はない。

 仮初めの平和も長くは続かない。

 壁を建てても何の解決にもならない。

 この時代に大切なのは、どんな犠牲を払っても人を救う統治者と頭脳と武力を持つ者。

 僕は五翔会が――――――教授こそが人類を先導する選ばれた人間だと確信している。

 教授の命令は何をおいても正当化される。

 教授の命令を厳守する。

 たとえムカつく上司の下で働く事になってもそれが教授の命令なら粉骨砕身で勤しむ。

 一年前に連絡して以降、定時報告の書類上でしか会話をしていない僕は緊急の連絡を専用回線で報告していた。

 

 

《……遺産が盗られただと》

 

「はい。より詳しい情報を随時更新し収集してますが、東京エリアの上層部は相当慌てているようです。秘密裏に動いていた遺産を輸送する部隊がガストレアに襲われ、奪われた遺産の行方を捜索してるようです。そろそろ依頼として政府直々に防衛省に招集が掛かるはずです。会社に属してないフリーですけど八百番台なんで」

 

《それで済むならいいけど……不安要素があればすぐにでも連絡してくれ》

 

「『木原』さんは遺産が何を指しているのか察しているようですが、それが分かれば調査の方もより進行します。開示していただければ……」

 

《なに、唯の玩具だよ》

 

「玩具ですか?」

 

 

 なにかの隠語?少なくとも教える気はないようだ。

 複数機常備してある携帯のうち一つが震える。

 アレは民警ように用意した携帯だ。

 

 

「すみません。どうやら民警としての僕に依頼が来たようです」

 

《早いな、聖天子……菊之丞が動いたか。今回の仕事は直々にあいつ等が依頼するぞ》

 

「自らですか?」

 

 

 東京エリアのトップが直々に民警に依頼など前代未聞だ。仲介人を挟んでたまに――――――するか?そんな記憶は一つも無かった。

 そんな前代未聞なエリア統治者が直接依頼を申し出る未来を上司は予見している。

 遺産はそれほどのモノなのだ。

 事前に教えてくれれば仕事が楽になるんだけどなぁ。

 この上司は部下に楽をさせる気がさらさらない。

 

 

《僕が直接出向く必要性が浮上するかもだから荷物をまとめとくよ。些細な危険も異常も見逃さないようにね》

 

「異常だらけですよ、この世界は」

 

《中々旨い事言うね君。それじゃ、民警として頑張ってね。利用できるものは何でも利用して東京エリアの壊滅だけは防いでね》

 

「え、ちょ、如何ゆう意味」

 

 

 通話はそこで途切れた。

 『木原』が切ったのだ。

 最後の命令はなんだ?

 とても聞き捨てならないフレーズが鼓膜を通じて聞こえた。 

 

 

「……やればいいんでしょやれば。ももか、G装備からH装備に変更」

 

 

 色々諦めた声音でももかに命令を下す。今回は本気だ。

 

 

「いいの?見られちゃうよ?」

 

「今回は緊急だ。対人()装備は……極力人目の無い所で使え。使用する際も相手を確実に殺せ」

 

「りょーかいだよん」

 

 

 ヤな予感がする。

 この呼び出しで、確実に事態が動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 V-MAXに跨り、ももかは振り落とされないよう僕の腰に抱き着く。

 渋滞が無い分、残り数十分で防衛省に到着予定だ。

 集合時間の三十分前に到着、順当だな。

 なんの障害もなく目的地に到着するとフロントに足を向ける。

 

 

「すみません。よろしいでしょうか」

 

「はい、ご用件はなんでしょうか?」

 

 

 素早く説明する為民警許可証を見せる。

 向こうの呼び出しだ。これだけで察しはつくだろう。

 民警許可書が解らない人に説明するなら警察手帳の様な役割と理解すればいい。

 少々お待ちくださいと一分ほど待たされた後、案内役の職員に誘導される。

 東京エリアで数少ない三桁だけあって、案内役の人の緊張が伝わってくる。

 一般人にとっても千番台以下の民警は化け物扱いだ。

 取って食うわけでもないのにそこまで怯えなくてもねぇ。

 

 

「此方になりますので、私はこれで」

 

 

 丁寧に頭を下げ立ち去る職員。

 扉ぐらい開けてけよ。

 ネクタイを整えスーツの皺を伸ばす。

 服装で舐められたら終わりだ。五翔会で発注した戦闘用のスーツは防弾繊維で編まれている。こんなすごいモノを開発するなんて教授はなんて素晴らしいんだ。(『木原』が暇つぶしに用意してくれました)

 第一会議室と書かれた部屋を開けると、思わず声を上げてしまった。

 そうか……こいつもいるのか。

 

 

「あぁ?……テメェ、やっときやがったか悠河ぁ!!俺様が呼ばれた時点でおめぇーも緊急招集されねぇはずないもんな。この依頼は横取り阻止だ。今度こそテメェに勝つ」

 

「毎度毎度その喧嘩腰どうにかなりません?付き合ってるこっちの身になってくれよ」

 

 

 何処のギャングだよと問いたくなる筋肉マッチョが喧嘩を仕掛けてきた。

 こう見えてIP序列1264位の実力者。

 千番台伊熊(いくま)将監(しょうげん)は何故か僕を敵視する。

 イニシエーターは千寿(せんじゅ)夏世(かよ)。第一世代のモデル:ドルフィン

 

「こんの野郎、この場で死にたいらしいなガキ」

 

「ガキに負ける貴方はなんです?洟垂れ小僧とか?」

 

「死刑確定だ!!」

 

「将監さんダメです、抑えて下さい!ここでの争いごとは我々に不利益です」

 

「イニシエーターに子守をさせるとか、どっちがプロモーターかわかったもんじゃないね」

 

「………………怒りってもんは一周すると冷静になるって本当なんだな。死にさらせぇ!!」

 

「全然冷静の"れ"の字も感じられませんよ!?一旦落ち着いて下さい。今回の依頼で目に物見せてあげましょ?」

 

「……チッ命拾いしたな。夏世(かよ)に感謝しな」

 

 

 "どっちが保護者か分かったもんじゃないな"って言えばお互い無傷じゃすまなそうだ。

 平和に事が済むのはいいことだ。

 自ら引き金を引く必要はない。

 

 

「お、先に来てたか。よ、悠河」

 

 

 連太郎くん、君の運の悪さには称賛を送るよ。

 

 

「君はつくづくタイミングが災厄だね」

 

「どういうことだ?」

 

 

 将監さんが連太郎くんにダッシュ頭突きをお見舞いした。

 同い年で無名の連太郎くんに憂さ晴らししに行ったか。

 扉を突き破り向こうの廊下まで飛ばされた連太郎くんは僕の視界から消え去る。

 ご愁傷様。そこまで面倒は見きれないから頑張ってね。

 

 指定席に座ると将監さんの雇用主、三ヶ嶋ローヤルガーダー代表取締役三ヶ島影似(かげもち)が落ち着いたのを見計らって話し掛けてきた。

 

 

「うちの将監がいつもすまない。馬鹿は馬鹿でもそこまで馬鹿じゃないんだ。許してくれ」

 

「いつものことですから構いませんよ。それより……流血沙汰は三ヶ嶋さんも困るんじゃないんですか」

 

「あの馬鹿、すまないが失礼させてもらうよ」

 

 

 これで連太郎くんの命の心配はないな。

 将監さんは馬鹿だけど目上の人間には敬意を払う要領を弁えた馬鹿だ。

 そろそろ指定の時間だ。

 制服を着た幕僚クラスの自衛官が部屋に入ってきた。

 僕を含む社長クラスが一斉に立ち上がりかけたところで、手を振って着席を促す。

 クライアントには従うものさ。

 

 

「空席一か……本日集まってもらったのは他でもない、諸君ら民警に依頼がある。依頼は政府のものと思ってくれて構わない。本件の依頼内容を説明する前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち退席してもらいたい。依頼を聞いた場合、もう断れない事と先に言っておく。……よろしい、では退席はなしでよろしいか?」

 

 

 そんな幼稚な脅し文句で今更ビビる神経はこの場にいない。

 特大パネルの並べられた席の空席は一つ。

 さて、今回の依頼は一悶着ありそうだ。

 

 

「説明はこの方に行ってもらう」

 

 

 突如特大パネルに映し出された一人の少女に、僕を含めた社長クラスが勢いよく立ち上がった。

 雪を被ったような純白な服装と銀髪――――――聖天子。

 

 

《ごきげんよう、みなさん。楽にして構いません。私から説明します》

 

 

 この少女こそ敗戦後の日本、東京エリアの統治者。

 当然ながら誰一人着席する者はいない。

 座ったら将監さん以上の空気と世間体が読めない馬鹿だ。

 おっと、大馬鹿から殺気が。

 

 

「といっても、依頼自体はとてもシンプルです。民警のみなさんに依頼するのは、昨日東京エリアに侵入して感染者を一人出した感染源ガストレアの排除です。もう一つはこのガストレアに取り込まれたと思われるケースを無傷で回収してください」

 

 

 ケースの説明はない。

 予想通りとはいえ、今回の報酬に対しガストレア一匹は高すぎる。

 本命はケース。知られたくはない、知る必要もない。

 軍人、自衛隊、民警にも当てはまる事だが、永く生き残るすべの一つに「何も喋るな、詮索するな」の暗黙の了解がある。

 命令に対し疑問を懐くな、命令通り実行しろ。

 命令を胸に止め、そこで見たものは詮索も喋ってはならない。

 民警は軍人と違い自由奔放で、気分やでそこまで縛りは無い。

 だが、東京エリアの民警なら統治者である聖天子の命令は絶対だ。

 拒否権も拒否する気もない。

 誰も自分から立場を危うくする愚か者はいない。

 本音では、ケースの中身が気になるのは人のサガだ。

 三ヶ嶋さんがすっと手を挙げる。

 

 

「質問よろしいでしょか。ケースはガストレアが飲み込んでいる、もしくは巻き込まれていると見ていいわけですか?」

 

《その通りです》

 

 

 あの将監さんを首輪に繋ぐだけはある。

 飲み込んだ、巻き込まれたではケースの場所が大きく異なる。

 巻き込まれるとは、被害者がガストレア化した際、破れた衣装や表皮、身に着けている装飾品が変化したガストレアの皮膚部に癒着してしまう現象の事だ。こうなるとガストレアを倒してから取り出すより他なくなる。 

 

 

「感染源ガストレアの形状と種類、今どこに潜伏しているのかについて、政府は何か情報を掴んでいるのでしょうか?」

 

《残念ながらそれについては不明です》

 

 

 今度は木更さんが挙手する。

 もうこれといった聞きたいことは無いはずだが何を聞くんだ。

 

 

「回収するケースの中には何が入っているのか聞いてもよろしいですか?」

 

 

 あぁ聞いちゃうんだ。

 ざわりと周囲の社長が色めき立つのがわかった。

 知りたいけど、マジで聞いちゃう?絶対教えてくれないよ、とこの場の社長は考えているが――――――教えてくれる可能性も無きにしも非ず。

 はからずも木更さんが全員の意見を代弁した形になったらしい。

 

 

《あなたは?》

 

「天童木更と申します」

 

 

 聖天子は少し驚いた表情をした。

 

 

《……お噂は聞いております。それにしても、妙な質問をなさいますね天童社長。それは依頼人のプライバシーに当たるので当然お答えできません》

 

 

 周囲の社長が「ですよね~」と、表情には出さないが肩を落とす。

 想定した流れ通りなので、落胆は誰一人いないが。

 

 

「納得できません。感染源ガストレアが感染者と同じ遺伝子を持っているという常識に照らすなら感染源ガストレアもモデル:スパイダーでしょう。その程度の敵ならウチのプロモーター一人で倒せます」

 

 

 ……えっと、それ訊いちゃうの?

 ここにいる全員それに気づいてるし、触れないし、訊かないスタイル通してるんだけど……。

 

 

「問題はなぜそんな簡単な依頼を破格な依頼料で……しかも民警のトップクラスに依頼するのか腑に落ちません。ならば値段に見合った危険がケースの中にあると邪推してしまうのは当然ではないでしょうか?」

 

《それは知る必要がないことでは?》

 

「そうかもしれません。しかし、あくまでそちらが手札を伏せたままならば、ウチはこの件から手を引かせていただきます」

 

《……ここで席を立つとペナルティがありますよ》

 

「覚悟の上です。そんな不確かな説明でウチの社員を危険にさらすわけにはまいりませんので」

 

 

 この場の社長、五翔会でも滅多に居ないタイプの人間だ。

 自分の出世より部下の命を重んじるタイプ。

 社員に好かれるが、自分の立場を危うくし自滅して、出世できない。

 社長も社員もそんなのだから貧乏から抜け出せないのか。

 『天童』にしては、世渡り下手糞だね。

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 突如、部屋中に響き渡るほどのけたたましい笑い声が響き渡った。

 

 

《誰です》

 

「私だ」

 

 

 お前だっ……上司に毒されてる。

 先程まで空席だった――――――一々名前覚えていない社長の席に仮面、シルクハット、燕尾服の怪人が、卓に両足を投げ出して座っていた。

 ソードテールの光学迷彩――――――最近資料で見た事あるな。

 プロモーター蛭子(ひるこ)影胤(かげたね)、イニシエーター蛭子(ひるこ)小比奈(こひな)、大量殺人を繰り返し再三の犯罪により、民警ライセンス停止・序列凍結中の元プロモーターであり、ライセンス停止前のIP序列は134位。

 僕と同じで教授との取引で機械化兵士になれたのにその在り方は僕と真逆。

 僕は世界平和を。

 影胤は混乱を。

 両隣に座っていた社長は忽然と現れた影胤の存在に驚き席から悲鳴を上げ転げ落ちる。

 「いよっと」と掛け声をあげて影胤は体を反らせて起き上がると、卓の上に土足で踏み上がる。そのまま卓の中央に来ると立ち止まり、聖天使に相対する。

 

 

《……名乗りなさい》

 

「これは失礼」

 

 

 影胤はシルクハットを取って体を二つに折り畳んで礼をする。

 

 

「私は、蛭子影胤。お初にお目にかかるね、無能な国家元首殿。端的に言うと私は君たちの敵だ」

 

 

 背筋に走る悪寒が、僕にP8拳銃を抜かせる――――――前に、将監さんが斬りかかった。

 

 

「ごちゃごちゃごちゃごちゃうっせぇんだよ!!こっちとりゃ我慢して我慢して我慢して我慢してんのに余計な話をたらたらたらたら邪魔くせぇ!!敵!?敵なら俺のストレス解消惨殺マシーンとして機能しやがれ!!」

 

 そんなに怒ってたか、影胤の登場に溜まりに溜まった堪忍袋の緒が切れちゃったか。

 その点感謝。馬鹿相手に無駄な体力を消費せずにすんだようだ。

 瞬時に懐に潜り込んで速度を維持したまま逆巻く突風をまとって巨剣が竜巻の如く振り回される。

 角度、タイミング共に逃れられない必殺の間合い。

 だが"バシィッ"という雷鳴音が弾け、次の瞬間将監の剣があさっての方向に弾け飛んだ。

 

 

「なに!?」

 

「マシーンはマシーンでも私はキリリングマシーンの方かな」

 

「下がれ将監!!」

 

 

 三ヶ嶋の一喝を瞬時に意図を汲んだ将監は舌打ちと共に後退する。

 集まっていたすべての社長、プロモーターの一斉発砲。

 弾倉から弾が無くなるまで引き金を引きまくる。

 360度あらゆる方向からの銃撃は、再び雷鳴と共に今度はよりハッキリと青白い燐光が見える。

 ドーム状のバリア。

 弾丸は全てあさっての方向にに弾かれ意味をなさない。

 

 

「斥力フィールドだ。私は『イマジナリー・ギミック』とよんでいる」

 

 

 今の僕に、このフィールドを貫通するだけの火力が無い。

 第一世代に後れを取るなんて!

 

「すごーい機械化兵士だぁ!」

 

 

 空気読め大馬鹿!

 

 

「ほお、知ってるのかい?流石は高位民警だ。知らない人の為に説明するが、私はコレを発生させるために内臓の殆どを摘出してバラニウムの機械に詰め替えている」

 

「機械だと?」

 

「名乗ろう里見くん、そこの少年、私は元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』蛭子影胤だ」

 

「……ガストレア戦争が生んだ対ガストレア用特殊部隊?実在するわけ……」

 

「信じる信じないも君も勝手だよ。まあなにかね里見くん?つまりあの時私はまったく本気じゃなかったんだよ。悪いね」

 

 

 接触してたのか、その情報話してほしかったよ。あと連太郎くん、嘘はいけないな。

 

 

《……なにようですか?》

 

「おっと、これはご無礼を、今日は挨拶だよ。私もこのレースの賞品いただこうと思ってね」

 

《報酬に関して……》

 

「あぁ勘違いしないでくれ、私がいただくのは『七星の遺産』の方だ」

 

《ッ!!》

 

「『七星の遺産』?なんだよ、それ」

 

「おやおや、君たちは本当に何も知らずに依頼を受けさせられようとしていたんだね、可哀想に。君らが言うジェラルミンケースの中身だよ。そこでだ諸君ッ、ルールの確認をしようじゃないか!私と君達、どちらが先に感染源ガストレアを見つけて『七星の遺産』を手に入れられるかの勝負といこうか。『七星の遺産』はガストレアの体内に巻き込まれているだろうから、手に入れるには感染源ガストレアを殺せばいい。掛け金(ベット)は君たちの命でいかがかな?」

 

 

 その発言に誰も何も言はない、言えない。

 影胤は連太郎くんに赤いリボンがあしらわれた箱を渡すと僕に向かい。

 

 

「なぜだろうね、里見くん同様君に興味が湧いてきたよ。名前を聞いても?」

 

「……巳継悠河」

 

「そんな警戒しなくても殺しはしないよ。またね、巳継くん」

 

 

 連太郎くんが力を発揮しないと今は勝てないからね。

 さっさと帰って欲しい。

 二人は悠然と窓を割り、ごくごく自然な動作で飛び降りた。

 

 

「ももかにしては空気を読んだ。よく襲わなかった」

 

「私基本ニートだからないない」

 

「なにしでかすか解らないんだよ」

 

 

 連太郎くんは木更さんに問い詰められている。

 あんな危険人物と接触したのに、過保護の社長に相談なくて拗ねてるね。

 連太郎くんが言い淀んでいると、三ヶ嶋さんが怒りに任せ卓に拳を叩きつける。

 この依頼の危険度を理解したらしい。

 

 

「天童閣下ッ!新人類創造計画はッ……あの男が言っていたことは本当なのですか?」

 

《答える必要はない》

 

 

 菊之丞はこゆるぎもせず即答する。

 重たい沈黙が下りかけたその時、半狂乱の男が会議室に飛び込んできた。

 

 

「大変だ!しゃ、しゃちょうがああああああああああ!!?自宅で殺されて、し、死体の首がどこにもない」

 

 

 全員の視線が連太郎くんの手前に置かれた箱に向けられる。

 箱の底から赤いシミが滲み出る。

 中身を確認するまでもない、趣味にしては悪趣味だ。

 連太郎くんが怒りに任せ叫んだ。

 憎しみを感じる悲痛な叫びだ。

 

 

《静粛に!》

 

 

 聖天子の澄んだ声に一同顔を上げ注目する。

 

 

《事態は尋常ならざる方向に向かっています。みなさん、私から新たにこの依頼の達成条件を付け加えさせていただきます。ケース奪取を企むあの男より先に、ケースを回収してください。でなければ大変な事が起こります》

 

 

 木更さんが聖天子を睨み上げた。

 

 

「中に入っているものがどういうものなのか、説明していただけますね?」

 

 

 聖天使は目をつぶり唇を小さく噛んだ。

 

 

《いいでしょう、ケースの中に入っているのは『七星の遺産』。邪悪な人間が悪用すればモノリスの結界を破壊し東京エリアに大絶滅を引き起こす封印指定物です》

 

 

 知ってて言わなかったな『木原』さん。

 命令である以上、僕は大絶滅を何としても阻止しなければならない。

 次、会った時は機能を停止させる。

 

 

 

 

 

 

 




ミスマルカ興国物語の新巻かと思ったら、ミスマルカ興国しない物語だった件について。
ちょっとがっかりしたw

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