IS 進化のその先へ   作:小坂井

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今回から最終章へ突入します。うまく話をつなげられるか不安ですが頑張っていきます。


91話 宿命

「・・・・はあ、疲れた。何回同じことを言えばいいんだ。オウムか・・・僕は・・・」

 

疲労とイラつきを感じさせる顔と表情を浮かべながら、瑠奈は1人街を歩いていた。身体測定後、本来は学園では授業があり、瑠奈も学園にいなくてはならないのだが、今は諸事情で外出している。

 

その事情とはこの前の修学旅行である京都の下見で起こった戦いの詳しい取り調べだ。一通りの事情聴取は学園で行ったが、瑠奈は京都で不本意ながら亡国企業(ファントム・タスク)と協力し、白騎士となった白式と戦闘している。

 

たぶん、自分たちと敵対している者たちと共闘したことに対する疑心や疑いなのだろう。国防省直々にお呼び出しを受け、詳しい事情説明や身の潔白さを証明するはめになったわけだ。

国相手に、それも国防省からのお呼び出しとなっては流石に無視できず、こうして重い腰を上げてわざわざお偉いさんと話をつけてきた。

 

まあ、周囲に特殊部隊を囲んでおいて何が話し合いなんだと言いたくなるが、こっちは疑われている身だ。素直に正直に話すのが一番の最善の策ということは分かっている。

とはいえ、こちらの疑いが完全に晴れたわけではない。面倒なことだが、向こうには瑠奈がいることに都合が悪い者たちもいるようで、これを機に何としても瑠奈を牢屋に放り込みたいと考えている輩もいるようだ。

 

たぶん、自分たちが制御できない大きすぎる力がこうしてうろついていることが気に入らないのだろう。自分たちの指示を聞かず、さらには味方とは言い切れない。ならば、牢屋に放り投げて自由にいけないように首輪をつけてしまえと。

 

何とも自分勝手で面倒な裁判ごっこだ。ここまで汚い世界を見ると、自分が正直でいることが馬鹿馬鹿しくなってくる。人間は素直過ぎてはいけない。だが、それを美しいという者もいる。

 

「きゃっ!!」

 

背後から突如聞こえる女性の悲鳴。振り返ると、20代半ばほどの女性が地面に突っ伏し、持っていた買い物袋から食品や日用品らしき物を周囲にぶちまけていた。どうやら、転んだ拍子に持っていた買い物袋を落とし、散乱してしまったらしい。

 

女性は慌てた様子で買い物袋に商品を詰めているが、周囲の人間は見てみぬふりをして助けようとはしない。まあ、皆厄介事や面倒事は御免なのだろう。

 

「・・・・大丈夫ですか?」

 

人間は素直過ぎてはいけない。だが、たまに気まぐれで起こす親切程度であればいいだろう。内心呆れながら、周囲に散乱している食材や日用品をかき集めると、女性の前に置く。しかし、女性はそれを買い物袋に仕舞わず、目の前に現れた意外すぎる人物に目を奪われていた。

 

「こ、小倉瑠奈・・・・?」

 

「だったらなんですか?日用品、ここに置いておきますね。それでは」

 

最低限の会話を済ませて去ろうと歩き出すが、手首を掴まれる。

 

「あ、あの、助けてくれたお礼がしたいのですが、この後時間ありますか?」

 

「結構です、お礼をもらうほどのことはしていません」

 

「そう言わずに、私の家ここから近いので寄っていきませんか!?」

 

目をキラキラさせて迫真の勢いで迫ってくる。別にお礼が欲しくて助けたわけではないのだが、本人がそれで気が済むというのならば、それがいいのかもしれない。どっちにしろ、このまま学園に戻ってもやることなどないのだ。

 

「・・・・わかりました、少しだけなら」

 

「はい、では私に付いて来てください」

 

「買い物袋持ちますよ」

 

「で、でもそんな体じゃ・・・・」

 

「女性に荷物を持たせるなど私が嫌なんです。いいから渡してください」

 

半ば強引に袋を持つと、瑠奈と女性は歩き出す。何気に女性の家にお邪魔することになってしまったわけだが、これは浮気ではない。一種の交流のなのだ。楯無と簪に心の中でそう言い訳しながら瑠奈と女性は並んで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ・・・・」

 

疲労困憊な様子を感じさせるため息が部屋に響く。刺激的な午前の測定が終わり、部屋に戻ってきた簪だが気分は暗く沈んでいた。

理由は単純明快。(雄星)がいないのだ。

 

日頃であれば休み時間や放課後など、時間が空けば保健室へ行ったり、一緒に特訓をしたりして雄星と過ごしているのだが、彼がいない保健室に行っても意味はないし、今は特訓をする気分でもない。彼がいないと、ここまで暗い気分になってしまうとなると、本格的に重度な依存が心配してくる。

 

まあ、授業をサボって雄星に会いに行くほどの好感度だ。依存しているといわれても否定できないのだが。

 

ニャー、ミィぃ・・・

 

「ほらほら~~気持ちいーい?」

 

暗い気分の簪と違い、お楽しみなのが先程部屋に遊びに来た本音だ。膝上にサイカを乗せ、ブラシをかけている。程よい刺激にサイカは目を細め、気持ちよさそうに低い声を出している。

背中の次はお腹にしてくれと訴えかけるようにゴロンと体を動かし、本音にお腹を見せる。その無防備な姿は見ていて愛くるしい。

 

「本音は、元気そうだね・・・・」

 

「えへへ、そう~?」

 

にぎやかで安息な日々。でも、そこに彼がいなくては日常とはいえない。だが、その日常に突如闇が差す。

 

「ふえ!?」

 

「っ!?何?」

 

突如、部屋の灯りや電源が一斉に消える。非常用電源が点くかと思ったが、いくら待っても電源は復帰せず、アナウンスもない。これはかなり妙だ、非常事態だというのに学園側から反応がない。

 

「・・・・エスト、どうなっているの?」

 

『どうやら学園がハッキングによる攻撃を受けているようですね。それも一瞬で学園のシステムをダウンさせるほどの強力な攻撃です』

 

「何とか、ならない・・・・?」

 

『学園側が私に全てのシステムを譲渡してくれれば可能性はありますが、学園が私にそんなことをするとは思えません。まあ、私も自分の手の内を明かさない勝手な方々に手助けする義理もありませんが』

 

AIと言えど、エストにも考えや思考というものがある。兵士や犬のように『やれ』と命じられれば即答で『はい』と答えて行動するほど都合の良い思考はしていない。

 

『マスター、現在専用機持ちは全員地下のオペレーションへ集合するようにと通信が入りました。通路を塞ぐ防壁の破壊も許可されています』

 

「・・・わかった、本音」

 

「うい?」

 

「サイカをお願い。私とエストは、行かなくちゃ・・・・」

 

「うん、がんばってね~~~」

 

幼馴染の応援を受け、簪とエストは部屋を飛び出す。この学園は雄星の帰るべき大切な場所なのだ。だから守らなくてはならない。それが今の自分のやれることと望むことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、状況を説明する」

 

IS学園地下特別区画、オペレーションルーム。そこに箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、楯無が立って並んでいる。その前には千冬と真耶が立っていた。

学園全体がシステムダウンしているというのに、この区画だけは稼働しているところを見ると、どうやら完全独立した電源で動いているようだ。

 

「現在、IS学園ではすべてのシステムがダウンしています。これはなんらかの電子的攻撃を受けていると断定しています」

 

学園を掌握するほどの強力な攻撃に加えて、一夏は白式のメンテナンスで外出しており、瑠奈も諸事情で学園にいない。恐らく、この2人がない時間を狙ってでの襲撃だろうか。

 

「それでは、これから條ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんはアクセスルームへ移動、そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。更識簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

 

「「「で、電脳ダイブ!?」」」

 

「はい、理論上可能なのはわかっていますよね?」

 

すらすらと告げる真耶に対し、専用機持ちは理解が追い付かずポカンとしていた。

 

「あ、あの・・・・電脳ダイブということは、もしかして、あの・・・・」

 

「オルコット、この作戦は電脳ダイブでのシステム侵入者排除を絶対とする。異論は聞いていない、嫌ならば辞退するがいいい」

 

その千冬の迫真に全員が気圧される。

 

『そちらの都合で集合させておいて、少しでも反論しようものならば部外者として排除ですか。随分と自分勝手ですね』

 

「え、エスト・・・!」

 

救援に応じて来たというのに、千冬の上から目線の言い方に気に入らなかったのか、嫌味そうに独り言をつぶやく。雄星に似た言い方に千冬は主である簪を睨みつける。

 

「エストちゃん、今は状況説明の途中よ。口は慎みなさい」

 

『申し訳ありません、善処いたします』

 

楯無の注意を素直に受け、謝罪をするとエストは口を閉ざす。

 

「よし!それでは電脳ダイブを始めるため、各人はアクセスルームへ移動!作戦を開始する!」

 

「「「はいっ!」」」

 

檄を受け、箒たちはオペレーションルームを出る。残ったのは千冬と真耶、そして楯無だった。

 

「さて、お前には別の任務を与える」

 

「なんなりと」

 

「おそらく、このシステムとは別に別の勢力が学園にやってくるだろう」

 

「わかっています」

 

この混乱に乗じて漁夫の利を得ようとする勢力は必ずある。それは千冬も楯無も睨んでいた。今は自分以外の専用機持ちは戦えない。ならば、自分がするしかない。

 

「ここはあいつが帰るべき場所でもある。頼んだぞ」

 

「はい」

 

ぺこりとお辞儀をし、オペレーションルームを出ていこうとしたとき、目の前に光の粒子が集まり、エストが姿を現す。

 

「どうしたのエストちゃん?あなたの役目は簪ちゃんのサポートでしょ、こんなところにいていいの?」

 

『はい、それを承知で申し上げさせてもらいます。楯無さま、私を戦線に連れていってもらいませんか?』

 

「え?」

 

一種の贅沢や我儘というべきだろうか。日頃は冷静で素直なエストでは考えられない言葉に目を細める。

 

『私がこんなことを言うのはおかしいと思うかもしれませんが、嫌な予感がするのです』

 

「嫌な予感?」

 

『はい、不吉な予感がします。この学園の空気が乱れているというべきでしょうか。ですからーーー「エストちゃん」』

 

言葉を遮り、口の前に人差し指をあて、笑顔を浮かべる。まるでその笑顔は妹を安心させる姉の様な温かさと力強さを感じさせる。

 

「簪ちゃんのサポートがあなたの任務でしょ?ならば、それに集中しなさい。私のことは大丈夫だから」

 

『で、ですが・・・・』

 

「私はこの学園の生徒会長。私がお荷物になるわけにはいかないわ。あなたは簪ちゃんの元へ戻りなさい、これは命令よ」

 

命令と言われてはエストは逆らうことは出来ない。そう言われた以上、未練は残るが、ここは楯無に従うしかない。オペレーションルームを出ていく楯無を見送ると、1人重苦しいため息を吐く。後悔しているわけではない、だがどうにも妙なざわめきがしてくる。

 

今の状態を表すのならば、そう、大きな過ちを犯してしまった心境だ。

一瞬、自分の機体を地上に下ろして楯無を援護しようとも考えたが、雄星の指示を無視するわけにもいかないし、何よりあの機体を晒すのはリスクが大きすぎる。

 

「エスト、お前は小倉とコンタクトを取って学園が襲撃を受けていることを知らせろ」

 

『・・・・了解しました』

 

再び体を粒子に分解し、超高速で世界中の電脳ネットワークを駆け巡り、彼の機体を探索していく。別に感情があるわけではない、だが、今のエストには言葉にできない焦りがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

破壊した防壁を抜けると、楯無は暗い通路を仁王立ちで待ち構える。先ほど、学園に何者かが侵入したのは感知できたが、具体的な数や装備、目的などは不明だ。ならば、余計な小細工はむしろ裏目に出る可能性がある。ここは正々堂々と迎え撃つとしよう。

 

「ん?来たようね」

 

ISを展開し、ランスを構える。次の瞬間、楯無に向かって数発のビーム弾が発射される。警告もなければ予備動作もない完全な不意打ちだが、楯無と『ミステリアス・レイディ』には意味をなさない。素早く目の前にアクア・ナノマシンの壁を作り、防ぐ。

 

「挨拶もなしにいきなり攻撃なんて無粋ね」

 

敵意もなければ焦りも感じない呑気な口調に反応して、目の前の薄暗い通路から1機の人型の機体が姿を現す。全身に薄い赤色のカラーリングが施され、背中には折りたたまれたウイングユニットが接続されている。全身装甲のせいで操縦者が男性なのか女性なのかすらわからない。いや、もしかすると無人機かもしれない。

 

この異常な外見からISでないことはわかる。だとすると、あの機体も雄星の機体と同じどこかで秘匿に開発されていた機体なのだろうか。

 

(だとすると、なぜこんなタイミングで単独で侵入させてくるの?学園を制圧することが目的とは思えないし・・・・)

 

色々疑問があるが、そんなもの捕えて白状させればわかる話だ。ランスを向け、戦闘準備を整える。それと同時に、目の前の所属不明機がバックパックからサーベルを抜刀し、斬りかかってくる。

突然の攻撃だというのに楯無は慌てることなく、ランスで受け止めると華麗に力を受け流して吹き飛ばす。

 

所属不明機は体勢を崩し、地面にひれ伏すが素早く立ち上がって再び楯無に斬りかかる。

 

「無駄よ」

 

斬撃を必要最低限の動作で避けるとランスで薙ぎ払う。動きは素早いが、攻撃の動作や剣筋が単調すぎる。いくら速くても相手に攻撃が当たらないのであれば勝負に勝つことは出来ない。

 

「その程度でこの学園の生徒会長である私に挑むなんて片腹痛いわね」

 

『・・・・更識楯無』

 

ISのプライベートチャンネル越しに所属不明機が名を呼んでくる。低くてよく聞こえなかったが、どうやら操縦者は自分と同じ女性らしい。

 

『小倉・・・・雄星・・・・はどこ?』

 

「っ!?あなたどうしてその名を・・・・?」

 

『雄星・・・雄星・・・・あなたが・・・・雄星・・・・を・・・・』

 

低く得体の知れない声が聞こえてくる。自分と簪、そして千冬と束の4人しか知らないはずの名をなぜ相手は知っているのだろうか。

 

「あなたは・・・・誰なの?」

 

『・・・・・・・』

 

カシュっと空気が抜ける音がしたと同時に、所属不明機の顔面を覆っている装甲が収容され、素顔が晒される。この薄暗い通路で不気味に光る姿。

 

「あ、あなたは・・・・・」

 

目の前のあり得ない光景に恐怖を覚え、後ずさる。手足が震え、声が出ない。いくら目をつぶっても否定しても、あり得ないといって目を逸らしても、自分の目の前で立っている少女(・・)は実在する。その現実に耐えられず、楯無は持っていたミステリアス・レイディのランスを静かに地面に落とした。

 

 

 




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