西暦2021年前に転生したんだから科学者として頑張るしかないでしょ!!   作:namaZ

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この二人の絡みを書きたかった。
腐腐腐、腐ってやがる。
三月に入り忙しくなり四日ペースは無理になりました。
時間がとれない。


感想、アドバイス等よろしくお願いします。







第十九次観測

 薄らかび臭い湿気の充満したボロ部屋が鼻孔を刺激する。

 冷房設備の故障か、夏特有の熱気と湿度が部屋の住人を苦しめる。

 全開の窓から風が入ってくるが、生暖かいせいか意味をなさない。

 頬に汗が伝う。腕を枕に眠るには不適切な環境。

 僕の頭上で壁に寄りかかりながら力なく胸元を仰ぐ弱り切った姿から想像できないが、彼女は僕のイニシエーターだ。

 民警になって半年以上たったが、序列がどれだけ高くても暇な時は暇なのだと分かった。

 千倍台から一向に上がらないIP序列は悩みのタネだが、季節が夏になるとこの環境を用意した上司が悩みのタネとなった。

 金も困らない程度貯金してあるし、任務中であるので毎月給料は支払われる。

 高級住まいに引っ越すのになんら問題はない。むしろ今すぐ引っ越したい。

 上司に引っ越しの有無を申請した所、何とも分かりやすく二文字でファックスで送られてきた。

 

 ――――――却下。

 

 叩き壊さなかった僕を褒めて欲しいですね。

 引っ越しが無理ならそれ相応の理由があるはず、秘匿回線で尋ねたはいいが……

 

 

《何不自由ない生活してきただろ。あんな防音性抜群の空調設備が整えられた所より、一般市民の貧乏人の生活の方が色々情報が入る。別に嫌がらせや面白いと思ってそんな貧相な場所に住まわせてる訳じゃないからね。これも、任務をより完璧に実行し完遂する僕の好意だと思ってくれたまえ》

 

 

 僕の個人情報を知らない筈がないのにこの皮肉、一言二言余計だけどこの様な環境だから入ってくる情報もある。これ以上何を言っても正論で返されそうなので素直に納得し回線を切る。舌打ちは忘れないが。

 そんなこんなで、四枚羽の自分がこんな腐った部屋で暮らしている。

 生暖かい風が身体を撫で回すが、39.5度の気温から発生する風はサウナと何ら変わりない。

 これなら、空調の利いた快適な空間に移動する方が有意義だ。

 雲一つない快晴な大空が悠河の精神を削る。

 冷房は修理どころか、最新の新品に変える予定だが、運がない事に僕と同じ考えの輩が同時刻にいたのか、予約待ちで一週間待たなければならない。

 "ぐぅ~"……もう昼時、調理するには時間がかかり遅くなってしまう。手抜きはしたくない。

 

 

「昼食にしますか、出かけるからさっさとしたくしろ」

 

 

 壁に寄りかかっていた少女は目だけ僕に合わせるとやる気のない返事でだらだら立ち上がる。蹴り倒すぞ。

 

 

「汗拭け、着替えろ。汗浸み込んで下着見えてるよ」

 

 

 大きめのバスタオルを投げ渡す。

 頭から被り視界が悪くなったせいか、バランスを崩し壁に後部をぶつけうずくまる。

 コイツ置いてっていいか?いいよな、その方がいい。

 彼女の容姿は少し変わっている。

 黒髪が目元まで伸び切ったストレートはくせ毛でちょくちょく髪が刎ね、どんより濁った瞳は光さえ反射せず闇に飲み込む。

 地味に気に入っているのか夏はワンピースを好んで着ている。顔に似合わず白しか着ない。

 

 

「……九十九番目は落ちこぼれ、ふひひ、駄目な子」

 

 

 一人で勝手に落ち込むのが悪い癖だ。こればかり如何にかならないかな。

 

 

「ももか、一分だけ待ちます。それ以上は置いてく」

 

 

 神無城沙希博士が育てたと聞かされている"九十九ももか"のプロフィールは詳しく知らされていない。

 ももかの口癖は『九十九番目は落ちこぼれ』、この事から彼女はローマ連邦で九十九番目に育成された呪われた子供たちなのか、格付けで付けられた数字なのか、候補はいくつかあるが、この様子から後者の予感がする。

 

 

「……お腹が、このままでいいよね」

 

「着替えろ」

 

 

 エヴァとは真逆な性格でそりが合わない事が多々あるが、任務はそつなくこなすのでペアとしては問題はない。私生活にも任務中の俊敏性が備わって欲しいが。

 教授の元では考えられないが、友好的な交流関係を維持している。民警として、IP序列を上げる為人間関係は欠かせない。 

 上司の命令がなければ今すぐ民警辞めてやる。

 『五翔会』の情報網があれば民警に属する必要がないんだけど。

 

 外食をすまし、図書館で暇つぶしをしていると携帯がバイブレーション機能を作動する。

 メールを受信したようだ。内容を確認すると仕事だ。

 

 

「仕事ですか、行くとしましょう……何をやっている?」

 

「干からびたカエルの物まね」

 

 

 人目を気にせず蹴り飛ばした僕は悪くない。

 仕事と言っても野良ガストレア討伐の簡単なお仕事。正直IP序列が上がりそうな仕事以外ボイコットしたいんだが――――――『木原』!!教授直々の指名の上司の命令じゃなきゃ猛抗議してる。

 移動手段として購入したV-MAXに跨り、ももかにヘルメットを被せ後ろに座らせる。

 

 

「レベルⅡが侵入したようです。僕が斃すから手出し無用で」

 

「やりぃ♪」

 

 

 エンジンを噴かせ零から百にメーターが振り切る。風を置き去りにする錯覚を覚えるが、切り替わる景色が好きな悠河は好んでバイクを使う。

 目的地は外周区。人類のエリアでありながら忘れられた土地。

 住宅地に侵入する前に気付けたのは、巡回していた外周区の警備が目撃したからだ。

 一帯の民警に同時刻配信メールで依頼された討伐。足を運んだのに先を越されたは無駄骨である。

 外周区の整備のされていない道路は反動で身体が浮かび上がる。

 もう間もなく目的地だが――――――銃声が響いた。

 

 

「遅かったか……漁夫の利を狙うとしますか」

 

 

 間に合わない方が確立として高そうだけど行くだけ行ってみるか、此処まで来て何もしないのは癪だ。

 銃声の鳴り響いた方角に舵を取ると、運がいい事に激しい破壊音から此方に近づいてくる。

 

 

「このまま突っ込む、ハンドルは任せた」

 

 

 ももかは悠河の前に乗り出す。

 プロモーターはライセンス獲得時に戦車と戦闘機以外なんでも運転できる技能が最低条件で必要だ。一般的なイニシエーターは侵食抑制剤が配給されるメリットしかないが、ももかは唯のイニシエーターではない。ローマ連邦で身に着けた技能で戦闘機以外は乗りこなせるももかは二輪車の運転など片手間に出来てしまう。

 悠河の装備はシューズの靴底に仕込まれたバラニウムと超バラニウムで編み込まれたグローブ。飛び道具にはAMPテクニカル・サービス社製、DAR、No.1スナイパーライフルがあるが今回使用する予定はない。

 ガストレアを視認。巨大なヒグマと昆虫特有の触角が生えた何とも例えがたい立派なレベルⅡが涎を垂らしながら突進してくる。

 

 

「心臓を一撃で破壊する。口に飛び込むのは無しだ。タイミングを合わせろ」

 

 

 速度メーターは右端をカンストしエンジンが悲鳴を上げる。

 酸素を肺に満たし、二酸化炭素を吐き出すと――――――義眼の力を解放させた。

 悠河の両目に幾何学的な模様が現れ、黒目内部に仕込まれたCPUが起動し、黒目内部が回転。

 

 

「義眼サポート」

 

「ふひひ、不要」

 

「よし」

 

 

 ガストレアレベルⅡの噛み付きを見事なバイク捌きで躱し、ももかはハンドルを身体全体で捻り、急カーブと急ブレーキを同時に行い、心臓部を一瞬通過する。

 ――――――それで十分。

 掌打は正確に心臓部に命中し破壊する。

 ガストレアはそのまま瓦礫に衝突し停止。

 役目を終えた両目は正常な状態に戻す。

 後は、報告し報酬を貰うだけのはずが……少しめんどくさい事に。

 

 

「童の獲物が!?横取りされてしまったぞ連太郎ッ」

 

「しくった、木更さんに何て報告すれば……て、悠河じゃねーか」

 

 

 よりにもよってこのペアに鉢合わすとは、東京エリアのボロ臭いアパートを拠点に生活している僕の隣の部屋の住人。

 

 

「里見くん、奇遇ですね。ガストレアが手傷を負っていて助かりました。難無く倒せましたよ」

 

「仕留め切れなかった俺に対する皮肉かこの野郎、千番台様と一緒にすんな」

 

「天童式戦闘術免許皆伝があるじゃないですか、イニシエーターもレベルⅡ程度簡単に倒せる実力ですよ。ねぇ藍原さん」

 

「まったくだぞ」

 

「初段なしょ・だ・ん!そんな大層な肩書取った覚えないぞ」

 

「すみません先輩」

 

「よしてくれ、民警歴あんま変わんないだろ」

 

 

 先輩ですよ。機械化兵士一世代の次に生み出されたのが二世代型の僕たちなんですから。

 スペックは僕が勝っているが、貫通力は一世代型の里見連太郎に劣る。

 何故機械化兵士の力を使わない?

 ゾディアックを除くレベルⅣまでなら屠れる攻撃力を有しているのに。

 

 

「同い年ですもんね。……六時、早いですが夕食にしません?材料買い込んでしまったんで賞味期限がヤバいモノがいくつかありまして、勿論天童さんもご一緒に」 

 

「まじか、よし、木更さんも機嫌を直してくれるぜ。手ぶらで帰ったら……裏山に無残に打ち捨てられるとこまで想像した」

 

「上下関係がとても分かりやすいね」 

 

「連太郎は童と木更の尻に敷かれているからな!」 

 

「……勘弁してくれ」 

 

「ははは、それじゃ先に帰って準備してるよ。七時半に来てくれればいいよ」 

 

「悪いな。一度事務所に戻ってからそっち向かうわ」 

 

「それでは」  

 

「またな悠河!ももか!」

 

「えーちゃんも元気で、所詮わたしはえーちゃんと違って落ちこぼれ、駄目な子」

 

「そ、そんなことはないのだぞももか。ももかは凄い子だ!」

 

「ほんとに?」

 

「ああ!ももかは童の知らないことは何でも知っている。博士みたいだ」

 

「ふひひ、博士だって」

 

「はいはいそうだねよかったね」

 

 

 適当に返事をすると、アクセルを回し発進させる。

 帰ったら味付けを仕込まないと。

 戦闘には関係ない無駄に洗練された無駄のない無駄な動き家政婦スキルは、ボロアパートのペア暮らしに不本意ながら役立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はふはふ

 ズズっ

 はむ

 ふー……

 悠河の調理スキルはお店レベル、胃袋を完璧に持ってかれた。

 美味いのはいいんだ。

 ただ飯に文句は言えんし有り難い。

 しかし、しかしだ。

 

 

「この肉団子絶品、鍋ってこんなにも美味しくなるのね」

 

「ただ具材を鍋にいれれば美味しくなるわけじゃないんです。シンプルであればあるほど作り手の技量が試されるんです。決め手はこの出汁、コクがあってスープみたいに飲める」 

 

「ん、こくこく……ほんと出汁が違うわ。……この敗北感はなにかしら」

 

「肉だけじゃなく野菜も食べないと大きくなれないのだぞももか」

 

「にく、びみ」

 

「それは童の狙っていた肉団子!?」

 

「ふひひ、この世は弱肉強食」

 

「童が丹精込めて育てた団子を……許さんぞぉ!」

 

「隙あり」

 

「あー!全部持ってかれたぞ!一口も食べてないのに」

 

「うまうま」

 

「むむむむぅ~ッ連太郎ぉ」

 

「俺の分けてやるから大人しく食え」

 

 

 この蒸し暑い真夏に鍋ってどうよ?

 美味いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 




Dies iraeをプレイし早数年。神咒神威神楽 曙之光を購入しプレイし始めたのがつい先週。シルヴァリオ ヴェンデッタをプレイするのは何時になるやら。

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