「雄星っ、もうやめて!!私はあなたを傷つけたくないわ!!」
「うるさいなぁ・・・・」
ヴァリアントの剣とエクセリアのサーベルがぶつかり合い、激しい閃光が2機の間で煌めく。そのまま機体のパワーで吹き飛ばそうとするが、それよりも早くエクセリアのもう片方の腕から振られたサーベルがヴァリアントの胴体に直撃し吹き飛ばされる。
だが、素早く体勢を立て直すと間髪入れずに攻撃を繰り出すが、まるで読んでいたというかのようにかわすと同時に胴体に蹴りを入れられ、再度吹き飛ばされる。
「機体性能の差じゃない・・・・純粋な反射能力の違いか・・・・?」
圧倒的な機体と操縦者の能力を目の前にしても、冷静沈着で客観的な分析で敵の弱点を探る。機体が互角ならば、勝負を決めるのは操縦者の腕だ。だが、それはいくら工夫しても覆しようのない絶対的な差でもある。
恰好を付けて戦ったのはいいが、とんだ手詰まり状態だ。
「あなたじゃ私には勝てない。いい加減それを自覚しなさい」
「それはどうかな?」
後方に下がり、追撃してくるエクセリアをヴァリアントの有効射程距離内に誘導する。動きは早いが、照準は何とか捉えられている。
「当たれぇぇぇ!!」
叫びながらヴァリアント・ライフルを引き抜き、エクリプスに匹敵するほどの火力をもつ射撃を撃ち放つ。撃破は無理だとしても、機体の急所を狙ったこの射撃が直撃すれば何らかのダメージはあるはずだ。だが、その攻撃は機体直前になって弾かれる。
いつの間にかエクセリアの機体周囲に魔法陣のような文様が刻まれているエネルギーフィールドが発生し、防御の役割を果たしていた。
「なんだ・・・・あの技術は・・・ぐっ!!」
未知の機体性能に動揺したせいで回避行動が遅れ、エクセリアの斬撃が直撃し大ダメージを食らう。技術は相手が上回り、中途半端な攻撃が効かないとなると、わりと笑えない状況だ。
「クロイツ・デス・ズューデンスっ!!」
追い詰められているヴァリアントを撃ち落そうと、手元のメインウエポンである大型ライフルの銃口を向け引き金を引く。放たれた高火力のエネルギーは正確な命中精度でヴァリアントへ向かっていくが、無論雄星もヴァリアントもこのままやられるわけにはいかない。
「高純化兵装『エクリプス』!!」
ヴァリアントの背中の両翼に備え付けられていた一対の大型キャノン砲が大火力のエクセリアの射撃を打ち消す。そのままアイオスを一斉に展開して攻撃を開始する。
「この程度の攻撃など!!」
周囲にエネルギーフィールドを発生させ、アイオスの射撃を防ぎ、手からエネルギー光球を撃ちこみアイオスを破壊する。爆発音と爆炎が周囲に漂うが、その塞がった視界を吹き飛ばしてヴァリアントが突っ込んでくる。
「なにをするのか知らないけど!!」
馬鹿正直に正面から突っ込んできたヴァリアントを内心あざ笑いながら、目の前にエネルギーフィールドを何重にも重ね合わせて防御態勢をとる。中途半端な武装では突破できない圧倒的な防御力を持つが、ヴァリアントの貫通力はそれを凌駕した。
背中の翼から射出されたビットがソードと組み合わさり、大型ソード『ディバインスライサー』を構成する。
「はぁぁぁぁっ!!」
機体のエネルギーを纏った『ディバインスライサー』の刃先がエネルギーフィールドに突き刺さり、激しい衝撃音が双方の機体に響く。鼓膜が震え、意識が飛びそうになるが、お互い執念に似た気力で持ちこたえる。そのままヴァリアントの刃先がエネルギーフィールドを突き破り、エクセリアの右肩に突き刺さった。
「そろそろ・・・消えろっ!!」
「舐めるなぁぁぁ!!」
自分の大切な機体が傷つけられたのが癇に障ったのか、怒声を上げるとサーベルを引き抜き、ヴァリアントの握られているヴァリアント・ライフルを切り裂き、そのままヴァリアントの手首を掴む。
「よくも私の機体を!!」
「傷ついて怒るぐらいならば、初めからそんな機体に乗るなよ」
突き刺している剣でエクセリアの右肩を引き裂こうとするが、それよりも早く相手の放たれたエネルギー弾が至近距離で直撃し、機体の胴部の装甲が砕かれる。
「ぐぶっ、ごほっ!」
内臓を圧迫され、鼻や口から血が飛び出るが圧倒的な自然治癒力で回復していく。お互い不死身と思えるほどの身体能力を持つ者同士の戦い。だが、決着をつける方法は簡単だ。どちらかが死ぬほどの傷を負わせればいい。
「遊びはここまでだ・・・・終わらせてやる」
そうつぶやくと、ヴァリアントの機体の所々が輝き始める。その輝きはこれまでのエクストリームが放ってきた光とは比べ物にならないほどのエネルギーを放出し、圧倒的な戦闘能力を操縦者から引き出す。
「進化発動・・・刀奈さん、あなたのためにこんなところで負けるわけにはいかない!!」
紅い瞳を発現させ、ヴァリアント・ソードを引き抜くとエクセリアを蹴り飛ばす。そのまま追撃と言わんばかりに圧倒的なスピードで向かっていく。
「調子に乗るな!!」
明らかに動きの変わったヴァリアントにカウンターで斬りつけようとするが、まるで動きを読んでいたかのように機体の軸心をずらしてかわすと、すれ違いざまにエクセリアの右翼を切り裂く。
「こ、これは・・・・」
明らかに人間の反射速度ではなかった。まるで自分の殺意を感じ取ったかのような動きだ。こんな動きが出来るものなど1人しかいない。
「よくも・・・・よくも・・・・」
あの者が大切な雄星を苦しめ続けている、自分の幸せを拒んでいる。あの亡霊がーーーあの亡者が、あの化け物が。
「よくも雄星をぉぉぉぉ!!」
全ての元凶と対面したことで、体中の怒りや不快をぶつけるように大型ライフルの銃口を向け、引き金を引いていく。感情的になっているとは思えないほどの正確な射撃だが、それすらも最低限の動作でかわすと同時に牽制として手元のサーベルをブーメランのように投げつけると、一気に接近していく。
「忌まわしい亡霊がっ!!」
「お前に言われたくない。死人が!!」
バチバチと双方の機体の剣が何度もぶつかり合う。だが、次第に勝敗は徐々に再びエクセリアに傾き始めている。雄星の執念に加えて、
「ぐっ!!」
叩きつけられるように斬りつけられたサーベルがヴァリアントの右目を潰す。そしてとどめと言わんばかりにサーベルを砕かれている胴体に突き刺そうとするが、ギリギリのところで手首を掴み、抑える。だが、中破したこの機体ではパワーが負けているのか、少しずつサーベルの刃先が胴体へ近づいていく。
「あなたが雄星を・・・・雄星を苦しめて・・・・私の邪魔をして・・・・よくも、よくも・・・・」
「怒りで・・・言葉が出ないか?生き返ったばかりのアンデットじゃ舌が回らないのも無理ないよな?」
「黙れ!!」
雄星の体で軽口を叩かれたことが火に油を注いだのか、さらに強い力でサーベルを突き付けてくる。
「あなたは生きていてはいけない存在よ。ここで雄星の心と体を取り戻してあげるわ!!ああ、雄星、もう少しだから・・・待っていてね」
「この女ぁ・・・・」
なぜ自分のーーーいや、この少年への愛を聞くとここまでムカつくのだろうか?いや、それよりも自分を否定するこの女の態度のほうが腹が立つ。まあ、そんなことどうでもいい。問題は自分がこいつに勝てるかどうかだ。
中途半端な力では勝てないだろう。ならば、全てを費やして戦うまでだ。
「ヴァリアント、こいつと決着をつけるぞ、いいな?」
その問いに呼応するかのように背中の翼から粒子が放出され、機体のパワー値が上昇していく。それと同時に意識が遠のいてきた。
「頼む、持ってくれこの命」
エクセリアの手首を握りつぶし、機体を大きく後方へ退かせる。相手は突然な動きの変化に戸惑った様子だが、怯むことなく、大型のソードを出現させて振りかぶる。
「死ねぇぇぇぇ!!」
強力な威力を持つその大剣が振り下ろされてもヴァリアントはかわさない。紅く輝く瞳を見開き、次の瞬間
「っ!!」
刀身を両腕で受け止める。しかし、やはりダメージは大きく、機体の損傷を伝えるアラームと損傷部位がモニターに表示される。それを確認することなく、剣を受け止めている両腕に力を込める。そして
「はぁぁぁぁっ!!」
腕部の装甲が展開し、エクセリアの刀身をへし折る。それによってエクセリアが大きくバランスを崩す。そしてそのチャンスを逃しはしない。
右腕をわずかに引き、パワーを溜める。そして
「シャイニング・ブレイカーぁぁぁーーーー!!!」
ヴァリアントから輝く腕がエクセリアの頭部を吹き飛ばす。頭部や顔面の装甲が吹き飛ばされ、長い白髪と血だらけの瑠奈の顔が飛びだす。普通ならば頭部が吹き飛んでいてもおかしくないはずなのだが、恐ろしい防御力だ。
「私を・・・・よくも・・・」
「お前に力を持つ資格などない」
「このーーー」
そこまで言いかけたところでヴァリアントの刀身がエクセリアを吹き飛ばす。中破状態の機体ではバランス制御のスラスターが不十分で体勢を整えるのにわずかばかり時間がかかる。その一瞬の隙が勝敗を分けた。
顔を向けた時、目の前には鈍く輝くヴァリアントの剣。その矛先が
「がっ・・・・」
エクセリアの胴体を貫いた。急所を貫かれたことによって悲鳴も断末魔も叫ばず、口から小さな声があふれ出る。
「あっ、がっ・・・・」
「悪いけどさよならだ。いつまでも弟のxxxを触れると思うなよ」
短い勝利宣言を告げると同時にヴァリアント・ソードを握っている両腕を離す。操縦者を失った機体はそのまま月に照らされた漆黒の海に落ちていった。
「はぁ、はぁ・・・・」
とはいえ、こちらのダメージも大きく、飛行船に戻ったと同時に膝をつき、荒い息を吐く。
「まだだ・・・まだダメだ・・・戻ってこい雄星・・・」
遠ざかっていく意識を必死につなぎとめる。ここで
「くっ・・・
必死な抵抗が幸いにも報われたのか、息が戻り、紅い瞳が収まっていく。
「ごめん・・・迷惑をかけたね・・・・」
力ない笑みを浮かべ、静かに立ち上がる。こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。今の自分には迷ったり立ち止まっている時間などないのだ。わずかに引きずる足を庇いながら、雄星は再び歩みを進めた。
ーーーー
執務室に備え付けられている時計の短針が午前3時を指した。それを横目で確認すると、レポティッツァは手元のグラスを揺らしてウイスキーの波を起こす。わずかばかりに聞こえる水音、それに続いてバタバタと慌ただしい足音が聞えてくる。
「お嬢様っ!!」
ゼーゼーと息を乱し、疲れ果てた様子で扉を開き、秘書が入ってきた。
「これはこれは、そんなに慌ててどうしたのですか?」
「すぐに避難してください!ここは危険です!」
「ほう?」
必死な警告に動じた様子もなく、再びグラスにウイスキーを注ぐが、そのウイスキーの入ったボトルはグラスの満杯を手前で切れる。それに内心ため息を吐くと、持っていたグラスを投げ捨て、秘書の方を見る。
「侵入者がすぐそこまで来ています!!すぐにーーーーっ!」
そこまで言いかけたところで秘書の声が止まり、目が見開き、ビクビクと体が痙攣する。それと同時に秘書のスーツに血が滲み始める。
「来ましたね」
バランスが崩れ、音もなく倒れる秘書の体。その背後の入り口には全身が血で赤く汚れた雄星が立っていた。
「ようこそ、小倉雄星、
まるで親しい友人のように穏やかな口調で話しかけると、雄星の血で汚れた全身を舐めまわすように眺める。
「あの小倉瑠奈は
何が可笑しいのか、そこまで言いかけたところで笑みを浮かべると、机から新しいグラスとボトルを取り出し、注ぐ。
「途中で女性研究員の肉体が耐えられなくなってきたため、帝王切開で彼女を取り出して培養液で育てたのですが、あの機体も彼女も失敗作もいいところですね。まったく・・・・」
非人道的な話をペラペラと嬉しそうに話すレポティッツァを雄星は何も返事することなく、睨みつけている。そんな雄星にレポティッツァが違和感を感じた瞬間、雄星の体が僅かに揺れる。
「小倉雄星?どうしたのですか?」
「僕は・・・お前とそんな話をするためにこんなところにきたわけじゃない・・・・」
何の躊躇いもなく隠し持っていた銃を引き抜き、レポティッツァの眉間に向かって発砲する。銃声と共に向かっていく弾丸、それを慌てた様子もなく、最低限の動作でレポティッツァはかわす。
「ちぃっ!!」
反射的に弾丸が外れたことを感じ取ると、素早くナイフを引き抜き、野生動物のような瞬発力でレポティッツァへ切り込む。だが、それすらも予測されていたらしく、刃先が突き刺さるよりも早く手首を掴まれ防がれる。
「感情的過ぎる、そんな者が私の最高傑作とは笑わせますね」
「お前だけは・・・お前だけはっ!!」
全ての元凶となる人物を前に殺意や感情を抑えるなど無理なことだ。だが、それはレポティッツァ相手に最大の失策だろう。単純で直進的な動きは隙を作ることに他ならない。
「ぶっ、ぐっ!」
雄星が動くよりも早くレポティッツァの肘が雄星の頬に直撃し、体勢が後方に傾く。そして素早く首を掴むと、手前に引き付け、膝を腹部にめり込ませる。
「がはっ!」
負傷している腹部に強い衝撃が与えられたことによって、血が噴き出し、激痛が全身を駆け巡る。だが、レポティッツァの容赦のない攻撃は続いていく。わき腹や胸部に蹴りや膝蹴りを何度も食らわせ、呼吸器官を麻痺させて体に力を入れられないようにしていく。
「あっ・・・うぁぁ・・・」
掴んでいる手首を離すと、ヒューヒューと小さな呼吸音を出しながら雄星が小さく倒れる。そんな息も絶え絶えな様子の雄星の頭部をレポティッツァのハイヒールが踏みつける。
「IS学園で暮らしていくうちに、人の感情でも芽生えてきましたか?愚かな、あなたが人として生きていく権利などない。友人を作る権利も、恋人を作る権利も、女を抱く権利もない。あなたはただ私の意のままに戦うのみ。それがあなたの資格であり、義務だ」
「そんな・・・こと・・・・」
踏みつけられている足を振り払い、腹部を抑えながら立ち上がるが再びレポティッツァの膝が腹部にめり込まれ、地面に這いつくばる。度重なる戦闘での負傷で肉体は限界に達し、出血多量で体温は下がり、力が入らず、意識が朦朧としてきた。
(まずい・・・このままじゃ・・・)
体力のない体に鞭を打ち、ふらつく足で立ち上がった瞬間、部屋の電話が鳴り響く。死にかけの雄星では問題ないと判断したのか、レポティッツァは背を向けて電話を取る。
「はい、はい、そうですか・・・・ご苦労様です」
数秒ほどの短い会話で電話を切ると、雄星に笑みを向け残酷な宣告を告げた。
「残念、時間切れですね小倉雄星。たった今手術が終わりました」
「しゅ、手術・・・・・?」
「ええ、捕らえた更識楯無にあなたと小倉瑠奈の受精卵を人口着床する手術が成功しました」
「っ!?」
「おお、良い反応だ。
体力の限界でガクガクと震えている雄星に近づき、肩を掴む。そして
「あなたはもう用済みだ」
「ぁぁ・・・・」
隠し持っていたナイフを雄星の腹部に突き刺す。その冷徹なナイフの一突きはギリギリのところで持ちこたえていた雄星の体力と気力を完全に奪い去った。力尽き、床に倒れこむ。腹部からは大量の血が流れ、床のカーペットを汚す。
起き上がろうにも既に手足の感覚がなく、呼吸をする筋力も気力もない。
『雄星っ!しっかりしろ!!』
彼の声が聞こえる。だが、それに返事をする余裕もない。なんとなく直感でわかる、自分はーーー
「っ・・・ぁ・・・・」
ガチガチと音が鳴る歯茎で奥歯を渾身の力で噛み締める。すると、何やらドロッとした液体が喉を流れていく。よかった、どうやらなんとか仕込んだ
「がっ・・・うあっ・・・ああぁぁぁ・・・」
「ん?」
完全に力尽きたと思ってた雄星の変化にレポティッツァは不審な目を向けてくるが、もう遅い。究極の兵士は既に完成していた。
『もういいのか?』
ーーーーああ、僕じゃ彼女は救えない。だから、君に全てを託す。どうか・・・・彼女達を救ってあげてくれ。
『わかった、お前の頼み、確かに引き受けた』
その声と同時に温かい感覚が全身を包んでいく。まるで誰かが自分の体を抱きしめているようだ。
『だから・・・・ゆっくりと眠れ』
その言葉を最後に、目の前が真っ暗な闇が覆いつくしていく。これで1つの命が終焉を迎える。だが、それは1つの命の始まりでもある。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
到底人が出せるとは思えないほどの叫びが部屋に響き、この執務室の調度品を震わす。そして目の前のレポティッツァを紅い瞳で睨みつける。
「くくくっ、ははははっ、ようやく完成したか、私の最高傑作。素晴らしい!!」
大声を出して笑い、嬉しさのあまり口角から涎が垂れる。自分でも下品とは思っているが、何年もかけてきた実験が成功したのだ、笑わないほうが可笑しいだろう。
だが、それに対して彼は何も喋らず、何も語らず手元のナイフを持ち、構える。いつの間にか腹部の傷口は塞がり、全身に血管が浮き出ている。
「もう小倉雄星は存在しない。ここにいるのは人間の欲望が作った兵士だ」
紅き瞳の
「お前だけは、---殺す」
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