IS 進化のその先へ   作:小坂井

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96話 到達点

突然だが、悪魔には2種類の存在がある。

1つは自らの欲や利益のために他人を蹴落とし、欺き、悪魔と比喩されるもの。もう1つは自らの愛しのもののために身を堕落させ、悪魔となるもの。

 

その2種類の悪魔の内、今の自分はいったいどちらの悪魔なのだろうか。自分の自己満足のために戦っているはずなのに、そこには大切な人を助けるのが目的でもある。

あまりにも人間臭い理由で剣を掲げているわけでだが、戦う理由など人それぞれだろう。その様な事情ができたあたり、人間味が増したと過去の自分に吐き捨てられそうな気がしてくる。

 

「エスト、撃墜は狙わなくていい。相手の陣形に隙を作れ。ここでノコノコと遊んでいる時間はない」

 

『了解』

 

素早く伝達事項を伝えると、ヴァリアント専用のヴァリアントソードを引き抜き、黒騎士とアラクネに背中を合わせる形で戦線に加わる。

 

「マドカ、オータム、君たちが来てくれるとは思わなかったよ」

 

「ちっ、なんで俺様までもが手伝わなくちゃいけねえんだよ・・・・」

 

「オータム。私は小倉雄星にお前の借りを返すために来た。ならば、その恩返しにお前も付き合うのが道理なはずだ」

 

「ガキが・・・・」

 

自分より年下に正論を言われて苛立つように舌打ちを鳴らす。一見すると、仲が悪そうな会話だが、オータムとマドカは互いの隙をカバーし合っており、絶妙なコンビネーションで攻撃を凌いでいる。喧嘩するほど仲が良いという言葉もあながち嘘ではないらしい。

 

「すまない、助かる・・・・」

 

小さく礼を呟くと、翼から粒子を放出しながら力強く羽ばたき、戦場を駆けていく。その圧倒的なスピードからは、先ほどの苦戦は嘘のようだ。

 

「くっ、機体を変えたところで!」

 

ヴァリアントに追いつくほどのスピードを持つ紅椿が接近し、切りかかってくるが、素早くヴァリアントソードで防ぐ。

 

「瑠奈っ!なぜ私たちを裏切ったっ!?」

 

「君たちを裏切った覚えなどない。僕はただ大切な人の明日をのぞんでいるだけだ!!」

 

「大切な人の・・・・明日・・・・?」

 

紅椿の剣戟をはじき返すと同時に上空に急上昇し、様々な機体が戦う戦場を一望する。全機がヴァリアントのロックオン距離にいて、尚且つ射撃距離内。これは絶好の機会だ。

 

「全感応ファンネル『アイオス』、翼よ飛翔しろっ!」

 

背後の翼からブルーティアーズのような遠隔操作ビットが多数射出される。全機の稼働に問題ないと判断すると、個々の端末が一斉に正確無比の射撃を撃ち放つ。

暗闇に包まれた夜空に一瞬にして大量の光が瞬く。

 

「くっ、各機、防御態勢を優先しろっ!」

 

異常とも思える大量の連射、そして火力と正確な射撃で政府部隊と専用機持ちをかく乱していく。逃げて慌てふためく敵機に対し、簪、エスト、マドカ、オータムのところには一発も流れ弾は来ない。彼の異常ともいえる戦闘能力、そして空間認識力がそれを可能としている。

 

「・・・・なんて野郎だ」

 

驚愕と恐れが混じった声がオータムの口から洩れる。今思うとあんな化け物と対面していて、よく5体満足で生きて帰れたと思う。

十数秒ほどで攻撃が止むと同時に、急降下してきたヴァリアントが敵陣に切り込んでいく。

 

「裏切り者がぁぁ!!」

 

「邪魔をするな!!リヴァイブごとき一般機ではこの機体には勝てない!!」

 

リヴァイブの右腕の関節装甲を強引にへし折ると、腹部に膝蹴りをいれて吹き飛ばす。その隙を狙うようにラウラやセシリアの射撃が撃ちこまれるが、マドカが入り込み防ぐ。それに続き。簪、エスト、オータムがヴァリアントを囲むようにして合流する。

 

「どうするつもりだ。こいつらを全滅させればいいのか?」

 

「いや、その必要はない。僕がこの戦線を離脱する隙を生み出してくれればいい。その後、君たちも離れてくれ。こんなところで無駄な血を流してもらっては困るからね」

 

『敵を殺さずに戦え』という何とも無茶で困難な注文が来るが、彼との共同戦線だ。多少無茶なぐらいが丁度いいかもしれない。内心ほくそ笑むと、レーザービットを構える。

 

「今は手加減してやる雑魚共が」

 

「おお、言うね」

 

さっきの注文を本当に理解したのかと疑問に思うようなやり方で戦っていくマドカをカバーしながら、ヴァリアントも攻撃を開始していく。互いの実力を認め合っている仲だからなのか、意外と連携が取れているのが面白い。

 

「で、小娘。お前はどうすんだよ?」

 

「え?」

 

その光景に呆けている簪にオータムが声を掛ける。

 

「あいつ、お前の男なんだろ?あいつが戦っているのをこのまま指をくわえて見てるつもりかよ」

 

「そ、それは・・・・」

 

無論、簪もこのままでいるつもりはないがどう参戦したらいいものか。というより、自分は必要なのだろうか。

 

「自分は必要なのかって顔していやがるな。そんなことに迷う暇があったら、自分の戦いをしろよ」

 

『珍しく正論を言いますね。あなたに他人を諭す頭があるとは意外だ』

 

「黙れ、ガキが」

 

人が大切な話をしているというのに、空気を読めないエストが口を挟む。その茶々に嫌味を言ってやりたいが、ここで呑気にお喋りしている暇はなさそうだ。

 

「もらったぁぁぁぁ!!」

 

叫び声を上げながら鈴が切りかかってくる。それを迎撃するかのようにオータムが腕部にレールガンを展開し、撃ち放つが、それを予想していたかのようにギリギリのタイミングでかわす。発射直後のタイムラグを狙い、一気に接近する。

 

かわせない。そう思った瞬間、オータムの前に簪が飛び込み鈴の斬撃を受け止める。

 

「このっ・・・」

 

「邪魔は・・・・・させない・・・・エストっ!!」

 

『分かっていますっ!!』

 

機体の総力を使って思いっきり鈴を突き放す。その瞬間、上空から『のけいっ!!』と怒声を叫びながらミステックが接近し、鈴を手元の超大型槍で吹き飛ばす。

 

「やるじゃねえか小娘」

 

「えっと・・・・ありが・・・とう?」

 

テロリストに褒められて喜んだらいいのかわからず、疑問形で返答する。互いの隙をフォローし合い戦う。それは亡国企業(ファントム・タスク)のオータムと更識簪との間に奇妙な信頼関係が築かれた瞬間であった。

 

「こっちの役目は政府の雑魚どものお相手だ。一匹一匹に時間をかけるなよ」

 

「了解」

 

『マスター、援護します』

 

杖のように振るわれたミステックの超大型槍の先端から放たれた禍々しい黄緑色のビーム攻撃が政府部隊をかく乱していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「簪たちは政府部隊の迎撃に行ったか。大丈夫かな・・・・?」

 

「オータムの腕ならば問題ない。それよりも問題はこっちだ」

 

「そうだったな・・・・」

 

教科書のお手本のようにきれいで正確な陣形でヴァリアントと黒騎士を包囲しているのは一夏をはじめとする専用機持ち達だ。

 

「瑠奈・・・・お前・・・・」

 

「気安くお姉ちゃんの名を呼ばないでくれるか。不愉快だ」

 

面倒な面子に内心舌打ちを鳴らす。政府部隊ならまだしも、このエリートたちを突破するのはヴァリアントでも骨が折れそうだ。

 

「安心しろ、貴様は必ず送り届ける」

 

「それは嬉しいお言葉だ。それじゃあ、いこうか!!」

 

その言葉を合図に一斉に猛スピードで飛翔し、交戦が始まる。

 

「ちぃ、ちょこまかと!!」

 

猛スピードで動き回るヴァリアントを捕えようとラウラがワイヤーブレード一斉に飛ばす。うねうねと黒い蛇のように4本のエネルギーの刃が装備されたワイヤーが全方位から迫ってくるが、一瞬にして攻撃の軌道とパターンを理解する。

 

1本目をヴァリアントの刃ではじき返し、2本目、3本目の攻撃を両脚ではじき返し、大きく軌道を逸らさせる。そして最後の攻撃を体の軸をずらして、ギリギリのところでかわすと同時にサーベルを抜刀してワイヤーを切断する。

 

「瑠奈さんっ!!もうやめてください!!」

 

ラウラの攻撃を防ぎ、体勢を立て直した一瞬の隙を狙いセシリアのブルーティアーズが接近してくる。遠距離型の機体である彼女が接近してくるのもおかしいが、それ以上に奇妙なのが手には武器が握られておらず、手ぶらの状態であるということだ。

 

そのままセシリアは瑠奈の両手首を抑え込み、ヴァリアントの動きを封じ込める。もっとも、彼女の機体性能如きではヴァリアントを抑えることなどできない。せいぜい、うっとおしく感じるぐらいだ。

 

「わたくしたちが戦わなくてはいけない理由などありません。お願いです、もうこんなことやめてください!!」

 

「まだ迷っていたのか。いい加減覚悟を決めろ、そんなことでは理想に殺されるぞ」

 

「瑠奈さん!!」

 

あくまで戦うことに拘る彼を説得するかのように大声で彼の偽名を叫ぶ。

この学園でたくさんのことを彼から学んだ。裏のない純粋な心で自分を強くしてくれた。そしてその心に自分は惹かれていったからこそ、こうして努力を続けていくことができた。いつか、彼を振り向かせてみせると。

 

その夢をこんな形で途切れさせたくない。

 

「まだわたくしたちはわかり合うことができます。話を聞いてください!!」

 

その必死な説得に心を動かされたのか、機体の動きが止まり、攻撃の手を止める。

 

「もし、わたくしたちに事情を説明し、それが納得できるほどのものならば、わたくしはわたくしのもつ最大限の力を尽くして瑠奈さんをお手伝いします」

 

「君の持つ最大限の力・・・・?それは本当かい?」

 

「はい、お約束します」

 

「ははっ、君らしいな」

 

さっきまで戦っていた時の恐ろしい表情は消え去り、無邪気な笑顔を浮かべる。その笑顔を紛れもなく、学園で暮らしていた時の顔だ。その表情で自分の話を受けてくれたとセシリアは確信する。

 

「ふふっ・・・ははっ・・・・」

 

「さあ、行きましょう。瑠奈さん」

 

「セシリア、やはり君は世間知らずで愚かなお嬢様だな」

 

「え・・・・?」

 

その刹那、ヴァリアントの手が素早くセシリアの首を掴み、掲げる。いつの間にか先ほどの柔らかな表情は消え去り、セシリアを蔑む冷たい目に変わっていた。

 

「ぐっ!うぅっ・・・・る、瑠奈さん・・・・?」

 

「僕を捕えるために先遣部隊を送り、先ほどの戦闘では中破するまで機体に攻撃を仕掛けておいて、自分たちの都合が悪くなったら『もうこんなことはやめてください』だと?・・・・戦いを舐めるなよ」

 

吐き捨てるような冷たい言葉を浴びせると、セシリアの右手首の装甲を握りつぶし自慢の狙撃が行えないようにする。それに続き、肩部に装備されているBTユニットをまとめてはぎ取る。

 

「セシリア!!」

 

シャルロットや鈴がセシリアを救出しようと攻撃をするが、全感応ファンネル『アイオス』のシールドで防がれ、意味を成さない。

シールドの中でブルーティアーズの腰部や脚部の装甲や武装が次々に破壊され、部品が飛び散る。

 

「る、るな・・・さん・・・・」

 

「話し合いが通じない相手もいるということだ。覚えておけ、世間知らずが」

 

全身の装甲や武装を破壊し、頭部に装着してあった標準装置も剝ぎ取り、ブルーティアーズを完全に無力化する。大きすぎるダメージや衝撃で操縦者を守る絶対防御も機能していない。この状況でセシリアを殺すことなど造作もないことだ。

 

だが、首を掴まれ、もはや意識もかすんできているセシリアに雄星は小さく耳元で囁いた。

 

「セシリア、君にも守るべきものや待ってくれている人がいるだろう。そのためのその命、こんな価値のない戦いで無駄にするな」

 

「え・・・?」

 

それと同時にセシリアの首を掴んでいる手を離し、ブルーティアーズを解放する。飛行ユニットを破壊されたISが自立飛行できるわけもなく、蒼い機体は夜の暗い海に沈んでいく。

遅すぎた出会いがゆえか、それとも大きく道がすれ違ってしまったがゆえか、こんなやり方でしか彼女の気持ちに答えてあげることしかできなかった。

 

そしてイギリス代表候補生を手にかけた事によって学園と雄星との対立は明白なものとなった。もはや、自分が学園に戻ることなどできない。だが、それでいい、戻るべき道など必要ない。

 

「よくもセシリアを!!」

 

大切な仲間がやられて怒りが有頂天に達したのか、アサルトライフルを乱射しながらシャルロットが突っ込んでくる。機体の急所を狙った正確な射撃だが、前方にシールドを構え防ぐと同時に突っ込んでいく。

 

射撃を防ぎながら突っ込んでくるとは思わなかったのか、わずかばかり防御の反応が遅れる。

 

「くっ!そ、そんな・・・」

 

「遅い!!」

 

ビュンと風を切る力強い音が耳を鳴らすと同時に両手に持っていた二丁のアサルトライフルが切り刻まれ、一瞬にして分解される。目の前のヴァリアントはいつの間にか持っていた剣が振り下ろされており、彼が目に見えないほどの素早い剣戟でリヴァイブのアサルトライフルを破壊したと分かる。

 

だが、接近戦ならばシャルロットにも利はある。破壊されたアサルトライフルを投げ捨て、左腕の腕部シールドを突き出す。

 

「この距離なら、外さない!」

 

盾の装甲がはじけ飛び、中からリボルバーと杭が融合したような装備が露出する。69口径パイルバンカー通称『楯殺し(シールド・ピアーズ)』がほぼ奇襲に近い形で放たれるが、直撃する直前に雄星の口角が上がる。

 

「直線的すぎるな。爆熱機構『ゼノン』!!」

 

パイルバンカーの先端をヴァリアントの輝く手が掴み、バチバチと火花を散らしながら攻撃から防ぐ。自慢の武装を瞬時に防がれ、あっけらかんと顔をしているシャルロットだが、この防御は攻撃にも転ずる。ヴァリアントの輝く手の熱がパイルバンカーに少しずつ伝わっていく。

次の瞬間、パイルバンカーの先端が爆散してはじけ飛ぶ。その爆風と爆炎に巻き込まれ、シャルロット自身も吹き飛ばされる。

 

「リヴァイブの灰色の鱗殻(グレー・スケール)を防いだ!?あの距離で・・・・」

 

動揺を隠しきれていないシャルロットにとどめをさすようにヴァリアントが急接近し、胸部の装甲に深い斬撃を食らわせ、大きくバランスを崩させる。そのまま、腹部に強烈な蹴りを食らわせて吹き飛ばす。

 

「無駄なことをさせる」

 

海に落ちていったシャルロットを見届けると、一夏や箒の相手をしているマドカの援護へ向かう。専用機持ちの陣形を崩すことが出来れば、勝機はある。事情があるのは相手もこちらも同じだ。こんなところでいつまでも足を止めているわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお!!」

 

白式の雪片と黒騎士の刃がぶつかり合う。バチバチと火花を散らしながら押し合っているが、その間を箒の紅椿が割り込み、吹き飛ばす。

 

「ちっ、雑魚が・・・・」

 

「一夏をやらせはしない!!」

 

大切な人を守って見せるという絶対的な思いで両腕の刀を強く振るう。その思いに競り負けるかのように手元のバスターソードが上空に吹き飛ばされ、白式の接近を許してしまう。

 

「もらった!!」

 

そのまま雪片が黒騎士を切り裂く瞬間、上空からヴァリアントが乱入し、白式を蹴り飛ばし、近くにいた紅椿を回収していたと思われる黒騎士のバスターソードで切り飛ばす。

 

「あまり無理をしないでくれ。君たちがやられては元も子もない」

 

「・・・すまない」

 

バスターソードを返してもらい、小さく礼を言うと2機は素早く背合わせの体勢となり、互いの死角をカバーできる状況を作る。瑠奈が教えてくれた時間まで時間がない。だが、短期決戦を望むのは向こうも同じはずだ。セシリアとシャルロットがやられた今、このまま戦いを長期化させても犠牲が大きくなることはわかっているだろう。

 

「鈴、ラウラ、時間を稼いでくれ!『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』を使って決着をつける!」

 

「わ、わかった」

 

無限のエネルギーを可能とする紅椿のワンオフ・アビリティーの一途の望みを託し、まだ動ける鈴とラウラはヴァリアントと黒騎士へ向かっていく。

 

「箒」

 

慣れない相手との戦いで体が強張っている箒の手を一夏は優しく包み込む。

 

「俺たちは瑠奈を止めなくちゃいけないんだ。頼む、力を貸してくれ」

 

「一夏・・・・」

 

目の前にいる好きな人の力になりたい。そう心の底から願った瞬間、白式と紅椿の機体が黄金色に輝きだし、機体のエネルギーが急激に回復していく。

ーーーー『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築完了。

 

「箒、いくぞ。2人で瑠奈を止めようぜ」

 

「ああ、わかっている」

 

黄金色に輝く2機のISが猛スピードで夜空を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その程度じゃ僕たちは止められない。わかっているはずだ!!」

 

「くっ!」

 

鈴の機体を刀身ごとはじき返し、追撃を食わらせようとするがその間にラウラが割り込み手を翳し、AICを起動させてヴァリアントの機体を拘束する。そのまま目の前の動けなくなったヴァリアントに砲撃を撃ちこもうとするが、それよりも早く黒騎士のバスターソードで吹き飛ばされる。

 

「小倉雄星、今の内に離脱をーーーん?」

 

ビーと機体が甲高い警告音を鳴らし、強大なエネルギーを持つ機体が接近してくることを知らせてくる。やはり、彼らもこのまますんなりと自分を通す気はなかったようだ。目を向けてみると、黄金色に輝く2機の機体がこちらへ向かってくる。

その機体の正体は『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』を発動させた白式と紅椿であった。

 

「小倉雄星っ!お前はこのまま目的地へ向かえ!ここは私が食い止める」

 

バスターソードを構え、マドカは2機のISへ立ち向かっていく。そこには彼にこれ以上負担を掛けるわけにはいかないというプライドと意地が感じられる。

 

「そこをどけぇぇぇ!!」

 

「行かせるかぁぁぁ!!」

 

白式の最大火力の零落白夜と黒騎士のダークパープルの光源を纏ったバスターソードがぶつかり合う。だが、やはり白式と紅椿の組み合わせでは分が悪いのか、徐々に押され始める。それに加え、黒騎士の武装自体が白式のエネルギーに耐えられなくなっているのか、バスターソードにヒビが入り始める。

そしてーーー

 

「ぐっ!!」

 

刀身が砕け散り、大きく吹き飛ばされる。

 

「おおおおおっ!!」

 

そのまま最大火力の雪羅を直撃させようと左手を突き出す。そのままマドカの胸元に渾身の一撃を食らわせようとしたその瞬間

 

「爆熱機構『ゼノン』!!」

 

その手をヴァリアントの輝く手が掴む。強力なエネルギーの圧力に吹き飛ばされようとするが、それを上回るヴァリアントのパワーで強引にねじ伏せ、白式の機体を大きく放り投げる。

 

「そ、そんな・・・『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』が破られた・・・?ぐっ!」

 

自慢の攻撃が防がれ、呆然としたその瞬間をヴァリアントは逃さない。箒の上部に覆いかぶさるように接近すると、素早く抜刀した両腕のサーベルで紅椿の背後の一対の大型バインダーを一気に両断する。機体のバランス制御を失った紅い機体はそのまま落下していった。

 

「箒ぃぃぃ!!」

 

大切な人がやられ、怒りが頂点に達した一夏がヴァリアントに斬りかかる。

 

「よくも箒を!!」

 

「貴様の相手は私だ!!」

 

白式をタックルで吹き飛ばし、ヴァリアントを救出すると同時に2機に向かって後方から鈴とラウラ、前方から素早く体勢を立て直した白式が向かってくる。

 

「小倉雄星!!」

 

「分かっている!」

 

素早く背を合わせると同時にヴァリアントはヴァリアント・ライフルで白式を、黒騎士は2基のランサービットで鈴とラウラにそれぞれ攻撃を直撃させ、決定的な隙を作る。

 

「行けっ!小倉雄星!!」

 

「すまない、世話になった!!」

 

短く礼を返すと背中の翼のブースターの最大加速で戦線を離脱していく。一瞬追おうかと考えたが、エネルギーが少ない今の状態では危険が大きすぎる。

政府部隊も目標が戦線を離脱したことを知ったらしく、これ以上の戦闘は無駄と判断したのか、戦闘は中断していた。

 

戦闘終了直後の戦場には先ほどの騒ぎからは一変し、不気味なほどの静寂が支配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今になって後悔している自分がいる。帰る場所もやっとのことで築き上げてきた人間関係も捨て、自分はいったい何をしているのだろうか?味方などいない、理解者などいない。そんな孤独な状況でこの冷たい空に漂っている。なぜ、こんなことになった?

 

”あの女とは話し合いで終わらせることは出来なかったのだろうか?”

 

ーーーーそもそも、話の通じる相手ならばこんなことにはなっていない。だったらもう殺すしかないだろう。もう後戻りはできないんだ。

 

”殺す” 必ず殺す。そんな手段を用いたとしても。全ての因縁にケリをつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上の上を歩行する超大型飛行船。いつもならば、優雅な夜の飛行をしているはずが、今日は騒がしい警報アナウンスが船内に響いていた。

 

『侵入者の可能性あり。侵入者の可能性あり。船員は直ちに捜索へ向かえ』

 

警報とアナウンスの響く通路をバタバタと黒いスーツに身を包んだ男が何人も走っている。男たちの体格や服装は多少違うが、大きく共通している箇所は全員が銃やナイフといった武器を握っていることだ。この者たちは想像しないだろう、この夜は自分たちにとって永遠に冷めることのない夜になることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、お前はこの資材搬入用桟橋を見張れ。ラジオでの定期報告も忘れるなよ」

 

「へいへい、了解」

 

暗い空間でやる気のない返事をすると、同僚がバタバタと走って行く。それを見届けると、大きなあくびをして手元のナイフを眺める。

つい先ほど、この飛行船に侵入した者がいるとの報告をうけ、気持ち良い夢を見ていたのにたたき起こされこうして暗い場所で1人立たされている。

 

慌しくなっているが、この飛行船の探知性能や防備は完ぺきだ。おそらく、何らかの探知機の誤作動か何かだったのだろう。そう呑気なことを考えながら懐から煙草を取り出そうとしたとき

 

「ぐぅっ!!」

 

背後から膝裏を蹴られ、膝をつく、それから間髪入れずに何者かが自分の首を締め上げてくる。身長からしてそこまで背は高くない。なのに、強靭な腕力で自分の首を絞められて振り払うことが出来ない。

 

「このっ・・・がぁ・・・」

 

振り払おうと体に力を入れた瞬間、首元を鋭利なもので切り裂かれ、悲鳴を出す暇もなく命を絶たれる。ゆっくりと倒れる男の遺体。その背後に、この暗闇の空間に溶け込むような黒い服装をした雄星がナイフを持って立っていた。

 

「いい子だ。騒がずに死んでくれたな」

 

とはいえ、自分がここに潜り込んだことはすぐにばれる。今のうちに戦闘の準備を済ませておく。足元に落ちている定期報告用のラジオを踏みつぶすと、手元の大きさ15センチほどの直方体のキューブを投げる。

すると、キューブが光り輝き、一匹の狼のようなフォルムの機械に変形する。

 

全身が強固そうな黒い装甲に覆われ、口元は鋭利なナイフのような牙をちらつかせている。数秒後、目元に赤いランプが付き、起動する。

 

「エスト、稼働に問題はないか?」

 

『はい、歩行型戦闘機械”ウルフ”稼働に問題なし。行けます』

 

「先ずはこの飛行船の内部構造を入手する。いいな?」

 

『了解しました』

 

ガチャガチャと機械音を響かせながら暗い通路を2つの物影が進んでいく。

かつて学園には友がおり、恋人がおり、自らの主人がいた。だが、この地獄に来てしまった以上、もうあの場所に戻ることなど出来ない。

だがそれでいい。全てを捨て去り、自分はこの地獄に戻ってきた。

 

「さあ、全ての決着をつけよう」

 

雄星の殺意が現れたかのように、双眸が紅く不気味に光る。




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