西暦2021年前に転生したんだから科学者として頑張るしかないでしょ!! 作:namaZ
不幸って他人からすれば美味しいですよね。
西暦2027年に設立された『国際イニシエーター監督機構』は世界各国に設立され、呪われた子供たちに対する殺傷事件、呪われた子供たちによる殺害窃盗事件は激減した。『国際イニシエーター監督機構』は呪われた子供たちにとって、養護施設、訓練施設、強制収容所、管理施設だ。『国際イニシエーター監督機構』は武器商人と皮肉な相性で呼ばれている。
土台作りに二年掛けただけあってそのシステムとルールは各国は無視できない――――――ガストレアと戦うため無くてはならない存在になりその立場は揺るぎないものになった。その際、政治には干渉できない等の条約を決め呪われた子供たち専門の組織になる。
そして生まれたのが、イニシエーター・プロモーターシステム。イニシエーターは呪われた子供たち、プロモーターはイニシエーターとペアを組んで戦う民警社員(人間)。ツーマンセルを組み戦うこのシステムは誰でもなれるが座学と実技の試験を受け
民警社員はその努力次第で特権が付く。それがイニシエーター・プロモーター序列、略してIP序列は全世界のイニシエーターとプロモーターのペアを、戦力と戦果で序列付けしたもので序列が上がるごとに『擬似階級の向上』や『機密情報へのアクセス権』などの特権が与えられる。あくまで"ペア"での順位であるため、どちらか一方が死亡するなどした場合順位はリセットされる。100位以内のイニシエーターには二つ名が付き、その戦力は文字通り次元が違う怪物に与えられる。
人間は弱い、呪われた子供たちが素直に従わせるための首輪を当然用意した。それが伝家の宝刀『浸食抑制剤』。ガストレアウィルスの体内浸食を抑制する大事なお薬。呪われた子供たちにとって欠かせない命に係わる秘薬。なにより、『奪われた世代』と『呪われた子供たち』にとってこの制度と序列を生きる糧にして欲しい願いもある。とくにドクターが力を入れたのが『機密情報へのアクセス権』。開示する情報を全てドクターが決め、最高機密アクセスキー・レベル一~十二に定め序列ごとに与えるシステム。これはドクターなりの遊び心。世界の秘密を暴きガストレアの真実を知り得るシステム。その情報を知りどうするかは当人の自由、『木原』を殺したければ暗殺なり何でもすればいい。『木原』は全力で返り討ちにする。『機密情報へのアクセス権』はドクターなりの飴でご褒美、世界のごく少数しか知り得ない情報を序列で開示するこのシステムは民警社員の意欲を刺激し闘争心を駆り立てる。更に『擬似階級の向上』の御蔭であらゆる面で顔が効く。
この盤石なシステムの下、民警はガストレアをぶっ殺す。
けど、六歳は若い。戦闘できるギリギリラインだがその問題はペア同士で解決してくれ。
一年後、アルブレヒト・グリューネワルトがドイツのイニシエーター『雷神』が
この世界に生を受け最初に感じたのは母の温もりでもない、ただただ冷たい無機質な痛み。
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい――――――
なぜ?
どうして?
いたいよ。
やめてよ。
いいこにするから。
だから。
いたくしないで。
わたしのため?
こまってるひとをたすけるため?
でもいたいよ。
おりこうさんはがまんするの?
ぱぱのためいなるの?
ぱぱをたすけることになるの?
わたしががまんするとぱぱはうれしいの?
なら。
がまんする。
なきむしじゃない。
もう。
なかない。
いたいっていわない。
さけばないし。
あばれない。
しゅうしゃも。
にがいおくすりも。
ぱぱのためならがまんする。
ぜんぶぱぱにまかせる。
ぱぱのいうことなんだってきく。
だからぱぱ。
ひとつだけ。
ひとつだけでいいの。
わたしが。
ぱぱや。
みんなにほめられるすごいことしたら。
ひとことだけちょうだい。
ひとことだけ――――――
頬に触れる気配を察知し、寝ていた私はその手の引き押し倒しうつ伏せに拘束する。
片腕を背中で捻り痛いのか苦痛の声を上げる。
抜け出そうにも完全に極まってるからもう片方でタップするその姿から、寝惚けていた私は急いで拘束を解く。
「いたたぁ……脱臼を覚悟したよ。いつのも君らしくない、魘されていたようだけど大丈夫?」
「う、魘されてなんかないわよ!え、ちょ、なんで寝室にいるの!?」
「……本当にいつもの君らしくない。SF映画を一緒に観てたらうとうとして寝ちゃったのはエヴァの方だろ?」
よくよく思い出してみたら、訓練もない休日は暇で娯楽を知らない私は彼のオススメのSF映画を
てことは、彼に寄りかかり無防備な姿をまじまじと観られ挙句の果て上着を毛布代わりに掛けられちゃったのわたし!
「訓練時でもないのに顔が赤いぞ?体調不良はないにしても念のため教授に相談するか?」
こ・い・つ・は!!
「うっさい!しね!部屋で寝るからまた明日!」
にこにこ手を振って「おやすみ」と別れの挨拶。大体いつもこんな感じのせいか私の罵声にはノーダメでなんかムカつく。
「あんたは私の世話役なんだからしっかり起こしなさいよね!」
返事を聞かず自室に直行。ムカつく、ムカつく、自分がムカつく。人の好意に素直に「ありがとう」といえない私がちょームカつく。
「……なんで性格こんなに歪んちゃったんだろ」
こうなった原因は思い当たる……わたしは、怖いんだ。
優しくされるのがこわいんだ。
「……わたし、みんなにほめられるすごいことしたよ?がまんするから、だから、だから、……ぱぱ」
枕に顔をうずめ、重くなった瞼を閉じてゆっくり、ゆっくりと夢の中に入っていった。
無垢な子供が虐げられ自分の殻に閉じこもって大人たちに繋がれた人生を約束された日々。
それを強要する人間と少しは変えようと努力をする人間。
この二人はどちらに属すのか、はたまた別の何かか……
核シェルター並みに頑丈に作られた応接室に二人の人物が対峙していた。
互いに護衛を付けず一対一で話し合うなど本来有り得ない二人。それを可能とするのは互いの関係性がなせる裏技の類い。両者向かい合って鎮座してるが予想通り先に沈黙を破ったのはドクターだ。
「来るなら来ると連絡してくださいよグリューネワルト翁。これでも多忙の身、電話一本さえしてくれば予定を潰さずにすんだのに」
「すまないことをした。だがどうしても君の口から直接訊きたいことがあっての」
「訊きたいこと?」
白々しい。グリューネワルトの訊きたいことなどお見通しだろうに。
「君の二人目の娘、エヴァ=T=K=ヴァンスガズのことだ。……年端もいかぬ幼子を戦場へ追いやる私は地獄へ堕ちるだろう。だからこそ前線で戦うあの子のために君に会って欲しい」
『エヴァ』がグリューネワルト翁に引き取られるまでどんな生活をおくっていたか経緯は不明だが、彼女の身体を調べたらその生活は実験動物と同じ扱いを受けていたとしか思えない仕打ちを受けていたと容易に想像できる傷が刻まれていた。
『エヴァ』を引き取る際、「コレはプレゼント、僕なりの友好の印です。あ、失敗作じゃないですよ。僕の秘蔵っ子の次くらい遺伝子は優秀ですから。身体に組み込まれた電子機器は外さないのをオススメします」
グリューネワルト翁は訝しんだ。自分にここまでする理由が見当も付かないからだ。『木原』は「この子は戦力になる。ベースは戦闘向きで他の赤めじゃまず勝てないでしょ。理由ですか?僕は貴方を気に入っている。一方的だけど友人として接している。この子は僕なりのお近づきの印ですよ」ハハハハと大きく口を開いて笑う。
意外な暴露でグリューネワルト翁は『木原』と話し込んでしまったが、最後に「この子は僕から離れた方が強くなる」と言い残しその日はお開きとなった。
「先程もおっしゃいましたが多忙の「そんな上っ面で納得するとでも?」……今年で西暦2028年……ガストレアが出現して7年目でアイツも7歳。7年でどれだけ世界は変わったと思います?グリューネワルト翁には説明不要ですが世界の在り方はガストレアのせいで人の命はとても軽いものになりました。医者であるグリューネワルト翁にはお辛いかと……でも、だからこそ、今はまだかまってやる余裕も猶予もない。むしろ真っ先に地獄に堕ちるのは僕の方ですね」
「……『木原』らしくないの。それともそれが本当の『君』なのかい?」
「ハハハハ!さーどうでしょうね、人の在り方も存外変わりやすい」
「ふふふ、君の言う通りだの。私もいつか医者の道を外れ悪鬼の道に堕ちる日が来るかもしれんの」
「そうしないと無理だとちょこっとでも悩んだら……この番号に掛けて下さい。それでは」
席を立ちそのまま退出するドクターにグリューネワルト翁は待ったをかける。
「まだちゃんとした返事を訊いておらんが?」
ドアノブに手を掛けたドクターが止まる。数秒だけ考える仕草をするとニッコリと悪巧みを考えた子供の顔で振り返る。
「エヴァには彼氏を紹介する時に会うと伝えといてください。人間不信のアイツがそんな超高難易度絶対無理だと思うけど、その時に約束を果たすと。でも世話役男性なんでしたっけ、確か名前は……
もう立ち留まる事なくその場を立ち去るドクターにグリューネワルト翁はソファーにもたれかかり頭に手を当てため息をつく。この条件はあの子には厳し過ぎると。
ぱぱがよろこんでくれる。
こいつをたおしたらぱぱがよろこんでくれる。
たおす。
たおす。
たおす。
たおす。
ころさなきゃかてない。
からだがいたい。
ころすんだ。
からだがいたい。
ころすしかない。
からだがいたい。
こえろ。
こえろ。
こえろ。
わたしをこえろ。
空気を読まない天候は漆黒の雲で雷鳴と雨を降らす。
泥と血で汚れた身体が清められる。
唇にこびりついた土の味がする。
視界が霞、疲労で手足がボロ雑巾で動かない。
水が浸み込んだ土が熱を持った傷口をひんやりして気持ちいい。
大地が震動する。
傷を修復しまた動き出したんだ。
まだ完全に治り切ってはいないが私が回復する前に仕留めるつもりだ。
パイルバンカー雷電針のカートリッジは残り一発。
私と共に戦った人たちはみんなやられた。
ガストレア化した人たちと戦うみんな。
それを焼き払う私。
みんなのサポートでここまで頑張れた。
ここまで。
ここまできたのに……!
雷が雲と雲との間を駆け巡り雹を降らせる。
雨と雹が入り混じりガストレアと人の死体を冷却保存する。
電池切れの身体を起動させる燃料は無い。
もう、うつては……
――――――稲妻が大地に向かって走った。
人が雷に撃たれる確率は1000万分の1の確率。
これは『偶然』なのか『奇跡』なのか。
空だった燃料がフルチャージされ全身に埋め込まれた安全装置が吹き飛んだ。
いくら常人より傷の治りが早いからといって安全装置なくしては感電の致命傷は避けられない。
しかし、この『奇跡』はみんなの力。
みんなの報いを受けさせないと気がすまない。
こいつをころす。
ころす。
ころす。
ころす。
「人間はな……弱いんだよ」
だからわたしがまもる。
ひとりになりたくないから。
ひとりぼっちはいやだから。
みんなをくるしめる
「わたしに……力を貸して!」
全身に電流が奔る。細胞が焼かれ再生を繰り返す。治癒力が間に合わない感電は傷を深く抉る。
細胞が、遺伝子が、因子がぐつぐつと煮えたぎる。
電流が神経を、筋肉を刺激し活性化させる。
身体が軽い。
いたみはない。
うねる手腕を回避、その上を駆け接近する。
感覚がおかしい。
こんな感覚初めてだ。
成長している。
技術が、特性(能力)が因子が限界まで成長しているのが分かる。
これが『ゾーン』。
お姉ちゃんの領域。
「……ほめてくれるかな」
みんなを死なせたわたしにはその資格はないのかもしれない。
だけど。
だけど……!
「
完全に修復しきれていない内部に侵入しパイルバンカーを叩き込む。
心臓に到達した雷電針が
頭部や全身に打ち込まれた雷電針に稲妻が落ちる。
神の怒りとでもゆうのか、雷鳴は止まない。
肉の焼けた臭いが充満する。
身体の一部が炭化し、仰向けに倒れる。
糸が切れたのか、疲労が一気に襲い掛かる。
この感覚に任せ、エヴァは眠りについた。
この瞬間――――――『雷神』は誕生した。
ダーウィンズゲーム試しに買ったら嵌っちゃいました。
六巻まだかな~