西暦2021年前に転生したんだから科学者として頑張るしかないでしょ!! 作:namaZ
手合せは互角。
ジョセフは技術で対抗し、レルネは足りない経験を性能で押し切る。
かれこれ二分この状況が続いているが、ジョセフのプライドはズタボロだった。
『男としてここはプライドで挑みます』って啖呵切っといてこれはダサい。本気も本気、ちょー本気で戦ってるのに身体能力だけで防がれいなされる。自信無くすなー……こんなに差が出るのか。十分に理解できた。ちょっと前に神無城沙希がある論文を発表した。今にして考えるとあの論文はドクターが書いたものだと分かる。論文の内容は希望的に見えるが世論が到底納得しない無茶苦茶なもの。
要約するとこう。
『呪われた子供たちは人類の進化の一つの形です。その能力は人間を超えガストレアをパンチやキックで殺せるスーパーマン。性別は女性しか確認できてないからスーパーウーマンの方が正しいですな。アメコミのスパイダーマンの様に彼女たちはガストレア因子の恩恵をその身に宿している。説明が面倒だからはぶくが一人一人がスパイダーマンだと理解してくれればいい。それを踏まえ、私は我慢の限界だ。ガストレアショック?赤い目にトラウマだぁ~?自分の赤ん坊を殺すってことは所詮その程度の愛情ってことだろ?ガストレア大戦以降、赤ちゃんを預ける施設を私は設置しました。預ける人もたくさんいましたが殺す人も後を絶たない。彼女たちは人類の希望なのです!殺すのは辞め、大事に育てましょう!以上!』
当然、黙ってはい、そうですって頷く輩より反発する輩の方が大勢いた。施設内部の局員が犯行を行うのもちらほら。今日は呪われた子供たちに対する考えに改革を齎す希望の灯火。
レルネは呪われた子供たち全ての代表ともいえる。彼女が、これからの呪われた子供たちの運命を決めるのだ。その重責はおれの想像が及ばない領域。呪われた子供たちの利用価値を人類に示す役目がある。それでも、これは、予想外!
「……中々に体が温まりました。感謝します。そして理解したでしょう……私が人ではないと」
「全然理解してないのはどっちかな?君は間違いなく人間だよ。俺が保証する」
「まだ言いますか。……準備運動は終わりです。肩慣らしの一撃でそろそろ止めときましょう」
「全力で打ち込んでよ。肩慣らしなんだし」
「……死にますよ」
「それで死ぬならそれまでのちっちぇ奴ってことだ。それに、女の子が一人悲しんでいるのに涙も拭えないんじゃ男として失格だ。それに、君もドクターから聞いてると思うけどおれをパートナーとして認めてもらおうかな」
レルネちゃんが視線をドクターに向ける。
ドクターは満面の笑顔で親指を立てる。
あれ、いいってことだよね?
「……分かりました。死んでも知りませんよ」
「おっ!耐えきったらパートナー認めてくれるってことでいいよね?」
「死なないしてもこの後の戦闘に問題なく出撃できたら認めましょう。……本来は私一人で十分です。ドクターにも考えがあって私と貴方を組ませようと考えている様ですが必要性を感じませんね」
「レルネちゃんには笑顔が似合うと思うんだよ」
「……いきなりなんですか?」
「いや、ね。困ってる女の子の涙を拭うのもそうだけど、女の子には笑顔でいてほしいかな。まだ会って間もないけどおれ、レルネちゃんの笑顔がど~しても見たくなったんだ」
ありゃ?滑ったかな。真剣黙り込むんだらどうかえしていいやら……ここは流れで押し切るしかない。
「そんな君とパートナーになって、いつか微笑んでくれたら……天使の微笑みを独り占めだ」
よし、手応えありだ。反応はいかに。
「……ば、馬鹿じゃないんですか!?そ、そそそんなこと言われて女性が喜ぶとでも!?やっぱり馬鹿です!大馬鹿です!さっさと死んでください!」
「ははは、何時でもどうぞ。おれは死にませんから」
もうすぐ約束した五分になる。レルネちゃんにはおれのカッコイイとこ見せないとね。
「……では、参ります」
腰を低く構え衝撃を受け流す体勢をとる。準備万端だ。まだ『人間』の性能を万全に発揮するには十三歳の年齢は若い。成長期のこの時期にどこまでやれるかが胆だ。
レルネちゃんのベースはなんだ?唯のパンチや蹴りじゃどれだけ身体の性能に差が生じようが完璧に防御できる。問題は攻撃までの過程でいかに仕掛けてくるか。人間に無い生物特有の能力を侮ってはいけない。
レルネちゃんは深呼吸をし大きく息を吐く。足が動いた、来る!
レルネの本気の助走の本気の踏み込みの本気の蹴りが、顔面に突き刺さる。森林を薙ぎ倒し二十メートル吹き飛ばされる。
無防備に、力む暇さえなく蹴り飛ばされた。岩を砕き、車をスクラップにする蹴りを人がくらう。しかし、泥と木に埋もれながら確かに生きていた。
一瞬意識が飛んだが、全身に奔る激痛に目を覚ます。痛みで力が入らない。
ありゃりゃこりゃ参った。ありゃーフェロモンか?レルネちゃんの吐く息に妙に鼻が反応したんだよな。違和感を無視するもんじゃないな。
ある研究で『人間の顔は殴られた時のダメージを最小限にすべく進化してきた』 ことが明らかになになった。助かった理由はほんのごく少数その進化の御蔭だ。しかし、リラックスしていたのがよかった。力まず全身を脱力することにより衝撃を分散させたのだ。反射で後ろに飛んだのも大きい。勿論無傷なんかじゃない。頭を護るために衝撃を下に逃がした分、体はズタボロだ。筋肉は筋肉痛の万倍やばいし骨はヒビが入るは折れるは粉々にならなかったのが不思議なくらいだ。中身の機能もいくつか損傷しているが停止するほどじゃない。顔も完全には無傷ではない。鼻は潰れ骨も砕けた。脳に刺さらなくて本当によかった。拳法の発勁習っといてよかった~応用するもんだ。
さて、男としてここは『プライド』の見せ所。ダッセェーとこ見せらんねーからな!!
死に体にカツを入れる。伝えなくてはいけない。彼女に、人じゃないとほざく彼女に知らせなくてはいけない。フェロモンのせいとはいえ一度は本気で心を奪われたお嬢ちゃんだ。初恋の相手を不幸のままに出来るかって!
右腕がちょっと動いた。脳の神経を右腕にフル活用し無理矢理動かす。上がった腕で拳を作り小指を下に向けけ、グッっと親指を立てる。
視えてっかなー……やべぇー……いしき……が……
薄れて消えていく意識の狭間に、確かに小さな手を感じた。
泥が掃われ、体に圧を感じる。……ちょー痛い。
「……ばかです」
え、ちょ……霞んでよく視えないけど泣いてる?慰めで抱きしめたいけど両腕上がらんとは、とほほ。
「……ほ、ら、……いきて、る」
ニュートンの遺伝子よ!今こそ進化を見せる時ィ!!舌と咽喉と肺が機能すれば問題ない。おれは、この子を泣かせたくない。
「……ぜいじゃく、な、人も……ころせない、レルネは……人間、だ」
言えた!言い切った!咽喉が焼けるほど痛いけど言い切ったぞ!
自分をガストレアと、怪物だというレルネにしっかりと伝えた。これで、考えを改めてくれたらいいけど……。
「……ありがとう」
これは……成功かな。あ、これ以上力込められるとアバラ折れちゃうけどしばらくこれでいっか。
「にやにやにやり、てことでパートナーってことでいいよねお二人さん?」
「フッ!」
「アブゥ!?」
突き飛ばされ、た。身体が悲鳴を上げるがレルネちゃんの無意識の手加減に優しさを感じる。
「……この後の戦闘に問題なく出撃できたら認めましょうと約束しました。
その約束生きていたらにしとけばよかった。そんことより今、ジョセフって呼んだよね。彼からジョセフにランクアップ。
「その辺問題ないよ。ジョセフ君を棺桶に容れるから」
「アレは私以外には使用できないのでは?」
「レルネとジョセフはパートナーなんだからジョセフの生体データはインプット済みだ。アレは二人専用だよ」
「……完治には三時間かかるので無理では?」
「完治には三時間かかるけど、手足を重点的に治療するから使えるよ。痛みはあるけどそこは我慢だね。じゃ、いこっか」
まんま関係が父親と娘だな。なんだよ、ちゃんと人間の家族してじゃないか。
その後、男として誠遺憾ながらレルネちゃんに背負われ棺桶、檻の間違いだろのキューブに放り込まれた。
もうジョセフが主人公でいいんじゃないかな?
ぼくらの、漫画全巻揃えました。漫画で泣くの久しぶりだな(歓喜