IS 進化のその先へ   作:小坂井

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ゴールデンウイーク、私はバイトと小説の執筆しか予定にありません。どこかへ出かけたいものですね・・・・


95話 別れの日

「・・・・・」

 

夜遅くなり、誰にもいない食堂で簪は1人遅めの夕食を取っていた。だが、目の前の注文したうどんは一口も口を付けられておらず、時間が経ち、汁はぬるくなっている。あの後、作戦後に行方不明になった姉の探索が行われたが、結局は行方不明のままだ。

 

簪も何度も監視カメラや戦闘記録をチェックしたが、有力な情報は手に入らなかった。だが、あの強い姉が簡単にやられるとは思えない。いったい、何があったのだろうか。何とも言えない不安が胸の奥でつっかえている。

 

「かんちゃん、かんちゃんっ!!」

 

すると、大慌てな様子で幼馴染である本音が食堂に飛び込んでくる。

 

「ほ、本音?どうしたの?」

 

「た、大変だよぉ!来て!」

 

そのまま、理由を聞かされるよりも早く手を握られ、食堂を飛び出していく。向かったのは、近くの窓なのだが、夜遅いというのに既に複数の生徒が集まっており、窓の外を見ては騒いでいる。そのまま窓の外へ目を移すと、数多の光が見える。

 

「あ、あれは・・・・」

 

学園の夜空の中で煌めく多数の星々。その中で一段と強い輝きを放つ星があった。赤く、力強さを感じさせるその星の正体はわかっている。彼だ、彼が自分たちのために戦ってくれているのだ。

 

「っ!」

 

「かんちゃん!」

 

瞬時に状況を理解したのならば、こんなところで戦いを傍観しているわけにはいかない。集まった生徒の人混みをかき分けながら、簪は廊下を走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前でたくさんの光が現れては消えていく。そして、その光には1つ1つが大きさや違う色をしている個性があった。その個性を覚えようとしているわけではない。だが、自然と脳がその個性を記録して、記憶の片隅に置いて行っている。

 

明らかに今までの人生で経験したことがない感覚だ。そんな不可思議な現象がこの場では数え切れないほど起こる。この戦場では。

 

「っ!これしきの攻撃・・・・」

 

自分の周囲へ向かって放たれるビームやミサイル群中をエクリプスは隙間を縫って避けていく。だが、攻撃の手数の多さからか、多少の攻撃はかわし切れず、装甲に命中し、轟音が鼓膜を刺激する。

現在、全方位から20機近くのISによる砲撃に晒されているところだ。政府部隊と専用機持ちとの連携の隙間を狙っていく作戦だったが、利害が一致しているからなのか隊列には思いのほか隙が無く、中々連携を崩せずにいる。

 

それに加えて、数の圧倒的な不利さにリペア状態の機体のせいで十分とは言えない戦力差。絶望的な状況もいいところだ。

 

ーーーーちぃ、雄星、俺に代われ。エクリプスの最大火力でこいつらを蹴散らしていく!

 

『だめだ、君はレポティッツァを倒すための最後の切り札だ。こんなところで君に頼るわけにはいかない』

 

膠着状態ーーーーいや、微妙ながら自分が押され始めている。長期戦にならば、こちらが不利だ。だが、今の状態では残念ながら耐えるしか手はない。

内心吐き捨てたい気持ちだが、感情で動くとやられる。

 

「もらったぁぁぁぁ!!」

 

射撃特化のエクリプスに得意の接近戦仕掛けるため、鈴が突っ込んでくるがバスターライフルの銃口から光剣を抜刀させ、受けとめる。だが、パワータイプである甲龍相手ではさすがに分が悪く、エクリプスの動きが抑えられる。その僅かな隙を相手は逃しはしない。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

瞬間加速(イグニッション・ブースト)で上空に回っていた白式が抑え込まれているエクリプスに強烈な斬撃を直撃させ、海面に叩き落す。強烈な金属音、そして機体ダメージが甚大になっていることを知らせるアラームを響かせながら、機体は海に落ちていく。

 

「ナイスタイミングね、一夏!!」

 

「へへっ、まあな。それより・・・・」

 

エクリプスが落ちていった海面に視線を向ける。絶大な火力を持つ雪片弐型が直撃したのだ。ダメージは少なからずあるはずだ。

視線の先には海面に膝を折る姿勢でエクリプスが存在していた。だが、雪片の直撃した首筋の装甲は砕け、目元を覆う武装の照準装甲の機能が大破していた。

 

「っ!!」

 

頭のイラつきをぶつけるように、目元の標準装甲を強引に剥ぎ取り、握りつぶす。その行為といい、隠そうとしない闘争心といい、まるで獣のような雰囲気だ。

 

「-----っ!!!!」

 

言葉にならない叫び声をあげると同時に、全身の武装ハッチを開き、大量のミサイルを全方位のISに向かって発射する。それに続き、両肩のブラスターカノンに両腕のバスターライフル一斉にうち、部隊をかく乱していく。

だが、放たれる攻撃の照準は大雑把で命中せず、かく乱というより、でたらめに砲撃しているようだ。

 

「くっ、うわぁ!」

 

でたらめに放たれた攻撃の数発が偶然、政府のリヴァイブに直撃する。エクリプスの軽くはない火力を受け、大きく体勢が崩れる。その獲物に狙いを定め、空となった弾倉を瞬時に破棄して向かっていく。重荷となっていた重量装甲がなくなり、身軽になったからか、強靭なスピードで接近し、手元のサーベル切り裂く。

 

「-----っ!!!!」

 

「ひっ!きゃぁ!!うあぁぁ!!」

 

そのまま切り刻み続ける瑠奈の叫び声と、装甲が破壊され、ボロボロになっていくリヴァイブの操縦者の悲鳴が戦場に響く。

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

容赦のない攻撃に晒されているリヴァイブを救出しようと一夏が接近するが、大破したリヴァイブを掴むと、白式に投げつける。大きくバランスを崩し、落下していく一夏を仕留めようと接近するが、ラウラの砲撃がそれを許さなかった。

 

「やらせるかっ!!」

 

ラウラの大火力のリボルバーカノンによる射撃がエクストリームの腹部に直撃し、大きく吹き飛ばされる。一瞬とはいえ、機体機能が麻痺し、動けなくなった状態に箒の紅椿が接近する。

 

「もらったぁぁぁぁ!!」

 

2本の抜群の切れ味をもつ日本刀が、さっきのラウラの砲撃によって亀裂が入った腹部の装甲に突き刺さろうとしたとき、上空からミサイル群が降り注ぐ。

 

「やらせない!!」

 

それに続き、薙刀を握った打鉄弐式が現れ、紅椿を吹き飛ばす。

 

「雄星、っ!」

 

周囲のISを後退させると、簪は落下していたエクストリームを受け止める。だが、想像以上の機体のダメージに息をのみ、固まってしまう。

 

「雄星、しっかりして!」

 

「簪・・・・」

 

親愛な人物が現れたことによって、多少は頭が冷えたのか、息を切らし頭を振る。

 

『雄星、長期化する戦闘と機体ダメージによって興奮するのはわかりますが、そう熱くならないでください。あなたが冷静さを欠いたら、勝てる戦いも勝てません』

 

「そうだな・・・・少し、自分を見失っていた」

 

客観的な指摘を受け、思考を落ち着かせる。これは戦いだ、合理的に行こうとしよう。余計となった追加装甲をすべて破棄し、リペア状態のアイオスに装備を換装する。

 

「やっぱり、ファンネル装備は半数が消失しているか・・・・機体状況は65%・・・・動けるか・・・・?」

 

「ねえ、雄星、・・・・お姉ちゃんを助けに行くんでしょ?」

 

「ああ、君のお姉さんの居場所を割り出した。今から向かうところだよ」

 

その答えだけで彼の意志は確認できた。全てを擲ち、放棄し、捨て去ってでも彼には行かなくてはいけない場所があること、そして、こんなところで立ち止まっている暇などないことを。

 

「っ!」

 

素早くアイオスの後方に回り込み、互いの背を合わせる。これはつまり、彼と共闘することを表している。

 

「簪・・・・」

 

「エスト・・・・どうしたらいい・・・?」

 

『残念ですが、今の雄星の機体とマスターと私の力を合わせても突破できる可能性は薄いです』

 

「それでも・・・」

 

退けない、退くわけにはいかない。大切な家族を救うためにも、こんなところで負けるわけにはいかないのだ。無謀ともいえる簪の闘志に同調するように、アリス・ファンネルがアイオスと打鉄弐式の周囲を舞う。

 

「ちっ、まだ裏切り者がいたのか?だが、1機如きでは問題はない。作戦は続行だ」

 

大破したリヴァイブを退かせ、再びアイオスと打鉄弐式を包囲する。悔しいが、相手の言う通りだ。簪が加わっただけではこの戦況はひっくり返せない。だが、新たな機体が届けば可能性はある。それまでひたすら耐えるのみだ。

 

「エスト、あとどのくらいで到着する?」

 

『到着推定時間はあと30分です』

 

「少しきついな・・・・」

 

思いのほか長い時間を聞くと同時に、ライフルを構え突撃する。この場に自分の気持ちを理解してくれるものなど1人もいない。だが、それでいい。相手が抱えている物や戦う理由など知っただけ重荷になるだけだ。だけど、こうして誰かのために戦えることに喜びを覚えている自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

豪華な調度品が揃っている薄暗い執務室でレポティッツァはウイスキーが入ったグラスを片手に大型モニターを眺めていた。モニターに映っている映像は現在、IS学園周辺で起こっている戦闘映像だ。

画質が荒く、細かな部分はわからないがこの中に彼がいることはわかっている。そして、彼は必ず来る。『彼女』を取り戻すために。

 

コンコン

 

数回のノックの後に秘書が部屋に入ってくる。だが、表情は何処か強張っているように見える。

 

「お嬢様、政府は交渉を拒否、これでこちらの手札はすべて失いました。これからどうするおつもりですか?」

 

「とらえた彼女には人質以外の使い道があります。ご心配なく」

 

「は、はぁ・・・・?」

 

少なくはない危険を冒してまでIS学園の生徒会長を捕えたのは政府との交渉材料に使うためであったはずだ。それ以外での使い道とはどういう意味なのだろうか?

 

「お嬢様、どうするおつもりですか?」

 

「ロシアの代表生である更識楯無の利用価値をこうは考えられないでしょうか?健康的な女性の肉体が手に入ったと(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

不健康ならばまだしも、健康的で機能的な母体が手に入ったというのは便利なことだ。人間の体という物は意外と使い道がある。もっとも、人道的な使い方で彼女を消耗させるつもりはないが。

そしてこの彼女を餌に彼は追ってくる。どこまでも犬のように。

 

それを確信しながら手元のグラスを置き、机上に置かれている電話である場所へ連絡する。

 

「・・・・もうすぐ被験者がそちらに届きます。ええ、実験(・・)をお願いします」

 

必要最低限の伝達事項を伝えると受話器を置き、再び椅子に腰掛ける。そこには強者のごとくの余裕があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな理由があろうと、お前を通すわけにはいかねぇ!」

 

「戦いの途中でベラベラしゃべるな。舌を噛むぞ」

 

感情的になっている一夏に冷めた反応で返す。現在、四方八方を専用機持ちに囲まれている最中だ。遠くでは簪が政府のIS部隊と戦闘している。

中破状態でエリートたちに囲まれているこのピンチな状況だが、そんなことでさえ1つの判断材料として脳の中に仕舞っておく。

 

白式の剣筋を受け流し、後退すると上空からシャルロットの二丁銃による射撃が襲いかかる。

 

「逃がさないっ!!」

 

「しつこい!!」

 

素早く前方にシールドを構え、弾丸の嵐を防ぎながらサーベルを抜刀し、シャルロットのラファール・リヴァイブ・カスタムⅡに突っ込んでいく。そのまま両手に握られているアサルトライフルを切り裂こうと振りかぶるが、その腕にラウラのワイヤーブレードが絡みつく。

 

そのまま引き離されて動けなくなったところに鈴の衝撃砲が襲い、撃ち落される。攻撃を仕掛ければ手痛いカウンターを受け、中々機会を得られない。簪に救援を求めたいが、彼女は政府部隊を押さえている。専用機持ちだけに分裂できただけいい方だ。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

雪片を構えた白式とアイオスがぶつかり合う。白式はパワータイプの機体だからか、アイオスも抑え込むので精一杯な様子だ。

 

(これならっ!)

 

素早く左腕にエネルギーを溜め、雪羅を起動させる。至近距離で雪羅の攻撃をまともに受けたらただでは済まないはずだ。そのまま左手をアイオスの頭部に押し当てようとするが、その刹那、光る剣筋が眼前をよぎる。次の瞬間

 

「なーーーっ!?」

 

強い力で吹き飛ばされ、アイオスから距離を離される。見てみると、アイオスの両手にはサーベルが握られ、刃先が白式へ向けられている。

 

「瑠奈・・・・」

 

「悪いが、こんなところでやられるわけにはいかないんだ」

 

「くっ!」

 

激しい起動音と共に白式に食いつき、二刀流のサーベルで攻撃を仕掛けていく。だが、その剣筋は何処かパワー不足だ。多少の攻撃を受けたとしても、圧倒されるほどではない。

 

「やられるかっ!!」

 

「ちぃっ!」

 

強引に雪片でアイオスを強引に吹き飛ばす。そこでセシリアのビッド攻撃が襲いかかる。全方位からの正確な射撃はアイオスに少なくはないダメージを与えた。

 

「そこだっ!!」

 

ダメージを受けて怯んだ隙を突き、瞬間加速(イグニッション・ブースト)で急接近した白式が右手の持っていたサーベルを吹き飛ばす。反射的に左手で持っているサーベルで切り裂こうとするが、それよりも早く雪羅で左手の装甲ごと吹き飛ばされる。

 

「今だっ!シャルロット!!」

 

いつの間にか背後に回り込んでいたシャルロットの盾から放たれたパイルバンカーが、アイオスの背中を直撃する。耳を塞ぎたくなるほどにガリガリと装甲が削れる音と、金属音が鼓膜を刺激する。その衝撃でアイオスの最大の特徴である両翼が吹き飛ばされ、周囲を舞っていたアリス・ファンネルが光の粒子となって消え去る。

 

なんとか体勢を取り戻す瑠奈だが、眼前には雪片の刃先が突き付けられていた。

 

「瑠奈、もう諦めろ。お前の負けだ」

 

瑠奈の逆転のチャンスを潰すように周囲を再び専用機持ちが包囲する。アリス・ファンネルもなければサーベルも消失。あるのはヴァリアブル・ライフルだが、これだけでこの状況を切り抜けるなど無理だ。見事なまでに詰み状態だ。

 

「頼む、ちゃんと理由を話してくれ。場合によってはお前を擁護できるかもしれない」

 

「・・・・・戯言だな」

 

今、一夏が言っていることは救いの言葉のように聞こえるのかもしれない。だが、それは自らのやるべきことから目を逸らす愚行だ。ぎりぃと歯を食いしばり、手を握りしめる。

 

僕の(・・)唯一の家族は僕自身の誤った判断でいなくなった。それをまた繰り返せというのか・・・・ふざけるな・・・・」

 

「る、瑠奈?」

 

既に策はない。だからといって、諦めることなどできるはずがない。しかし、これが現実だ。難儀な理想と辛く悔しい現実が心を押しつぶしていく。

 

「なぜ僕の邪魔ばかりする?僕は幸せになってはいけないのか?」

 

「な、なにを言っているんだ・・・・?」

 

「なあ、IS。お前は人を幸せにするために生み出されたんだろう?ならば、頼む。これ以上、僕から何も奪わないでくれ・・・・」

 

震えた声で言うと、闘志を失った機体が輝きが消えていく。そのまま、脱力したかのように目をつぶると海に落ちていく。その光景を何とも言えない心境で専用機の面々は見送っていく。

 

「か、家族・・・・・?」

 

「一夏、何をやっている!政府部隊の援護に行くぞっ!」

 

「あ、ああ・・・・」

 

何とも言えない気持ちになりながら、専用機持ち達は簪の元へ向かっていく。ひとまず、この戦いを終わらせるのが優先だ。歪な形であったが、これも1つの結末なのかもしれない。だが、こんな結末になってしまったのは自分たちが弱かったからだ。

 

弱かったがゆえに、こんな半端な結末になってしまった。こんな悲しい結末に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『アイオスの機体反応消失!生体反応確認できません』

 

「そんな・・・雄星っ!」

 

彼がやられたという驚愕な情報を聞きながら、周囲のISをさばいていく。だが、肝心の雄星がいないのではこの戦いを続ける意味がない。だからといって諦めることなど、今の簪にはできなかった。しかし、気持ちだけではどうにもならないのが現実だ。

 

「くっ、きゃっ!」

 

腕にワイヤーブレードが巻き付き、身動きが取れなくなったところで、追い打ちと言わんばかりに政府部隊のISから射出されワイヤーが全身に絡みつく。

 

「目標を制圧。戦闘終了だ」

 

ラウラの言葉が自分たちの敗北を悟っていた。簪の無力化を確認し、部隊長が連絡を取る。どうやら、共犯者である簪の処遇を上層部に連絡しているようだ。一見すると絶望な状況だが、簪と雄星の希望を紡いでいく新たな戦士が現れた。

 

「っ!、なんだ!?」

 

突如、夜空が煌めいたと同時に上空から数発のビーム攻撃が降り注ぎ、簪を縛るワイヤーを的確に焼き切る。この攻撃は偶然ではない。故意的に簪を助ける射撃だ。

その射撃に続き、簪を前後に挟む形で2機(・・)のISが姿を現す。

 

「っ!あ、あれは・・・・」

 

この戦場に現れた意外すぎる参戦者に政府部隊や専用機持ちだけでなく、助けられた簪自身も固まり口から言葉にならない声が出る。

背後から飛び出した8つの装甲脚に毒蜘蛛のような禍々しい配色のISと黒い蝶のようなカラーリングに大型のバスターソードを装備したIS。その機体を誰もが知っている。

 

「よお、クソガキども」

 

「・・・・・・」

 

2機のISはアラクネと黒騎士。本来、敵対しているはずの亡国企業(ファントム・タスク)の機体であった。

 

「な、なんで・・・・」

 

「さぁ!なんでだろうなぁ!!」

 

緊迫し動けない一夏たちに向かってオータムは右腕に装着されたレールガンを展開し、電撃の筋を発射する。黒騎士も腕部のガトリングを乱射し、周囲の陣形を崩していく。

 

「貴様・・・小倉雄星はどこだ?」

 

「え?」

 

底冷えする声で黒騎士が簪に通信が送られるが、意外すぎる展開に頭の整理が追い付かない。なぜ、彼女達がこの戦いに参戦し、自分を援護してくれるのだろうか。固まっている簪を案じてか、エストが返答する。

 

『少し前に彼の機体反応が消失したのを確認しました。現在、彼とはこちらから連絡は取れません』

 

「手はあるのか?」

 

『ご安心を。彼が簡単にやられる方ではないことをあなたも知っているはずですよ』

 

「ふんっ・・・」

 

反撃の射撃を防ぎながら、ランサービットで相手にダメージを与えていく。

 

『マドカ様、オータム様、感謝します。あなた方が来てくれたおかげでこの機体(・・・・)を届けることが出来ました』

 

ビーーーっ!!

 

「な、なんだ!?」

 

次の瞬間、この戦場にいる全ての機体がけたたましいアラーム音が響く。それと同時に夜空に1つの星が煌めく。一瞬星かと思ったが違う。

 

「あれは・・・・」

 

『マスター撃たないでください!あれは()です!』

 

モニターに映し出されたのは今まで見たことのない機体だった。白い装甲にケンタウロスのような4つの蹄が付いた脚。背中には鳥のような羽が生えており、その姿は神のごとく美しくて神々しい。

 

『ミステック・フェイズ、活路を切り開きます』

 

手に握られた武器と思われる超大型槍を振るうと、矛先から竜巻のような破壊光線が発射され、敵機を薙ぎ払う。そのまま、簪を守る形で専用機持ちや政府部隊の前に立ちふさがる。

 

『何とか間に合いました』

 

「エスト・・・・その機体は・・・・」

 

『肉体もなければ感情もない私ですが、今は兵士として戦わせてもらいます』

 

天馬のようなフォルムを持つ機体、『ミステック・フェイズ』。肉体を持たないエスト専用機として開発され、いざという事態の時のために今まで密かに牙を研ぎ続けてきた奥の手だ。そしてその翼を生やす機体を従えるのも同じ、翼を持つ機体。

続いて夜空から降下してきたのは円形の降下ポットであった。

 

『外装パージ。機体射出準備完了。雄星、受け取ってください。あなたの新たな機体です』

 

プシュゥゥと降下ポットの装甲の隙間から空気が抜ける音がしたと同時に、一気に崩れ去り中に収納されていた物体が猛スピードで海に突っ込んでいく。

 

「な、なにを・・・・」

 

亡国企業(ファントム・タスク)の介入に、所属不明機の乱入。まさに大混乱となっている戦場に()が再び舞い戻る。突っ込んだ海面がほのかに輝くと同時に、激しい轟音と共に吹き飛び(・・・・)、1機の機体が飛び出してきた。

 

白と青のカラーリングの装甲に背中にはミステック・フェイズのような翼が付いている。その機体名は『ヴァリアント・サーフェイズ』。ゼノン、エクリプス、アイオス、この3つの形態の性能を集結させたエクストリームの完成形態。

 

「さてと、そろそろこのイカれたパーティも終わりにしようか」

 

新たな機体を得た雄星は右手に大型のライフル『ヴァリアント・ライフル』を構えると、敵機に照準を定め引き金を引く。

 




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